2025/03/23(日)「教皇選挙」ほか(3月第3週のレビュー)

 「教皇選挙」が面白かったのでロバート・ハリスの原作を読みたくなったんですが、邦訳が出ていません。近年、こういうことが多くなりました。かつては映画公開に合わせて翻訳本が書店に並ぶのは当たり前のことでした。最近それがないのは出版不況に加えて翻訳小説が売れなくなったからでしょう。翻訳ミステリファンの多くが読んでいるであろう「ミステリマガジン」は10年前に月刊から隔月刊となり、さらに今年から季刊に変わりました。

 翻訳出版の現状に多くを期待できないとなると、英語の原書が読めるように辞書を引きながら勉強するしかないなと思うんですが、それができるようになったとしても、中国や韓国、フランス、スペイン語などまで学ぶのは極めて困難です(他言語から英語への翻訳は多いようですけど)。だから翻訳文化は大事なのです。ちなみに「教皇選挙」の原書「Conclave」はKindle版が1600円。翻訳して出版した場合、3000円ぐらい(以上?)に価格設定しないとペイしないんじゃないですかね。

「教皇選挙」

「教皇選挙」パンフレット
「教皇選挙」パンフレット
 ラストの衝撃はトランプ大統領とその岩盤支持層には絶対に受け入れられないものでしょう。映画は前半、地味な展開ですが、後半は次から次へと畳みかけるようなことが起こり、エンタメ度抜群の作りでした。ロバート・ハリスの原作によるものでしょうが、カトリック教会の古さを浮き彫りにする現代的なテーマを盛り込んだストーリーがまず良いです。ネタバレを目にしないうちに早めに劇場で見ることをお勧めします。

 14億人以上の信徒を有するカトリック教会の最高指導者でバチカン市国の元首であるローマ教皇が心臓発作で急死した。イギリス出身の首席枢機卿トマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)は新教皇を決める教皇選挙(コンクラーベ)を執り仕切ることになる。各国から100人を超える強力な候補者が集まり、外部から遮断されたシスティーナ礼拝堂の中で投票が始まった。票が割れるなか、水面下の陰謀、差別、スキャンダルが次々に発覚、ローレンスの苦悩は深まっていく。

 レイフ・ファインズ62歳、スタンリー・トゥッチ64歳、ジョン・リスゴー79歳、セルジオ・カステリット71歳、イザベラ・ロッセリーニ72歳と主要キャストは高齢の俳優ばかり。これが前半のとっつきにくさの一因になっていることは否めません。しかし、権力=教皇の座をめぐって繰り広げられる争いはとても崇高な方々がやることとは思えず、実社会を反映したものになっています。差別偏見意識を露わにする枢機卿もいて、こんな人が教皇になったら大変だと思ってしまいます。

 パンフレットによると、保守派と改革派の対立は実際のコンクラーベでもあるそうです。トランプのようにLGBTQの存在を認めない人が教皇の地位に就いたら影響は大きいでしょう。

 アカデミー賞では8部門にノミネートされ、脚色賞(ピーター・ストローハン)を受賞しました。監督は「西部戦線異状なし」(2022年、国際長編映画賞などアカデミー4部門受賞)のエドワード・ベルガー。
IMDb7.4、メタスコア79点、ロッテントマト93%。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午前)2時間。

「悪い夏」

「悪い夏」パンフレット
「悪い夏」パンフレット
 「正体」の染井為人の原作を城定秀夫監督が映画化。主人公が公務員で、暑い夏の話で、シングルマザーの貧困家庭が出てくるなど「渇水」(2022年、高橋正弥監督)との共通点を感じましたが、社会派だった「渇水」に対してこちらはクズとワルしか出てこないエンタメ志向。それでもしっかり現実を反映していて、登場人物たちのキャラもことごとく立っているのが良いです。

 市役所の生活福祉課でケースワーカーとして働く佐々木守(北村匠海)は同僚の宮田有子(伊藤万理華)から先輩の高野(毎熊克哉)が生活保護受給者のシングルマザー林野愛美(河合優実)に肉体関係を迫っているというウワサがあることを知る。真相究明を頼まれた守は愛美のアパートを訪ねる。愛美は娘の美空と二人暮らしだった。同じ頃、それを知った裏社会の金本(窪田正孝)は高野を脅迫し、貧困ビジネスの手先にしようとする。愛美はある目的で守を誘惑。守は金本に脅迫され、闇堕ちしていくことになる。

 監督と原作者、脚本の向井康介の鼎談によると、今村昌平の重喜劇を指針にしたのだとか。イマヘイだったら、ドロドロ度がさらに高かったでしょうが、いい線行ってると思います。

 気怠い色気を感じさせる河合優実のほか、顔つきがほっそりした伊藤万理華、逆にやや野呂佳代化した箭内夢菜ら女優陣も頑張ってます。本筋とは関係ないシングルマザーで生活保護の申請を断られる木南晴夏は普段のコメディ演技とは正反対の役柄ながら、目の下に隈を作って貧困の過酷な状況を表現し、現実社会を反映したリアルな部分を担当していて良かったです。
▼観客3人(公開2日目の午前)1時間55分。

「早乙女カナコの場合は」

「早乙女カナコの場合は」パンフレット
パンフレットの表紙
 柚木麻子の原作「早稲女、女、男」を矢崎仁司監督が映画化。大学で知り合った男女の10年間の恋愛模様を描いています。

 早乙女カナコ(橋本愛)は大学の入学式で演劇サークル「チャリングクロス」で脚本家を目指す長津田(中川大志)と出会い、付き合いを始める。就職活動を終え、カナコは大手出版社に就職が決まる。長津田とも3年の付き合いになるが、口げんかが絶えない。長津田は脚本を最後まで書かず、卒業もする気はなさそうだ。サークルに入ってきた女子大の1年生・麻衣子(山田杏奈)と浮気疑惑さえある。そんなとき、カナコは内定先の先輩・吉沢(中村蒼)から告白される。編集者になる夢を追うカナコは長津田の生き方とすれ違っていく。

