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2004年08月05日の記事

2004/08/05(木)「キング・アーサー」

 「キング・アーサー」パンフレットアーサー王伝説を「トレーニング デイ」「ティアーズ・オブ・ザ・サン」のアントワン・フークア監督が映画化。ジョン・ブアマン「エクスカリバー」のような剣と魔法のファンタジーを期待したら、魔法の部分はさっぱりなく、剣が中心の活劇映画になっていた。「エクスカリバー」は15世紀にまとまったトーマス・マロリー「アーサー王の死」を基にしていたのに対して、この映画はアーサー王伝説そのものを取り上げているからだ。だから、魔術師マーリンは魔術師ではなく、ローマ帝国に反逆するブリテン人のリーダーであり、円卓の騎士たちの聖杯を求める旅のシーンもない。だからといって、つまらないかというと、そんなことはなく、中盤までは傑作と思った。いや、物語に入るまでの序盤の処理はあまりうまくないので、中盤はとても面白かったと言うべきか。「ロード・オブ・ザ・リング」には負けていても、この中盤があるだけで「トロイ」には十分勝っている。ジェリー・ブラッカイマー製作の映画にしては珍しく、骨太の映画に仕上がっている。

 中盤、アーサーたちは最後の任務でハドリアヌス城壁を越えて、北の地方にいる一家を助けに行く。そこでアーサーたちが見たのはキリスト教の布教を理由に現地の人々を苦しめる愚かな司祭。アーサーは懲罰を受けている長老を助け、閉じこめられた蛮族ウォードの女と子どもを救出する(ここでようやくヒロイン、キーラ・ナイトレイが登場するのだった)。自由と平等をローマ人の司祭から教わったアーサーはここで行われていることを見て、愕然とする。表面とは裏腹に腐敗したローマ帝国に対する怒りがわき上がってくるのだ。村には凶暴なサクソン人が迫っており、アーサーたちは村の人々も一緒に連れて帰ろうとする。ここから氷った湖上でのサクソン人との対決までがこの映画の白眉。フークア監督は文句の付けようのない場面に仕上げている。

 映画はローマ帝国とウォードとサクソンの三つどもえの状態から、アーサーとウォードが手を組んでサクソンの侵略に対抗する流れを見せ、クライマックスはハドリアヌス城壁でのスペクタクルな戦闘シーンが描かれる。ここは黒沢明「七人の侍」風の展開で、スペクタクル的にはあまり演出がうまいとは言えない。しかし、ローマ帝国の兵士として15年間戦ってきたアーサーがそれと決別して民衆のための戦いを繰り広げるわけだから、心情的には納得のいくものとなっている。

 アーサーを演じるクライブ・オーウェンが地味なので、最初に登場するランスロット(ヨアン・グリフィス)が主人公かと思った。他の出演者もグウィネヴィア役のキーラ・ナイトレイを除けば、地味な役者ばかりだが、それぞれに渋い味を出していて悪くない。ナイトレイは薄汚れた格好で登場した後、お約束通り、美女に変貌していく。弓の引き方も決まっており、好感度が高い。