2023/01/29(日)「イニシェリン島の精霊」ほか(1月第4週のレビュー)

 「イニシェリン島の精霊」はアカデミー賞8部門で9ノミネート(助演男優賞に2人が候補となったため)の作品。ユーモア描写もある序盤はまずまずの出来で評判ほどではないかなと思いましたが、中盤からの展開がものすごく、終盤まで息をつかせない仕上がり。描写は具体的でありながら、すべてに説明をつけないところがいかにも「精霊」が出てくる話で、こういう寓意に満ちた物語は書けそうでなかなか書けるものではないでしょう。

 要約すれば、親友だった2人の男が一夜にして断絶し、争いがエスカレートしていく物語。1923年、アイルランドの沖合にあるイニシェリン島が舞台。島に暮らすパードリック(コリン・ファレル)は毎日午後2時から島の唯一のパブで、音楽家の友人コルム(ブレンダン・グリーソン)と酒を酌み交わすのが日課だった。ある日、いつものように飲みの誘いに行ったパードリックはコルムから突然、絶縁される。理由は分からない。パードリックはなんとか修復を図ろうとするが、コルムは「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と宣言する。

 指を切断するというと、ロアルド・ダール「南から来た男」を思い出しますが、自分からそんなことをするのは異常としか言いようがありません。コルムは絶縁の理由について、残された人生を作曲と思索にあて、パードリックのつまらない話に付き合いたくないから、と話します。しかしなぜ突然そんな心変わりをしたのか説明はありません。パードリックがこの理由に納得しないのは当然でしょう。

 2人の争いは海を隔てたアイルランドの内戦と直接の関係はありませんが、この内戦を含むすべての戦争と争いのメタファーであることは明らかでしょう。拒絶されたパードリックがコルムに固執する姿はストーカー行為さえ想起させます。

 ただ、そうした諸々の意味付けよりも物語自体の持つ力に引き込まれました。精霊(バンシー)と思われる老婆マコーミック(シーラ・フリットン)は島に2つの死が訪れることを予言します。パードリックの妹シボーン(ケリー・コンドン)は狭い人間関係に嫌気がさして島を出て行きます。やや知的障害があるらしいドミニク(バリー・コーガン)の振る舞いまで含めて、この映画には物語を膨らませる要素が備わっています。

 脚本・監督のマーティン・マクドナーは物語の構築において、前作「スリー・ビルボード」(2017年)より格段に腕を上げていると思いました。物語の意味を押しつけない間口の広さも魅力になっています。コリン・ファレルら主要4人はそれぞれに説得力のある演技を見せ、アカデミー主演・助演賞の候補になりました。

 20世紀スタジオ傘下のサーチライト・ピクチャーズ作品なので、ディズニープラスの「45日ルール」に従えば、アカデミー賞授賞式(日本時間3月13日)の頃に配信開始となるはず。映画興行でのアカデミー賞効果を期待するなら、配信は先延ばしになるかもしれません。1時間49分。
IMDb7.8、メタスコア87点、ロッテントマト97%。
▼観客17人(公開初日の午前)

「ドリーム・ホース」

 ウェールズの谷あいにある村の住民たちが競走馬を育てる組合を作り、育てた馬ドリームアライアンス(夢の同盟)がレースで活躍した実話を基にした物語。まとめ方は悪くありませんが、トントン拍子で話が進み、平板な作りになってます。なんでここをもっと描き込まないのか、ドラマを盛り上げないのかと思う場面が散見されました。

 監督のユーロス・ミラーは「ドクター・フー」などテレビで活動してきた人で劇場用映画はこれが2作目のようです。脚本のニール・マッケイも同様のキャリア。テレビ慣れしてしまってるから、こういうあっさりした作りなんだなと妙に納得してしまいます。

 ディック・フランシスの競馬シリーズを愛読していたので障害競馬のレースを何度も見られたのは良かったです。組合作りを進めた主役の主婦を演じるのはトニ・コレット。1時間54分。
IMDb6.9、メタスコア68点、ロッテントマト88%。
▼観客20人(公開2日目の午後)

