2014/04/30(水)再読したい「夜明けの睡魔」

 ミステリマガジン6月号の「小さな異邦人」の書評を読んで、連城三紀彦の作品が読んで見たくなった(読んだことなかったんです)ので、電子書籍で「戻り川心中」を読んだ。収録された短編5編のうち、推理作家協会賞を受賞した表題作が最も面白いが、どう考えてもこの主人公、精神的に病んでいる。普通の人はこういうことを考えないし、考えても実行はしないだろう。

 考えてみると、アガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」やエラリー・クイーン「Yの悲劇」の犯人も一種のサイコパスだ。普通の人には予想もつかない犯行を実行する点でどこかに異常さが潜んでいる。亡くなったミステリ評論家の瀬戸川猛資さんも名著「夜明けの睡魔」で「Yの悲劇」の犯人の異常性を指摘していたと思う(本が行方不明になっていて確認できない)。

 創刊700号を記念したミステリマガジン6月号ではミステリ関係者71人が思い出のコラムについて語っていて、「夜明けの睡魔」を挙げている人が多い。瀬戸川猛資さんはハードボイルドや冒険小説に冷たい視線を送っていた人で僕とは好みが正反対なのだが、それでも納得できる指摘が多く、連載をまとめた「夜明けの睡魔」がミステリガイドの決定的な1冊であることに異論はない。どころか、ものすごく参考になり、それ以上に読んで面白い本だ。

 瀬戸川さんは映画ファンでもあり、映画に関する「夢想の研究」というコラムも連載していた。故双葉十三郎さんの「ぼくの採点表」単行本の編集者も務めた。映画ファンでミステリファンという人はけっこう多く、相関性が高いのではないかと思う。

 なんてことを書いていたら、「夜明けの睡魔」を再読したくなった。1980年代の連載をまとめた本で、1999年に文庫化されている。こういう名著こそ電子書籍化してほしいものだ。