 橋本愛は週刊文春に読書日記を連載しているので、編集者の役にはぴったり。矢崎仁司監督は自立した女性の恋愛青春映画として手堅くまとめています。

 「私にふさわしいホテル」(2024年、堤幸彦監督)で主役の作家を演じたのんが同じ作家役でゲスト出演しています。最近、NHK朝ドラ「あまちゃん」(2013年)を全話見たので、のんが出るなら、中川大志の代わりに福士蒼汰のキャスティングなら橋本愛と合わせて「あまちゃん」トリオ復活でうれしかったんですけどね。いや、中川大志は好演しているので、それはないですけど。

 クライマックスに「アパートの鍵貸します」(1960年、ビリー・ワイルダー監督)のシャンパンのシーンの引用がありました。
▼観客2人(公開5日目の午後)1時間59分。

「ニッケル・ボーイズ」

 少年院を舞台に黒人少年への暴力や虐待を描いたコルソン・ホワイトヘッドの小説の映画化で、アカデミー作品賞・脚色賞ノミネートされました。amazonプライムビデオが配信しています。

 1960年代のアメリカ。アフリカ系アメリカ人の真面目な少年エルウッド(イーサン・ヘリス)は、無実の罪で少年院ニッケル校に送られる。校内には信じがたい暴力や虐待が蔓延していた。

 主人公エルウッドの一人称カメラで始まり、これがずっと続くのかと思ったら、ニッケル校での友人ターナー(ブランドン・ウィルソン)の視点に切り替わります。基本的にこの2人の視点で物語が描かれていくんですが、予備知識ゼロで見ると、とにかく導入部が分かりにくくなっています。その要因はこんな作りにしたためでしょう。

 書店に1冊だけあった原作(2020年11月発売の初版本でした。翻訳小説はやっぱり売れていないのです)を買って読んでるところですが、原作は極めて読みやすい書き方です。フロリダ州の少年院アーサー・G・ドジアー男子校で実際に起きた教官による多数の黒人少年の虐待・殺害事件を基にした小説で、コルソン・ホワイトヘッドは「地下鉄道」に続いて2度目のピュリッツァー賞を受賞しました。映画も小説のように素直に作っていれば、さらに支持が広がったのではないかと思います。監督のラメル・ロスはこれまで主にドキュメンタリーを手がけてきた人だそうです。
IMDb7.0、メタスコア91点、ロッテントマト91%。2時間20分。

 アカデミー作品賞候補の10本のうち、「ニッケル・ボーイズ」を含めて7本が公開済みとなりました。残る3本のうち、ゾーイ・サルダナが助演女優賞を受賞した「エミリア・ペレス」は28日公開、デミ・ムーアが主演女優賞を逃した「サブスタンス」は5月、国際長編映画賞受賞の「アイム・スティル・ヒア」は8月公開予定となっています。

2025/03/16(日)「Flow」ほか(3月第2週のレビュー)

 深作欣二監督の「バトル・ロワイアル」(2000年)が4月4日から全国的に2週間限定でリバイバル公開されます。公開25周年記念だそうです。キネ旬ベストテン5位にランクされた傑作ですが、今の評価を見ると、KINENOTE70.1点、映画.com3.4点、Filmarks3.4点とパッとしません。海外評価はIMDb7.5、メタスコア81点、ロッテントマト90%と高いです。

 国内評価の低さはテレビ画面で見てることも影響してるんですかね。深作監督の実質的な遺作で、デビュー間もない柴咲コウと栗山千明が鮮烈な印象を残した作品でもあるので、劇場で見る価値は大いにあると思います。

「Flow」

「Flow」パンフレット
「Flow」パンフレット
 アカデミー長編アニメーション賞を受賞したラトビア=フランス=ベルギー映画。セリフはなく、CGで描かれる動物たちもアメリカ映画に、特に最近公開され動物が多数出てくる3DCGアニメ「野生の島のロズ」(クリス・サンダース監督)に比べると、未完成と思えるほど簡略化されていますが、静謐な詩情があって魅力的な世界を作り上げています。その意味で、これは引き算して引いて引いて作った映画。というか、予算的にこれ以上足せないのかもしれません。ギンツ・ジルバロディス監督の作風にはそれが大きな障害にはなっていません。

 世界が大洪水に襲われ、あらゆるものが水没しそうになる中、森の中の家に住んでいた一匹の黒猫が流れて来たボートに乗る。ボートには既にカピバラがおり、これに犬やキツネザル、翼を折られたヘビクイワシなど他の動物が次々に乗り込んでくる。

 このシチュエーションは容易に「ノアの方舟」を連想させますが、あんなにスケールの大きな話ではありません。狭いボートの中で起こる動物たちのいざこざは人間の争いのようでもあります。比喩的な描写のある終盤が少し分かりにくくなっていますが、それも含めて芸術性の高さが評価されているのでしょう。

 大洪水がなぜ起きたのか原因は分かりません。人間が1人も出てこないことを考えると、温暖化の果ての(人間にとっては)終末世界の物語なのかもしれません。
IMDb7.9、メタスコア87点、ロッテントマト97%。

 ジルバロディス監督が3年半をかけて1人で作った第1作「Away」(2019年)を配信で見ました。パラシュートで島に降下した青年がオートバイで荒野をさすらい、その後を謎の黒い巨人がついてくるという物語。登場人物は1人だけなので「Flow」同様にセリフはなく、相棒の小鳥や動物たちが描かれています。「Flow」よりプリミティブなCGですが、これも静謐さとファンタスティックな展開が良いです。黒い巨人は死のメタファーなんじゃないでしょうかね。U-NEXTやamazonプライムビデオなどで配信しています。
IMDb6.6、メタスコア78点、ロッテントマト100%。

 「Flow」は昨年の東京国際映画祭で上映されました。同映画祭では一昨年、「ロボット・ドリームズ」を上映していて、アニメーション企画はチェックしておいた方がいいなと思います。ついでに書いておくと、今年の東京国際映画祭は10月27日から11月5日まで開催されることが先日発表されました。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午前)1時間25分。

