2003/11/17(月)「人生は、時々晴れ」

 「秘密と嘘」のマイク・リー監督作品。今回も家族の再生の話である。登場するのは同じ集合住宅に住む3家族。このうちタクシー運転手フィル(ティモシー・スポール)の家族が中心になる。フィルは妻ベニー(レスリー・マンヴィル)、娘レイチェル(アリソン・ガーランド)、息子ローリー(ジェームズ・コーデン)の4人家族。妻以外は3人とも太っている。食卓では気の入らない会話が細々とあるだけ。4人それぞれに苦悩を抱え、家族とはいっても心はバラバラだ。

 映画は前半、この家族の崩壊寸前の様子を執拗に描く。フィルは仕事はぐうたらで、稼ぎも少ない。ベニーはスーパーのレジで黙々と働く。レイチェルは老人ホームの掃除婦で恋人もいない。ローリーは仕事にも就かず、ぶらぶらしている。生活はカツカツで、何をやってもうまくいかない焦りと苛立ちと諦めがこの家族には充満している。そんな時、ローリーが心臓発作に倒れる。ちょうどそのころ、フィルは携帯電話も無線も切って、海を見に行っていた。夫に連絡がつかなかったことに腹を立てるベニーにフィルは「何もかもが嫌になった」と話す。

 ここからのフィルとベニーの会話が全編のハイライト。「カス呼ばわりされることに耐えられなかった」と言うフィルにベニーは「カス呼ばわりなんてしていない」と否定する。しかし、夫婦の会話を聞いていたレイチェルは母親にそうしていたと指摘する。涙を流しながら夫婦は本音を語り合い、お互いを理解し、恐らく数年ぶりにキスを交わすことになる。

 撮影前に脚本を作らないのがマイク・リーの流儀で、他の2家族の苦悩が置き去りにされているところなどにその欠点は垣間見えるのだが、フィルの家族の話に限っては、現場で脚本を作っていたとは思えないほど充実した会話と議論と描写がある。セリフの一つひとつが重たく、描写も深刻だが、細部には人間を徹底的に描くことによるほのかなユーモアもにじみ出る。マイク・リーはうまいな、と思う。映画の技術を超えて、人間を真摯に見つめる視線がこういう中身の濃い映画を生み出すことにつながっているのだろう。

 フィルの家庭ほど極端ではないにしても、ここで描かれたことは多かれ少なかれ、どこの家庭にも当てはまることがあるだろう。「秘密と嘘」ほどの出来ではないし、話の行く末も見えているのだが、その描写の充実ぶりは大いに評価できる。

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