2005/08/17(水)「傷痕」

 今年のMWA賞を受賞した短編。ミステリマガジン9月号に掲載されている。自宅で胸にステーキナイフを深々と刺された女が警察に通報する。女は強盗が自分を刺し、財布を奪って逃げたと言う。奇跡的に急所を外れていたとはいえ、女の傷は生きているのが不思議なくらいの深さだったが、刑事は現場の状況と周辺の捜査から女の自作自演と結論する。6年後、女は事件の再捜査を要求する。

 物語のヒロインは事件発生当時、警察官志望で被害者サービスの仕事をしていた。被害者と心を通わせるが、自分が警察志望であると分かると、交流はなくなる。その後、事件を担当した刑事と結婚し、今は地域連絡官になった。これは市民からの事件の審査請求を担当する部署。つまり、ヒロインは夫が担当した過去の事件を再捜査すべきかどうかを判定することになるのだ。

 文章がうまいためか面白く読めるのだが、設定には無理があると思う。背中に届くほどの傷を自分で刺せるかどうか。それを自作自演と決めつける刑事というのもややリアリティに欠ける。展開もミステリとしては物足りない面が残る。これが受賞したのは純文学っぽいところがあるからではないかと思う。キャラクターの描き込み、心理描写などはうまいのである。

 原題は“Something about a Scar”。作者のローリー・リン・ドラモンドは元警察官とのこと。