2021/03/14(日)ようやく見た「極私的エロス・恋歌1974」

 Huluで原一男監督のドキュメンタリー4本の配信が始まった。「さよならCP」「極私的エロス・恋歌1974」「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」の4本で、このほかに「ニッポン国VS泉南石綿村」も以前からある。このうち、僕は「ゆきゆきて、神軍」しか見ていない。以前から見たかった「極私的エロス・恋歌1974」をようやく見た。強烈で、しかも感動的な映画だった。



 公開当時、映画雑誌の「ロードショー」で短い紹介記事を読み、印象に残ったが、地方では公開されず、その後も触れる機会がなかった。2015年に再DVD化されているので見ようと思えば、見られる作品だが、僕はこの10年ほどDVDレンタルから遠ざかっていた。

 amazonの内容紹介を引用すると、以下のようになる。
監督自らが、かつて一緒に暮らし、子供を産んだ女を、そして今自らが共に暮らしている女を執拗にカメラで追いつづけ、「極私」の極致へと到達したこの映画は、未踏のドキュメンタリーとして歴史にその名を刻んだ。
原一男監督が「一世一代のミス」と後悔した、衝撃の出産シーンは必見!
 普通の男が出産シーンを見られるのは自分の奥さんのものぐらいだろう。僕は見たくなかったので遠慮した。だからこの映画で初めて見たのだが、生命が生まれる瞬間というのは感動的なものだと思った。昨年公開された「娘は戦場で生まれた」にあった、帝王切開で仮死状態で生まれた赤ん坊が息を吹き返すシーンと同じ感動を味わった。

 しかもただの出産シーンではない。場所はアパートの一室。助産師さんはいない。この女性(かつて原監督の恋人だった武田美由紀)は誰の助けもなく、1人で出産するのだ。部屋には原監督がいてカメラを回しているし、製作の小林佐智子がマイクを向けているのだが、どちらも手助けはしない。武田美由紀にとっては2人目の子どもなので慣れてはいるが、それまでの言動を見てもたくましい女性なのである。

 内容紹介に「一世一代のミス」とあるのは出産シーンの一部がピンボケになっているため。わざとそうしたわけではないらしい。1974年度のキネマ旬報ベストテン11位。

2021/03/09(火)終わらせるための戦いを描く「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」

 物語はシンプルに3つのパートに分かれる。サードインパクトで赤く汚染されたパリ旧市街地を復元させるための戦い、主人公・碇シンジたちの「第三村」での穏やかな生活、そして人類補完計画を実行しようとするネルフとそれを阻止するためのヴィレの戦い。例によって意味が分からない単語・用語が大量に出てくるが、そうしたものを取っ払って乱暴にプロットまとめるなら、これはマッド・サイエンティストである父親・碇ゲンドウと息子シンジの確執に集約されていく。
入場者プレゼントのアスカの画像
入場者プレゼントのアスカの画像
 マッド・サイエンティストの暴走は世間に隠れてこそこそやるのが普通だが、エヴァにおいては巨大な組織が堂々と行うことになった。どう考えても人類に破滅しかもたらさない人類補完計画を終わらせるための葛城ミサトやシンジたちの戦いは物語を終わらせるための総監督・庵野秀明の戦いでもあっただろう。テレビシリーズから25年かけてエヴァはようやく最後に「つづく」ではなく、本当の「終劇」を打つことができた(旧劇場版にも「終劇」は打たれていた)。併走してきたファンにとってもそれは感慨深いものであるはずだ。

 前作「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」(2012年)が不評だったのは、神以上の力を得たエヴァ初号機を現出させた「破」の直接的な続きになっていなかったことと、「序破Q」で終わるはずが終わらなかったからだ。終わると思っていた観客は裏切られた思いを持たざるを得なかった。1995年から翌年にかけてのテレビシリーズは物語の決着を放棄した終わり方をした。劇場版2作も満足な終わり方ではなかった(途中までは良かったのに最後で観念的になった)。新劇場版3部作で今度こそ終わるかと思ったら、またしても終わらなかったのだ。

 同時に「Q」でそれまでの世界観が反転したことも唐突だった。舞台設定は「破」から14年後の世界。ミサトが率いるヴィレはネルフを壊滅するための組織であり、ネルフは悪役に堕ちていた。

 ただし、「シン・エヴァ」を見た後に全体を眺めれば、物語は新劇場版3部作と「シン・エヴァ」の4作で構成され、観客が思っていた「序破急」ではなく「起承転結」の構成だったことが分かる。「転」に当たるとすれば、「Q」で物語が反転・転換したことも許容できる。もちろん、これは後付けの考え方で、庵野秀明は当初、「Q」で終わらせることを意図していたはずだ。それにしては見事に「Q」の最後から話をつないで完結させたなと思う。傑作「シン・ゴジラ」を挟んで9年間かけただけのことはあった。

