2020/04/12(日)「我等の生涯の最良の年」

 ラスト近く、元空軍大尉のフレッド(ダナ・アンドリュース)は多数の戦闘機が廃棄された場所を通りかかり、そのうちの1機の操縦席に乗り込む。「何をしているんだ」と責任者に詰問されたフレッドは「かつての職場なんだ」と答える。ここは戦闘機を解体してプレハブ住宅の材料にする現場だった。
「人手は足りてるか?」
「職なしか?」
「そうだ」
「空軍の堕天使ってやつか…。口が悪くてすまん。あんたが空にいる時、俺は戦車にいた」
「戦争の話は興味深いが、雇えるかどうか答えてくれ」
「建築の経験は?」
「何も知らないが、学ぶことは訓練されている」
 ウィリアム・ワイラー監督の「我等の生涯の最良の年」は第2次大戦の軍人3人の帰還後の生活を描く。終戦の翌年、1946年に公開され、アカデミー賞9部門を制した。問答無用の傑作であり、今もまったく古びていない名作。ワイラー最良の作品は「ベン・ハー」でも「ローマの休日」でもなく、この映画だと思う。

 フレッドと元陸軍軍曹の銀行家アル(フレドリック・マーチ)、元水兵のホーマー(ハロルド・ラッセル)は同じ軍用輸送機に乗り合わせて知り合う。ホーマーは乗り組んでいた空母を撃沈され、火事で両手を失い、フックのような義手をしている(マッチを擦れるし、栓を開けることもできるが、パジャマのボタンは嵌められない)。経済的にも家庭的にも恵まれたアルと違って、フレッドとホーマーの戦後は多難だ。

 フレッドは出征の20日前に結婚したが、帰還してみると、妻のマリー(バージニア・メイヨ)はフレッドの両親の家を出て、ナイトクラブで働いていた。マリーは出征前と同じソーダ水売り場で働き始めたフレッドの稼ぎの少なさをなじる。空軍では月に500ドルもらっていたのに、今は週35ドルなのである。フレッド自身、戦争で功績を挙げた自分にはもっとふさわしい職場があると考えている。しかし、世間は帰還兵に冷たかった。

 そんなフレッドが紆余曲悦を経て戦闘機解体の仕事に就くのは象徴的だ。フレッドは自分の過去を葬る仕事で新しい人生を生きることを決意するわけである。

 演技に関してまったくの素人だったハロルド・ラッセルは実際に両手を戦争でなくした(戦闘中ではなく、TNT火薬を扱っている時の事故によるもの)。ドキュメンタリー映画に出ているのをワイラーが見てホーマー役への起用を決めたという。アカデミー助演男優賞と特別賞を受賞したが、ラッセルはその後、映画から遠ざかった。次に映画で顔を見せたのはこの作品から実に34年後、リチャード・ドナー監督の「サンフランシスコ物語」(1980年)においてだった。当時、映画評論家の荻昌弘さんはラッセルの34年ぶりの映画出演を映画雑誌(「ロードショー」だったと思う)で取り上げていた。出演はドナー監督が懇願したことと、障害者を描いた作品だったので了承したと記事に書いてあったと記憶している。ジョン・サベージ主演のこの佳作を僕は学生時代に見て深い感銘を受けた。残念ながら現在、ネット配信はもちろんDVDもなく、見ることができない。何とかしてほしいものだ。

 フレッドは妻と別れ、アルの娘ペギー(テレサ・ライト)と親しくなっていく。ラストのフレッドのペギーへのセリフは字幕ではこうなっている。
「生活が安定するまで何年もかかるし、金もいい家もないが、一緒に頑張ろう」
 どうも「一緒に頑張ろう」が安っぽくて良い訳とは思えない。IMDbによると、元のセリフは次の通り。
You know what it'll be, don't you, Peggy? It may take us years to get anywhere. We'll have no money, no decent place to live. We'll have to work, get kicked around...
 「ペギー、(僕と一緒になったら)どうなるか分かってるだろう? 生活が安定するまで何年もかかる。お金もないし、住むのに十分な家もない。僕たちは転々としながら、働かなくてはならないだろう…」。その言葉を遮って、ペギーはフレッドにキスをする。