「愛を耕すひと」

「愛を耕すひと」パンフレット
「愛を耕すひと」パンフレット
 この変な邦題を除けば、正攻法の良い映画だと思います。デンマーク=スウェーデン=ドイツ合作。原作はデンマークの女性作家イダ・ジェッセンの史実に基づく小説「大尉とアン・バーバラ」。デンマーク語の映画の原題はBastardenで「私生児」「ろくでなし」の意味だそうです(英題はThe Promised Land」)。

 18世紀のデンマークが舞台。退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉(マッツ・ミケルセン)は、貴族の称号を懸け、ユトランド半島の不毛な荒野(ヒース)の開拓に名乗りを上げる。地域の有力者フレデリック・デ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)は勢力の衰退を恐れ、あらゆる手段でケーレンを追い払おうとする。自然の脅威とデ・シンケルからの非道な仕打ちに抗いながら、デ・シンケルのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラ(アマンダ・コリン)や家族に見捨てられたタタール人の少女アンマイ・ムス(メリナ・ハグバーグ)との出会いにより、ケーレンの頑なに閉ざした心に変化が芽生えてゆく。

 絵に描いたような卑劣な地主が出てくるので、原作は史実に大幅にフィクションを入れた小説なのでしょう。「愛と宿命の泉」二部作(1986年、クロード・ベリ監督)を彷彿させる農業映画であり、「嵐が丘」のような文芸映画の雰囲気もあります。マッツ・ミケルセンはいつもながらの重厚な演技で映画に風格を与えています。

 監督はミケルセンと組んだ「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の泉」(2012年)のほか、デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの原作を映画化した「特捜部Q」シリーズで脚本を担当しているニコライ・アーセル。
IMDb7.7、メタスコア77点、ロッテントマト97%。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午後)2時間7分。

「かなさんどー」

「かなさんどー」パンフレット
「かなさんどー」パンフレット
 「洗骨」(2018年)で評価を集めた照屋年之監督の長編第3作。タイトルは沖縄方言で「愛おしい」という意味です。2020年に満島ひかり主演で撮った短編「演じる女 A Woman Who Acts」を長編化した作品で、主演は同じ沖縄出身の松田るかに代わりました。

 赤嶺美花(松田るか)は母・町子(堀内敬子)が病気で亡くなる前、毎晩のように飲み歩き、母が最期のときにかけた電話にも出なかった父・悟(浅野忠信)のことを許すことができずにいた。悟の命が危ないと知らせを受けた美花は東京から実家のある沖縄県伊江島に帰る。町子が亡くって7年たっていて、父は認知症が進行していた。両親と過ごした時間を思い出す中、美花は母が残していた日記を見つける。母の本当の想い、父と母の愛おしい秘密を知る。

 短編では入院している父親に見せるため主人公が2階にある病室の外で重機に吊り下げられて「かなさんどー」を歌いますが、長編では伊江島のテッポウユリが咲き誇る中で歌います。これは歌を活かすための適切な改変で、松田るかの歌声は澄んでいて聞き惚れます。



 沖縄出身ではない浅野忠信、堀内敬子のしゃべり方にも違和感はありません。「過去に戻れたとしても、私はもう一度お父さんと結婚する」と夫への深い愛を語る母親を堀内敬子は親しみやすく演じています。パンフレットで製作総指揮の福田淳は「特殊な沖縄のファミリーの話に思えますが、実は非常に個人的だからグローバルに響くんじゃないか」と語っています。その通りで、家族の話が世界共通なのは他の映画でもよく感じることではあります。

 「演じる女 A Woman Who Acts」はYouTubeで公開されています。

▼観客9人(公開5日目の午後)1時間26分。

「プレゼンス 存在」

 スティーブン・ソダーバーグ監督が幽霊の視点で描くホラー。といっても少しも怖くありません。この幽霊、悪い奴ではないからです。

 崩壊寸前の4人家族が大きな屋敷に引っ越してくる。10代の少女クロエ(カリーナ・リャン)は家の中に何かが存在しているように感じていた。

 幽霊はポルターガイスト現象は起こせますが、人間に直接危害を加えられない設定がポイント。悪くない展開なんですが、クライマックスにもう少し意外な展開が欲しかったところです。母親役をルーシー・リュウが演じています。脚本はデヴィッド・コープ。
IMDb6.2、メタスコア77点、ロッテントマト88%。
▼観客8人(公開6日目の午後)1時間24分。

「知らないカノジョ」

「知らないカノジョ」パンフレット
「知らないカノジョ」パンフレット
 「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」(2019年、フランス=ベルギー合作、ユーゴ・ジェラン監督)の日本版リメイク。明らかにオリジナルより良い出来だと思いました。映画初出演どころか演技が初めてのmiletがまったくそれを感じさせない合格点の演技を見せています。ルックスの良さだけではなく、感情表現が細やかで、歌の表現と演技の表現には通じるところがあるのかも、と思わせました(レディガガも演技力ありますからね)。ラブストーリーに定評のある三木孝浩監督の演出も手慣れたもので、切なさと幸福感が一体となった佳作に仕上がっています。

 小説家志望の神林リク(中島健人)はミュージシャンを目指す前園ミナミ(milet)と大学で出会う。二人はお互いに一目惚れして結婚。リクはベストセラー作家となるが、ミナミは志半ばで夢を諦めていた。結婚して8年、ちょっとしたことでミナミとケンカした翌朝、リクが目覚めると、ミナミは大スターでリクは小説家ではなく編集者になっていた。二人は出会ってもいなかった。リクはなぜか別の世界に来てしまったらしい。困惑するリクは元の世界を取り戻そうとミナミに近づくが、彼女には愛する人がいた。