「BAD CITY」

 小沢仁志の「還暦記念作品」と銘打っても、客は呼べない気がします。これはむしろ、「ベイビーわるきゅーれ」(2021年)のアクション監督・園村健介の監督作品として売った方が少なくともアクション映画ファンの注目は集めるでしょう。そのラインで見ると、十分面白い映画に仕上がっています。いやもちろん、脚本・製作総指揮と主演を兼ねた小沢仁志も頑張っていて、シリーズ化してもおかしくない映画だと思いました。

 架空の開港市を舞台にヤクザと特捜班が繰り広げるアクション。格闘アクションに見応えがあって、香港映画を思わせる場面もいくつか。小沢仁志と特捜班でチームを組む三元雅芸、勝矢、坂ノ上茜はいずれも好演。敵の凄腕の男を演じるTAK∴(坂口拓)も良いです。脚本に新味がないのが惜しいところで、誰かアクションに理解のある脚本家の協力を仰いだ方が良かったと思います。

 坂ノ上茜は新体操とバトントワリングの経験があり、身体能力が高いそうです。アクション志望の女優はけっこう多いですね。主演作の「ぬけろ、メビウス」が2月3日に公開されます。1時間57分。
▼観客3人(公開6日目の午後)

「無垢の瞳」

 アカデミー短編実写映画賞候補。ディズニープラスの説明を引用すると、「戦時中のカトリック系女子校を舞台にクリスマスケーキを巡って描かれる、無邪気さと欲望と幻想の物語」。

 イタリア人作家エルサ・モランテが友人ゴッフレード・フォフィに送ったクリスマスの手紙から着想を得ているそうです。「幸福なラザロ」「夏をゆく人々」のアリーチェ・ロルヴァケル監督作品ですが、短編として特に褒めるべき点は見当たりません。38分。IMDb7.0。

「エレファント・ウィスパラー 聖なる像との絆」

 アカデミー短編ドキュメンタリー賞候補。Netflixによると、「南インドで野生の象の保護に人生をささげる夫婦、ボムマンとベリー。親を亡くした子象ラグとその親代わりとなった2人が築いた、唯一無二の家族のきずなを映し出す」。

 この夫婦は南インドで保護された野生の子ゾウの飼育に初めて成功したそうです。見ていて気になるのはゾウがどのぐらいの知性を持っているかということで、「そこに寝なさい」と指さすと、言われた通りに寝転ぶシーンがあります。ゾウの脳は5キロ以上あってかなり賢い動物とのこと。カルティキ・ゴンサルヴェス監督。40分。
IMDb7.5、ロッテントマト(ユーザー)86%。

2023/01/22(日)「光復」ほか(1月第3週のレビュー)

 「光復」は深川栄洋監督が新しい自主映画の取り組み「return to mYselF」として製作した作品。「42-50 火光(かぎろい)」が「sideA」で、これが「sideB」としています。

 生活保護を受けながら認知症の母親の介護をする大島圭子(宮澤美保)、42歳が主人公。圭子は脳梗塞で倒れた父親の介護のため、28歳の時に東京から長野に帰ってきた。父親は死んだが、今度は母親の介護をすることになる。手づかみでガツガツと食事する母親とは意思疎通ができない。ある日、圭子は高校時代に付き合っていた賢治(永栄正顕)と再会する。

 パンフレットには「『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)に臨むような覚悟をもっての鑑賞をお勧めする」という昨年10月下旬号のキネ旬の特集記事からの引用がありますが、ヒロインが不幸と不運と悪意の総攻撃を、絶え間ない連続攻撃を受けて肉体的にも精神的にも完膚なきまでに破壊される中盤で、僕もあの悲惨な映画を想起しました。ここまで理不尽な目に遭うヒロインは珍しく、やり過ぎじゃないか、と思えるほどです。

 もっと驚くのはラスト近い場面。極めて唐突で唖然とするようなこの描写があるからR-18になったのではないかと思うほどの衝撃があります。しかも、終盤に感じたいくつかの疑問がこの描写で氷解するという優れた効果を上げています。

