2025/11/09(日)「プレデター バッドランド」ほか(11月第1週のレビュー)

 宮崎市出身のグラビアアイドルで女優の今森茉耶が「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」(テレ朝)から降板することが発表されました。未成年(19歳)なのに飲酒が発覚したことが理由で、所属事務所も契約解除という厳しい処分。今森茉耶に関しては週刊文春が9月、2週にわたってスーツアクターとの不倫とJリーガーとの二股を報じました。

 その時は3カ月先まで既に撮っているからとの理由で「ゴジュウジャー」降板はありませんでしたが、子ども向け番組に不倫女優の出演が許されるはずもなく、テレ朝と東映は密かに準備していたのでしょう。準備が整ったので飲酒を理由に降板発表という流れなのではないかと思います。今日の放送はゆっくり配信で見ようと思ったら、まだ配信に出てません(仮面ライダーはあるのに)。Yahoo!ニュースによると、オープニングから今森茉耶の姿は消されてたとか。残念です。

「プレデター バッドランド」

「プレデター バッドランド」パンフレット
パンフレットの表紙
 これまで悪役だったプレデターを主人公にしたSFアクション。監督が「プレデター ザ・プレイ」(2022年、ディズニープラスで配信)で高い評価を集めたダン・トラクテンバーグなので隙のない仕上がりですが、プレデターの凶悪で醜い容貌は主人公よりも悪役の方が似合っています。それが気にならなくなるほどの面白さには至っていませんでした。続きを意識したラストでしたが、さてどうなるでしょうね。

 ヤウージャ族(プレデター族)の若き戦士デク(ディミトリアス・シュスター=コローマタンギ)は一族の落ちこぼれと見なされ、父親は兄クウェイにデクの処刑を命じる。それに応じなかったクウェイを父は殺し、デクは間一髪、難を逃れて最悪の土地ゲンナ星へ向かう。そこに住む怪物カリスクを倒し、持ち帰れば、父を見返すことができる。ゲンナ星は凶悪な生物が跋扈する世界。そこでデクは地球から来てカリスクに襲われ下半身を失ったアンドロイドのティア(エル・ファニング)と出合う。ティアは同じくアンドロイドのテッサ(エル・ファニングの二役)らとカリスクを狙っていたのだった。デクとティアは協力し合うが、テッサの一行と対立することになる。

 このストーリーならプレデターである必要はなかったような気もします。トラクテンバーグ監督も「純然たる『アドベンチャー映画』」と言っていますが、まず面白いです。殺伐としたストーリーにユーモアの潤いをもたらすエル・ファニングを出したのが大きなポイントですね。続編作るなら、ファニングも出して欲しいです。
IMDb7.6、メタスコア71点、ロッテントマト85%。
▼観客多数(公開初日の午前)1時間46分。

「旅と日々」

「旅と日々」パンフレット
「旅と日々」パンフレット
 つげ義春の原作「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を組み合わせて三宅唱監督が映画化。ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞しました。原作はどちらも短編で、映画は「海辺の叙景」の脚本を書いた韓国人の女性脚本家がスランプを感じて東北に旅に出る設定になっています。旅先で描かれるのが「ほんやら洞のべんさん」の話というわけ。「ほんやら洞」とは雪のカマクラの意味だそうですが、映画に「ほんやら洞」は出てきませんでした。

 前半はある島の夏の海が舞台。海岸でぼんやりしていた夏男(高田万作)はよそから来た渚(河合優実)と出会う。なんとなく一緒に島を散策して気のあった2人は翌日も会うことを約束する。台風が近づく中、翌日は雨。2人は強い波の中、海で泳ぐ。なんてことはない話ですが、映画を見た大学教授の魚沼(佐野史郎)が「セクシーで官能的」と感想を述べるのに納得します。河合優実が意外なことに水着姿も見せて確かにセクシーでした。この前半も良いのですが、メインはやっぱり後半のユーモア。

 冬。急逝した魚沼教授から生前、「気晴らしに旅行にもで行くと良いですよ」とアドバイスを受けた李(シム・ウンギョン)は東北へ旅立つ。宿の予約もしていなかったので、ホテルは満室で泊まれず、ホテルの人に紹介されて大雪の中、古びた宿にたどり着く。その宿を営むべん造(堤真一)はものぐさで、まともな食事も出ない。布団も自分で敷かなければならない。べん造は「錦鯉のいる池に行くか」と李を連れ出す。

 三宅監督はつげ義春作品の中でこの2作が特に好きだそうです。べん造を演じた東北弁の堤真一が出色のおかしさでした。大きなドラマはありませんが、主人公にとっては非日常の中での出来事がいちいち面白いです。シム・ウンギョンも好演しています。
▼観客6人(公開初日の午後)1時間29分。

