2009/12/05(土) 2009年年間本ランキング

 『オリコン2009年 年間“本”ランキングを大発表!』-ORICON STYLE エンタメより。ベストセラーの1位は予想通り村上春樹「1Q84」。BOOK1が1位で108万0340冊、BOOK2が3位で89万6061冊ということはBOOK1しか読まなかった人もいたのか。ベストテンを見て驚くのは10位までに入っている小説はこれと湊かなえ「告白」の2冊だけであること。ベスト50までを見ると、ようやく27位に天童荒太「悼む人」が出てくる。直木賞を取っても25万2860冊しか売れないのだ。小説は売れていないのだな。

 天童荒太と言えば、きょう本屋に行ったら「静人日記」があったので買った。しかし、本は買うばかりでまたもや積ん読が大幅増加傾向にある。ほかに読みかけてるのが「風が強く吹いている」「ミレニアム3」「フロム・ヘル」と3冊ある。積ん読で気になってるのがコーマック・マッカーシー「ザ・ロード」、スティーブン・ハンター「黄昏の狙撃手」、ジョルジュ・シムノン「倫敦から来た男」、フランセス・ファイフィールド「石が流す血」などなど。困ったものだ。

 新書の1位は姜尚中「悩む力」。ランキングに入った新書の中で読んでるのは2位の香山リカ「しがみつかない生き方」ぐらい。今年は新書をけっこう読んだが、僕の趣味に合う本はベストセラーにはなりにくいのか。香山リカの本はまだ読んでる途中なのだが、そんなに面白くはない。新書は薄い内容の場合が多いので、タイトルが重要なのだろう。

 文庫本の方は小説ばかりがずらりと並ぶ。小説は文庫で読む人が多いのか。1位は道尾秀介「向日葵の咲かない夏」で83万5029冊。東野圭吾とか海堂尊とか伊坂幸太郎とかベストセラー作家の本が並んでる。これまた僕が読んだ本は少なく、43位万城目学「鴨川ホルモー」ぐらい。ベストセラーを追いかけてるわけじゃないから、いいんだけど。

 それにしても翻訳ミステリは壊滅状態だ。書籍総合でも文庫本でもダン・ブラウンしか入ってない。ミステリマガジンに「翻訳ミステリ応援団!」という座談会連載があるのも分かるなあ。

2009/11/30(月)「イングロリアス・バスターズ」

 ほぼ失敗作だと思う。なぜこの程度の話に2時間32分もかかるのか理解しがたい。脚本にコンパクトさが欠け、演出がそれに輪をかけている。だからダラダラした映画にしかならない。クエンティン・タランティーノの前作「デス・プルーフ in グラインドハウス」のアクションが僕は好きだけれど、ダラダラ感はいなめなかった。感想を読み返してみると、こう書いていた。「ボロボロにしてしまったダッジはどうなるとか、余計なことを描いていないのがいい。惜しいのはこのラストのあり方を全体には適用してないことで、こうした映画なら1時間半程度で収めて欲しかったところだ。短く切り詰めれば、もっと締まった映画になっただろうし、もっとグラインドハウス映画っぽくなっていただろう」。

 その前の「キル・ビル」2作にしても撮っていたら長くなったために2作に分けることになったわけで、演出のコンパクトさをもっと考えないと、数々の映画へのオマージュだけでは惜しいと思う。タランティーノが愛するかつての映画はどれもコンパクトだったはずだ。その技術を引き継がず、表面上の描写をマネしてみても空しいだけである。タランティーノに必要なのは演出のシャープさとスマートさだ。

 冒頭、ナチに占領されたフランスの田舎でユダヤ人の少女がドイツ兵から辛くも逃げ出す場面は15分前後はあり、早くもダラダラ感を覚える。ここは導入部なのだから、シャープな監督なら5分程度にまとめるはずだ。この第1章「その昔…ナチ占領下のフランスで」に始まり、第2章「名誉なき野郎ども(イングロリアス・バスターズ)」第3章「パリにおけるドイツの宵」第4章「映画館作戦」第5章「ジャイアント・フェイスの逆襲」と続く。ユダヤ人の少女ショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)が家族を皆殺しにしたハンス・ランダ(クリストフ・ヴァルツ)への復讐とブラッド・ピット率いるイングロリアス・バスターズと呼ばれるナチ殺しに命をかけるアメリカの秘密部隊の作戦が交差していくという作り。誰が生き残り、誰が死ぬのか予断を許さない展開はタランティーノらしい。さまざまな映画からの引用もまたタランティーノ映画にはおなじみだ。

