2013/08/04(日)「骨の祭壇」

 世評通りの圧倒的なページターナーではある。特に上巻はページを繰る手が止められない面白さ。下巻はややトーンダウンするものの、一気読みの本であることは間違いない。

 なのに読後感はイマイチ。その要因をつらつら考えてみると、凄腕の悪人たちがやけにあっけなく退場してしまうことが影響しているようだ。ポニーテールの男しかり、美貌と狂気の殺し屋ヤスミン・プールしかり。黒幕の一人である大富豪や元KGB高官、ロシアン・マフィアのボスもまた、あれ、これで終わり、と思えるほどあっけない。これでは主人公2人が都合良く危機を乗り越えていく印象しか残らず、ご都合主義的展開に思えてくるのも仕方がない。

 アクションで話をつなぐだけで深みに欠ける、悪い時の007映画と同じ程度の面白さと思った方がいい。そういう映画が好きな人には超おすすめのエンタテインメント。

2013/07/26(金)ちびファイ

 ホテルなどの有線LANを無線LANにするルーターはいろいろなものが出ている。僕は頻繁に使うわけではないので、プラネックスのMZK-RP150N(ちびファイ)を買った。新しいちびファイ2も出ているが、安いのでかまわない(amazonで1800円)。

 使ってみると、あっけなくつながるが、初期パスワードが「12345678」という簡単なものだし、誰でも接続できるゲーム機器用にはパスワード設定がないので変更しておく必要がある。ところが、AP(アクセスポイント)モードだと、設定画面に入れない。これは皆さん、同じようだ。

 このルーター、LAN端子がinternetとLANの2個ある。ケーブルをinternetに挿すとルーターモード、LANに挿すとAPモードで動作する。APモードでパソコンで設定しようとすると、マニュアルにはAPモードの場合、192.168.1.250にアクセスするよう書いてあるが、それでは設定画面が開かないのだ。「rp.setup」でも「192.168.111.1」でもダメ。自宅のルーターのIPアドレスに合わせて、「192.168.0.250」でもダメ。他のルーターを経由して行うとやっかいだ。

 試行錯誤して、internet端子にLANケーブルをつないでWiFiでタブレットを接続し、「192.168.111.1」にアクセスしたら、すぐに設定画面が出た。これ、当たり前のことのようではまるなあ。実際の接続と形式上の接続の整合性を取ろうとすると、はまる。実際にはルーターモードではなくてもinternet端子につないで、「192.168.111.1」をたたけばいいわけだ。

 マニュアルには「本製品がインターネット回線を自動判別し、ルーターモードまたはAPモードへの自動切り替えを行います」と書かれているが、回線の中身まで調べて判別しているわけではなく、極めて単純に物理的にinternetとLANのどちらにLANケーブルが挿さっているかで判別しているにすぎない。その証拠にLANケーブルの一方をinternetに挿し、もう一方をどこにも挿さなくても設定画面を開くことができる。端子が物理的な切り替えスイッチになっているわけだ。

 だから(イーサネット)コンバーターモードで使わない限りはこれはAUTOに設定しておいた方がいいようだ。そうしておいた方が設定画面を開くのに悩まなくて済む。だいたいこの製品、使っていると、本体が尋常じゃなく熱くなりすぎる。テレビなどの家電をLANにつなぐためにイーサネットコンバーターとして常用するのには向いていない。

2013/07/19(金)「稼ぐ経済学 『黄金の波』に乗る知の技法」

 最近読んだ金融・投資関係の本では最も面白かった。これぐらいの基礎知識を持たずに投資をするのは無謀ということなのだろう。株式投資の不都合な真実について書かれた3章と著者の専門分野である外国為替相場に関する4章は必読だ。

 著者の竹中正治さんはインデックス投資派の人で実際に投資を実践しているが、ドルコスト平均法は勧めていない。マンション投資も実践しているが、これは地方では成り立たないと思う。空室リスクの少ない都市部では参考になるだろう。

 

