2004/12/30(木)「ロスト・イン・トランスレーション」

 東京にCMの仕事に来た映画俳優ボブ(ビル・マーレイ)とカメラマンの夫についてきたシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)の淡い交流を描く。ソフィア・コッポラはこれでアカデミー脚本賞を受賞したが、凝った脚本ではない。2人は元々、周囲に理解されない疎外感を感じており、言葉の通じない日本に来てそれに拍車がかかる。だから日本の描写は理解できないものとして描かれる。

 どうも見ていて「いい気なもの」と思えてきてしまう。2人は高級ホテルに泊まっているぐらいだから、経済的にも恵まれており(ボブのCMのギャラは200万ドル)、なに甘えたこと言ってんだよと思えてくるのだ。未開の地に来た白人の孤独を描いた映画は過去にもあったと思うけれど、まあ、当事者の国に住む者としては面白くない。この2人には「郷にいれば郷に従え」なんて感覚はないのだろう。刹那的な旅行者なのである。

 個人的にはこの脚本は技術的な部分も話の根底にある考え方も甘いと思う。それでもこの映画に魅力があるとすれば、それは主演2人の魅力で、人生にうんざりしたようなマーレイと清楚でありつつ肉感的なヨハンソンはどちらもいい。実生活では2人とも近寄りがたいキャラクターらしいが、映画の中では好感のもてるキャラクターである。

2004/12/28(火)「エイリアンVS.プレデター」

 「エイリアンVS.プレデター」パンフレットダン・オバノンが最初にエイリアンの設定をした時、エイリアンは凶暴であると同時に高い知性を持つ異星人だった。これは基になったA・E・ヴァン・ヴォクト「宇宙船ビーグル号の冒険」の猫型宇宙人にしてもそうなのだから、当然と言えば当然の設定だった。リドリー・スコットの映画にそのあたりの描写はなかったから、その後エイリアンは凶暴なだけの異星人として描かれ続け、この映画では“宇宙トカゲ”とまで言われる始末。知性があるとも思えない本能だけの生物みたいになってしまった。どう考えてもこれでは人類の味方にはなり得ない。その点、プレデターは戦闘を好む異星人で、優秀な戦士には地球人であっても敬意を払う。だからこの映画でプレデターが人間寄りの存在に描かれることもまた当然なのだった。

 2大人気キャラクターを一緒に登場させての映画化は昨年の「フレディVS.ジェイソン」のように珍しいことではない。問題はどうストーリーを作るかなのだが、この映画、そのあたりに手を抜いている。両者を戦わせる設定だけを作って、それ以上のものを用意していないので、物足りないのだ。監督・脚本は「バイオハザード」のポール・W・S・アンダーソン。どこまでいってもB級の人なので、この映画もこちらの予想の範囲を超える部分は1ミリたりともなかった。凡庸な映画なのである。加えてヒロイン役のサナ・レイサンがこういう映画のヒロインとしては機能していない。それこそ「バイオハザード」のミラ・ジョヴォヴィッチ級の美人女優でなければ、こういう映画は成り立たないと思う。

 ウェイランド社の探査衛星が南極の地下600メートルにあるピラミッドを発見する。社長のチャールズ・ビショップ・ウェイランド(ランス・ヘンリクセン)は調査隊を組織し、南極へ向かう。調査隊に加わったのは冒険家で調査ガイドのレックス(サナ・ネイサン)、考古学者のセバスチャン(ラウル・ボヴァ)、化学工学者のミラー(ユエン・ブレムナー)など。調査隊はピラミッドの真上にある捕鯨基地からピラミッドまで続く円形にえぐり取られた穴があるのを見つける。穴は一夜にして掘られたらしい。調査隊は穴からピラミッドの中に入り、そこで“生け贄の間”を発見。その真下の部屋の棺から3丁の武器らしいものを取り出すと、ピラミッドは封鎖され、一行は中に閉じこめられてしまう。そして生け贄の間ではエイリアンの卵からフェイス・ハガー(幼虫)のエイリアンが飛び出し、3人が犠牲になる。さらに多数のエイリアンがピラミッドの中にはいるらしい。そこへ宇宙船から降り立ったプレデターもやってくる。このピラミッドはプレデターがエイリアンの狩りをするために作ったものだった。

