2004/03/19(金)「花とアリス」

 岩井俊二の前作「リリイ・シュシュのすべて」と同様に、この映画もデジタルのカメラ(HD24pか?)を使って撮影したそうだ。画面の色合いがくすんだ感じなのはそのためだろう。デジタルからアナログ35ミリフィルムに転換する際の技術がまだ確立されていないのか、カメラそのものの性能が悪いのか知らないが、このダメダメな色彩は何とかしてほしいものだ。色の悪さが気になって、主演2人のキャラクターを紹介する序盤はなかなか映画に集中できなかった。

 しかし、話が動いてくると、面白くなる。2人の女の子(ハナこと荒井花と、アリスこと有栖川徹子)の中学から高校にかけての友情と三角関係を仔細に描いて、おかしくて切ない物語に仕上がった。鈴木杏と蒼井優の持ち味が十分に引き出され、とても魅力的に撮られている。岩井俊二は「Love Letter」(1995年)で中山美穂を主演にしたことがあるから、少女の思いをうまく描いたことも別に意外ではないのだが、2人それぞれにクライマックスを用意したところがいい。

 ハナのクライマックスは文化祭の舞台の袖で進行する。先輩の宮本(郭智博)に軽い記憶喪失と思い込ませ、「自分に(好きだ」と)告白した」と嘘をついていたハナは泣きながら本当のことを打ち明ける。

 「先輩が、あたしを、好きだったことは、ありません…」

 これに対する宮本の言葉が良く、映画はこれで終わるのかと思ったら、さらにアリスのクライマックスがある。4人が参加した雑誌の表紙撮影のオーディション。カメラマンは最初の3人を簡単に落とす。バレエの得意なアリスも落とされそうになるが、「ちゃんと踊っていいですか」と言ったアリスはトゥシューズの代わりに紙コップを履き、バレエを存分に見せるのだ。ここがほれぼれするほど素晴らしい。これは踊りそのものが良いからではなく、アリスのひたむきな思いが踊りを通して伝わってくるからだろう。「ちょっと見ただけで人を判断しないで」「自分のすべてを分かって」という少女の気持ちがこもったバレエだと思う。

 ハナの静的なクライマックスとアリスの動的なクライマックスが見事に対になっている。花がいっぱいのハナの家と散らかり放題に散らかったアリスの家。岩井俊二は2人のキャラクターを明確に描き分けながら、少女たちの些細な日常(しかし、本人たちにとっては大きな事件)を描いて共感の持てる作品に仕上げた。話の決着をどうつけるのかと思ったら、冒頭と同様にちゃんと2人の友情の描写で終わらせていくのもいい。

 このほか、アリスの父親・平泉成や母親・相田翔子も好演。「リリイ・シュシュ」が僕は大嫌いだが、この映画には感心するところが多かった。構成というか話の進め方は決してうまくはないのに描写で見せる。だから、このデジタルの安っぽい色が残念すぎる。普通の35ミリカメラで撮れば良かったのにと、つくづく思わずにはいられない。