2013/10/30(水)「バビロンの大富豪 『繁栄と富と幸福』はいかにして築かれるのか」

 富豪になるための現実的で堅実な方法を教える物語。収入の1割を自分のものする。つまり、貯蓄するのがその第一歩。ためたお金は投資すれば、お金は自分で増えていってくれる。このほか、働くことに喜びを見いだす、簡単でうまい投資話には気をつける、華美な生活は送らない、などいちいち納得できる内容だ。

 1920年代に出版されて延々と読まれ続けてきたのはこの本に書いてあることが時代を超えた真理だからだろう。実際の億万長者を調査したトマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコの「となりの億万長者」を併せて読むと、この本に書いてあることがいかに当たっているかがよく分かる。投資教育がない日本の中学高校生にぜひ読ませたいテキストだ。

2013/10/07(月)「薬をやめれば病気は治る」

 薬は化学物質なので体にとっては毒、というのが著者の基本的スタンス。少し極端にも思えるが、素人考えでも高血圧や糖尿病など常用しなければならない薬が体に良いとは思えない。

 著者が飲まない方がいい薬として挙げているのは高血圧、コレステロール、糖尿病、睡眠薬・精神安定剤、胃薬、鎮痛剤、抗生物質、骨粗鬆症、風邪薬、逆流性食道炎などの薬。すべての薬を否定しているわけではなく、短期的に効果的に服用する方法を推奨している。驚くのは牛乳も毎日飲まない方がいいとしていることで、牛乳に含まれるカゼインが「最も強力な化学的発がん物質だ」とするコリン・キャンベル博士の説を紹介している。

 西洋薬が症状を緩和する対症療法であるのに対して漢方薬は体全体の調子を整えることを目指す。対症療法では根本的原因を取り除くことはできないのでこれは理にかなった方法だ。著者が進めるのは薬食同源の考え方で、これはもっともだと思う。サラッと読める本なので何らかの薬を毎日飲んでいる人は読んで見た方がいい。

2013/10/01(火)「共震」

 東日本大震災の傷がまだ癒えない被災地の現状を伝えるミステリー。著者の相場英雄が書きたかったのは被災地の現状の方で、ミステリーではない。本来ならノンフィクションとして書いた方が良かった題材だろう。なぜノンフィクションにしなかったのか。著者はビジネスジャーナルのインタビューでその理由について「ノンフィクションの本は本当に売れないです。どんなに大事なメッセージを込めても、ノンフィクションというだけで、世間はそれほど注目してくれない」と話している。

 より多くの人に被災地の現状を伝えるには読者の多い小説にした方が良いという理由は一面でうなずけるが、読んでいて、やはりこれはノンフィクションで読みたかったと思わずにはいられない。作品の説得力が弱いのだ。どこまでが被災地の現状か、読者には分からない。それが著しく説得力を欠いている。

 被災地の復興に力を尽くした県職員が殺されるというミステリー部分には特に評価すべき点がない。しかもこれが終盤、物語の中心に居座ってくると、どうも居心地が悪くなってくる。300ページ余りで被災地の現状が伝えられたとも思えない。微に入り細にわたった描写でこの倍ぐらいの分量で書いた方が良かったと思う。すぐに読めるページ数で収めたのは、ページ数が多くなると、本の価格が高くなり、より多くの人に手にとってもらえなくなるからだろうか。著者の真意はそんなところにはないだろうし、被災地に何度も足を運んだことには頭が下がるが、この本の完成度では被災地を舞台にしたお手軽な本と受け取られかねない。小説の長さはその質とは関係ないが、長さが必要な小説もあるのだ。

2013/08/04(日)「骨の祭壇」

 世評通りの圧倒的なページターナーではある。特に上巻はページを繰る手が止められない面白さ。下巻はややトーンダウンするものの、一気読みの本であることは間違いない。

 なのに読後感はイマイチ。その要因をつらつら考えてみると、凄腕の悪人たちがやけにあっけなく退場してしまうことが影響しているようだ。ポニーテールの男しかり、美貌と狂気の殺し屋ヤスミン・プールしかり。黒幕の一人である大富豪や元KGB高官、ロシアン・マフィアのボスもまた、あれ、これで終わり、と思えるほどあっけない。これでは主人公2人が都合良く危機を乗り越えていく印象しか残らず、ご都合主義的展開に思えてくるのも仕方がない。

 アクションで話をつなぐだけで深みに欠ける、悪い時の007映画と同じ程度の面白さと思った方がいい。そういう映画が好きな人には超おすすめのエンタテインメント。

2013/07/19(金)「稼ぐ経済学 『黄金の波』に乗る知の技法」

 最近読んだ金融・投資関係の本では最も面白かった。これぐらいの基礎知識を持たずに投資をするのは無謀ということなのだろう。株式投資の不都合な真実について書かれた3章と著者の専門分野である外国為替相場に関する4章は必読だ。

 著者の竹中正治さんはインデックス投資派の人で実際に投資を実践しているが、ドルコスト平均法は勧めていない。マンション投資も実践しているが、これは地方では成り立たないと思う。空室リスクの少ない都市部では参考になるだろう。