「フランケンシュタイン」

 Netflixで見ました。モンスターが好きなギレルモ・デル・トロ監督が最初のSFとされるモンスター小説の名作を映画化。北極でのプロローグに始まって、第1部「ヴィクターの話」、第2部「怪物の話」で構成してあり、第1部はヴィクター・フランケンシュタイン(オスカー・アイザック)の回想、第2部はヴィクターが創ったモンスター(ジェイコブ・エロルディ)の回想となっています。

 ヴィクターはマッド・サイエンティストの始祖でもあり、前半、死体をツギハギしてモンスターを創る過程はサイコパスの様相です。ただ、その前にいくつかの実験で死体を電流で動かしており、科学的であったりします。このあたり、デル・トロ監督はしっかり作っていて、原作を正攻法で描いていると思いました。特徴的なのはモンスターに傷の再生能力があることで、モンスターは撃たれても斬られても死にません。フランケンシュタインのモンスターが登場する作品は多いですが、これは初めて見る設定でした。

 モンスター役のエロルディは「プリシラ」(2023年、ソフィア・コッポラ監督)でエルヴィス・プレスリーを演じた俳優。身長196センチで、アイザックとは22センチ差なのでモンスター感がありますね(小説のモンスターは8フィート=約244センチ)。ヴィクターの弟と結婚するエリザベスを「X エックス」三部作のミア・ゴス、その父親をクリストフ・ヴァルツが演じています。
IMDb7.7、メタスコア78点、ロッテントマト86%。2時間29分。

「盤上の向日葵」

 柚月裕子の原作を熊澤尚人監督が映画化。話が古く、演出も古く、現代の将棋を知らない人が作った映画としか思えませんでした。将棋の真剣師って、昭和初期の設定ならリアリティーがあったのでしょうが、映画の舞台となった昭和から平成にかけての時代にはもはや存在していなかったでしょう。

 山中で身元不明の白骨死体が発見される。遺体には7組しか現存しない希少な将棋駒があったこと。駒の持ち主は将棋界で頭角を現した棋士・上条桂(坂口健太郎)だった。桂介を巡る捜査線上に、賭け将棋で裏社会を生きた伝説の真剣師、東明重慶(渡辺謙)が浮かぶ。桂介と東明の間に何があったのか?

 一手指すたびに相手をにらむ、判で押したように毎回にらむ演出は対局を見たことがないんじゃないかと思える撮り方。将棋が一番強いのは10代から20代にかけてということが通説で、東明が苦戦する相手の老真剣師・兼埼(柄本明)が強さを保つのはほとんど無理な状況になっています。まあ、プロじゃないからあり得るのかもしれませんが。
▼観客6人(公開7日目の午後)2時間3分。

「恒星の向こう側」

 東京国際映画祭で福地桃子と河瀨直美が最優秀女優賞を受賞した中川龍太郎監督作品。会場のヒューリックホール東京は900席近い広さですが、ほぼ満席でした。これは映画の人気というよりゲストだった久保史緒里の人気が影響したのかもしれません。

 映画祭の公式サイトから紹介記事を引用すると、「母の余命を知り故郷に戻った娘・未知は、寄り添おうとしながらも拒絶する母・可那子と衝突を重ねる。夫・登志蔵との間に子を宿しながらも、亡き親友への想いに揺れる彼の姿に不安を募らせる未知。母の遺したテープから“もうひとつの愛”を知ったとき、彼女は初めて母を理解し、母から託された愛を胸に進んでいく」ということになります。

 母が河瀬直美で娘が福地桃子。特に河瀬直美が怖い母親を演じていて女優賞にも納得します(この人、普段から怖そうです)。福地桃子は本来はユーモアのある役柄が似合う女優と思いますが、この映画でも好演しています。この母娘の確執に絞れば良かったのに、映画は他の要素が入ってきて話を分かりにくくしています。

 一つは冒頭、福地桃子が勤める養護施設での騒動。騒ぎを起こした外国人の少年アントニオをかばう久保史緒里の姿を描いていて、ここは久保史緒里の少しヒステリックな演技が良いのですが、映画全体とのかかわりが今一つ見えません。スタッフからも「このシーンがなぜあるのか分からない」という意見が出たそうです。終盤にもう一度、エピソードの続きを描いた方が良かったんじゃないですかね。

 もう一つは福地桃子の夫・寛一郎が演出する舞台のシーン。その舞台に出ているのが朝倉あきと南沙良なんですが、これは現実を題材にした内容で、舞台のシーンから現実の過去に話が移っていきます。説明が何もないので最初は戸惑いました。

 上映後の舞台あいさつと質疑応答には久保史緒里のほか、中川監督と朝倉あきが登壇しました。中川監督の発言は明快だったんですが、物語の狙いを脚本に落とし込む段階でうまくいってない印象を受けました。

