2003/09/24(水)「トゥームレイダー2」

 2年ぶりの続編で、監督がサイモン・ウエストから、「スピード」のヤン・デ・ボンに代わった。しかし、映画の印象は変わらない。アンジェリーナ・ジョリーとアクションは良い出来なのに、ドラマの部分が食い足りない。ヤン・デ・ボンの起用はアクション重視の結果だろうから仕方がないが、もう少しドラマティックな盛り上がりも欲しいところ。ララ・クロフトと元恋人の関係などはドラマティックな面を意識したのだろうし、クライマックスの処理はなかなかハードボイルドチックだが、これだけでは物足りない。これは相手役の男優(ジェラルド・バトラー)が弱いためでもある。アクションカタログであることを承知の上なら、それなりの満足はできるかもしれない。

 今回はパンドラの箱を巡る冒険である。ギリシャの大地震で海底にアレクサンダー大王の神殿が姿を現す。現場に着いたララ・クロフト(アンジェリーナ・ジョリー)は神殿で黄金の珠とメダルを見つけるが、不審な男たちが神殿を訪れ、ララから珠を奪い、ララの仲間2人を殺す。男たちの黒幕はノーベル賞受賞の科学者ジョナサン・ライス(シアラン・ハインズ)で、ライスは究極の生物兵器を手に入れようとしていた。珠は「生命の揺りかご」と呼ばれる地に隠された「パンドラの箱」の場所を示すものだった。パンドラの箱がライスの手に渡れば、人類滅亡の危機。ララはかつての恋人で収監されているテリー・シェリダン(ジェラルド・バトラー)の助力を得て、珠を奪い返そうとする。

 ギリシャから香港、上海、アフリカと舞台を変えて大がかりなアクションが繰り広げられる。基本は「インディ・ジョーンズ」なのだが、空中アクションが多いのを見ると、007も意識しているようだ。香港の繁華街でのアクションや高層ビルから飛び降りて滑空する場面など見事な出来と言ってよい。二丁拳銃を操るジョリーはカッコイイし、ちゃんと弾倉を替える描写があるのがうれしいところ。クライマックスには正体不明の怪物も出てくるなどサービス精神旺盛である(ここは何となく「ロード・オブ・ザ・リング」の雰囲気)。

 ビジュアル面では十分成功しているのだから、なおさら脚本に工夫が欲しいところ。アリステア・マクリーン的な仕掛けを取り入れるとか、ララと元恋人の描写を充実させるとか、いくらでも方法はあるはずだ。脚本のディーン・ジョーギャリスはこれがデビュー作とのこと。第3作を作るなら、脚本にも力を入れてほしい。

2003/09/15(月)「閉ざされた森」

 「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン監督のミステリ。パンフレットでミステリ作家の有栖川有栖と貫井徳郎が「『翻弄される快感』に満ちた映画だ」「ここまで見事にだまされた経験はここ数年では憶えがない」と誉めているが、多分にリップサービスではないか。プロット自体は良くできているけれど、中盤、兵士の証言によって真相が“藪の中”に入っていくくだりが今ひとつ面白くなく、真相が明らかになっても「ああ、そうですか」という感じにしかならないのだ。「そうだったのか!」とハタと膝を打つようなシーンはないし、これはミステリのためのミステリ。伏線は細かく張ってあり、いわゆる本格ものに近い感触はあるが、物足りない思いが残る。

 脚本は「Darkness Falls」(日本未公開)に続く2作目のジェームズ・ヴァンダービルトのオリジナルらしい。ハリケーンの中、パナマの米軍基地から訓練に出たレンジャー隊のウエスト軍曹(サミュエル・L・ジャクソン)以下7人がジャングルの中で行方不明になる。救出に向かったヘリの目の前で隊員同士の銃撃戦があり、1人は死亡。救助された2人のうちケンドルは重傷を負い、ダンバーはジャングルで何が起こったか完全黙秘を続けている。捜査に当たったジュリー・オズボーン大尉(コニー・ニールセン)の手には負えないと判断したスタイルズ大佐(ティム・デイリー)は元レンジャー隊員で麻薬取締局捜査官のトム・ハーディ(ジョン・トラボルタ)に捜査を依頼する。ハーディには捜査に絡む収賄容疑がかかっており、ジュリーには信用できないのだが、黙秘を続けていたダンバーから見事に供述を引き出す。しかし、続いて供述したケンドルはダンバーとはまったく別の話を真相として語る。

 証言者によって話が二転三転するというパターン。事件の背景として同性愛や麻薬や上官への憎しみなどが出てくるが、どれもこれも通り一遍の描写で物語に深くかかわってはこない。真相が明らかになってみると、それは仕方がないかなという気もする。ゲームのような話なのである。頭の中だけで組み立てた話、パズルを組み合わせることだけに心を砕いた話であり、物足りない思いはそこから来ている。「羅生門」のようにヒューマニズムを出せとは言わないけれど、パズラーにプラスαとなるものが欲しいのだ。行方不明の7人の描き分けも今ひとつである。観客に罠を仕掛けるのなら、もう少しうまく仕掛けて欲しい。ヴァンダービルトの脚本はその意味で若書きの感じが拭いきれない。マクティアナンの演出も、どうもミステリの基本をわきまえたものとは言えない。

 終盤、タマネギの皮をむくように新たな真相が顔を出す展開は小説で読むと楽しいのだろうが、映画では目まぐるしいだけ。映画の場合、謎だけで引っ張っていくのはなかなか難しいのだなという思いを強くした。

 ジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンはいつものように好演といって良い。コニー・ニールセンは「ミッション・トゥ・マーズ」「グラディエーター」ではもう少し魅力的だったような気がする。