 深川監督は世間の単純な善意なんて微塵も信じていないですね。ネタバレで話したくなること請け合いの、裏の意味が込められた描写であり、僕は絶賛はしませんが、結果的に面白い映画になっていると思いました。ここが、ただただ悲惨でヒロインが救われなかった「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とは違うところでしょう。

 商業映画にはできない物語、自主映画だからできた展開と思いますが、この映画全体が好評であるなら、商業映画で作ったって別にかまわないわけです。製作委員会方式が主流の今の日本映画では準備段階で反対が出る可能性はありますけどね。

 宮澤美保は深川監督の奥さん。「櫻の園」(1990年、中原俊監督)に出演後、映画やドラマなどさまざまな作品に出ているそうですが、今回初めて顔と名前が一致しました。製作費は一部をクラウドファンディングで賄ったとのこと。3作目の予定もあるそうです。2時間9分。
▼観客6人(公開初日の午後)

「そして僕は途方に暮れる」

 「何者」「娼年」の三浦大輔作・演出で、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔主演の同名舞台を同じコンビで映画化。

 フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は5年間同棲している恋人・里美(前田敦子)に浮気がばれ、問い詰められたことから家を飛び出す。幼なじみで親友の伸二(中尾明慶)のアパートに転がり込むが、自堕落な態度に愛想を尽かされ、大学の先輩でバイト仲間の田村(毎熊克哉)ともささいなことから喧嘩して飛び出す。大学の後輩で映画の助監督をしている加藤(野村周平)には泊めてくれとは言い出せず、東京で暮らす姉・香(香里奈)にも責められて、母・智子(原田美枝子)が1人で暮らす苫小牧の実家へ帰る。リウマチでも懸命に働く母親の元でしばらくいようと考えたが、母が新興宗教に嵌まっていることを知って出ていく。途方に暮れた裕一は、家族から逃げて行った父・浩二(豊川悦司)と偶然再会する。

 フランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」(1946年)とヒッチコック「逃走迷路」(1942年)を上映している映画館の前で「ハッピーエンドの映画なんてくだらない」と父親が言う場面があるぐらいですから、この映画もハッピーエンドに向かいそうでそうはなりません。前半は面白かったんですが、終盤がどうも今一つの出来。ひねり方がうまいとは言えません。

 最近、ダメ親父を演じることが多い豊川悦司はダメっぷりが板に付いてきてうまいです。藤ヶ谷太輔の申し分のないクズ演技を見ているので豊川悦司の登場はこの子供にしてこの親あり、という感じ。言うことにもそれなりの説得力があるのが凄いところです。

 三浦大輔の作品では、監督は違いますが、クズの男女しか出てこない「恋の渦」(2013年、大根仁監督)に感心しました。そういう男女を描くのが三浦大輔、うまいです。前田敦子の役柄もやっぱりそうかというぐらいのクズキャラでした。2時間2分。
▼観客6人(公開7日目の午後)

「ノースマン 導かれし復讐者」

 シェイクスピア「ハムレット」に影響を与えたヴァイキング伝説をベースにした復讐譚。

 9世紀、スカンジナビア地域の島国で、10歳の王子アムレート(オスカー・ノヴァク)と旅から帰還した父オーヴァンディル王(イーサン・ホーク)は宮廷の道化ヘイミル(ウィレム・デフォー)の立ち会いのもと、成人の儀式を執り行う。儀式の直後、叔父フィヨルニル(クレス・バング)がオーヴァンディルを殺害し、母グートルン王妃(ニコール・キッドマン)を連れ去る。アムレートはボートに乗り島を脱出。復讐と母の奪還を誓う。数年後、ヴァイキング戦士の一員となっていたアムレート(アレクサンダー・スカルスガルド)はスラブ族の預言者(ビョーク)と出会い、フィヨルニルがアイスランドで農場を営んでいることを知る。奴隷船に乗り込み、親しくなったオルガ(アニャ・テイラー=ジョイ)の助けで叔父の農場に潜入する。