 タイトルは母娘の距離の遠さを表しているようです。英語タイトルは“Echoes of Motherhood”(母性のエコー)と直接的でこちらの方が内容を想像しやすいと思います。1時間31分。

2025/11/02(日)「爆弾」ほか(10月第5週のレビュー)

 10月は宮崎市内の映画館で65本の新作映画が公開されました。僕が劇場で見るのは毎月だいたい20本前後で、こんなに公開本数が多いと見逃し作品も多くなります。見逃した映画は配信で見るんですが、劇場で見る映画を選ぶ際にこぼれた作品は配信でもあまり見たい気は起きません。11月は今のところ46本公開予定です。

「爆弾」

「爆弾」パンフレット
「爆弾」パンフレット
 呉勝浩の原作を「恋は雨上がりのように」「キャラクター」の永井聡監督が映画化。暴力行為で警察に拘束された中年男が爆弾の爆発を霊感と称して予言、その言葉通り、爆弾は都内各所で次々に爆発するというサスペンス。警察の取り調べと捜査、爆発シーンのスペクタクルで構成され、悪くない出来だと思います。

 ただ、爆弾犯スズキタゴサクを演じる佐藤二朗はいつものような演技で、クセが強すぎる感じがしました。原作のタゴサクもクセ強な人物ではありますが、少し方向が異なります。飄々とのらりくらりと取り調べの刑事を煙に巻くタゴサクが本心を言い当てられて、思わず素を見せてしまう場面などもなかったですね。

 原作を読み終えたのが映画を見る45分前だったこともあって、取り調べシーンに意外性は皆無でしたが、爆発シーンの迫力には感心しました。動きの少ない取調室とは対照的で、VFX班が良い仕事をしています。タゴサクを取り調べる刑事は野方署の等々力(染谷将太)から始まって、警視庁の清宮(渡部篤郎)、類家(山田裕貴)と代わります。特に山田裕貴が良かったですが、事件の背景の推理で優秀すぎる感じがしました。タゴサクの動機も原作では納得しましたが、映画は少し説得力を欠きます。

 交番の警官に坂東龍汰と伊藤沙莉。この先輩後輩コンビは良かったです。原作は「このミステリーがすごい!2023年版」で1位。続編の「法廷占拠 爆弾2」は2025年版7位でした。今、読んでます。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午後)2時間17分。

「Mr.ノーバディ2」

「Mr.ノーバディ2」パンフレット
「Mr.ノーバディ2」パンフレット
 「舐めてた男が殺し屋だった」を地で行くアクション映画の5年ぶりの続編。主人公ハッチ(ボブ・オデンカーク)の一家が夏休みであるリゾート地に行き、そこを牛耳る巨悪組織と戦いになるという展開。格闘アクションは相変わらず良いのですが、物語が極めてフツーの出来で物足りません。

 クライマックスではハッチの妻ベッカ(コニー・ニールセン)と父親デヴィッド(クリストファー・ロイド)も活躍します。組織の女ボス・レンディーナ役にシャロン・ストーン。監督はインドネシア出身のティモ・ジャヤント。
IMDb6.3、メタスコア59点、ロッテントマト77%。
▼観客20人ぐらい(公開7日目の午後)1時間30分。

「ミーツ・ザ・ワールド」

 金原ひとみの原作を松居大悟監督が映画化。擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」を愛する27歳の女性会社員が歌舞伎町のキャバ嬢に出会い、新たな生き方に踏み出す話。女性会社員の由嘉里を杉咲花、美しく虚無的なキャバ嬢ライを南琴奈が演じています。

 杉咲花の圧倒的なリアリティーに支えられた映画で、饒舌な文体の原作同様、杉咲花は早口でセリフをしゃべりまくります。由嘉里と同じか少し上の年齢の女性のように思えるライ役の南琴奈は「実際には24、5歳か」と思ったら、19歳。オーディション時には高校2年生だったそうで、10歳ぐらい上の役を演じることを考えると、松居監督、よくキャスティングしましたね。フィルモグラフィーを見ると、映画「アイスクリームフィーバー」「水は海に向かって流れる」「花まんま」のほか、ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」などの出演作がありますが、今回がもっとも印象的でした。

 エンドクレジットに菅田将暉の名前がありました。これは電話の声だけで登場するライの元カレ役なのでしょう。脚本は演劇ユニットを主宰する國吉咲貴。
▼観客10人ぐらい(公開6日目の午後)2時間6分。

