2002/06/08(土)「模倣犯」

 原作は未読。よく分からない部分が二つほど(結末の赤ん坊とか。でもこれは原作にはないようだ)あったので、本棚に積ん読状態だった原作を読み始めた(この映画、原作の販売促進効果があるのではないか)。で、読んでいない時点での感想をとりあえず書いておくと、あまり面白くはないが、まったくダメではないというところか。

 映画が始まって、豆腐屋の孫娘が殺され、雑誌記者のダンナが殺され、その他何人かの女が殺されるまでの描写は非常に雑である。いったい何人殺されたのかも分からず、本来ならじっくり描くべき豆腐屋のじいさん(山崎努)の無念の思いもあっさり流れている。感情移入しようがないような描写に終始して、とりあえず原作の設定を話し終えましたという感じ。

 ところが、ピース(中居正広)が出てきて、グッと調子が変わる。中居正広が好演しているのである。それまでとは違う映画になり、描写も丁寧になる。頭はよいが、どこかねじれた方向に行ってしまったピースと浩美(津田寛治)の関係はなかなかいいし、それまでの話を別の視点で語り直すのも面白い。

 この部分はなんとなく「アメリカン・サイコ」を思わせる話なのだが、残念なことに「アメリカン・サイコ」同様、犯人が殺人を続ける理由にあまり説得力がない。森田芳光監督としてはシリアル・キラーを描くことよりも犯人と山崎努の対決に話を絞っていくのが狙いだったようだ。しかし、犯人の動機や背景を十分に描いてくれないと、こういう話では面白くないのだ。中居VS山崎の構図は道徳的な結論に至り、意外性はない。

2002/04/21(日)「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」

 しんのすけ一家が戦国時代(天正2年=1574年)にタイムスリップする。そこには前夜、なぜか夢で見た美しい女そっくりの廉姫(れんひめ)がいた。春日城に住む廉姫は幼なじみで家臣の又兵衛に恋心を抱いており、又兵衛の方も同じ思いでいるが、身分差の厳格な時代、姫と家臣ではお互いに本心を打ち明けようがない。家の裏庭の穴からタイムスリップしたしんのすけは又兵衛の家に世話になり、いつものように騒動を巻き起こしていく。廉姫は大蔵井家に政略結婚させられるはずだったが、しんのすけから未来の話を聞いた殿様が心変わりし、政略結婚を断る。大蔵井は激怒し、いい口実とばかりに大軍を率いて、春日城に攻めてくる。

 この合戦シーンはもちろん子ども向けであるから残虐シーンはないが、合戦の在り方がリアルに描かれており、一つの見どころになっている。

 原恵一監督は「今回あえて野原一家を中心に物語を展開させないで、時代劇の面白さを追求しようと決めて、時代劇でしかできない、現代劇でやったら照れちゃうような真っ直ぐな気持ちとか、潔さ、覚悟みたいなものを登場人物たちに入れ込んだんです」と語っている。又兵衛や廉姫は確かに良いキャラクターだし、2人の許されない恋の描写も悪くはないが、それならば、「クレヨンしんちゃん」の枠組みでやる必要はなかったのではないか、という根本的問題とぶつかってしまう。「オトナ帝国の逆襲」ほどの出来にならなかったのは、一家がメインの話ではないからと思う。

 ラスト近くのエピソードは下手をすると、「ペイ・フォワード」のように観客を泣かせるためだけの、あざといシーンになるはずだったが、しんのすけのタイムスリップの意味と絡めて説明されるので、まあ許容範囲だろう。SF的設定で欲しいのは、タイムスリップの理屈で、裏庭で掘った穴からできたというだけではちょっと物足りない。何かもう一つ超自然的な設定(簡単なものでいい)が欲しかった。

 「オトナ帝国」によって、大人も今回の作品には期待していた。原監督はそれに応えようとして、本格的な時代劇と悲恋を絡めたのかもしれない。今回も水準は高いが、こういう話になってくると、作画の雰囲気とあまり合わなくなってしまう。ストーリーはまるでベルバラ調ですからね。来年は家族中心の話に返って、捲土重来を果たして欲しいと思う。

2002/03/26(火)「ミスター・ルーキー」

 「フィールド・オブ・ドリームス」の主人公は妻子がいるにもかかわらず、自分の夢のためにトウモトコシ畑をつぶしてしまったが、この映画の主人公は妻子のために会社を辞められず、覆面をして阪神タイガースのストッパーになる。夢を実現したいなら、妻子がどうこう言うなよと言いたいところだが、両者が夢に向かっていく男の話であることは共通しており、どうせキワモノだろうと、高をくくって見に行ったら、意外に良い出来なので驚かされた。キネ旬4月上旬号の「REVIEW 2002」では星3つを付けて誉めているのは西脇英夫のみ。あのと3人は2つ以下。いろいろと傷があるのは承知しているけれど、志を買って僕も★★★である。