 「アムレート」はWikipediaに項目があるぐらい有名なようですが、話は随分違います。脚本・監督のロバート・エガースは神話的要素を取り入れ、暴力描写を強調して映画を構成しています。ただ、物語の膨らみと映画のスケールがいま一歩。スペクタクル面でも物足りません。

 シェイクスピアを好きだった黒澤明監督なら、アニャ・テイラー=ジョイのほかにもう一人、主人公を助けるキャラを用意したんじゃないかと思います。2時間17分。
IMDb7.1、メタスコア82点、ロッテントマト89%。
▼観客7人(公開初日の午前)

「JUNG_E ジョンイ」

 20日から配信しているNetflixのSFアクション。監督は「新感染 ファイナル・エクスプレス」「地獄が呼んでいる」(Netflixのドラマ)のヨン・サンホです。

 急激な気候変動で人類は地球と月の軌道面の間に80個のシェルターを作って移住。シェルターの一部が「アドリアン自治国」と名乗り、地球と他のシェルターを攻撃するという「ガンダム」を思わせる設定。40年以上も続く戦争を終わらせるため、AI研究所の研究員(カン・スヨン)が自分の母親である伝説的な傭兵ユン・ジョンイ(キム・ヒョンジュ)の脳データを複製し、戦闘指揮AIを作ろうとする。

 アメリカでは芳しくない評価ですが、日本のYahoo!映画では3.8、Filmarksは3.3となってます。冒頭のCGがチャチなんですが、その後はそれほど悪くない展開だと思いました。クライマックスは「アイ,ロボット」(2004年、アレックス・プロヤス監督)の影響が濃厚。もう少しSF的な展開があると良かったんですけどね。

 昨年5月に脳出血で急死したカン・スヨンの遺作になりました。1時間38分。
IMDb5.4、メタスコア53点、ロッテントマト60%。

2023/01/15(日)「映画 イチケイのカラス」ほか(1月第2週のレビュー)

「映画 イチケイのカラス」は2022年4月期に放送されたドラマ(全11話)の劇場版。ドラマのラストで主人公の型破りな裁判官・入間みちお(竹野内豊)は東京地裁第3支部第1刑事部(通称イチケイ)から熊本に異動になりました。映画はその2年後の設定で、みちおは岡山県秋名市に異動してきます。

 隣の日尾美町には2年前までイチケイでみちおと働いた裁判官の坂間千鶴(黒木華)が他職経験制度で弁護士として勤務しているほか、検事の井出伊織(山崎育三郎)も岡山に異動してきました。井出は裁判所事務官の一ノ瀬糸子(水谷果穂)と結婚しています。異動と交際ゼロ日婚の経緯はスピンオフの短編ドラマ「イチケイのカラス 井出伊織、愛の記録」(全5話)で描かれました。

 ドラマの方は楽しく見ていたんですが、映画は脚本に難があります。今回はイージス艦と貨物船の衝突・沈没事故とそれに絡む傷害事件を併合審理することになり、入間みちおがいつものように職権を発動して裁判所主導での捜査を開始。政府の妨害が入って、みちおは裁判長を解任されますが、事件の背後に日尾美町の住民7割が恩恵を受けている工場の存在があることが分かってきます。その頃、千鶴は人権派弁護士の月本(斎藤工)とともに、この工場の環境汚染を調べていました。

 劇場版というと、無駄にスケールを大きくしがちですが、その陥穽にすっぽり嵌まってしまっています。イージス艦と貨物船の衝突シーンは描かれず、沈没する貨物船のシーンは出来の悪いミニチュア撮影。しかし、それよりも工場の環境汚染と一部住民の関係がメインになっていることが時代錯誤的に思えます。昨年、米デュポン社の環境汚染を描いた映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」が公開されましたが、あれはテフロン加工の原料物質の環境・人体への深刻な影響を告発する経緯を描いた作品で、この映画のように規制物質を排出・隠蔽する無責任な工場を描いたわけではありません。