「てっぺんの向こうにあなたがいる」

「てっぺんの向こうにあなたがいる」パンフレット
「てっぺんの向こうにあなたがいる」パンフレット
 「そんなはずはありません。本人が言ってるんだから、間違いありません」。ガンで余命3カ月を宣告された多部純子(吉永小百合)はそう言って治療に取り組みますが、その言葉通り、それから6年余り生き抜きます。かといって、闘病の描写はそれほど多くなく、東日本大震災で被災した東北の高校生たちの富士登山事業に打ち込む純子と、それを支える家族の姿を描いています。

 多部純子のモデルは女性で初めてエベレストに登頂した田部井淳子さん。田部井さんがエベレスト登頂に成功したのは50年前の1975年で、阪本順治監督は当時の風俗を盛り込みながら、まだまだ女性蔑視が多い中、パンに塗るジャムの量まで減らすなど節約に努めて登山の準備を進める女性たちを描いていきます。登頂には成功したものの、純子一人が世間の脚光を浴びたこともあって、グループはギクシャクして瓦解。家庭でも長男の真太郎(若葉竜也)が純子に反発を感じて家を出てしまいます。

 吉永小百合の近年の主演作品にはあまり面白いものがありませんでしたが、これはそうした先入観を払拭する出来になっていると思いました。阪本監督は細かい描写がいちいちうまいです。終盤をもう少し刈り込んだ方が良かったかなとは思います。

 純子の若い頃を演じるのがのん。親友で新聞記者の北山悦子(天海祐希)の若い頃を茅島みずきが演じています。脚本は「銀河鉄道の父」(2023年、成島出監督)などの坂口理子。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間10分。

「やがて海になる」

あいさつする咲妃みゆさん(宮崎キネマ館)
あいさつする咲妃みゆさん(宮崎キネマ館)
 高鍋町出身の元タカラジェンヌ・咲妃みゆのあいさつ付きの上映回で見ました。咲妃みゆは実際には延岡市出身で両親の仕事の関係で県内各地を引っ越した後、今の実家が高鍋町にあるのだそうです。

 映画は広島県江田島市が舞台。うだつの上がらない生活を送っている修司(三浦貴大)と東京で映画監督として活躍する和也(武田航平)、呉市のスナックで働く幸恵(咲妃みゆ)の3人の関係を描いています。幸恵は高校時代、和也と付き合っていましたが、修司も密かに思いを寄せていました。今は水産会社社長と不倫関係を続けているという設定。江田島市は沖正人監督の故郷だそうですが、どうも話の内容は今一つ。脚本をもっと練って欲しかったところです。

 上映後のQ&Aで質問した観客が4人いましたが、いずれも宝塚時代からのファンという女性でした。県外からわざわざ来たのでしょうかね。咲妃みゆは普段は舞台が中心とのこと。あいさつでの好感度が高かったので映画でも良い作品に出会ってほしいと思いました。
▼観客多数(公開4日目の午後)1時間30分。

「ファイナル・デッドブラッド」

 一時は劇場公開が危ぶまれた映画ですが、一部の劇場で10月10日に公開後、22日から配信も始まりました。というわけでU-NEXTで見ました。傑作とは呼べないまでも、「ファイナル・デスティネーション」(2000年、ジェームズ・ウォン監督)に始まる「ファイナル」シリーズ6作の中で一番面白いという評価には頷けて、これならもっと拡大公開しても良かったのではないかと思います。

 冒頭、1960年代にスカイビュータワーが倒壊し、多数の犠牲者が出るシーンが迫力たっぷりで見せます。ここでプロポーズを受けるはずだったアイリス(ブレック・バッシンジャー)も事故に巻き込まれて死にますが、これはアイリスが予見した内容で、実際にはアイリスの機転で多くの人が救われました。アイリスの孫娘ステファニー(ケイトリン・サンタ・フアナ)は毎晩そのタワーが倒壊する夢を見て不審に思い、実家から離れて1人で暮らす祖母アイリス(ガブリエル・ローズ)を訪ねます。そこで分かったのはあの日、タワーにいて生き残った人たちとその家族・子孫が次々に亡くなっていること。死の運命には逆らえなかったわけです。このままではステファニーと両親、兄弟たちも死んでしまいます。

 死を回避するには2つの方法があります。一つはいったん死んで復活すること、もう一つは誰かを殺してその余命を受け継ぐこと。年長者から順番に死んでいくルールもあり、これはつまり誰かがこの2つの方法のどちらかで死を回避できれば、それより若い世代は死を免れるということです。ステファニーは死の運命を変えるために奔走しますが…。

 本作は14年ぶりのシリーズ作品。全体的にグシャッ、ベチョッという風な死に方が多いですが、R-18指定になるほど残酷ではありません。監督はアダム・スタインとザック・リポフスキー。
IMDb6.7、メタスコア73点、ロッテントマト92%。

2025/10/26(日)「愚か者の身分」ほか(10月第4週のレビュー)