 調査隊のメンバーは次々に殺されて、あっという間にレックスだけになってしまう。有名俳優はランス・ヘンリクセンを除けば出ていないのであっさり殺されるのも仕方がない。ヘンリクセンの役は「エイリアン2」に登場したアンドロイド、ビショップの基になった人物らしく、映画の序盤にそれをイメージした場面を用意している。主演女優だけでなく、役者の弱さが映画の弱さにそのままつながっている。エイリアンとプレデターが主役には違いないが、人間側にもそれに対抗する強烈なキャラクターが必要だったのだと思う。

 パンフレットに雨宮慶太が書いているが、「プレデター2」にはプレデターの戦利品としてエイリアンの頭蓋骨が登場した。だからこういう映画の企画も分かるのだが、どうせ作るなら、もう少し面白い話で映画化してほしかったところ。エイリアン・クイーンなどのVFXは良い出来なのにもったいない。

2004/12/24(金)「ゴシカ」

 ハル・ベリー主演のホラー。ちっとも怖くないのが困ったものだ。女子刑務所の精神科医ハル・ベリーがある夜、帰宅途中に下着姿の少女に出会う。少女のそばに近づいたベリーはそこで記憶が途切れる。気づくと、自分が勤務していた刑務所の中。ベリーは夫を殺したとして逮捕されていた。いったい何が起こったのか。孤立無援のベリーはなぜかあの少女の幽霊を見るようになる。

 因縁話に少女暴行犯の話を絡めてというプロットは当世風だが、話の展開の仕方は古い。ベリーはB級映画にも出る方針らしいからいいのだが、ペネロペ・クルスはほとんど演技のしどころのない役柄で、出る意味が分からない。監督はマシュー・カソビッツ。

2004/12/23(木)「ラブ・アクチュアリー」

 クリスマスに見るにはぴったりのラブストーリー。クリスマスの5週間前からクリスマス当日を経て、その1カ月後まで、いくつかの愛が並行して描かれ、それぞれにうまい。監督は「ブリジット・ジョーンズの日記」の脚本家リチャード・カーティスで、これが監督デビューという。それにしては手慣れたものである。

 親友の恋人を好きになってしまった男の思い(これはなんせ、相手がキーラ・ナイトレイですからね。仕方ありません)とか、首相と秘書の秘めた恋とか、作家とポルトガル人メイドの恋とか、おかしくて切なくて悲しくてハッピーなさまざまなパターンが用意されている。終盤にはいくつものクライマックスがあって、お腹いっぱいという感じ。

 カーティスの音楽のセンスはよく、ジョニ・ミッチェルの歌がエマ・トンプソンの悲しみの姿にかぶさる部分などは情感がある。ヒュー・グラントは首相にはとても見えない(実際のブレアの方がハンサムだ)が、作品の傷とも言えない。ローラ・リニーが家まで送ってきた男に「1秒だけ待っていてくださる」と言った後の場面はおかしかった。このセリフは終盤、別の人物が口にする。

 多数の出演者を描き分け、たくさんのストーリーがあるのにすっきりした印象にした脚本のレベルは高い。これと出演者の好演が相乗効果を上げた佳作と言える。カーティスは「ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12ヶ月」の脚本も担当している。

2004/12/11(土)「山猫は眠らない2 狙撃手の掟」

 ルイス・ロッサのあの傑作から9年ぶりの続編。トム・ベレンジャーが50歳を過ぎた狙撃手トーマス・ベケットを演じる。バルカン半島でイスラム教徒抹殺作戦を行っている将軍の暗殺にかり出されたベケットが元エリート狙撃手で死刑囚のコール(ボキーム・ウッドバイン)とともに任務に就く。しかし、作戦の裏には別の作戦があった。

 クライマックスは廃墟での敵の狙撃手との戦いになり、悪くない設定なのだが、どうも味が薄い。IMDBで調べたら、TVムービーとのこと。監督はクレイグ・R・バクスレー。原題はSniper2。