2000/10/25(水)「五条霊戦記」

 後の源義経である遮那王(浅野忠信)が高僧の阿闍梨(勅使河原三郎)を一刀両断する場面を見るまで、僕はこの映画を従来の弁慶と牛若丸の話と信じて疑わなかった。だから前半がかったるかった。どうせ、君らは今は対立していてもすぐに仲間になるんでしょうが、と思っていたのだ。しかし、映画は両親を殺され鬼となった遮那王と、お告げで鬼を倒すことに全精力を傾ける弁慶(隆大介)の対決をクライマックスに持ってくる。この2人は決して仲間にも主人と臣下の関係にもならず、対決すべき好敵手としてのみ描かれるのだった。

 そしてここでは、はっきりと遮那王は悪である。それを討とうとする平家も悪で、弁慶のみが乱れた世を救う善を体現しているのだった。アイデアは悪くないと思う。だが、映画化の技術が伴っていない。殺陣の見せ方、キャラクターの描き分け、画面の構成などに雑な部分が目に付く。陰々滅々とした一本調子の話は鬱陶しく、おまけに2時間17分は長すぎる。

 快作「さくや妖怪伝」の対極にある重い作りは残念だ。2人の対決を見届ける鉄吉(永瀬正敏)の使い方が一つのポイントだったように思う。もっとこの人物を軽妙に演出していれば、何とかなったかも知れない。石井聰亙監督に必要なのはそうした軽妙な演出なのだろう。

2000/10/18(水)「インビジブル」

 ポール・バーホーベン監督の“透明人間”もの。天才だが、性格は悪い科学者(ケビン・ベーコン)が自分を人体実験にして透明になる。そして性格がもっと悪くなるというお話。SFというよりもホラーで、科学者が透明になってからの振る舞いは化け物そのもの。秘密を守るため、部下の科学者を1人1人殺していくクライマックスはスラッシャー映画を思わせる。殺す動機も無茶苦茶である。

 透明人間をテーマにした映画はH・F・セイント「透明人間の告白」をジョン・カーペンターが監督した「透明人間」(1992年)以来か。ま、カーペンターの映画もあまり出来は良くなかったから、このテーマ難しいのだろう。

 「インビジブル」が変わっているのは透明になる技術は簡単に確立できたのに元に戻すのができないという設定。ケビン・ベーコンは元に戻す方法を思いつき、ゴリラで成功する。しかし、人間には通用せず、あわれ透明になったままになる。やけになってやりたい放題の振る舞いをするわけだけれど、女子トイレに侵入したり、隣に住む憧れの女に迫ったりで、どうも天才科学者とは思えない品性の低さである。そこがバーホーベンらしいといえばらしいところ。

 主人公は科学者の元恋人で、やはり科学者のエリザベス・シュー。「エイリアン」のシガニー・ウィーバーを彷彿させる役柄だ。バーホーベンはオランダ時代の作品を含めて好きな監督なのだが、最近は不調といっていいのではないか。

2000/10/16(月)「オータム・イン・ニューヨーク」

 中年プレイボーイと難病の若い女性との愛。と聞いただけでほぼ内容の想像はつくし、映画もそういう風に収斂していくのだけれど、そんな不満をウィノナ・ライダーが救っている。間もなく29歳になるライダーは22歳の役をやってもなんら違和感がなく、この映画の魅力はライダーが一身に背負っていると言っていい。まったく、ほれぼれするほど美しく、いつまでもいつまでも見ていたくなる。

 女優が輝く時期というのは実はとても短い。せいぜい30代前半までだろう。10代のころから映画に出ているライダーは今が本当の旬の女優なのではないかと思う。

 だからこそこのありふれた結末では惜しい。難病だからといって、お涙ちょうだいものにする必要は何もないのである。むしろハッピーエンドになっていたら、そんな馬鹿なと思いつつも、もっともっと気持ちの良い映画になっていただろう。いや、もちろん、この映画で感動する人もいると思う。僕だって途中、いくつかジンと来る場面があった。でもね。そんなありふれたパターンでは感動の限界というものがあるのである。

 監督2作目のジョアン・チェンの演出が悪いわけでもリチャード・ギアら俳優の演技が悪いわけでもなく、この映画の不備はすべて脚本にある。

2000/10/11(水)「X-メン」

 アメリカン・コミックスのヒット作を「ユージュアル・サスペクツ」(傑作)のブライアン・シンガー監督が映画化した。今からそう遠くない未来を舞台に、人類を憎悪し、滅ぼそうとするミュータント、マグニートー(イアン・マッケラン)の一味とそれを阻止しようとするエグゼヴィア教授(パトリック・スチュアート)率いるX-メンが対決する。設定もストーリーもまずまずなのだが、なんとなく盛り上がりに欠ける。主人公格のウルヴァリンを演じるヒュー・ジャックマン(若い頃のクリント・イーストウッドみたい)がやや弱いためか。

 「敵は強大、味方はわずか」というのがこの映画のコピー。でも敵だって4人しかいない。数から言えば、X-メンの方が多いんですよね。ただ、弱い。ウルヴァリンもストームもサイクロップスもジーン・グレイもクライマックスにマグニートー一人に歯が立たない。テレキネシスだ、破壊光線だといっても一人一人の力は大したことないんですね。

 ミュータントはその恐ろしい能力ゆえに社会から阻害された存在という設定だけれど、それをもう少しストーリーに絡めると良かった。ティム・バートン「バットマン リターンズ」のような深みが欲しかったところ。ブライアン・シンガーの演出は可もなく不可もなくといったレベルで、物語が発端のせいもあって、交通整理で終わった感がある。3部作となることが決まっているらしく、次はウルヴァリンの改造の秘密が中心になるのだろう。ウルヴァリンは仮面ライダー(あるいはロボコップ)のような存在で、改造人間ゆえの悲劇性がつきまとう。これを前面に押し出せば、もっとなんとかなるかもしれない。次に期待したい。

 パトリック・スチュアートは適役。ファムケ・ヤンセン、アンナ・パキン、ハル・ベリー、ついでに変幻自在のミスティーク役レベッカ・ローミン・ステイモスも含めて女優陣は良い。