 千鶴と月本の淡いロマンスも通り一遍の描き方なのが残念。これは今回のメインにした方が良いエピソードで、黒木華の演技のうまさをもっと生かす構成にすべきだったでしょう。ひいきの西野七瀬の見せ場がないのも残念。ドラマのファンとしても残念すぎる出来の1時間59分でした。監督はテレビシリーズの演出も務めた「コンフィデンスマンJP」シリーズの田中亮。
▼観客50人ぐらい?(公開日の午前)

 14日に放送された「イチケイのカラス スペシャル」も見ましたが、やっぱり脚本がイマイチの出来。リアリティーを欠く部分が多すぎます。ゲストの中村アンと堀田真由は良かったのですが、やはりこのドラマはイチケイのレギュラーメンバーがそろわないと面白くなりませんね。

「夜、鳥たちが啼く」

 函館出身の作家・佐藤泰志原作の6本目の映画化。同棲中だった恋人に去られ、鬱屈とした日々を送る作家兼アルバイトの慎一(山田裕貴)が主人公。彼のもとに友人の元妻、裕子(松本まりか)が幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。裕子の夫が慎一の恋人と親しくなり、離婚に至ったということが徐々に描かれていきます。

 監督は城定秀夫。公開中の「恋のいばら」がエンタメなのに対して、こちらは純文学。私小説のような展開で僕は面白く見ました。城定秀夫は内容に即した演出をしており、引き出しの多さを感じさせます。ラブシーンの途中で「変な期待しないから」と言う松本まりかもベストの演技じゃないでしょうか。脚本は「そこのみにて光輝く」「オーバーフェンス」の高田亮。1時間55分。
▼観客3人(公開5日目の午後)

「ファミリア」

 在日ブラジル人が多い愛知県の団地を舞台に、陶器職人の神谷誠治(役所広司)とその息子(吉沢亮)、息子の妻のアルジェリア人(アリまらい果)、団地に住む在日ブラジル人の若者たちとのドラマを描いています。ネットのレビューでクリント・イーストウッド「グラン・トリノ」との類似を指摘した人がいましたが、確かにあの映画を思わせる内容。ただ、あの映画のイーストウッドと違って、若い頃にタフな生活を送っていた神谷の経験を生かした展開にはなっていません。

 アルジェリアの部分も不要で、息子の結婚相手は在日ブラジル人の設定にした方が良かったと思いました。アルジェリアでの息子夫婦の運命は、妻子をブラジル人の飲酒運転で亡くした半グレのMIYABIと、役所広司の対比をするために設定したのでしょうが、話を広げすぎた感が拭えません。監督は成島出。2時間1分。
▼観客4人(公開6日目の午後)

「怪怪怪怪物!」

 宮崎映画祭で上映している2017年の台湾映画。タイトルからホラーかと思いましたが、確かに怪物は出てくるものの、ホラー演出は少なく、高校でのいじめと絡めた内容がユニークです。出てくる怪物は元は人間で、ギザギザの歯で人肉を食べ、血で感染し、日光に当たると燃え上がってしまうヴァンパイアのような存在。高校生のグループが怪物姉妹の妹を捕らえ、いたぶった結果、姉の怪物が怒り、他の多くの高校生たちを惨殺する、という展開です。

 ユニークだからといって、必要以上に評価するのもどうかと思いますが、オリジナリティーのあるところは評価して良いと思いました。監督は日本でリメイクもされた「あの頃、君を追いかけた」(2011年)の監督・作家ギデンズ・コー。2017年の東京国際映画祭などで上映された後、一般劇場では公開されていないようですが、DVD・ブルーレイは発売され、配信でも見られます。僕はU-NEXTで見ました。1時間50分。
 IMDb6.3、ロッテントマト79%。

「やくたたず」

 宮崎映画祭で上映中の三宅唱監督2010年の作品。日本映画専門チャンネルで以前、録画したのを見ました。札幌の3人の男子高校生の姿を白黒で描いています。画面の構図や撮り方は良いんですが、話がさっぱり面白くありません。1時間16分。

