2014/09/27(土)「サプライズ」

 タイトルが出ないな、と思ったら、窓に書かれた血文字の「You're Next」がタイトルだった。両親の結婚記念日を祝うために別荘に集まった家族とその恋人など10人が正体不明の殺人者に1人ずつ惨殺れていく。というよくあるスラッシャーものに、ひねりを加えたのが脚本の工夫。しかし、邦題に「サプライズ」と付けるほどの驚きはない。あとふたひねりぐらい欲しい。

 サバイバル・キャンプで訓練を受けたという設定の強いヒロイン(シャーニ・ヴィンソン)がいいが、一番のスラッシャーは犯人たちではなく、計7人を殺したこのヒロインだったりする。

 監督のアダム・ウィンガードと脚本のサイモン・バレットのコンビによる新作で評価の高い「ザ・ゲスト」は11月公開。それへの助走作品として見ておいて損はない。

2014/09/23(火)「エリジウム」

 どう考えても、エリジウムという宇宙都市の構造には無理がある。この都市、宇宙空間に浮かぶのに密閉されていない。回転による遠心力で1Gの疑似重力を発生させ、空気をとどめておこうとすると、相当な規模が必要になる。地球の大気圏(1000キロ以上)ほどの規模があるなら大丈夫だろうが、この都市の大気圏は数百メートルぐらいしかなさそうだ。それに何らかの事故によって回転が止まってしまうと、空気がなくなるのは避けられない。どころか、人間も物も宇宙空間に放り出されてしまう。そんな危うい構造では安心して住んでいられないだろう。

 富裕層と貧困層が明確に区別された世界というのは1%の富裕層が99%の富を手にしているというアメリカ社会を反映しているのだろうが、基本設定に無理があるので、現実批判にまで結びついていない。ドラマもあまり盛り上がらず、珍しい悪役のジョディ・フォスターは簡単に消える。もう少し脚本を練り上げる必要があったと思う。

2014/09/14(日)「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」

 派手なVFXがてんこ盛りだが、素性はB級作品。スペースオペラは本来がB級SFなので、当たり前と言えば当たり前か。物語はお宝の争奪戦というありふれたものだし、主役のピーター・クイルを演じるクリス・プラットは単なる肉体派でスター性があるとは言えない。VFXの出来も「スター・ウォーズ」や「アバター」などに比べると、驚くような部分はない。ジェームズ・ガン監督の演出もA級作品が備えるような格調の高さなんて微塵もなく、際立った部分は見当たらない。

 しかし、B級であっても楽しめる作品は多くて、これもそんな1本になっている。特にアライグマのロケットと樹木型ヒューマノイドのグルートのコンビがC-3POとR2-D2を思わせるおかしさで楽しい。グルートは「私はグルート」としか話さないが、それでもロケットに意思が通じているところなんて3POとR2コンビそのままだ。予告編を見たときにはこんなメンバーで大丈夫かと思ったが、映画はこのコンビが強力に支えている。

 「史上最もヒーローらしくないヒーロー」たちの冒険を描くこの映画にとってB級風味が漂うことは少しもデメリットにはなっていない。欠点だらけだけど愛すべきキャラクターたちの活躍する映画は大衆性を備える。ドラマティックな悲壮感も大上段に振りかぶった部分もない気楽に見られる映画であり、それが逆に好感度の高さにつながっている。

 続編にはエンド・クレジットの後に出てきたマーベルのあのキャラクターも加わるんだろうか。

2014/09/11(木)「オーガストウォーズ」

 2008年の南オセチア紛争(ロシア・グルジア戦争、8月戦争)を舞台に描くSF戦争アクション、というのは真っ赤な嘘。SFの部分は子供の空想に過ぎず、本筋はSFでもなんでもない。国境近くの戦場に取り残された子供を救いに行く母親の姿を描いている。

 ロシア映画なのでもちろんロシア側視点でロシアの正当性を強調して作られている。なんせ、敵兵はすべてマスクをかぶっていて素顔が見えないのだ。敵を人間として描くことを放棄しているわけだ。話自体にもリアリティがない。

 それ以上に数年前に起きた実際の戦争をこんな風に描くのはどうも釈然としない。グルジアの人たちがこの映画を見たら、「いい気なもんだ」と怒るのではないか。きっと数年後にはウクライナのクリミア危機を舞台にした映画が作られるのでしょう。

2014/09/10(水)「LUCY ルーシー」

 使っていない脳の領域を覚醒させたら、ああいう超能力が使えるようになるという設定にリアリティーがないし、その引き金になるのが組織の作ったドラッグというのも説得力を欠く。だいたい、あんなチンケな組織をやっつけるのに能力を100%覚醒させる必要はないだろう。超能力の無駄遣いもはなはだしい。

 リュック・ベッソン、完全にSFの領域に踏み込んで映画を作るのは自信がなかったのだろう。だから手慣れた題材にSF風味を取り入れてみましたという感じの映画にしかならない。組織の凶悪なボス、チェ・ミンシクの役柄と役作りは明らかに「レオン」のゲイリー・オールドマンを踏襲している。

 89分という短い上映時間なのに長く感じるのはアイデアと展開のさせ方に工夫が足りないからだ。安全パイで造ったら、いいところなく失敗した例と言える。まあ、それでもスカーレット・ヨハンソンの魅力を十分に見せてくれれば良かったのだけれど、能力が覚醒してからのヨハンソンは表情が消えてしまい、あまり魅力がないのが残念だ。