 「あたしは歌手になるのが夢だった。でも今はカラオケで歌って、うまいねって、いわれるのがオチ。あなたは自分の夢を実現したのに、なぜそれをあきらめるのよ!」。中盤、妻の鶴田真由が阪神の一軍登録を抹消された夫にまくしたてる場面がいい。主人公の長嶋一茂は高校時代、夏の甲子園予選の決勝で肩を傷めたままマウンドに上がり、そこで力尽きた。野球選手になる夢をあきらめ、ビール会社に就職して十数年。草野球のマウンドに立っていた時にトレーナーの男(國村隼)に出会い、治療を受け、トレーニングを重ねて3カ月で肩を治す。かつての豪速球を取り戻した主人公は阪神の監督の目にかなって、会社員の傍ら覆面ピッチャーとして活躍するのである。もちろん会社にも妻子にも内緒で。

 監督の井坂聡は東大時代、野球部に所属していたそうだ。あの「Focus」撮影後にこの脚本を書き、5年後に映画化にこぎつけた。「フィールド・オブ・ドリームス」はもちろん意識しただろうが、それ以上にバリー・レビンソン「ナチュラル」の影響もあるように思える。若い時、ふとした事故で野球人生を棒に振った男が30代になって「奇跡のルーキー」として甦るという話は、この映画のストーリーと似ている。「ナチュラル」が不思議な雰囲気に彩られていたように、主人公の肩を治すトレーナーにもう少し神秘的な雰囲気があれば言うことはなかった。

 ところどころにテレビドラマ的描写はあるし、主人公の会社の上司・竹中直人のいつものアクの強い演技や監督を演じる橋爪功のセクハラまがいの描写は余計。テレビ局のリポーターさとう珠緒の役があまり生かされないとか、会社内部の描写がややおざなりなどの多くの細かい傷はあるにせよ、中盤以降の展開には深く共感できる。優勝をかけた試合で最後の打者となるのが高校時代からの因縁の選手(駒田徳広うまい)で、それを打ち取るのが主人公の超人的な力ではない点もいい。こういう処理を見ると、野球経験のある人が書いた脚本だなと思わせる。

 長嶋一茂はこれまた意外にも好演。映画では久しぶりの鶴田真由(「梟の城」に出てたけど)も良い。クライマックス、ピンチヒッターにあの選手が出てくるのも阪神ファンなら、うれしくなるだろう。

2002/03/24(日)「ワンピース 珍獣島のチョッパー王国」

 王冠島に行ったルフィたちが、悪党3人組と対決する話。チョッパーは島を救う王様と間違われる羽目になる。いつものように、やられてやられてやられた後に、怒りを爆発させて悪をやっつけるパターン。こういう映画を東映が製作するのは本当にぴったりだと思う。かつての任侠映画のパターンなんですよね、これって。

 友情や仲間の大切さを真正面から訴える「ワンピース」のようなアニメが受けるのは興味深い。普通のドラマで描いたら、ダサダサの話でしょう。にもかかわらずそれなりに感動させられ、しかも根強い支持があるのは、ルフィやサンジやゾロがカッコイイからか。特に際だった傑作ではないが、入場料分は楽しませてくれる。

 併映は「デジモンテイマーズ 暴走デジモン特急」と「ワンピース 夢のサッカー王!」。デジモンは夏がメインで春は気楽に作った感じ。でも作画は「ワンピース」より上でしょう。

2002/02/26(火)「ソウル」

 引き続きアクション映画。監督はやはり2作目の長澤雅彦(「ココニイルコト」)だが、こちらは十分な予算がかかっているようだ。

韓国を舞台に日本の刑事(長瀬智也)と韓国の刑事(チェ・ミンス)が反発しあいながら、頻発する現金輸送車強奪事件とアジア首脳会議開催阻止を予告するテロリストグループを追う。

 殴られ続けて「またグーかよー」と愚痴をこぼすTOKIOの長瀬は意外な好演。韓国の大スター、チェ・ミンスはやや類型的な役柄ながら貫禄の演技を見せる。加えて通訳役のキム・ジヨンも清潔感があっていい。問題は脚本で、あまりにも「ダイ・ハード」の影響を受けすぎている。テロリストグループと現金強奪犯がクロスしてくるぐらいはまあ仕方がないにしても、チェ・ミンスが部下を誤射した過去があるという設定は何かほかに変えられなかったのか。長谷川康夫は「ホワイトアウト」の脚本にも参加していたというが、引き出しの少ない脚本家なのだな。

 この脚本のせいで長澤雅彦の演出にも大味な部分を感じてしまう。スタッフは日本と韓国から参加しており、合作映画の趣。日本人俳優も長瀬智也しか出ていないが、予算のほとんどは多分日本側の出資ではないか。ビリングのトップに長瀬が来るのを見てもそんな感じ。「日韓国民交流年記念映画」との字幕はちょと恥ずかしい。

 それにしても「修羅雪姫」も「ソウル」も観客はまばら。アイドルを主演にしても興行的にはあまり効果がないらしい。