「THE COCKPIT」

 これも宮崎映画祭上映の三宅唱監督作品(2014年)。同じく日本映画専門チャンネルで録画観賞。ヒップホップアーティストOMSBとBIMたちの楽曲制作過程を捉えたドキュメンタリーです。ほぼ固定カメラの前半が退屈ですが、完成した曲「Curve Death Match」を聞くと、あの過程も必要だったんだなと思えます。一般受けはしないでしょうが、ヒップホップが好きな人には興味深いかも。

 OMSBはアニメ「オッドタクシー」の音楽を担当した1人で、MVにチラリと出てきます。

「ビヨンド・アワ・ケン」

 「恋のいばら」の元ネタの2004年の香港映画。DVDで見ました。ほぼ同じストーリーで進みますが、終盤が少し違います。「恋のいばら」の方がうまいと感じました。ただ、あくまでもオリジナルの改善なので、オリジナルのアイデアを褒めるべきなのでしょう。ジリアン・チョンとタオ・ホンがケン(ダニエル・ウー)の元カノと今カノを演じています。パン・ホーチョン監督。1時間38分。
IMDb6.9、ロッテントマト76%(ユーザー)。

 楽天市場の店舗でレンタル落ちの中古DVDを買ったら、TSUTAYA(たぶん)のケースに入れたままのが届きました。ディスク自体に傷はなく、画質も良かったです。
「ビヨンド・アワ・ケン」ケース

2023/01/08(日)「非常宣言」ほか(1月第1週のレビュー)

 「非常宣言」は韓国からハワイに向かう飛行機の中でバイオテロが起きるパニック・サスペンス。

 乗客150人というのは国際線の飛行機としては小さいです。犯人はわざわざ空港職員に乗客の多い飛行機を聞いてるわけですから、もう少し大きな飛行機を選べば良かったのに、自分がウイルスを体に仕込むところを目撃した少女が乗った飛行機を選びます。が、この犯人、飛行機の中で死ぬつもりであることが分かり、乗り込んでしまえば、目撃者なんてどうだって良いのでした。お前はサイコな上にバカか。いや、バカなのは映画の脚本・監督を務めたハン・ジェリムで、その後も穴だらけのストーリーが冗長に展開されていきます。

 70年代パニック映画群の洗礼を受けた者としては途中でアホらしくなりました。同じくウイルス絡みのパニック映画「カサンドラ・クロス」(1976年、ジョルジュ・パン・コスマトス監督)の方がよほど面白かったです。

 この規模の飛行機なら、国内線の設定で良かったのに、国際線にしたのはアメリカと日本の対応を入れたかったためでしょう。成田空港に無理矢理着陸しようとする場面にあきれ、自衛隊機が威嚇射撃する場面でさらにあきれました。民間機への威嚇射撃なんてあり得ませんし、着陸しても乗客を飛行機から出さなければ、感染を心配する必要もないでしょう。まだ恐ろしい感染症と信じられていた新型コロナ初期、日本は3700人以上の乗員・乗客がいたコロナ蔓延の豪華客船を横浜に入港させましたしね。

 韓国国内の着陸に対する手のひら返し描写もあまりに国民をバカにしてます。韓国国民は怒るべきでしょう。刑事役でソン・ガンホ、元パイロット役でイ・ビョンホンが出演していますが、名優2人の無駄遣いとしか思えない2時間21分でした。
IMDb6.9、メタスコア70点、ロッテントマト64%。
▼観客5人(公開日の午前)

「恋のいばら」

元カノと今カノの確執を描いて、筋に凝ったよくできた脚本だ、さすが城定秀夫監督と思ったら、香港映画「ビヨンド・アワ・ケン」(2004年、パン・ホーチョン監督。IMDb6.9)のリメイクとのこと。オリジナルは配信にも近所のTSUTAYAにもなかったので、レンタル落ちの中古DVDを注文しました(楽天で送料込み360円)。