 「シン・エヴァ」がある意味分かりやすいのは物語の方向性にブレがないからだ。「Q」で悪役を規定したわけだから、悪の陰謀を止める戦いに単純化できる。そして終わらせることを目標に物語が組み立てられている。「Q」でフォースインパクトを起こしそうになったシンジは例によってウジウジして拗ねているが、父の暴走を止めるためにエヴァに乗ることになる。エヴァの物語は父と息子が和解するか、対決しないと終わらない話なのだ。

 ラスト、成長した2人のキャラの姿を見てほっとした気分になった。登場人物たちのそれぞれにつらく苦しい十代を終わらせることも、この完結編の目的ではあったのだろう。

2021/03/08(月)「午前十時の映画祭11」上映作品ランキング

 4月2日から始まる「午前十時の映画祭11」で上映される27作品の評価ランキングを作ってみた。KINENOTE、Yahoo!映画、Filmarksのレビューの点数を平均して順位を付けたもの。KINENOTEは100点満点での評価なので5点満点の他サイトと合わせるため20分の1にして平均した。
「午前十時の映画祭11」上映作品評価ランキング
「午前十時の映画祭11」上映作品評価ランキング(画像)


 順位は次の通り。
(1)赤ひげ(1965年)
(2)ターミネーター2(1991年)
(3)天使にラブ・ソングを…(1992年)
(4)スタンド・バイ・ミー(1986年)
(4)アンタッチャブル(1987年)
(6)座頭市物語 4Kデジタル修復版(1962年)
(7)隠し砦の三悪人 4Kデジタルリマスター版(1958年)
(8)ターミネーター(1984年)
(9)ユージュアル・サスペクツ(1995年)
(9)ファイト・クラブ(1999年)
(11)シャイニング 北米公開版(1980年)
(12)グラディエーター(2000年)
(13)2001年宇宙の旅(1968年)
(14)ザ・ロック(1996年)
(15)ノッティングヒルの恋人(1999年)
(16)グッドフェローズ(1990年)
(17)ナイトメアー・ビフォア・クリスマス(1993年)
(18)シカゴ(2002年)
(19)未来世紀ブラジル(1985年)
(20)真昼の決闘(1952年)
(21)ファーゴ(1996年)
(22)マディソン郡の橋(1995年)
(23)ロミオ+ジュリエット(1996年)
(24)イージー・ライダー(1969年)
(25)モスラ 4Kデジタルリマスター版(1961年)
(26)ティファニーで朝食を(1961年)
(27)イングリッシュ・ペイシェント(1996年)
 1位の黒澤明監督の「赤ひげ」は山本周五郎の原作を映画化した3時間5分の大作。僕は「羅生門」のラストの取って付けたようなヒューマニズムが嫌いだったが、この作品は黒澤監督のヒューマニズムが最も良い形で出た傑作だと思う。1965年度のキネマ旬報ベストテンでも1位を獲得した。

 2位の「ターミネーター2」は1991年キネ旬ベストテン8位。公開当時、「VFXはすごいが、映画のまとまりは1作目の方が上」と思った。殺人を禁じられたターミネーター、T-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)の魅力は1作目に比べて半減してると思ったんですけどね。今の観客の目から見れば、VFXのレベルの違いがそのまま作品の面白さの違いになるのかもしれない。

 上の表のPDFは以下にあります。
「午前十時の映画祭11」上映作品ランキング(PDF)


2021/03/06(土)雑すぎる「太陽は動かない」

 WOWOWが放送したドラマ版全6話のうち第1話だけ見た後に映画を見た。映画版しか見ない観客の方が多いだろうから、ドラマを見ていないと分からないような作りにはしないだろう(ドラマの方はオリジナルストーリーだそうだ)。ブルガリアでのカーチェイスを交えた冒頭のアクションにはとても見応えがあり、期待を持たせたが、その後の展開が雑すぎた。場面だけを取り上げれば悪くはないのに、なぜこんなに話のつなぎ方が雑になるのか。ドラマ6話と映画1本を作っていくうちに、作り手も飽きてきたんじゃないかと邪推したくなる。