 劇場版が12月に公開されるのでドラマ「緊急取調室」を第1シーズン(2014年)から見ています。第2話「しゃべらない男」に小芝風花に似てる子役が出てきたのでGoogle検索すると、AIモードでは小芝風花が「出ている」「出ていない」の結果が混在してました。エンドクレジットを確認すると、ちゃんと小芝風花の名前がありました。GoogleのAIモードは結果に揺れがあるのが困りますね。以前にも書きましたが、疑ってかかった方が良いです。

「愚か者の身分」

「愚か者の身分」パンフレット
「愚か者の身分」パンフレット
 近年のノワール映画のベスト。比較範囲を世界に広げてもベストだと思います。戸籍の売買を行う半グレ集団から抜けようとする若者たちを描き、相当にハードなこの傑作を生んだのが女性監督の永田琴であり、原作者の西尾潤もまた女性であるのが驚きでした。この映画、残虐さを含むシーンから見て、三池崇史あたりが監督と言われても信じたでしょう。ただ、その場合、「三池崇史、エモーショナルな演出でも随分腕を上げたな」と思ったかもしれません。

 あまりの面白さに驚いて、急いで原作を読みました。第一章「柿崎護」が大藪春彦賞を受賞した短編で、二章「槇原希沙良」、三章「江川春翔」、四章「仲道博史」(私立探偵で映画には登場しません)、五章「梶谷剣士」と5人の視点で描かれています。これについて、脚本の向井康介は「登場人物が多すぎる」と当初、難色を示したそうですが、永田監督がマモル(林裕太)、タクヤ(北村匠海)、梶谷(綾野剛)の3人に絞ることを提案。原作にはないタクヤの章を設け、主人公としました。これが奏功して、映画は謎をはらんだ一直線の面白さを備えることになったと思います。

 永田監督の演出は重厚なアクションシーンも良いですが、タクヤがアジの煮付けを作ってマモルに食べさせるシーンや逃走中の梶谷がタクヤの髪を洗ってやるシーンなど普通の場面での情感の盛り上げ方に優れています。タクヤとマモルの関係は「傷だらけの天使」(1974年のドラマ)の萩原健一と水谷豊を思わせました。出番の少ない山下美月と木南晴夏の女優2人の魅力を引き出した描き方もさすがです。なお、山下美月が演じた希沙良は原作の第二章で格闘場面があり、これは映画でも見たいシーンではありました(ここを入れると、登場人物とエピソードが増えて上映時間が長くなるので、カットしたのは仕方ありません)。

 永田監督は多くのテレビドラマのほか、これまでに10本の映画を撮っていますが、高い評価を受けてきたわけではありません。しかし、そうした多数の演出経験が無駄になるはずはなく、確実に力をつけてきたのでしょう。だから、優れた脚本とスタッフと俳優に恵まれたこの作品で大きな飛躍を果たし得たのだと思います。この作品を「再デビュー作」と位置づけているそうで、今後が楽しみです。

 僕が見た時は観客10人ぐらいで、僕以外は北村匠海のファンとおぼしき女性ばかり。「匠海くん主演だ、キャー」と思って見に来た女性ファンは中盤のあのショッキングな場面で「ギャーッ、た、匠海くん…」と卒倒しそうになったんじゃないでしょうかね。そんな場面がありながら、見終わってほっこりした気分になるのがこの作品の美点です。

 この小説には続編「愚か者の疾走」があり、11月11日発売予定です。映画も同じスタッフ・キャストで続編をぜひ作ってほしいと思います。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午後)2時間10分。

「ファンファーレ!ふたつの音」

「ファンファーレ!ふたつの音」パンフレット
パンフレットの表紙
 「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台」(2020年)のエマニュエル・クールコル監督作品。白血病にかかった有名指揮者が骨髄ドナーを捜す中、自分に弟がいることが分かる。移植手術を受けて兄は元気になり、交流を続けているうちに弟に音楽の才能があることが分かる、という展開。

 兄のティボをバンジャマン・ラヴェルネ、弟ジミーをピエール・ロッタンが演じています。特にユーモアを交えたロッタンの好感度が高いです。

 ジミーは炭鉱町の楽団に所属しています。映画はオリジナルストーリーですが、その基になったのはクールコル監督がフランス北部の大衆的なブラスバンドに出合ったことだったそうです。映画は有名なオーケストラ指揮者と地方の楽団を描いて、途中までは素晴らしい出来なのですが、劇中に提起された問題がラストで何も解決しないのがちょっと残念でした。
IMDb7.4、ロッテントマト95%。
▼観客15人ぐらい(公開5日目の午後)1時間43分。

