2012/04/22(日)「アーティスト」

 アカデミー賞5部門受賞に何の文句もない傑作。楽しくてホロッとさせて元気になる映画だ。エンタテインメントの要素をてんこ盛りにした作風が良い。昨今のバカCG映画((C)小林信彦)とは一線を画す仕上がりで、アカデミーノミネート作品でもこれがダントツの出来だろう。

 白黒スタンダードでほぼサイレントという作りなので最初はどうかなと思ったのだけれど、ルドルフ・ヴァレンティノ+ダグラス・フェアバンクスというよりもむしろクラーク・ゲーブルを思わせる主人公ジョージ・バレンティン(ジャン・デュジャルダン)の風格と、タップダンスが魅力的なペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)の組み合わせに引き込まれた。「スタア誕生」のプロットを大まかになぞりながら、サイレント映画のパロディに陥るわけではなく、立派にオリジナリティーがある。

 キム・ノヴァクはクライマックスで「めまい」の音楽が使われたことに異議をとなえたそうだが、バーナード・ハーマンのロマンティックで美しいスコアは少しも汚されてはいない。ハリウッド映画への愛情があふれた映画だが、それだけに終わらず、シンプルなラブストーリーとして好ましい出来だ。主人公を支えるベレニス・ベジョの役柄は男にとっては理想的な女性だ。

 欲を言えば、映画の中で言われるほどベレニス・ベジョがチャーミングに見えないのが難。タップを踊れて演技のできる女優は限られているのだだろう。

2012/04/11(水)「博奕打ち 総長賭博」

 公開当時は映画評論家から黙殺されたが、1年後に三島由紀夫が絶賛して評価が高まった。というのはよく知られた話。山下耕作監督の代表作であり、任侠映画を代表する作品でもある。笠原和夫の脚本の力も大きい。

 有名なのは和田誠「お楽しみはこれからだ」でも取り上げられた以下のセリフだ。主人公の中井信次郎(鶴田浩二)が、叔父貴分の仙波多三郎(金子信雄)を殺そうとする場面。仙波が天竜一家の解散を画策したために跡目争いが起こり、多くの人間が死ぬことになったのだ。

「仙波、こいつからなにもかも聞いたぜ。てめえのためにみんな死んだ。今度はてめえの番だっ」
「中井、てめえ、叔父貴分の俺に向かってドスを向けるのかよ。てめえの任侠道ってのはそんなもんなのかっ」
「任侠道? そんなものは俺にはねえ。おらあ、ただのケチな人殺しだ。そう思ってもらおう」

 任侠映画のパターンを壊すこのセリフが後の「仁義なき戦い」に発展していったのだろう。金子信雄の役柄も「仁義なき戦い」の“山守のおやっさん”を彷彿させる。

 「博奕打ち」シリーズは鶴田浩二主演という点は共通しているが、主人公の名前はすべて異なる。こういうシリーズも珍しい。WOWOWが「鶴田浩二特集」の枠で取り上げたシリーズは以下の通り。かっこの後にあるのは主人公の名前。

 第1作「博奕打ち」(1967年 監督:小沢茂弘 脚本:小沢茂弘、村尾昭、高田宏治)海津銀次郎
 第2作「博奕打ち 一匹竜」(1967年 監督:小沢茂弘 脚本:小沢茂弘、高田宏治)相生宇之吉
 第3作「博奕打ち 不死身の勝負」(1967年 監督:小沢茂弘 脚本:小沢茂弘、高田宏治)朝倉常太郎
 第4作「博奕打ち 総長賭博」(1968年 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫)中井信次郎
 第5作「博奕打ち 殴り込み」(1968年 監督:小沢茂弘 脚本:笠原和夫)小嵐幸次郎
 第6作「いかさま博奕」(1968年 監督:小沢茂弘 脚本:村尾昭、高田宏治)明石常次郎
 第7作「必殺博奕打ち」(1969年 監督:佐伯清 脚本:棚田吾郎)保科金次郎
 第8作「博奕打ち 流れ者」(1970年 監督:山下耕作 脚本:鳥居元宏、志村正浩)舟木栄次郎
 第9作「札つき博徒」(1970年 監督:小沢茂弘 脚本:笠原和夫、志村正浩)柏木竜次/大島良平
 第10作「博奕打ち いのち札」(1971年 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫)相川清次郎
 第11作「博奕打ち外伝」(1972年 監督:山下耕作 脚本:野上龍雄)江川周吉

 キネ旬の「日本映画作品全集」やWikipediaにはシリーズは10作と書いてあるが、これは間違いのようだ。「博奕打ち」がタイトルに含まれない「札つき博徒」をシリーズに入れるかどうかの違いで、キネマ旬報映画データベースや東映チャンネルでは「札つき博徒」が9作目と明記してある。

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