 あまり知られていない映画のリメイクをなぜ企画したのか分かりませんが、城定監督はプロデューサーからの依頼で監督を引き受け、脚本を「愛がなんだ」「かそけきサンカヨウ」などの澤井香織が担当。それを城定監督がさらに日本向けにアレンジしたそうです。

 元カノ桃が松本穂香、今カノ莉子が玉城ティナ、2人が付き合った健太郎が渡邊圭祐というキャスティング。図書館で働く桃は別れた健太郎のSNSで莉子の存在を知って接近。「リベンジポルノって知ってる? 健太郎にヤバい写真を撮られているかもしれないから、パソコン内の写真を消すのを手伝って」と持ちかける。健太郎のクズっぷりも明らかになり、撮られたことに覚えがあった莉子は桃と協力し、合鍵を作って健太郎の家に忍び込もうとする、というストーリー。

 後半に意外な展開がありますが、反発し合っていた桃と莉子の関係が徐々にシスターフッド的になっていくところが良く、松本穂香と玉城ティナがそれぞれに魅力を発揮しています。きっちり楽しませる作品に仕上がっていました。1時間38分。
▼観客1人(公開日の午後)

「シスター 夏のわかれ道」

 疎遠だった両親が交通事故死し、幼い弟ズーハン(ダレン・キム)を引き取ることになった姉アン・ラン(チャン・ツイフォン)が徐々に絆を深めていく物語。両親は男の子が欲しくて、アン・ランを障害児と偽って2人目を生む許可を得ます。アン・ランの大学進学も希望していた北京ではなく、両親から地元の大学に変更されるなど、男児をありがたがる両親の態度が疎遠となった理由でした。

 小さな子供を使って泣かせるのは100年前の「キッド」(1921年、チャールズ・チャップリン監督)からある手法。この映画はあざとさが目に付きますし、描写もうまくありません。一人っ子政策や男尊女卑への批判も手ぬるいです。というか、政府批判の映画は中国では公開できないのでしょう。男尊女卑の描写だけ取っても「はちどり」(2018年)や「82年生まれ、キム・ジヨン」(2019年)などの韓国映画に負けています。

 1979年から2015年まで一人っ子政策を取っていた頃の中国で女児は売られたり、捨てられたりしていたそうで、ゴミ捨て場に大量の女児の遺体があった、というのがドキュメンタリー「一人っ子の国」(2019年、ナン・フーアン、ジアリン・チャン監督)で描かれていました。
2時間7分。IMDb6.6、ロッテントマト100%(ただし評価は5人だけ)。
観客8人(公開14日目の午後)

「マチルダ・ザ・ミュージカル」

 Netflixが先月末から配信している作品で、ロアルド・ダールの児童文学「マチルダは小さな大天才」を基にしたミュージカルの映画化。「ベイビーわるきゅーれ」の伊澤彩織が「凄すぎてしばらく頭から離れなさそうです。感動しました」と書いていたので見ました。元TBSアナの宇垣美里も「アトロク」で褒めてました。

 Wikipediaを引用すると、「卓越した天才的頭脳と超能力に目覚めた少女マチルダが家族や学校による障壁を克服し、また担任教師が人生を取り戻すことを手伝う物語」。原作は1996年にダニー・デヴィートが製作・監督・出演を兼ねて映画化しているそうですが、僕は見ていませんでした。2010年にミュージカル化され、2013年のトニー賞5部門で受賞しています。

 基本は子供向けなので油断して見ていたら、終盤、担任教師ミス・ハニーの身の上話の場面でグッと心をつかまれました。大人が見ても面白いです。子供を虐待する残忍な校長先生役をエマ・トンプソンが怪演。ミス・ハニーを演じるのは「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」で女性初の007となったラッシャーナ・リンチ。主人公マチルダ役はアリーシャ・ウィアー。監督は「パレードへようこそ」(2014年)のマシュー・ウォーカス。1時間58分。
 IMDb7.2、メタスコア72点、ロッテントマト92%。