「ストロベリームーン 余命半年の恋」

「ストロベリームーン 余命半年の恋」パンフレット
「ストロベリームーン」パンフレット
 芥川なおの純愛小説を酒井麻衣が監督。主演の當真あみをはじめ、出演者の好演に反して難病ものの範疇を出て行かない展開が惜しいです。

 映画の中ではっきり病名は明かされませんが、主人公の桜井萌(當真あみ)の生まれつきの病気は心臓に関するものなのでしょう。学校に通えなくなったため、自宅学習を続けてきましたが、病院で余命半年を宣告された帰り、ある男子生徒が幼い少女を助ける光景を見て、高校に通うことを決意します。入学式の当日、教室でその男子生徒・佐藤日向(齋藤潤)に出会い、告白。萌は自分が余命わずかであることを隠して日向との交際を深めていきます。

 脚本はベテランの岡田惠和。語り手を原作の日向から萌に変更するなど手を尽くしているようですが、ゴールの見えた話なので限界はあります。

 當真あみの親友役・高遠麗(うらら)を演じる池端杏慈が良いです。声優を務めたアニメ「かがみの孤城」(2022年、原恵一監督)を除けば、映画はこれが「矢野くんの普通の日々」(2024年、新城毅彦監督)に続いて2本目。年末公開の「白の花実」(坂本悠花里監督)にも出ています。広瀬すずや清原果耶などが務めた全国高校選手権の応援マネージャーに選ばれたそうで、一気にブレイクしそうです。

 原作の続編「コールドムーン」はその高遠麗が主人公だそうですが、10年後の設定なので池端杏慈の主演は残念ながら無理筋。映画で言えば、杉野遥亮と中条あやみの話になりますね。
▼観客6人(公開7日目の午後)2時間7分。

「おいしい給食 炎の修学旅行」

「おいしい給食 炎の修学旅行」パンフレット
パンフレットの表紙
 市原隼人主演の人気シリーズ劇場版第4弾。1990年、給食をこよなく愛する中学教師・甘利田幸男は3年生の担任となって青森・岩手の修学旅行へ行く。名物のせんべい汁に舌鼓を打つ甘利田たちだったが、そこで出会った厳格な指導の中学校の交流給食に招かれる。

 市原隼人は相変わらずおかしいんですが、タイトルの修学旅行以外の部分が多く、上映時間を持て余している感じ。大きな話ではないので、80分から90分程度にまとめた方が良かったと思います。短くまとめるのも見識です。脚本は永森裕二、監督は綾部真弥。映画の終わり方からすると、またテレビシリーズをやるのでしょう。そっちの方が楽しみかも。
▼観客6人(公開初日の午前)1時間54分。

2025/10/19(日)「DREAMS」ほか(10月第3週のレビュー)

 東京国際映画祭のチケットが昨日発売され、僕は6作品のチケットを買いました。例年同様、どの映画の販売ページもアクセス集中でなかなか開かないことが多かったのですが、中川龍太郎監督の「恒星の向こう側」は特に混雑しているようで、購入ページを開くのに10分以上かかりました。

 コンペティション部門はさすがに競争が激しいなと思ったんですが、映画祭のサイトをよく見たら、僕が買った回は舞台あいさつとQ&Aコーナーが予定され、監督のほかに女優の朝倉あき、久保史緒里(乃木坂46)が登壇するのでした(主演は福地桃子なんですけど)。なるほど、アクセスが殺到するわけです。買えたのはかなり後ろの席。久保史緒里、豆粒ぐらいにしか見えないでしょうねえ。

「DREAMS」「SEX」

「DREAMS」「LOVE」「SEX」パンフレット
パンフレットの表紙
 「DREAMS」はダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督による「オスロ 3つの愛の風景」三部作の1本で、ノルウェー映画として初めてベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しました。

 17歳の高校生ヨハンネ(エラ・オーヴァービー)は新任の女性教師ヨハンナ(セロメ・エムネトゥ)に恋をする。手編みを習う名目でヨハンナのアパートに通うようになるが、やがてヨハンナには女性の恋人がいることが分かる。失恋したヨハンネは1年後、ヨハンナとの付き合いを手記にまとめる。手記を読んだヨハンナの祖母(アンネ・マリット・ヤコブセン)と母(アネ・ダール・トルプ)は2人の生々しい性的描写にショックを受け、波紋を引き起こす。

 母親がヨハンナの思いを「同性愛の始まり」と言ったことにヨハンナは不服そうな顔をします。ヨハンナにとっては単なる愛する心であり、異性愛との区別はないのでしょう。10代の女の子の初恋を描いていて、30代・40代の愛を描いた他の2作より若い世代に受ける映画なのではないかと思います。
IMDb7.3、メタスコア81点、ロッテントマト92%。
▼観客3人(公開初日の午後)1時間50分。