 その引用、とても僕には全部は分からなかったが、パンフレットによれば、「ナチスやアメリカの戦意高揚映画、お洒落な40年代ハリウッドのラブコメ、60年代の男臭いアメリカ製戦争映画、血みどろのマカロニ・ウエスタン」などなどが入っているそうである。「暁の7人」や「追想」に影響を受けたシーンもあるとか。しかし、それがどうした、と思う。そういう過去の映画を引用しても、面白い映画にならなければ仕方がない。キャラクターや展開の奇抜さだけでは映画はもたないのだ。ダラダラが唯一、効果を上げたのはレストランでの銃撃シーンぐらいか。ここはダラダラと銃撃のすさまじさの対比が面白かった。

 一人の女のナチスへの復讐という部分に関してはポール・バーホーベン「ブラックブック」に完璧に負けている。タランティーノ、次は完全オリジナルの映画を目指してはどうだろうか。ヒロインのメラニー・ロランは若い頃のカトリーヌ・ドヌーブを思わせて良かった。

2009/11/23(月)「曲がれ!スプーン」

 超常現象を信じなくなったかどうかを確かめるため、テレパスの椎名(辻修)が湾岸テレビ「あすなろサイキック」のAD桜井米(長澤まさみ)の手を握る。そこで椎名が見たものは、空から海に落ちる謎の火球を目撃した子供の頃から現在に至るまでの米の足跡。ことごとく自称超能力者から裏切られてきた米は子供の頃から信じてきたものなくしてしまいそうになっている。そこからのクライマックスが素晴らしい。

 喫茶店「カフェ・ド・念力」に集う7人のエスパーたちは力を合わせて米にあるものを見せる。超能力を必死に隠してきた彼らが米の心に取り戻そうとしたのは超常現象を信じさせることではもちろんない。信じる心を失わせないこと、夢見ることを失わせないことだ。そして起きるもう一つの奇跡。夜空を飛ぶ光を見上げる子供たちを次々に映すショットは脚本の上田誠、監督の本広克行の思いであり、エスパーたちの願いと重なっている。超常現象を信じることを「大人げないよね」と切り捨てそうになっていた米は信じる心を取り戻し、同時にエスパーたちの優しさを知るのだ。これはコナン・ドイルが「失われた世界」を捧げた「半分子供の大人たちと半分大人の子供たち」に贈るクリスマスイブの素敵なプレゼントだ。

 劇団ヨーロッパ企画の演劇「冬のユリゲラー」を作・演出の上田誠自身が脚本化し、本広克行が監督したとなれば、「サマータイムマシン・ブルース」の再来を期待せざるを得ない。いや、正直に言えば、僕は「サマータイムマシン・ブルース」については良くできた映画と思っただけで、それほど入れ込んではいない。でも今回は違う。前半はゲラゲラ笑わせられながらも快調とは言えない出来で、単なる良くできた舞台の映画化かと思っていたが、このクライマックスがすべてを補って余りある。予告編から予想したクライマックスはエスパーたちが力を合わせて世界の危機に立ち向かうのではないかということだったが、それは世界の危機ではなく、米の心の危機だった。これが映画のスケールをわきまえていてとてもいい。1人の人の心の危機を救うことは世界の危機を救うのに劣らない価値があるのだ。それに懸命になるエスパーたちがいい。

 上田誠の脚本は監督と話し合って14稿に及んだという。「サマータイムマシン・ブルース」と同様に最後にピタリと決まるさまざまな伏線が気持ちよい。舞台でも同じ役柄を演じた透視の中川晴樹、念力の諏訪雅をはじめ、電子機器を操作できるエレキネシスの川島潤也、テレポーテーション(実は時間を止める能力)の三宅弘城らいずれも演劇の役者たちがそろって好演。おかしくて楽しい。本広監督の過去の映画の楽屋落ちのギャグも散りばめられていて、見ている人はニヤリとするだろう。主人公は本来なら10代の女の子の方が良いのではないかと思うが、役柄がテレビ局のADなのだから長澤まさみにはピッタリだ。