 吉田修一原作のAN通信シリーズ三部作「太陽は動かない」「森は知っている」「ウォーターゲーム」のうち、前2作を元に映画化。ブルガリアで敵対する組織に拉致されたAN通信のエージェント山下(市原隼人)の救出作戦を描く冒頭のアクションはブルガリアの大通りで派手なカーチェイスが行われ、スピード感があって良い場面だ。主人公・鷹野一彦(藤原竜也)と相棒の田岡亮一(竹内涼真)の奮闘にもかかわらず、山下は爆死する。AN通信のエージェントの心臓には爆弾が埋め込まれ、24時間ごとに本部に連絡しないと爆発してしまうのだ。これは原作にある設定なのだろうが、まるでリアリティーがない。敵につかまったら、一巻の終わり、何でもベラベラ話してしまいそうだ。こういう酷薄な仕打ちをする組織は徹底的にビジネスライクで冷たい人間が運営しないと整合性がない。ところが上司の風間武(佐藤浩市)はそれとは正反対のキャラなのである。

 冒頭に続いて、何の説明もなく、どこかの島の高校生たちの話になるので戸惑うが、これは鷹野の高校時代の話らしい。分かりやすくするためには年代を示す字幕を出した方が良かっただろう。原作の「森は知っている」がこの高校時代の話で、「太陽は動かない」は次世代太陽光発電を巡る機密情報の争奪戦の話。いくら次世代といっても、今さら太陽光発電かと陳腐に感じてしまう。天候によって発電量が一定しない太陽光発電は増えすぎると、電力会社には迷惑で九州ではもう増やさない方針のようだ。映画で描かれるのは宇宙空間に置いたパネルで発電し、それをマイクロ波で地球に送電、蓄えるという方式。ブルガリアの大学教授・小田部(勝野洋)はその発電方式を研究し、画期的な成果を得る。それを中国の巨大エネルギー企業CNOXが狙い、フリーの韓国人エージェント、デイビッド・キム(ピョン・ヨハン)、謎の女AYAKO(ハン・ヒョジュ)らが入り乱れて争奪戦となる。

 AN通信は表向きは小さなニュース配信会社を装うが、「国や企業などあらゆる組織の機密情報を入手し、売買する組織」。たかが産業スパイに007並みの派手なアクションをさせることには無理がある。いくらエンタメでもその設定にリアリティーを持たせることは必要だろう。絵空事が絵空事で終わっていて、これでは観客の心はちっとも動かない。

2021/03/03(水)映画観賞作品リストを作る

 2012年1月から、見た映画をKINENOTEに記録している。年間のベストテンを選ぶ際にはこの記録のTSVファイルをエクスポートして参照しているが、残念なのは劇場公開映画しか記録できないことだ。Netflixのオリジナル映画などは記録できない。Filmarksはどうかというと、Netflixには対応しているが、データのエクスポート機能がなく、そもそも個人の記録保存には向かない作りになっている。パソコンとスマホで同時ログインができないなどKINENOTEは100点満点ではないが、使い続けているのは記録に適した作りになっているからだ。
2月の映画観賞作品リスト

 しかし、劇場公開映画しか記録できないとなると、だんだん未公開映画やNetflixオリジナル映画を見なくなってくる。つまり記録できる映画しか見なくなる、あるいは記録できない映画の優先度が低くなるのだ。これは本末転倒なことなので、なんでも記録できる観賞作品リストを自分で作ることにした。最低限必要な記録項目は映画のタイトル、観賞日時、観賞方法、評価だろう。あとは必要に応じて観賞費用とコメント入力欄があればいいか。Excelで作ってみると、これで十分な感じ。Excelがない場合はGoogleスプレッドシートでもいい。

 表計算ソフトで作るメリットは日付や評価点数でソートできることだ。僕は月ごとに記入シートを分けて記録しているが、1年分のリストをつないで評価点数でソートすれば、簡単に年間ベストテンを選ぶことができる。年間の観賞本数が100本程度までなら1枚のシートに記録した方が一覧性があって良いかもしれない。

 で、2月分を記録した。見た映画は24本。内訳は日本映画18本、外国映画6本。観賞方法は映画館6本、WOWOW9本、amazonプライムビデオ5本、Netflix2本。日本映画専門チャンネルと購入DVD各1本。観賞費用は8,180円。このほかHulu、Netflix、amazonプライムビデオ、ディズニープラス、日本映画専門チャンネルの月額料金を合わせて4,895円(WOWOWの料金は月額2,530円だが、12月から3月までは株主優待で無料)。合計13,075円だった。普段の月は映画館で見る映画は週2本ペースなので、WOWOWの料金を加えても2万円ぐらい。趣味の費用としてはまずまずか。

 Huluでは1本も映画を見ていないが、利用していないわけではなく、ドラマやバラエティーなどは見ている。古い日本映画やサタデー・ナイト・ライブが見られるのはHuluのメリットだ。まあ、それでも映画ファンとして利用の優先度は低くなるなあ。