 身近な人を失って初めてその存在の大きさ、大切さが分かるというシチュエーション。リクはこの世界でもなんとかミナミの愛を得ようと力を尽くし、ミナミはゆっくりと、リクの方を向いていくことになります。それに協力する先輩の桐谷健太、ミナミの祖母役風吹ジュンも良いです。

 miletは早稲田大文学部の演劇映像コース卒だそうですが、そのためもあるのか、中島健人と三木孝浩監督とのYouTube動画を見ると、映画を相当見ているのが分かります。ラブストーリーで好きなのが「ポンヌフの恋人」(1991年、レオス・カラックス監督)というのが玄人好みで良く、「知らないカノジョ」と「ノッティングヒルの恋人」(1999年、ロジャー・ミッチェル監督)、「アリー スター誕生」(2018年、ブラッドリー・クーパー監督)との類似性の指摘もなるほどと思いました。映画には「機会があればまた出たい」そうなので早めの第2作を期待したいです。

 主題歌の「I still」には「愛してる」の意味も込めてるんだとか。



 このMVのコメント欄に「映画で初めてmiletを知った」というコメントがいくつもあるのが意外でした。miletはそれぐらいの知名度でしたか。
▼観客17人(公開11日目の午後)2時間1分。

2025/03/09(日)「35年目のラブレター」ほか(3月第1週のレビュー)

 WOWOWの加入件数の減少が止まりません。2021年度以降毎年10万件前後の減少が続いています。2024年度は2月までに102,180件の減少で、加入件数は236万4932件。動画配信サイトより高い視聴料金がネックになっているようです。衛星放送は配信よりコストがかかるので料金が割高になるのは仕方ないんですが、開局当初からの視聴者としてはなんとか打開策を探してほしいところです。
 WOWOWはオンデマンドも充実してきました。もしかしたら、衛星放送をやめて配信専業に移行するのも選択肢としてありじゃないでしょうかね。

「35年目のラブレター」

 読み書きができず定年退職してから夜間中学に通って学んだ男性と妻を描く実話ベースのドラマ。脚本、演出とも百点満点の出来とは思いませんが、足りない部分を笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音ら出演者の好演が大きく補っていて、泣かされること必定の展開でした。悲しくて泣かされるのではなく、主人公同様、相手を思いやる登場人物たちの気持ちの温かさが心にしみます。

 主人公の西畑保(重岡大毅→笑福亭鶴瓶)は貧しい家に生まれ、級友と先生に盗みの疑いをかけられたことから小学2年生で学校に行くのやめた。漢字はまったく読めず、自分の名前も書けないまま成長し、さまざまな職を転々とする。親切な寿司屋の主人に助けられ、寿司職人として働くようになる。35歳の頃、見合いで皎子(上白石萌音→原田知世)と結婚。読み書きができないことを伝えられなかったが、結婚して半年たった頃、自分の署名もできないことを打ち明ける。皎子は「今日から私があんたの手になるわ」と言い、保を支え続ける。

 この俳優4人がまず良いのですが、「ちょっと待ってえな」と言いながら、面接の途中で逃げた保を追いかける寿司屋の主人の笹野高史、学校の入り口で保に声をかける夜間中学の教師・安田顕、「よっこい、しょういち」と笑いながら回覧板を渡す隣家のくわばたりえ、弟妹を助けるために大やけどを負った皎子の姉役の江口のりこらが見ていてほっとするような演技をしています。学校や職場でいじめに遭い、騙されそうになった経験もある主人公がこうした人たちに助けられるエピソードが実に良いです。世の中、人の欠点をあげつらい、攻撃し、優越感に浸るような最低の人間ばかりではないわけです。

 パンフレットによると、企画の発端は塚本連平監督の妻がテレビで西畑さんを取り上げたドキュメント番組を見たこと。その番組は「ザ・世界仰天ニュース」(日テレ、2020年11月放送)のようです。西畑さんは住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)主催の「60歳のラブレター」で2003年に金賞を受賞していますが、新聞社の記者から取材を受けたのは夜間中学に通い、妻にラブレターを渡した頃で、それからテレビなどでも取り上げられ、仰天ニュースに繋がったようです。

 塚本監督は西畑さんに取材を重ね、脚本化していきました。講談社から同名の本(小倉孝保著)が出ていますが、原作にクレジットされていないのは別々の取材の結果だからでしょう(タイアップはしているかもしれません)。

 それにしても何歳になっても学ぼうと努力する人の姿勢は美しいです。見習いたくなります。
▼観客多数(公開2日目の午前)1時間59分。

「ウィキッド ふたりの魔女」

「ウィキッド ふたりの魔女」パンフレット
パンフレットの表紙
 「オズの魔法使い」(ヴィクター・フレミング監督による1939年の映画は「オズの魔法使」)の前日譚の大ヒットミュージカルの映画化。後に邪悪な西の魔女となるエルファバ(シンシア・エリヴォ)と善良な南の魔女グリンダ(アリアナ・グランデ)の敵対と友情の物語となっています。2時間41分の上映時間をかけてもまだパート1ですが、これはこれで完結していて、たっぷり予算をかけた映像の見応えは十分にありました。

 映画「オズの魔法使」で東の魔女は竜巻で飛んできたドロシー(ジュディ・ガーランド)の家の下敷きになって死亡。西の魔女はドロシーに水をかけられて溶けてしまいました。同じ緑色の肌であっても、「ウィキッド」のエルファバはその肌の色から父親に忌み嫌われ、入学したオズの大学の生徒たちからも差別を受けます。しかし、魔法の能力は際立っていて、大学のマダム・モリブル(ミシェル・ヨー)はエルファバをオズの魔法使いがいるエメラルドシティへ向かわせます。グリンダもそれに同行することになりますが、オズの魔法使いはある陰謀を秘めていました。

 監督は「イン・ザ・ハイツ」(2020年)のジョン・M・チュウ。人間と対等に普通に暮らしていた動物たちが突然拘束されたり、肌の色によって差別されたりする描写はテーマとして分かりやすく、歌とダンスも申し分ないですが、物語の構成に目新しさはなく、訴求力には少し欠けるように思いました。シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデは素晴らしいです。個人的には特に素直さと善良さを感じさせるグランデの歌と振る舞いに引かれました。魔女の力に目覚めたエルファバがどうなるのかにも興味がありますが、パート2ではグランデにもっと活躍させてほしいです。
IMDb7.5、メタスコア73点、ロッテントマト88%。
作品、主演女優、助演女優賞などアカデミー10部門にノミネートされ、美術賞と衣装デザイン賞を受賞しました。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間41分。

