メッセージ

2002年10月07日の記事

2002/10/07(月)「ロード・トゥ・パーディション」

 マフィアのボスの息子と父親の殺人の場面を見たために、マフィアに追われることになる父と息子の物語。妻と次男は殺され、父親は復讐を誓い、長男とともに逃亡生活をしながら反撃に出る…。「アメリカン・ビューティ」のサム・メンデス監督は実にオーソドックスな物語をオーソドックスかつ映画的技法を駆使して、立派な作品に仕上げた。言うまでもなく、「アメリカン・ビューティ」より完成度は上であり、話の行く末は分かっていながらも、深い感銘がある。

 特に感心したのは映画的な技術を過不足なく使っていることで、例えば、殺し屋のジュード・ロウが登場する場面の逆ズーム(トラックバックしながらのズームアップ)とか、ここぞという場面のアクセントとして実によく決まっている。あるいはジュード・ロウとダイナーで対峙するトム・ハンクスのこめかみをゆっくりと流れる一筋の汗、長い逃亡生活を反映したワイシャツのえりの汚れなど、映画でなければ表現し得ない見せ方をメンデスは各所に駆使している。メンデスは演劇出身だが、映画的な技法を十分に身につけており、今やこういうオーソドックスな監督の方が少なくなってしまったからとてもとても貴重な存在である。

 話としてはありふれてはいるのだが、アメリカの田舎の農家の夫婦を出してきて、古き良きアメリカを感じさせたり(この老夫婦が再び顔を出すラストは絶対そうなると分かっていながらも涙、涙である)、父親と息子の誤解と愛情の深さをクライマックスの前に十分に描き出したりとか、メンデスの演出は緩急自在かつ間然とするところがない。

 これに加えて、トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウの演技の凄さ。二枚目のジュード・ロウはよくぞここまでという感じの怪演で、儲けどころの役柄をきっちりと演じきっている。息子役のタイラー・ホークリンも繊細な感じがよく、トーマス・ニューマンの音楽も素晴らしく、美術、撮影、衣装に至るまで充実しまくりの映画。父親と息子の関係を核にもってきたことで、大衆性までも備えており、これはもうロード・トゥ・オスカーは間違いないのではないかと思える。「アメリカン・ビューティ」でのアカデミー受賞はフロックではなかった。メンデスはこの映画で本当に一流監督の仲間入りをしたと思う。