2003/09/12(金)「ムーンライト・マイル」

 心に傷を持つ若い2人の切ないラブストーリーと見てもいいし、娘を失った中年夫婦が失意のどん底から再生する物語と見てもいい。重たいセリフが散りばめられながら、独りよがりにならずに娯楽映画として仕上げることを忘れなかったブラッド・シルバーリングの脚本・演出はとても充実している。キャラクターの彫りの深さは賞賛に値する。ダスティン・ホフマンとスーザン・サランドンがうまいのは当然にしても、主演のジェイク・ギレンホールとメジャー映画デビューとなった女優エレン・ポンペオも非常に魅力的である。脚本と俳優の演技が高いレベルでマッチしており、一部に甘い部分があるにしてもアメリカ映画の良い伝統が息づく良質の作品と思う。

 ストーリーはシルバーリング監督の体験に基づく。1989年、シルバーリングの恋人だった新人女優のレベッカ・シェーファーはストーカーによって銃で殺されたのだ。映画は1973年のマサチューセッツ州のある町を舞台にしており、ベン・フロス(ダスティン・ホフマン)とジョージョー(スーザン・サランドン)の一人娘ダイアンがコーヒーショップで流れ弾に当たって死ぬという設定である。

 ダイアンの婚約者だったジョー(ジェイク・ギレンホール)は葬儀後、ベンの精神分析医から失意の2人を励ますためにしばらく一緒に暮らすよう頼まれる。ジョーにはある秘密があって気が進まないのだが、ベンもジョージョーも哀しみをまぎらすためにジョーを必要としていた。ジョーはベンの不動産の仕事を手伝うようになる。ある日、結婚式の招待状を回収するために町の郵便局に行ったジョーは局で働くバーティー(エレン・ポンペオ)と出会う。偶然にもバーティーはベンが地上げを計画する商店街で「キャルの店」という酒場を手伝っていた。

 中盤、ジョーがバーティーに秘密を打ち明けるシーンが胸を打つ(アメリカの予告編はこの秘密を伏せているのに日本の予告編は平然とネタを割っている。これはいかがなものか)。バーティーは自分を偽って生きていくジョーの弱さをなじるが、お互いに苦悩を抱える2人は急速に接近していく。ベンとジョージョーの夫婦関係も陰影に富んだもので、悲しんでいるばかりではなく、他人から安易な同情を受けることも拒否している。親子の関係、夫婦関係、恋人同士の関係を深い視点で描いてあり、シルバーリング監督、題材を長年温めてきただけのことはある。ダイアンを撃った犯人の裁判で自分の本当の思いを訴えるジョーの姿は何だかジェームズ・スチュワートを彷彿させた。

 ホフマンとサランドンに比べて、同じオスカー女優でも弁護士役のホリー・ハンターはやや演技のし甲斐がない役柄で損をしている。エレン・ポンペオはこの映画の後、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」と「デアデビル」にも出ているそうだが、どの役だったのかまるで印象がない。ボストン出身で年齢は不詳だが、今後に注目したい。

2003/08/29(金)「シティ・オブ・ゴッド」

 最初に連想したのはマーティン・スコセッシであり、ガイ・リッチーだった。ギャングという題材、時間軸と視点を自在に操るタッチ。フェルナンド・メイレレス監督は重たく深刻な題材を解体し、再構成して絶妙の映画に仕上げた。このうまさには恐れ入る。

 後に凶悪なギャングに成長するリトル・ダイスの人を撃ち殺すのが楽しくて仕方がないといった表情や、「(撃たれたいのは)どちらか選べ。手か足か」とガキ軍団の幼い2人が迫られて泣き叫ぶ場面などはショッキングなのだが、全体として軽快にテンポよく進む作りにはもう絶賛を惜しまない。モーテル襲撃事件の真相のミステリ的な描き方であるとか、「二枚目マネ」が死に至る原因となった意外な人間関係であるとか、そういう部分をサラリと描いているのがまた憎い。

 逆に言えば、そうした技術的な圧倒的なうまさが題材の深刻さを隠すベクトルともなっていて、これは社会派のテーマを持つ映画でありながら、恐ろしく出来の良いエンタテインメントとして機能することになる。人の命の軽さが点景として多数描かれること、銃やドラッグの本質的な怖さを感じにくいことなどに、かすかな違和感もある。

 つまりテーマよりも技術の方が目立つ映画なのであり、あまりにも面白いので、そういう微妙なケチの付け方をしたくなる作品なのである。音楽の使い方を含めて心地よい映像になったのはメイレレスがCM監督出身であることと無関係ではないだろう。あらゆる技術を駆使して商品(題材)を一流のパッケージにくるんで見せているわけだ。

 いずれにしても、今年のmust seeの1本であることは確か。IMDBでは8.6の高ポイントで、オールタイムの84位になっている。

2003/08/25(月)「ジェイソンX」

 地下の研究所でジェイソンとともに冷凍された女性研究者が450年後に発見される。宇宙船に運び込まれ、蘇生措置を受けるが、冷凍が解けたジェイソンも復活してしまう。宇宙船内で例によって惨殺劇が繰り広げられることになる。

 IMDBの評価を見ると、4.9。最低の評価だが、ビデオで見る分にはまずまずの出来と思う。「エイリアン」のシチュエーションの借用は承知の上で、B級SFホラーに徹している。VFXもそれなりの水準。終盤、アンドロイドによってバラバラにされたジェイソンが蘇生装置で金属の外殻を身につけ、よりパワーアップするというのが面白い。

 この秋公開予定の新作「フレディ VS ジェイソン」はアメリカではヒットしているらしい。それにしても、ショーン・S・カニンガムの第1作「13日の金曜日」が作られたのはもう20年以上前。未だにシリーズが作られ続けるというのは新たなキャラクターを作るのが難しくなっていることの裏返しか。