「TATAMI」

「TATAMI」パンフレット
「TATAMI」パンフレット
 実話を基にした映画化。話のベースになったのは2019年8月、東京で開かれた世界柔道選手権男子81キロ級。イラン代表のサイード・モラエイは決勝まで進めば、イスラエル代表のサギ・ムキと対戦するため、国から棄権を強要されていて、それも影響したためか、準決勝で敗れたそうです。

 映画は主人公を女性に変えています。イラン代表の女子柔道選手レイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)とコーチのマルヤム・ガンバリ(ザーラ・アミール)はイラン初の金メダルを目指し、ジョージアの首都トビリシで開かれた女子世界柔道選手権に挑む。レイラは60キロ級のトーナメント戦に出場。順調に勝ち進むが、イラン政府から棄権を命じられる。このままレイラが勝ち進めば、決勝でイスラエルの選手と戦う可能性があるからだ。政府はレイラの両親を拘束して棄権を迫る。夫と子供は国境を目指して逃げた。イラン政府に従うか、戦い続けるか。レイラとマルヤムは決断を迫られる。

 試合場面の迫力と追い詰められる2人のサスペンスが効果を上げています。映画の中ではイランがイスラエルを国として認めていないから試合することを認めないという説明ですが、パンフレットによると、試合に負けた場合、最高指導者の面目がつぶれるために避けているのだそうです。監督はガイ・ナッティブとザーラ・アミール。
IMDb7.5、ロッテントマト83%(アメリカでは映画祭での上映)。
▼観客3人(公開5日目の午後)1時間43分。

「小学校 それは小さな社会」

 東京都世田谷区の小学校を長期取材したドキュメンタリー。短縮版の「Instruments of a Beating Heart」(23分)はアカデミー短編ドキュメンタリー賞にノミネートされましたが、受賞は逃しました。元の映画は1年以上にわたって取材し、1学期、2学期、3学期を経て新入生の入学式までが描かれています。その意味で、短縮版は全体のクライマックスに相当するものと言えるでしょう。

 短縮版は入学式で演奏する児童がメインでしたが、長編版は先生たちにもスポットが当てられて興味深かったです。短縮版の主人公と言える1年生のあやめちゃんはアカデミー賞授賞式のレッドカーペットで山崎エマ監督と一緒にNHKのインタビューに答えていました。NHKが共同製作なので、本編はそのうちNHKで放映されるんじゃないでしょうか。
IMDb7.2(アメリカでは映画祭での上映)。
▼観客11人(再公開6日目の午前)1時間39分。

「パピヨン」

 胸に蝶の刺青があることからパピヨンと呼ばれた男の監獄島からの脱獄を描いた同名小説の映画化。1931年、無実の罪で終身労働を宣告され、南米の仏領ギアナの刑務所に送られたアンリ・シャリエールが何度も失敗した後に脱獄に成功する、という物語。

 1973年の作品なので劇場でリアルタイムでは見ていません。テレビでは数回見ていますし、WOWOWから録画したのも持ってますが、劇場で見ておきたかった作品でした。

 パピヨンを演じるスティーブ・マックイーンと親友ドガ役のダスティン・ホフマンは良いですが、映画自体はそれほどの傑作ではないと思います。囚人たちの描写が「猿の惑星」(1968年)に似ていると思えるのは監督がフランクリン・J・シャフナーだからでしょう。脚本はダルトン・トランボとロレンツォ・センプル・ジュニア。

 脱獄に成功し、椰子の実のイカダにつかまったパピヨンの最後のセリフはテレビでは「俺はくたばらねえぞ!」だったと記憶しています。映画の字幕は「俺は生きてるぜ!」だったかな。英語のセリフは「Hey You, Bastard! I'm Still Here!」でした。

 パピヨンが収監されたのは南アメリカの悪魔島(ディアブル島)。ロマン・ポランスキー監督の「オフィサー・アンド・スパイ」(2019年)の主人公ドレフュス大尉が収監されたのもここでした。
IMDb8.0、メタスコア58点、ロッテントマト73%。
2017年のリメイク版(マイケル・ノアー監督)はIMDb7.2、メタスコア51点、ロッテントマト52%。
▼観客11人(公開7日目の午後)2時間31分。

2025/03/02(日)「ANORA アノーラ」ほか(2月第4週のレビュー)

 例年、アカデミー賞授賞式の前日に発表されるラジー賞、今年は「マダム・ウェブ」(S・J・クラークソン監督)が最低映画賞だそうです。主演のダコタ・ジョンソンは最低女優賞。新作の「ドライブ・イン・マンハッタン」も評判イマイチですし、ダコタ・ジョンソン、作品に恵まれませんね。

「ANORA アノーラ」

「ANORA アノーラ」パンフレット
「ANORA アノーラ」パンフレット
 カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したショーン・ベイカー監督作品。

 ニューヨークのストリップダンサーでロシア系アメリカ人の“アニー”ことアノーラ(マイキー・マディソン)はロシアの富豪の御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会う。アニーを気に入ったイヴァンは7日間1万5千ドルで専属契約を結ぶ。贅沢三昧の日々を過ごした2人はラスベガスの教会で衝動的に結婚するが、息子がセックスワーカーと結婚したことを知ったロシアの両親は激怒する。結婚を無効にするため屈強な男たち3人を息子の邸宅へと送る。イヴァンは隙を見て逃走。イヴァンの両親が到着し、アニーは逃げたイヴァンを一緒に捜すことになる。

 予告編で「『プリティ・ウーマン』がディズニー映画のように見えてくる」との批評が引用されていましたが、その通り、金持ちと結婚するシンデレラストーリーの後の出来事が物語の中心。アニーは気の強い女性で3人の男に負けずに思い切り抵抗するのがおかしくて痛快です。弾けた魅力を見せるマイキー・マディソンがジュリア・ロバーツのように売れっ子になるといいなと思います。