 アカデミー賞を得た後のプロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンについてWikipediaにはこうある。
フランシス夫人はゴールドウィンが「まるでクリスマスに欲しい物を全部貰った子供のように」はしゃいでいたのを記憶している。(アカデミー賞授賞式から)夫妻が帰宅した後、フランシス夫人はゴールドウィンがいつまでも2階に上がってくる気配が無いので何処に居るのか家中を探し回ったところ、暗いリビングルームでアカデミー作品賞とアービング・G・タルバーグ賞を片手ずつ持ち、腰を下ろし、うつむいて声も無く泣いていた彼を発見したという。
 プロデューサー冥利に尽きる映画だったのだろう。上映時間2時間50分は当時の一般的な映画の2倍の長さ。映画の上映回数が少なくなり、興行上不利なことを承知の上で完成させたのは、ゴールドウィンがこの映画にはこの長さが必要だと考えたからだろう。実際、映画はまったく長さを感じさせない。もっともっと見ていたくなる。恐らく、その時点でベストを尽くした映画は普遍性を備える傑作になり得るのだ。


2020/04/05(日)オットー・プレミンジャー監督の2本

 amazonで古い映画を検索したら、ネット広告に「バニー・レイクは行方不明」が出るようになった。1965年のオットー・プレミンジャー監督作品。題名に惹かれてamazonプライムビデオで見た(レンタル199円)。

 アメリカからロンドンに来たシングルマザーのアン・レーク(キャロル・リンレー)が4歳の娘バニーを保育園に入園させる。迎えに行くと、保育園の誰もがバニーを見ていない、知らないと言う。アンは兄のスティーブン(キア・デュリア)と警察に届け出る。ニューハウス警部(ローレンス・オリビエ)が捜査を始めるが、アンのアパートからはバニーの服やおもちゃなどがすべてなくなっていた。警察はバニーの存在そのものを疑い始める。すべてはアンの狂言ではないのか?

 ある人物が消えて、その存在そのものが疑われるという映画はヒッチコックの「バルカン超特急」(1938年)あたりが最初か。子どもがいなくなるという発端ではジョディ・フォスター主演の「フライトプラン」(ロベルト・シュヴェンケ監督、2005年)やクリント・イーストウッド監督「チェンジリング」(2008年)などがある。こうした映画では主人公も含めて登場人物の誰かが嘘をついていることになる。プレミンジャーの演出は手堅く、一見の価値はある。

 イヴリン・パイパーの原作は2003年に早川書房のポケミスから出たようだが、現在は絶版。ちなみにKINENOTEには「バニーレークは行方不明」のタイトルで登録されているから、日本公開時はこれだったのだろう。DVDのタイトルは「バニー・レークは行方不明」となっている。



 プレミンジャーのミステリーは以前、「ローラ殺人事件」を録画して未見のままになっていた。見ようと思ってパソコン内とブルーレイディスクを探したが、見つからなかった。しょうがないのでDVDを買って見た。

 1944年のモノクロ作品。IMDbの採点は8.0、ロッテン・トマトでは100%が肯定的で、すこぶる評価が高い。KINENOTEでは73点。ニューヨークで有名なデザイナーのローラ・ハント(ジーン・ティアニー)が猟銃で顔を撃たれ、無惨な死体となって発見される。ニューヨーク市警の刑事マーク・マクファーソン(ダナ・アンドリュース)が捜査を始め、容疑者としてプレイボーイで彼女の婚約者シェルビー(ビンセント・プライス)、叔母でシェルビーと関係のあったアン(ジュディス・アンダーソン)、ローラの才能を見出し育てたコラムニストのウォルド(クリフトン・ウエッブ)らが浮かび上がる。

 DVDの画質が(廉価版なので)良くないこともあって、どこが優れているんだかと思いながらボーッと見ていたら、中盤にあっと驚く展開があった。この映画、ここに尽きる。これ、後年の映画や小説にも影響を与えているだろう。レイモンド・チャンドラーの某作品もこれを参考にしているのではないか。というわけで、ミステリーファンなら見て損はない。この原作(ヴェラ・キャスパリ著)もポケミスから出ていたが、絶版。