 「小さい頃は今よりずっと不思議な世界への扉が近かったような気がする」というセリフに少しでも共感できる人は見逃してはいけない映画だと思う。

2009/11/15(日)「沈まぬ太陽」

 「行天、お前寂しい男になったな」。終盤、会社の階段で行天四郎(三浦友和)と対峙した恩地元(渡辺謙)が言う。国民航空の恩地と行天は労働組合の委員長、副委員長としてともに会社を良くするために闘った仲間だったが、行天は組合を辞めて会社の出世コースに乗り、恩地は仲間を裏切られずに懲罰人事で9年間の海外僻地勤務をさせられる。日本に帰った後も不遇なままだ。日本航空をモデルにした航空会社の内幕を、金と出世にあくせくする腐った幹部と、苦悩しながらも信念を曲げない主人公の対決という古くからの図式に沿って描き、十分それに成功している。これは社会派の映画と言うよりは一種のヒーローもので、だから描かれていることが事実かどうかにあまり意味はない。こういう図式の映画が僕は好きだ。

 悪役がいかにも悪役風の演技なのはどうかとか、飛行機のCGはもう少しうまくできなかったのかという些細な傷はあるし、3時間22分を飽きさせない作りかと言えば、それにも少し疑問を覚えるのだけれど、西岡琢也の脚本と若松節朗(「ホワイトアウト」)の演出には正攻法を外さない視点が貫かれている。こうした大作にありがちな空疎さは一切なく、熱気のこもった力作。公開初日の舞台挨拶で映画の撮影を思い返して号泣したという渡辺謙の人柄は何事にも真摯に真正直に正攻法に対処する恩地の人柄とそのまま重なる。渡辺謙渾身の演技であり、今年の主演男優賞は渡辺謙のものであるに違いない。

 原作は山崎豊子。西岡琢也の脚本は前半でパキスタンのカラチ、テヘラン、ナイロビと、家族と離れて転々とさせられる恩地と御巣鷹山の航空機墜落事故を交互に描き、10分間のインターミッションを挟んだ後半は国民航空の腐蝕の構造を描いていく。事故で責任を取って辞任した会長に代わって新会長に就任する関西紡績会長の国見(石坂浩二)は会社の再建のために4つに分裂した組合を統合しようとし、その過程で恩地の人柄を知って理解を示す。会社の幹部と利権に群がる政治家たちの中で恩地と国見はすがすがしい存在だ。パンフレットで石坂浩二は「沈まぬ太陽とは日本」と言い、製作の井上泰一は「企業が存続することへの願いと象徴」と言っているけれども、僕は恩地のような人間こそが沈まぬ太陽にほかならないと思う。

 事故で息子夫婦と孫を亡くした宇津井健や夫を亡くして酒に溺れる木村多江、組合活動のために支店の閑職に追いやられる香川照之、恩地を支える妻の鈴木京香、カラチ支店の支店長大杉漣ら多数の俳優たちがそれぞれに良い。惜しいのは恩地と対照的に出世に走る行天のキャラクターが十分には描かれてはいないこと。行天の背景まで含めて描けば、映画はさらに厚みを増しただろう。

2009/11/14(土) VAIO T

先月末、SONY Styleに注文したのがようやく届いた。11.1型のモバイルノート。ネットブックも考えたが、CPUがATOMでは絶対にストレスがたまる。いわゆるCULVノートを買おうと思い、各社のラインナップを比較してこれに決めた。VAIOはデスクトップを含めて4台目になる。そこそこ性能が高くて軽いのを選ぼうとすると、けっこう高くなる。ネットとメールしかしないなら、ネットブックも選択肢に入るが、YouTubeが駒落ちするようなパソコンは使いたくない。

というわけで低電圧版のCore2 Duo1.6GHz、メモリー4GB、HDD250GBの64bit版Windows 7という仕様。色はプレミアムカーボン。2年半前に買ったノートよりCPUの性能では落ちるが、メモリーが多いためか、体感速度はこちらの方が速い。まだ、プログラムをあまりインストールしていないためもあるだろう。

さっそくセットアップ。無線LANの設定でいきなり躓く。VAIOもAOSSに対応してほしいものだ。仕方がないので手動で設定。絶対になくては困るFirefoxと秀丸、Googleツールバーをインストールして落ち着いた。メールソフトはインストールせず(というかOUTLOOKは入ってるが)、Gmailを使うつもり。しばらく使わない無線WAN(NTTドコモ)の設定はまたそのうち。

出張に持って行こうと思って買ったのだが、L(大容量)バッテリーを付けると、けっこう重いな(1.5キロは切ってるようだ)。どうせACアダプターは持って行くんだからSバッテリーにしとけば良かったか。