 R-18指定。ボカシのかかるシーンはありませんが、セックス描写が多いので一般映画としてはNGとなったようです。アカデミー作品、監督、主演女優賞など6部門ノミネート。助演男優賞にノミネートされたイゴール役の俳優にはユーリー・ボリソフ(Yuriy Borisov)とユーラ・ボリゾフ(Yura Borisov)の2種類の表記があります。ロシア映画「インフル病みのペトロフ家」(2021年、キリル・セレブレニコフ監督)まではユーリーでした。ユーラはアメリカ向けの名前なのでしょう。
IMDb7.7、メタスコア91点、ロッテントマト93%。
▼観客6人(公開初日の午前)2時間19分。

「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」

「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」パンフレット
パンフレットの表紙
 1960年代前半、ボブ・ディランの歌手デビューからの5年間を描くドラマ。公民権運動やキューバ危機、ケネディ暗殺など激動の60年代の出来事を背景にしたクロニクル的側面があり、見応えのある内容となっています。

 ディランを演じるのはティモシー・シャラメ。ギターと歌を5年かけて練習し、歌い方と佇まいはディランにそっくりです。「風に吹かれて」「時代は変る」「ミスター・タンブリン・マン」「ライク・ア・ローリングストーン」などのヒット曲が次々に披露され、ディランに詳しくない人にもその魅力が伝わる作りになっています。ジョーン・バエズを演じたモニカ・バルバロの澄んだ歌声にも感心。「朝日の当たる家」を歌い上げる場面から引き込まれました。バルバロもまた歌とギターは未経験だったとのこと。

 そうした諸々の要素が絡まり合って前半は抜群に面白いです。後半がやや失速するのはエレキギターに変えたディランの変化の理由が今一つ伝わってこないからでしょう。当時の聴衆にも伝わらず、ステージに物を投げられるシーンがあります。

 ディランと恋人のシルヴィ・ルッソ(エル・ファニング)が見に行く映画はベティ・デイヴィス主演の「情熱の航路」(1942年、アーヴィング・ラバー監督)でamazonプライムビデオが配信しています。シルヴィ・ルッソのモデルとなったスージー・ロトロは「グリニッチヴィレッジの青春」という回顧録を出していますが、映画「グリニッチ・ビレッジの青春」(1976年、ポール・マザースキー監督)とは関係ありません。

監督はこの映画にも登場するジョニー・キャッシュを描いた「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」(2005年)のほか、「フォードvsフェラーリ」(2019年)「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」(2023年)などのジェームズ・マンゴールド。アカデミー作品、監督、主演男優賞など8部門ノミネート。
IMDb7.5、メタスコア70点、ロッテントマト81%。
▼観客12人(公開2日目の午前)2時間21分。

「劇場版トリリオンゲーム」

 無料だった原作2巻までを読み、ドラマを4話まで観たところで劇場版を見ました。ドラマの続きではなく、オリジナルの物語なのでドラマを見ていなくてもだいたいの話は通じます。

 原作通りのドラマは面白く見ましたが、映画は新鮮味に欠けた脚本(テレビと同じ羽原大介)の出来が芳しくない上に、演出(村尾嘉昭)も手際が悪いです。目黒蓮、佐野勇斗、今田美桜、福本莉子らの出演者は悪くありません。

 日本では違法なオンラインカジノが問題となっていますが、映画の舞台は日本初のIR構想で完成したカジノリゾートという設定。オンラインがダメで(特区とはいえ)実物は良いとする政府の考え方には疑問を感じます。実物だとなおさらダメでしょ、普通。
▼観客20人ぐらい(公開14日目の午後)1時間58分。

「ゆきてかへらぬ」

「ゆきてかへらぬ」パンフレット
「ゆきてかへらぬ」パンフレット
 大正時代から昭和初期にかけての女優・長谷川泰子(広瀬すず)と詩人・中原中也(木戸大聖)、文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)の「奇妙な三角関係」を描くドラマ。20歳の泰子と17歳の中也は京都で出会い、互いに惹かれ合って一緒に暮らし始める。東京に引っ越した2人の家を小林秀雄がふいに訪れる。中也の詩人としての才能を認める小林と小林に一目置かれていることを誇りに思う中原。小林は泰子に惹かれるようになる。

 パンフレットによると、脚本の田中陽造は金子光晴と愛人を描いた「ラブレター」(1981年、東陽一監督)の次にこの脚本を書いたそうですが、当時は昭和初期のセットを組む予算がなくて映画化に至らなかったそうです。長谷川泰子は「中原中也との愛 ゆきてかへらぬ」(角川ソフィア文庫)という告白的自伝を残していますが、映画の原作としてはクレジットされていません。これは田中陽造が「女性の告白は信用できない」ことを「ラブレター」の時に痛感したためで、この映画の細部はほとんど創作だそうです。

 序盤の広瀬すずと木戸大聖だけのドラマに、中盤から岡田将生が登場してくると、途端に画面が落ち着く感じがありました。広瀬すずは近年、若手女優の中では演技力に信頼がおけるようになりましたが、精神的な弱さも抱える長谷川泰子の役を演じるのは少し難しいように思えました。泰子の母親役で瀧内公美、中原の妻役で藤間爽子。柄本佑がゲスト的な出演をしています。

 根岸吉太郎監督が劇場用映画を撮るのは「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」(2009年、キネ旬ベストテン2位)以来16年ぶり。KINENOTEによると、2013年に三島由紀夫の戯曲「近代能楽集」を映画化した「葵上」(54分)と「卒塔婆小町」(51分)を監督していますが、どちらもDVDの企画で劇場未公開でした。
▼観客20人ぐらい(公開4日目の午前)2時間8分。

「おんどりの鳴く前に」

 ルーマニア・アカデミー賞(GOPO賞)6冠の辺境サスペンス。サム・ペキンパーの某作品を彷彿させるとの批評を聞いていたのを忘れ、クライマックスの展開に驚きました。ここ、コーエン兄弟の作品を連想した人もいたようですが、確かにそんな感じ。