 これ、YouTubeでは300円で配信している。画質は予告編を見る限りはDVDより良いが、本編はどうだろう。


2020/02/02(日)「父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教え」

 経済評論家の山崎元さんがマルチスコープ(「会社から自由になるためのお金」をつくる骨太で簡単な2つの方法)で「大変面白い」と評していたので読んだ(山崎さんは本書のオビでも推薦している)。「富へのシンプルな投資法」と考え方を解説した本である。

 著者のジェイエル・コリンズが勧めているのは全米の株式全体に投資するバンガードのトータル・ストック・マーケット・インデックス・ファンド(VTSAX)。これをETFにしたバンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI)は日本のネット証券でも購入できるし、このETFを投資対象にした「楽天・全米株式インデックス・ファンド」などもある。インデックス投資を行っている人にとって本書は特に目新しい内容ではないが、こうした本を読むメリットは自分の投資法が間違いないかを確認できることにある。

 30の章の中で特に納得したのは23章の「ドルコスト平均法を好まない理由」。毎月一定額を積み立てるドルコスト平均法は実践者が多く、僕もやっている。著者がこれを好まないのは「(ドルコスト平均法は)投資した後に市場が下がるリスクを回避する代わりに市場が上昇を続けてトータルのコストが上がるリスクを背負っている」からだ。著者によると、1970年から2013年までの43年間のうち、33年間、市場は上昇しているという。これは全期間の77%に当たる。

 しかも市場は暴落の期間を含んでも全体としては右肩上がりで上昇してきた(1991年までのバブル期をまだ超えていない日本株は特殊な例だ)。これはインデックス投資が有利なことの裏付けでもある。だから定額を定期的に投資するよりも一度に多額を投資した方が有利なのだ。ただし、若い時には多額の投資資金を持っていることはまれだし、一度に投資して下落相場に入った場合は心理的にもたないかもしれない。山崎元さんもドルコスト平均法を「気休め」と言っているが、下落相場の心理的負担を和らげてくれる効果は否定できない。

 著者はこう付け加えている。
あなたが資産を維持するステージにいる場合には、変動をなだらかにするために債券を含むポートフォリオになっているはずです。その資産配分に従って、まとまった資金を投入してください。その資産配分自体がリスクを低くしてくれます。
 つまり退職金などを全額、株式ファンドに投資するのはリスクが大きいということ。もし過去に投資経験がなく、仕事を引退して初めて投資をする場合には「eMaxis Slimバランス(8資産均等型)」などのバランスファンドがふさわしいのではないかと思う。このファンドは日本株や債券、先進国株、REITなど8種類の資産に12.5%ずつ投資する。「わたしのインデックス」の資産配分ツールでこの比率に合わせたポートフォリオを作り、過去20年間の平均リターンを調べると、6.9%となった。
eMaxis Slimバランス(8資産均等型)のリターン

 これはあくまで平均リターンで、世界金融危機(2007年7月-2009年2月)の時期にはマイナス48%という大暴落となった。1000万円の投資額が520万円まで減る計算。こうした暴落は今後も必ず起きることであり、それに耐える覚悟は必要だ。


2020/01/25(土)Adobe Acrobatの代替

 Adobe Acrobat2015のサポートが4月7日で切れるそうだ。AdobeはPhotoshopなど他の製品と同様、サブスクリプションプランに移行させるつもりだ。しかし、プランの価格が高すぎる。Pro版の場合、年間プランで18,960円、スタンダード版でも16,560円。Acrobatが高機能なのは分かっているが、そんなに頻繁に使うわけでもないので買い切り版を探したい。

 ジャストシステムのJust PDF 3はページ番号を打つ機能がAcrobatより大幅に劣るのでダメ。WondershareのPDF Element7を試してみたら、Acrobatと同じようなインターフェースで使いやすかったのでこれに決めた。

 価格は公式サイトから購入すると、永久ライセンス版は9,980円。これがベクターPCショップでは6,989円だった。安いです。amazonには古い製品しかなかった。楽天市場にはあったが、Mac版が5,000円台なのにWindows版は9,000円以上する。Yahoo!ショッピングも同じような感じ。買うならベクターがお勧めです。

 購入後にベクターからライセンスキーが送られてくるので、Wondershareのサイトに新規ユーザー登録して、ログイン後、「製品引き換え」からシリアル番号を入力すればOK。

 使い方はYouTubeにあったが、バージョン6のものだった。ま、あまり変わってないでしょう。