2011/06/07(火)「わたしの渡世日記」

 文筆家としての高峰秀子を僕はまったく知らなかった。この本は北海道で生まれて、養女にもらわれ、養母との凄絶な愛憎を経て松山善三と幸福な結婚をするまでの半生を綴ったもの。結婚後20年ぐらいを経た時点で書いている。第一章の「雪ふる町」でその文体と内容に強く引き込まれる。映画ファンはいっそう楽しめるが、そうでなくても面白く読める一級の読み物だと思う。高峰秀子は5歳から女優の仕事を始め、ろくに学校にも行っていない。なのに、これほど面白い文章が書けるというのは、やはり生まれ持った才能によるものと、文章に人柄がにじみ出ているからだろう。

2011/05/02(月)「フランケンシュタイン 野望」

 ディーン・クーンツの小説。天才科学者ビクター・フランケンシュタインが200年後の今も生きていて、新人種を多数作り出しているという設定。新人種は社会の至る所に送り込まれ、旧人種(つまり今の人間)を絶滅させる日に備えている。臓器など体の一部を切り取る凄惨な連続殺人事件の捜査をしていた女性刑事カースンとマイケルはフランケンシュタインの存在にたどりつく。フランケンシュタインが最初に創造したモンスターはデュカリオンと名乗り、やはりフランケンシュタインの野望を阻止しようとしていた。

 シリーズの第一弾。連続殺人事件だけで話が終わるのはいかにも導入部という感じだが、物足りないことこの上ない。話の密度が薄いのだ。元々、マーティン・スコセッシも企画に加わったテレビシリーズ用に書いた原作だが、制作者と意見が合わず、クーンツもスコセッシも降板した。テレビシリーズ自体もパイロット版(2004年、マーカス・ニスペル監督)だけで頓挫したとのこと。同じクーンツのオッド・トーマスシリーズは1作目が素晴らしかったので、4作目まで読んだが、そのシリーズを中断してこれにとりかかる必要があったとは思えない。といっても水準はクリアしている。パイロット版は「デュカリオン」としてDVDが出ている。新たに映画化の話があるそうだ。

2011/04/23(土)「クリスマスに少女は還る」

 昨年、このミスで1位となった「愛おしい骨」のキャロル・オコンネルの小説で2000年版このミス6位。個人的には「愛おしい骨」より面白かった。

 「クリスマスも近いある日、二人の少女が失踪した。刑事ルージュの悪夢が蘇る。十五年前に殺された双子の妹。だが、犯人は今も刑務所の中だ。まさか? 一方、監禁された少女たちは奇妙な地下室に潜み、脱出の時をうかがっていた」という物語。

 終盤に驚愕すること請け合い。意外な犯人には驚きもしないが、読者に仕掛けるトリックが秀逸。物語の魅力になっている部分にトリックがある。それがトリックだけに終わらず、物語とキャラクターの深みにつながっているのが良い。「愛おしい骨」の解説で川出正樹は「超絶技巧の」と紹介していたが、なるほどと思った。

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