 三部作のもう1本「SEX」は前日に見ました。意図せずに男とのセックスを経験した夫が妻にそのことを話したことで、夫婦間にひずみが起こる展開。夫は罪悪感が全くなかったことから、妻に正直に打ち明けたんですが、妻は夫の行為を浮気と断定し、大きく傷つきます。

 ハウルゲード監督の三部作に共通するのはディスカッションドラマの様相があることですが、これはほぼ全編ディスカッションという感じ。エモーショナルな部分が少なかったことで、評価も他の2作ほど高くなっていません。

 観客が僕だけでしたけど、これはこのタイトルの影響もありそうです。原題がそうなので難しいんですが、女性が窓口ではなかなか言いにくいタイトルだと思います。

 この三作、同性愛を含めた愛のトリロジーになっていて、僕は「LOVE」「DREAMS」「SEX」の順で良かったと思いました。
IMDb6.6、メタスコア69点、ロッテントマト82%。
▼観客1人(公開7日目の午後)1時間58分。

「ハウス・オブ・ダイナマイト」

 核戦争の危機を描き、「未知への飛行」(1964年、シドニー・ルメット監督)を思わせるサスペンス。

 アメリカに向かってくるICBMが確認される。国内のどこかの都市に着弾するのは確実で、それまでの時間はわずか18分。映画はこの18分間を3人の登場人物の視点で繰り返します。

 ミサイルはどこから発射されたのか分かりませんが、軌道から見て恐らく北朝鮮と推測されます。米軍は迎撃ミサイルを2発発射しますが、1発は軌道を外れ、もう1発も迎撃に失敗。秒速6キロで進むミサイルをミサイルで撃ち落とすのは「弾丸を弾丸で撃つようなもの」であり、「迎撃できる確率は61%」というセリフが出てきます。

 大統領はこれ以上の攻撃を防ぐため、相手国への報復攻撃を迫られます。3レベルの攻撃をレア、ミディアム、ウェルダンと例えるのが怖いです。キャスリン・ビグロー監督はいつものように骨太の演出で見せますが、別の視点とはいっても18分を3度繰り返す脚本(ノア・オッペンハイム)には一考の余地があると思いました。

 出演は米軍大佐にレベッカ・ファーガソン、大統領副補佐官にガブリエル・バッソ、大統領にイドリス・エルバ。

 タイトルは爆薬がいっぱいに詰まったような状態で一触即発の現在の世界を意味しています。どこかの国が核ミサイルを発射したらそれで世界は終わりなわけです。24日からNetflixで配信されます。
IMDb7.4、メタスコア80点、ロッテントマト84%。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間52分。

「風のマジム」

「風のマジム」パンフレット
「風のマジム」パンフレット
 実話を基にした原田マハの小説を伊藤沙莉主演で映画化。沖縄産サトウキビを原料にしたラム酒作りを目指す女性派遣社員を描いています。クライマックスに社会人の常識としてはあり得ないと思える展開があり、気になったので原作を読みました。ここ以外はよくまとまった映画だと思います。

 気になった部分を具体的に書くと、派遣社員である主人公の伊波まじむ(伊藤沙莉)は南大東島のサトウキビを材料に沖縄の醸造家・瀬名波(滝藤賢一)に依頼してアグリコール・ラムを作る企画で社内コンペに応募します。それをサポートする正社員の先輩・糸数啓子(シシド・カフカ)は醸造家として有名な東京の朱鷺岡(眞島秀和)を提案、まじむもいったんはこれに納得します。しかし、朱鷺岡の横柄な人柄と言動に反発を覚えたまじむは純沖縄のラム酒にしたいと、醸造家を瀬名波に替えたプレゼン資料を内緒で用意し、役員にそれを配って説明します。同じチームの先輩に無断でこれをやるのはどう考えてもおかしいです。だまし討ちのようなやり方をせず、先輩の説得を試みるのが先でしょう。

 原作でもこの流れではあるんですが、先輩のキャラが映画より意地悪になっていて、啓子は本音ではこう思ってます。

 「沖縄産ラム酒製造なんて面倒くさいだけさ。こんな事業やられたらうちもたまったもんじゃないよ。さっさとつぶして、次いかなくちゃでしょ」

 だから、まじむが啓子の意図に反した資料を用意するのもまあ納得できるわけです。映画も啓子のキャラをもっと意地悪く描いた方が良かったのでしょう。

 まじむのモデルとなったのは南大東島に本社があるグレイスラム株式会社の代表取締役・金城祐子さん。原田マハは作家になる前に取材し、いつか小説に書くことの了承を得ていたそうです。

