2015/09/27(日)「ウォーリアー」

 KINENOTEで1位になったアニメ「心が叫びたがってるんだ。」を見た。小学生の頃のある出来事によって話さなくなった少女・成瀬順が主人公。順の話したことがきっかけで両親は離婚する。心にあることを何でもしゃべってしまうので、玉子の妖精に呪いをかけられた(と思っている)順は高校生になっても話さない。話すと、腹痛が起きる。先生の指名で地域ふれあい交流会の実行委員になった順がミュージカル上演を目指してクラスメートと心を通わせていく姿を描く。

 テーマは重たく、描写は軽やかなのが美点で、良くまとまった作品だと思う。ただ、なんとなく食い足りない。どこが悪いというわけではなく、減点する部分は見当たらないが、世評ほど高く評価する気になれない。強いて言えば、アニメの技術に目新しい部分がないことが少し不満なのだが、スタッフはアニメの技術に力を入れているわけではない。ここにあるのは物語をきちんと伝える過不足のない技術で、それ以上のものは目指していない。それを批判するのは筋違いというものだ。だが、それなら実写でも小説でも良かったのではないかという思いも拭いきれないのだ。

 などと考えながら、KINENOTEを見たら、公開中映画ベストテンの1位がこの映画から「ウォーリアー」に変わっていた。「ウォーリアー」という作品はまったく知らなかった。調べてみると、2011年の作品で6月に東京で単館公開され、8月にDVDとブルーレイがリリース。同時にamazonやGoogleでネット配信が始まった。9月19日から再び単館公開されており、劇場公開中作品としての資格ができたわけだ。このベストテンにDVDリリース済みの作品が入るのは珍しい。というか、初めて見た。気になったのでamazonインスタントビデオで見てみた。

 総合格闘技を舞台に一家離散した兄弟と父親の関係を描く。主演は兄を演じるジョエル・エドガートン、弟を「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディが演じる。ハーディはこの映画から注目されたそうだ。監督はギャヴィン・オコナー。

一家が離散したのは父親のアルコール依存症が原因。母親と弟は家を出る。母親の死後、弟は海兵隊に入るが、除隊して14年ぶりに父親に会いに来る。総合格闘技の大会スパルタンに出るため、父親にトレーナーを依頼するのだ。高校教師となった兄は心臓を患う娘の治療費のため銀行に多額の借金があり、家を差し押さえられそうになっている。家と妻子を守るため総合格闘技の試合で日銭を稼ぎ、知人のジムに通うようになる。そして同じくスパルタンに出場することになる。

兄は関節技を得意とし、弟はファイタータイプという設定。弟がパンチ一発で勝ち上がっていくのに対し、兄はボコボコに殴られながらも、間一髪の逆転で辛くも勝ち上がる。そしてロシアの世界チャンピオンと対戦することになる。

 ドラマもよくできているが、映画の半分ぐらいを占める試合場面がいい。兄と弟の背景を踏まえて描き、歓喜と感動が渦巻く。観客を揺さぶる感情の振幅が大きいのだ。父親役のニック・ノルティがダメ男を情けなく渋く演じており、これはもしかしたらと思ったら、案の定、2011年のアカデミー助演男優賞にノミネートされていた。

2015/09/13(日)「キングスマン」

 この映画のクライマックス、何かで見たなと思って少し考えたら、「マーズ・アタック! 」(amazonビデオ)じゃないか。軽いノリのブラックな味わいも同じだ。もちろん、全体としては007シリーズが根底にあり、それに「マイ・フェア・レディ」のプロットを借りて、いろんな過去の映画をパロディ一歩手前の感じでまぶしてある。敵役のサミュエル・L・ジャクソンのキャラと陰謀はいかにもコミック原作で、同じ原作者&監督コンビの「キック・アス」の変奏曲みたいな印象だ。「キック・アス」が好きな人はこの映画も気に入るだろう。

 凄いアクションを英国紳士風に颯爽と演じるコリン・ファースと、アスリート用の義足を武器に相手の手足をバッサリ切断するソフィア・ブテラが光ってた。こういうオリジナルな部分があるから、過去の映画をいくら引用してもパクリにはならず、面白い映画に仕上がるのだろう。

2015/08/14(金)「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」

 シリーズ第5作。そして今回が最も面白い。冒頭、離陸する飛行機のドアにぶら下がるトム・クルーズなど数々のアクションにも見応えがあるが、それ以上にスパイ映画の本道に立ち返ったストーリーがいい。国際犯罪組織シンジケートの謎の女イルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)の役柄は「北北西に進路を取れ」のエヴァ・マリー・セイントを思わせるほど魅力的だ。クライマックス、イルサがイーサン・ハント(トム・クルーズ)に迫る3つの選択肢にはしびれた。スパイ映画、サスペンス映画に冴えを見せるクリストファー・マッカリー監督の起用は大成功だったと言うべきだろう。アクションを羅列しただけのよくある凡作とは異なり、ドラマとアクションを高いレベルで組み合わせた傑作エンタテインメントだ。

 今回の敵シンジケートは各国諜報機関のエージェントを集めたテロ集団。イーサン・ハントはベンジー(サイモン・ペッグ)とともにシンジケートのボス、レーン(ショーン・ハリス)を追い詰めたところで逆に捕まってしまう。しかし、組織の女イルサはなぜかハントを助けた。イルサは英国諜報部MI6がシンジケートに潜入させたエージェントだった。エージェントの非情な宿命を背負ったイルサの役柄もさることながら、アクションができ、情感を込めた演技も見せるレベッカ・ファーガソンはこの映画の成功の大きな部分を占めている。ハントとイルサの関係が淡すぎず、濃すぎない大人の関係なのもいい。