2013/07/04(木)「ノンフィクションW 映画で国境を越える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」

 「いろんな国の映画祭でインタビューを受けるたびに、すごく疲れ果てるんです。私は率直に言いたいことを言うけど、でも兄家族や母のことが心配で…」

 気丈で饒舌なイメージがあるヤン・ヨンヒ監督が思わず涙を流す。もう一人の母親とも言うべきニューヨークの母校ニュースクール大学の恩師に、他の人には言えない思いを打ち明ける。北朝鮮に関する映画を撮れば、北朝鮮に住む兄たちや大阪の母に迷惑がかかるのではないか。そんな思いを抱えて、ヤン・ヨンヒは映画を撮っているのだ。

 WOWOWメンバーズオンデマンドで配信中のノンフィクションW「映画で国境を越える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」は映画「かぞくのくに」同様に胸を揺さぶられる。キネマ旬報ベストテン1位をはじめ内外の映画賞・映画祭で高く評価された「かぞくのくに」がわずか2週間で撮られたというのは驚きだが、このドキュメンタリーは映画の撮影風景や映画祭での反響などを紹介し、ヤン・ヨンヒの人柄と考え方を余すところなく伝えている。

 映画のクライマックス、北朝鮮に帰ることになった兄との別れの場面で、当初、現実と同じように撮っていたヤン・ヨンヒに「現実にはできなかったことを描けばいい」とアドバイスしたのは見張り役を演じた俳優で監督でもあるヤン・イクチュン(「息もできない」)だったそうだ。

 そのイクチュンは釜山での上映の舞台挨拶で感極まる。「日本で試写した時は感じなかったんですが、釜山で見ると、あまりにも悲しいですね」。分断された韓国で映画が一層リアルに迫るのは当然なのだろうが、韓国だけでなく映画は他の国でも同じような境遇にいる人たちに共感と感動を与えている。ヤン・ヨンヒが描く温かくて厳しい家族の姿には普遍性があるのだ。そして映画は国境を越えるけれども、分断された家族は容易に国境を越えられない。その現実が胸に迫るのだ。

 ヤン・ヨンヒ、次はどんな映画を撮るのだろう。

2013/06/30(日)「発情アニマル」と「鮮血の美学」

 映画オタクであるというデイヴィッド・ゴードン(「二流小説家」)の第2作「ミステリガール」に「アイ・スピット・オン・ユア・グレイブ」という映画のタイトルが出てくる。「1978年にメイル・ザルチ監督がイタリアで製作した知る人ぞ知るスプラッター映画」と説明があるので、これ、「発情アニマル」のことだ。レイプされた女性が加害者の男たちを血祭りに上げていくという復讐劇で、タイトルから分かるように日本ではポルノとして公開された(ので、僕は見ていない)。「悪魔のえじき」というタイトルでDVD化されているそうだ。

 これには「アイ・スピット・オン・ユア・グレイブ」(2010年)という原題そのままのリメイク版があって、たしかWOWOWで見たと思ったが、違った。僕が見たのは「鮮血の美学」(1972年)のリメイク版「ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト 鮮血の美学」(2009年)の方だった。なぜ、この2本がごっちゃになっているかというと、「鮮血の美学」はレイプされて殺された娘の復讐を両親がするという話なのだ。イングマール・ベルイマンの「処女の泉」(1960年)をモチーフにしたもので、ウェス・クレイブンが監督しているが、やっぱりスプラッターな内容である(といっても、これも僕は見ていない)。混じるのも無理はない。

 リメイク版の方はけっこう面白くて、IMDBの評価は6.5。旧版(5.9)より評価が高い。日記を探してみたら、「志の低い作品だろうとバカにして見始めたら、サスペンスフルなバイオレンス映画としてまずまず良く出来ていて少し驚いた」と書いている。「発情アニマル」の方も旧版が5.5、リメイク版が6.2とリメイク版の方が高い。高いといっても、これぐらいの点数だと、マニア以外は積極的に見る必要はないんですけどね。