 ルーマニア・モルドヴァ地方の静かな村で、野心を失い鬱屈とした日々を送る中年警察官イリエ(ユリアン・ポステルニク)。彼は果樹園を営みながらひっそりと第2の人生を送ることを願っていたが、平和なはずの村で惨殺死体が発見された。

 序盤の緩やかな展開をもう少し引き締めた方がミステリーらしくなったと思いますが、クライマックスの衝撃度は減じていたかもしれません。監督のパウル・ネゴエスクは1984年生まれの若手。
IMDb7.3、ロッテントマト100%(アメリカでは限定公開)。
▼観客11人(公開6日目の午後)1時間46分。

2025/02/23(日)「ブルータリスト」ほか(2月第3週のレビュー)

 Googleで「カーネーション 夏木マリ 何話から」と検索すると、以下の要約が出ます。
 「NHK連続テレビ小説『カーネーション』で夏木マリが演じる糸子の登場は、第145話からになります」(Search Labs | AI による概要)
「カーネーション 夏木マリ 何話から」の検索結果
 間違いです。実際には128話からでした。以前、この検索をしていたので、昨日の再放送127話の後の予告編に夏木マリが出てきて驚き、NHKオンデマンドで確かめたら、確かに128話から尾野真千子に代わって夏木マリが72歳の小原糸子を演じてました。

 GoogleのAIはBS12トゥエルビのサイトにある各週の概要紹介「145~151話」を見て、早とちりしたようです。当然のことながら、AIが常に100%正しいわけではないのです。それにしても尾野真千子が出ないとなると、「カーネーション」を見る意欲はだだ下がりです。

 NHKと言えば、アカデミー賞授賞式生中継の詳細が発表されました。司会は廣瀬智美アナウンサー、ゲストは佐々木蔵之介とトラウデン直美。レッドカーペット中継もやるそうです。良かったです。

「ブルータリスト」

「ブルータリスト」パンフレット
「ブルータリスト」パンフレット
 ホロコーストを生き延び、アメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トートの戦後の歩み描いた作品。タイトルは「打ち放しコンクリートやガラス等の素材をそのまま使い、粗野な印象の建物」の様式であるブルータリズムを行う建築家を意味しています。

 序曲、第一部「到着の謎 1947-1952」、第2部「美の核芯 1953-1960」、エピローグ「第1回建築ビエンナーレ 1980」で構成する3時間35分(インターミッション15分含む)。「序曲」のある映画はかつては「ベン・ハー」や「ウエスト・サイド物語」「2001年宇宙の旅」などありましたが、最近ではあまり見かけません。この映画の序曲は短いものの、こうした立派で本格的なパッケージングにより見応えは十分あります。ただ、大作感はそれほどなく、物語も通俗的と言えるものでした。

 大作感に乏しいのは物語の中心が1947年から1960年までの13年しかないためもあるでしょう。前半はペンシルバニアに住む従兄弟を頼って単身渡米したラースロー(エイドリアン・ブロディ)が富豪のハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)と出会い、大規模な礼拝堂とコミュニティセンターの設計と建築に携わるまでの5年間、後半は妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)がペンシルバニアに来て、礼拝堂の建築を進めながらラースローとハリソンの間に確執が生まれる様子を描いていきます。

 俳優でもある監督のブラディ・コーベットはこれが監督3作目ですが、過去2作(「シークレット・オブ・モンスター」「ポップスター」)はいずれも低評価に終わっています。

 ここでパンフレットを読んで愕然としたのはラースロー・トートが架空の人物であるということ。てっきり実在の人物かと思ってました。功績のダイジェストにせず、時代を絞ったのは賢明な処理とも思ったんですが、なんのことはない。そうなのか、フィクションなのか。それと、製作費が1000万ドル(約15億円)という少なさにも驚きました。5000万ドル以上、もしかしたら1億ドルぐらい掛かってるかと思ってました。大作感がなかったのはこのためなのか。監督として大きな実績もないのに、多額の予算の作品をまかせられたのはおかしいなと思ったんですよね。これぐらいの予算規模なら納得です。いや、コストパフォーマンスは抜群だと思います。

 というわけでパッケージングは一流、中身はそこまでではないというのが率直な感想でした。第1部よりもフェリシティ・ジョーンズが(意外な姿で)登場する第2部が面白かったです。
IMDb7.8、メタスコア90点、ロッテントマト94%。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞。アカデミー賞10部門ノミネート。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午前)3時間35分。

「セプテンバー5」

 1972年のミュンヘンオリンピック事件を生中継した米国のテレビ局ABCのスポーツ局スタッフを描くドラマ。なぜ今、この映画を作ったのか、その意図が気になります。公式サイトには「報道のあり方を問う、現代へのメッセージ」とありますが、果たしてそうか? 報道の在り方を問うなら、50年以上前の事件ではなく、今の事件に材を求めてはどうか。ガザで多くの子供を含む4万人以上を虐殺し、なおも攻撃をやめようとしないイスラエル擁護のプロパガンダ的意図があったのではないか、と勘ぐりたくなります。

 ミュンヘンオリンピック事件はパレスチナの武装組織「黒い九月」によって行われたテロ事件。五輪の選手村を襲撃、イスラエル選手2人を殺害し、9人を人質にしてイスラエルと西ドイツに拘束されている328人の解放を要求しました。犯人グループは海外への逃走を図りますが、空港で銃撃戦となり、人質9人含む選手11人、警察官1人、犯人5人が死亡しました。

 ABCのスタッフは選手村からの銃声を聞いて事件発生を知り、現地にいる強みを活かして生中継します。緊張感のあるタッチで悪くはないんですが、それだけで終わってます。驚くのは終盤の出来事で、当初、「人質は全員助かった」と発表され、ABCはそれを真っ先に報じ、他社も後追いしますが、後に「全員死亡」の間違いと分かります。この部分はスティーブン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」(2005年)でも冒頭のシーンで描かれていました。

 アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(1999年、ケヴィン・マクドナルド監督。DVDタイトルは「ブラック・セプテンバー ミュンヘン・テロ事件の真実」)も間違いの原因については触れていません。恐らく西ドイツ当局の単純なミスだったのでしょうが、これを未確認でそのまま報じてしまったことは後追いした他社も含めて大きな汚点でしょう。

 このドキュメンタリーには事件のその後が描かれています。生き残って逮捕されたテロリスト3人はルフトハンザ機ハイジャック事件の犯人の要求で解放されました。このハイジャック、乗客は12人しかいず、西ドイツ政府が絡んだ茶番だったという説があります。イスラエルは報復作戦を実行し、Wikipediaによると、PLOの基地を空爆して「65人から200人を殺害」し、犯人2人を含む武装組織の20人以上が暗殺されました(「ミュンヘン」はこの報復作戦を描いていました)。残る1人がこの映画のインタビューに顔を隠して登場しています。映画の評価はIMDb7.8、メタスコア82点、ロッテントマト93%。

 「セプテンバー5」がダメなのは「報道の在り方を問う」名目で、一連の経過を無視して局所的な場面しか描いていないからです(タイトル通り9月5日の出来事=イスラエル被害の場面だけ)。だから別の意図を勘ぐりたくなるわけです。

ジム・マッケイ(「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」より)
ジム・マッケイ
 事件を報じる番組でキャスターを務めたジム・マッケイのシーンは当時の放送が使われています。通訳スタッフのレオニー・ベネシュは「ありふれた教室」(2022年、イルケル・チャタク監督)の先生役。

 ドイツはこの事件の後、五輪を自国開催していませんが、2040年大会の開催に関心があるそうです。
IMDb7.1、メタスコア76点、ロッテントマト93%。アカデミー脚本賞ノミネート。
▼観客9人(公開6日目の午後)1時間31分。

「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」

「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」パンフレット
パンフレットの表紙
 20代のドナルド・トランプが凄腕の悪徳弁護士ロイ・コーンに導かれてトップへと成り上がるまでを描く実話ベースの作品。見ていて悪の台頭、というフレーズが頭に浮かびます。たいていの物語で巨悪は倒されて終わるんですが、現実の巨悪はまだまだこれから何をやるのか分かったものではない恐ろしい状況。絶望的な気分になりますが、敵を知ることにもメリットはあるでしょう。

 ロイ・コーンがトランプに教えた勝つための3原則は「攻撃、攻撃、攻撃」「何も認めず、全否定しろ」「勝利宣言をして決して負けを認めるな」。確かに今のトランプはこれを忠実に実行しているように見えます。トランプが負けや誤りを認めた場面など見たことがありませんから。

 映画は前半、ロイの忠実な弟子となるトランプを描いていますが、後半は力関係が逆転します。トランプは師匠を超える存在になっていくわけです。落ちぶれていくロイには悪い奴だと分かっていても悲哀を感じざるを得ません。

 トランプを演じるのはマーベルファンにはウィンター・ソルジャーとしてお馴染みのセバスチャン・スタン。外見と身振り手振り、喋り方をまねて完璧な演技を見せ、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。ロイ・コーン役のジェレミー・ストロングも助演男優賞候補。監督は「ボーダー 二つの世界」(2018年)、「聖地には蜘蛛が巣を張る」(2022年)のイラン出身アリ・アッバシで、今回も的確な演出を見せています。

 タイトルはトランプが2004年から2012年まで司会を務めたNBCのテレビ番組「アプレンティス セレブたちのビジネス・バトル」(WOWOWが以前放送したそうです)からきています。
IMDb7.1、メタスコア64点、ロッテントマト83%。
▼観客9人(公開7日目の午後)

「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」

 「違う惑星の変な恋人」(2023年)の木村聡志監督作品。オンライン試写で見ました。「グリーンバレット」(2022年、阪元裕吾監督)、「さよならエリュマントス」(2023年、大野大輔監督)に続いてミスマガジン受賞者が出演する映画製作プロジェクトによる作品で、2023年の受賞者6人が演じる女の子たちと高校生の代々木ジョニーをめぐる緩い青春群像劇です。ストーリー的にはなんてことないですが、とぼけた会話の微妙なおかしさで好感の持てる作品になっています。

 ちょっと変わった高校生の代々木ジョニー(日穏=KANON)は気の強い今カノ熱子ちゃん(松田実桜)を怒らせてしまったり、スカッシュ部のバタ子さん(加藤綾乃)、神父さん(高橋璃央)と部室でずっと喋っていたり、引きこもり生活中の幼なじみ神楽さん(一ノ瀬瑠菜)に会ったり、マイペースな放課後を送っている。しかし、名ばかりだったスカッシュ部に熱血部員デコさん(吉井しえる)が入部したことで他の部員ともどもちゃんと練習し、いきなり関東大会に出場することになる(スカッシュ部のある高校は少ないから)。ジョニーは宮崎から東京に来て祖父(マキタスポーツ)の喫茶店でバイトしている出雲さん(今森茉耶)と出会い、惹かれ合うようになるが…。

 出演はほかに渡辺歩、前田旺志郎、綱啓永ら。「違う惑星の変な恋人」もそうでしたが、木村監督の作品は会話が秀逸で、元は舞台劇かと思えるぐらいです。ただ、シーンの並列なので物語としてはあと一ひねりあっても良かったかなと思います。

 ミスマガジン2023グランプリの今森茉耶は実際に宮崎出身。今週号(2025年3月10日号)の週刊プレイボーイのグラビアに登場しているほか、始まったばかりの戦隊シリーズ第50作「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」でゴジュウユニコーン=一河角乃を演じています。映画は昨年の「あのコはだぁれ?」(清水崇監督)に続いて2本目。清楚なビジュアルは申し分ないので、戦隊の1年間で演技力を磨きたいところです。目指せ、高石あかり。

 映画は3月14日からの大阪アジアン映画祭で上映後、東京で公開、全国順次公開されるようです。1時間48分。