 中国資本のアリババ集団が制作参加しているためか、オーストリア首相が狙われる劇場で上演されているのは中国が舞台のオペラ「トゥーランドット」。しかし、マッカリ-、転んでもただでは起きない。イルサが迫る3つの選択肢はトゥーランドット姫が出す3つの謎かけにかけたものなのだろう。序盤のイーサンが捕まる場面の仕掛けを終盤に逆のパターンで繰り返すなどドラマトゥルギーをきっちり守ったマッカリ-の脚本はヒッチコックなど過去のサスペンス映画を引用して映画ファンに目配せしながら細部に凝っている(ウィーンが舞台となる場面では「第三の男」を思わせるシーンがあった)。自分の監督作だけにいつも以上に脚本に力が入ったのではないか。

 公式サイトにあるメイキング映像を見ると、飛行機にぶら下がるシーンはワイヤーを付けたクルーズが本当にやっている。ジャッキー・チェンと比較している人がいて、いやそこまではと思ったのだが、クルーズは既に53歳。アクションのレベルが違うとはいっても、クルーズが相当に頑張っていることは間違いない。ユーモアを絡めた場面も得意なのはジャッキーに共通する。そのユーモアはサイモン・ペッグとCIAのアレック・ボールドウィンが担っていて、どちらも好演だ。

 マッカリ-は「ユージュアル・サスペクツ」でアカデミー脚本賞を受賞した後、「ワルキューレ」「アウトロー」(兼監督)「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」でクルーズと組んでおり、クルーズの信頼が厚いのだろう。シリーズの次作を作るなら、再登板を熱望する。

2015/07/25(土)「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」

 「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」のラストに登場した双子の姉弟(エリザベス・オルセン、アーロン・テイラー・ジョンソン)が出てきてアベンジャーズに敵対する。この姉弟(スカーレット・ウィッチとクイックシルバー)はトニー・スタークの会社が作ったミサイルで家族を殺され、スタークに恨みを持っている。高速移動と精神を操る能力を持つ2人が加わると、「X-メン」になんだか似てくるなあと思ったら、その通り、X-メンのメンバーなのだった。この映画ではヒドラによって改造された超能力者だが、X-メンではミュータント。今回の敵ウルトロンがロボットというのも「フューチャー&パスト」のセンチネルに似ている。ただ、どうもロボットが敵だと個人的には盛り上がらない。どうしてもドラマに乏しくなるのだ。

 もっとドラマが欲しいと思う。ブラックウィドウことナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)とハルク(マーク・ラファロ)のロマンスはいいのだけれど、これを前面に押し出すわけにはいかない話なのがつらい。ハルクは今回も大暴れで、マーベルのヒーローの中では最強なんじゃないかと思えてくる。

2015/07/19(日)「ターミネーター 新起動/ジェニシス」

 カール・リース役のジェイ・コートニーに主役を張るだけの力量がない。サラ・コナー役のエミリア・クラークも魅力を発揮しているとは言いがたい。主演の2人に関して言えば、1984年の第1作、マイケル・ビーンとリンダ・ハミルトンに負けている。その上、発想は良かったものの、物語の展開が面白くない。筋を追うのが精いっぱいでエモーションにも欠ける。第1作どころか、2作目にも3作目にも4作目にも負けっ放しなのだ。つまりシリーズ最低の出来である。SF感覚に欠けた脚本(パトリック・ルシエ、レータ・カログリデス)と監督のアラン・テイラーの凡庸な手腕が原因なのだろう。シュワルツェネッガーを再起用してせっかく新起動したのに、このままシャットダウンする可能性が大きい。

 2029年、スカイネットの中枢を破壊したジョン・コナー率いる人類抵抗軍がその直前にターミネーターを1984年に送られたことを知り、サラを守るためカイルに後を追わせる。第1作の描写をなぞって、全裸のターミネーター(T-800)が84年のロサンゼルスに出現し、服を奪おうとしたところで、背後から「お前に着るものは必要ない」と声がして年齢を重ねたターミネーターが登場。新旧というか、老若のターミネーター同士の戦いとなる。面白かったのはここまでだった。いや、実を言えば、その前のシーン、スカイネット中枢の襲撃シーンが間延びしていて嫌な予感はしたのだった。

 カイルは転送装置の中で、ジョン・コナーが襲われるのを見る。どうやら過去に何かが起きて未来が書き換わったらしい。スカイネットが核兵器で30億人を抹殺したジャッジメント・デイは1997年のはずだったが、それが2017年に延びたようだ。サラ・コナーとカイルはスカイネットを阻止するため2017年に向かうことになる。

 時間テーマSFに多元宇宙の概念は付きものだが、処理を誤ると収拾が付かなくなる。第1作にも言えることだが、ターミネーターが84年のロスでサラ・コナー殺害に成功していたら、現在は瞬時に書き換わり、カイルが後を追う展開にはならない。第1作でこれが気にならなかったのはそういう細部に気づく前に描写がとことんうまかったからだ。傷だらけになりながら、ひたすらサラを守るカイル。必死の逃走を続ける2人がうらぶれたモーテルで体を合わせる場面でカイルは「会うずっと前から好きだった」と打ち明ける。ロボット軍団に殲滅させられそうな絶望的な未来社会で、古ぼけた写真に映ったサラの姿はカイルにとって唯一の希望だったのだ。それが今回はT-800から「早く合体しろ」と言われる始末。ロマンティシズムも何もあったものじゃない。

 予告編でイ・ビョンホン演じるT-1000は「T2」のロバート・パトリックと同様の雰囲気を見せて悪くなかったが、本編で出てくるのは84年の場面だけ。2017年に出てくるT-3000は型番は上がってもT-1000よりパワーアップしているとは思えなかった。