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2002年05月19日の記事

2002/05/19(日)「パニック・ルーム」

 大金持ちが残したニューヨーク中心部の邸宅に引っ越したその日に、3人組の男が隠された遺産を狙って侵入してくる。母と娘が避難用の部屋(パニック・ルーム)に逃れ、男たちを撃退しようとするサスペンス。4階建てのこの家の階下から屋根までを自在に動き回るカメラはヒッチコックを大いに引用している。

 ヒッチコックのカメラは格子をすり抜けるぐらいだったが、デヴィッド・フィンチャーのこのカメラ、コーヒーメーカーの取っ手の間や鍵穴までもワンカット(のような効果)で通り抜けてしまう。3人組が押し入る際の長回しと合わせて、凝ったカメラワークが多い。ハワード・ショアのストリングを強調した音楽もヒッチコック映画のバーナード・ハーマンを思い出させる。

 ただ、結末がどうなるかは分かった話なので、中盤からどうも物足りなくなる。ジョディ・フォスターが閉所恐怖症であるという設定はあまり生かされないし、娘の糖尿病という設定もその場限りのものに終わっている。そもそもが発展しにくい話なのである。

 デヴィッド・コープの脚本は犯人側の仲間割れを挟み、力関係が揺れ動くのが面白い。フォレスト・ウィテカーの役柄なども陰影に富むものにしようとした形跡がうかがえる。だが、まだアイデアが足りないと思う。

 ジョディ・フォスターは基本的に知性派なので、暴力に対抗する場面にはちょっとリアリティがない(フォスターの胸が大きく見えるのは撮影中に子どもが生まれたためか?)。ひ弱な人物が過激な暴力を振るう描写に関して、フィンチャーはサム・ペキンパー「わらの犬」あたりを見習った方がいいだろう。