2011/09/10(土)「探偵はBARにいる」

 東直己のススキノ探偵シリーズの映画化。原作は「バーにかかってきた電話」だが、タイトルは第1作を使うというややこしいことになっている。タイトル前のシーンが長すぎて手際の悪さを感じさせ、不安を持ったが、謎解き部分がしっかりしており、至る所にあるユーモアも外れていず、探偵映画として悪くない作品に仕上がった。

 バーでぼこぼこに殴られた主人公の探偵(大泉洋)が包帯ぐるぐる巻きになったシーンを見て、「あ、カリオストロの城のルパンだ」と思った。包帯の巻き方がいかにもまねした感じなのだ。キネ旬9月下旬号の記事を読んだら、橋本一監督は「無意識的に『ルパン三世 カリオストロの城』の匂いも、いろんなところに出ちゃったかな、と(笑)。ええ、ポンコツ車で遊んだ演出も」と語っている。やっぱりそうか。探偵と相棒の高田(松田龍平)が乗るポンコツ車は光岡自動車のビュート(日産マーチを基にして作った車)。絵的にルパンと次元が乗るフィアット500のような味があるのだ。探偵自身のキャラも大泉洋が演じているだけあって、ユーモアのあるものだし、全体的に感じたルパン三世の匂いが僕には好ましかった。

 もっとも橋本監督はそれ以上に松田優作「最も危険な遊戯」(1978年)を意識したという。公開当時、アクション映画ファンを驚喜させた村川透監督のこの映画は日活アクションの香りを引きずっていた。それを参考にしたのだから、「探偵はBARにいる」もまたプログラムピクチャーと昭和の匂いを引きずることになる。年季の入った映画ファンならニヤリとするシーンが多いのである。「最も危険な遊戯」は同じ東映クラシックフィルム製作でテレビドラマ「探偵物語」(1979年)に発展したが、あの探偵を演じた松田優作とこの映画の大泉洋の立ち位置は同じようなところにある。

 主人公はタイトル前のナレーションで自分のことを「プライベート・アイ」(探偵)と名乗る。探偵がフィリップ・マーロウのようにバーでギムレットを頼んだってかまわないのだが、探偵=ハードボイルドではない。音楽も含めて、この映画にはハードボイルドの雰囲気に努めようとした節がある。そこはもう少し抑えた方が良かったと思う。日本映画でこの気取った雰囲気をやられると、基本的にパロディにしかならないのだ。

 そうした小さな傷はいっぱいあるにしても、好感の持てる作品であることは間違いなく、大作にせず、プログラムピクチャー的な味わいでこの映画は続編を作るべきだろう。脚本に手を抜かない限り、楽しませてくれるシリーズになるのではないかと思う。

2011/09/10(土)「ミッドナイト・ミート・トレイン」

 クライヴ・バーカー原作で血の本シリーズの第1作「ミッドナイト・ミートトレイン」を読んだのはもう20年以上前。電車の中のスプラッターという記憶しか残っていない。映画は北村龍平監督のアメリカ映画デビュー作であり、不遇な公開のされ方をしたらしいが、作品自体はよくできたホラーになっている。屠殺場に勤め、地下鉄で殺戮を続けるマホガニーを演じるヴィニー・ジョーンズが怖い無表情をしていて秀逸。主演は「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」のブラッドリー・クーパー。ブルック・シールズも久しぶりに出ている。

2011/09/09(金)「未来を生きる君たちへ」

 アカデミー外国語映画賞を受賞したデンマーク映画。内容を伝えない邦題だが、原題は「報復」「復讐」を意味しているそうだ。英語のタイトルは「In a Better World」。「憎しみの連鎖を断ちきる」という今はやりとも言えるテーマを描きながら、監督のスサンネ・ビアは緊張感あふれるドラマを展開させ、見応えのある作品に仕上げた。

 アフリカの難民キャンプとデンマーク郊外の学校でドラマが繰り広げられる。特にデンマークの描写が良く、いじめられる少年クリスチャンを演じるヴィリアム・ユンク・ニールセンは「オーメン」のダミアン役にも似合う冷たさを漂わせている。

2011/09/04(日)「ゴッドファーザー」

 午前10時の映画祭。テレビやビデオでは見ているが、劇場で見たのは初めて。記憶ではシシリー島の場面はもっと黄色っぽく明るかった印象がある。劇中で「愛のテーマ」が初めて流れるこのシーン、暗いニューヨークの色調(音楽も)と鮮烈な対比をなしている、と思っていたが、今回はそうでもなかった。一部、褪色と思われるシーンもある。リストアされているのだけれど、完全ではないのだろう。

 見たのは20数年ぶりぐらいだったが、記憶と違うところはその1点のみ。それほど初見の印象が強かったのだ。高校生の時でしたからね。だいたい、僕は同じ映画を繰り返し見る習慣はない。再見しても「あれ、こんな映画だったのか」と思うことがほとんどないのだ。だから、この映画祭も今までスルーしていた。

 シシリー島で愛する妻を爆殺されたマイケル(アル・パチーノ)の場面から、映画は1年後に飛ぶ。堅気だったマイケルはすっかりマフィアの世界の人間になっている。映画では省略してあるが、その契機が妻を殺されたことにあるのは明確だ。マフィアのドンに成長していくマイケルを描く後半は再び暗い色調に戻るが、だからこそシシリー島での明るさは必要だった。幸福を象徴する明るさなのである。

 裏切りとバイオレンスが渦巻くマフィアの世界は翌年から始まる「仁義なき戦い」シリーズにも影響を与えたのかなと今回、再見して思った。

2011/09/03(土)「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」

 予算の無駄遣いとしか思えない。かかった製作費に対してどれだけ観客の心を動かせるのかを考えると、費用対効果は相当に悪いのではないか。このシリーズ、いつも思うのだが、シャイア・ラブーフ演じるサムの私生活のドラマがさっぱり面白くない。本筋はもちろん、ロボット(というか、機械生命体)の方にあるのだけれど、それにしてももう少し何とかならないものか。

 ミーガン・フォックスは降板して(させられて?)、恋人役はロージー・ハンティントン=ホワイトリーに代わった(サムが振られたという設定)。こういう華を添えるだけの役なら、ミーガン・フォックスの方がよろしい(ホワイトリーはスタイル抜群で顔はキャメロン・ディアスにちょっと似ている)。

 機械生命体のCGは良くできているが、重量感がないのが物足りない。質感がぺらぺらで、すぐに壊れそうな感じなのだ。ここらあたりは宮崎駿のアニメのように重量感を持たせる描写の仕方が必要なのだろう。CGの技術にも描写力はいるのである。