2008/11/23(日)「言えない秘密」

 アイデアがあってもそれを作品にできる筆力がなければダメというのは小説の場合によく言われることだが、映画でもそれは同じこと。この作品にもそれがすっぽり当てはまる。SF的なアイデアを生かせていない。前半の青春ラブストーリーの部分が下手すぎるので、クライマックスに秘密が明らかになっても盛り上がらないのだ。これをSFとは言いたくない気分。ファンタジーなら許せるか。

 映画生活のレビューでは全員が星4つ以上で87点の高評価。それなら期待してしまうが、期待値を大きく下回る出来だった。Yahooのレビューを見ると、毀誉褒貶が激しく、こちらの方がバランス的には納得できた。

 淡江音楽学校に転校してきたシャンルン(ジェイ・チョウ)は、旧校舎の古いピアノで美しい旋律を奏でるシャオユー(グイ・ルンメイ)と出会う。2人は学校の帰り道に自転車で2人乗りをしながらお互いのことを語り合い、きずなを深めていく。しかしシャオユーは持病のぜんそくのせいで学校も休みがちになり……。というのが前半のストーリー。

 このだらだらした前半を見ながら、秘密の予想はつき、こういうことなのだろうと思ったら、それを否定するような描写がある。あれ、そうではなかったのかと思ったら、やっぱりそういう話だったという、ふざけるのもいいかげんにしろ的展開なのである。秘密を伏せるための都合の良い描写が目に付きすぎる。要するに物語を語る技術が足りないのだ。もう決定的に足りない。これがハリウッド映画ならば、同じアイデアであっても、もう少しましなものになっただろう。

 アイデアも目新しくはない。過去に何本も類似作品がある。しかもアイデア自体に破綻があって、なんでそういうことになるわけと思ってしまう。論理性を欠くのでSFと言いたくないのだ。となると、映画で評価できるのはヒロインのグイ・ルンメイだけということになるが、もう少し、魅力を引き出してほしいところ。次のルンメイ作品に期待したい。

 監督・主演のジェイ・チョウは台湾のカリスマ・ミュージシャンでこれが初監督作品。第44回金馬奨で最優秀台湾映画、主題歌、視覚効果賞を受賞したそうだ。台湾映画のレベルを示すというか、賞自体の本質を示す結果としか言いようがない。この程度の出来の映画に賞をやっては本人のためにもよくないだろう。

2008/11/09(日)「Xファイル:真実を求めて」

 公開2日目の日曜日にしては寂しい客の入り。それを象徴するように内容も何のために作ったのか分からない出来栄えだった。テレビシリーズが始まったのは1993年。2002年まで続いたそうだが、僕は第一シーズンのみ見ていた。1998年には映画も製作されたが、見ていない。今回は映画の前作から10年ぶり、シリーズ終了から6年ぶりの作品ということになる。

 しかし、誰もこういう形での再登場は望んでいなかったのではないか。一番の不満は事件にSF味が極めて薄いこと。描かれるのは女性の連続失踪事件で、事件が終わった後に100年以上前のクラシックSFを引用した形容がなされるけれども、表面は単なる猟奇的な事件に過ぎない。

 FBIに協力するサイキックは1人登場するが、それだけ。とても映画のスケールではなく、テレビで十分な内容なのだ。監督のクリス・カーターはテレビシリーズで製作・脚本・監督を務めた。かつてのテレビシリーズのファンのために作ったのかもしれないが、ファンもこの内容では満足しないだろう。カーター、自分のためだけに作ったのではないか。

 少し老けたジリアン・アンダーソンはジュリアン・ムーアに似ている。デヴィッド・ドゥカブニーのセックス依存症は治ったんだろうか、なんてことを考えながら見ていた。この2人も結局、映画の世界ではスターにはならなかったので、B級キャストによるB級映画の域を出ていない。もうアイデアが決定的に足りない映画なのである。