2008/01/10(木)「幸せのちから」

 ホームレスになりながらも努力して億万長者になったクリス・ガードナーの半生を描く。主演のウィル・スミスはアカデミー主演男優賞にノミネートされた。IMDBの評価は7.7と高いが、日本では主人公のキャラクターについて行けないという意見もあり、賛否半ばと言ったところか。僕はそれなりに面白く見た。

 クリスは骨密度測定器のセールスマン。この機械を大量に買い込み、売らないと食べていけないのだが、高価な機械のためなかなか売れない。妻は工場で働いて家計を支えているが、家賃は何カ月も滞納している。クリスはある日、証券会社の養成コースの受講を決意。しかし、展望のない生活に嫌気が差して妻は家を出て行く。養成コースは6カ月間の見習い期間中は無給。20人の受講者のうち採用されるのは1人だけだった。クリスは息子のクリストファーとともに奮闘するが、アパートを追い出されてしまう。

 主人公がどうのこうのというよりも、アメリカの社会システムのひどさにうんざりする。6カ月間無給の制度や政府が勝手に口座から税金の滞納分を引き落とすなどというのは搾取の構造が出来上がっているとしか思えない。教会に一夜の宿を求めてホームレスたちの長い列ができる場面はそんなアメリカの社会保障の不完全さを象徴している。「シッコ」でマイケル・ムーアも描いていたけれど、ひどい社会だと思う。アメリカンドリームというのはそんなひどい社会を覆い隠すためのまやかしみたいなものだろう。実際にアメリカンドリームを実現できるのはほんの一握りなのだ。

 この映画を見たアメリカ人は「自分も頑張れば、成功できるかも」と夢を描くのかもしれない。現実には働いても働いても豊かにはならないのだろう。この映画でもクリス以外の19人は6カ月間ただ働きさせられただけということになる。

 見ていて身につまされるのは前半の落ちぶれていくクリスの在り方が他人事じゃないからだ。日本でもワーキングプアが問題になっているけれど、人間、いつホームレスになるか分かったものじゃない。さらに少子高齢化が進行していけば、年金制度をはじめ日本の社会保障制度もまた将来的に破綻するのは目に見えている。

 クリス・ガードナーは本当の父親を28歳になるまで知らず、子供のころは暴力的な継父に虐待を受けていたという。その体験が子供と(本当の)父親は離れて暮らしてはいけないという信念になった。子供がいたからこそ頑張れたのだろう。監督はイタリア人のガブリエレ・ムッチーノ。イタリア人ということで、ふと「自転車泥棒」の親子の姿を連想してしまった。ムッチーノは今年公開予定の映画「Seven Pounds」でもウィル・スミスと組むようだ。