 「まじむ」は沖縄ことばで「真心」の意味。監督の芳賀薫はCMディレクターなどを経て、これが映画監督デビュー。
▼観客20人ぐらい(公開5日目の午後)1時間45分。

「おーい、応為」

「おーい、応為」パンフレット
「おーい、応為」パンフレット
 葛飾北斎の娘お栄の生涯を描く大森立嗣監督作品。飯島虚心「葛飾北斎伝」と杉浦日向子「百日紅」を原作としています。

 北斎から「応為(おうい)」の雅号を与えられるお栄を演じるのは長澤まさみ。男勝りのお栄を魅力的に演じていますが、それでも魅力の引き出し方がまだ足りないと思えるのは大森監督の「MOTHER マザー」(2020年)でも感じたことではありました。

 北斎を演じるのは永瀬正敏、絵師の善治郎に高橋海人。出演者は良く、セットにも問題ないのに今一つ焦点が絞り切れていません。絵師としてのお栄をもっと見たかったです。

 杉浦日向子原作をアニメ化した原恵一監督の「百日紅 Miss HOKUSAI」(2015年)は公開時に見ましたが、それほど面白くなかった記憶があります。見直してみようと配信を探しましたが、ありません。録画もしていませんでした。ふとWOWOWオンデマンドを見たら、あるんですね、これが。WOWOWでは11月20日に再放送しますので、録画しておこうと思います。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間2分。

2025/10/12(日)「ホウセンカ」ほか(10月第2週のレビュー)

 公開中の「ハウス・オブ・ダイナマイト」(キャスリン・ビグロー監督)と24日公開の「フランケンシュタイン」(ギレルモ・デル・トロ監督)はいずれもNetflixの映画でそれぞれ24日、11月7日から配信されます。とはいっても、ともに高名な監督の作品なので映画館で見ておきたいところ。「ハウス・オブ・ダイナマイト」はIMDb7.4、メタスコア80点、ロッテントマト85%。「フランケンシュタイン」はIMDb7.3、メタスコア74点、ロッテントマト80%となっています。

「ホウセンカ」

「ホウセンカ」パンフレット
「ホウセンカ」パンフレット
 「パパじゃないんだ…」。主人公の阿久津実(声:戸塚純貴)が同居している永田那奈(声:満島ひかり)の子ども・健介にとって、自分は「パパじゃないだろ」という言葉に、那奈がふっとつぶやきます。長く一緒に暮らしているから阿久津が健介の父親のような存在になったと思っていたけれど、そうではなかったんだと分かった瞬間。阿久津はヤクザの兄貴分の堤(声:安元洋貴)に連れられて行った定食屋で那奈と知り合い、身重だったのにもかかわらず、同居するようになり、自分の子どもではない健介もかわいがりました。それなのに、と思ったであろう那菜の口調が悲しいです。

 傑作テレビアニメ「オッドタクシー」の木下麦監督・此元和津也脚本のコンビによる大人向けのオリジナルアニメ。ヤクザを主人公にしたアニメは初めてらしいですが、題材とアイデアにそれほど新しいものはありません。それでもきっちりと仕上げた佳作になっています。

 阿久津はある理由で堤の殺人の罪を被って刑務所に入り、身元引受人がいないことから30年間、出所できないでいます。死期が迫った阿久津(声:小林薫)には鉢植えのホウセンカ(声:ピエール瀧)の声が聞こえるようになり、「ろくでもない人生だったな」というホウセンカの言葉で那菜と暮らした頃を回想するわけです。

 阿久津がたびたび口にする“最後の大逆転”がそれほどの逆転には思えないのが少し残念なところ。無実なのに30年間も刑務所に入り、死の床にある阿久津に十分報いるものにはなっていないと思います。心臓移植手術を受けられずに死んだと思っていた健介が実は生きていた、みたいな展開にしても良かったんじゃないでしょうか。

 主人公が幸せを感じたのは庭にホウセンカが咲くアパートで親子3人の慎ましい生活を送っていた時であり、バブルに浮かれてお金を儲けただけ夜の街で使い切っていたころではないというのが泣かせます。幸せの絶頂であることをその時は分からず、過ぎ去ってから初めて知るのが世の常なのでしょう。

 同じ趣旨の一節が「めぐりあう時間たち」(2002年、スティーブン・ダルドリー監督)の原作(マイケル・カニンガム)にあったのを思い出しました。

 「まだまだ幸せの序の口だと思っていた。でも、あれから30年以上の時が流れ、クラリッサはときに愕然とすることがある。あれが幸せだったのだ。……今ならわかる。あれこそまさに至福の時だった。あのとき以外に幸せはなかった」
入場者プレゼント
入場者プレゼント
 パンフレットは通常版とデジタルメイキング特典付きの2種類。価格を聞かずに特典付きを買ったら2400円でした(今年買ったパンフの中では「JUNK WORLD」の2500円に次ぐ高さ)。特典の中身は数秒のメイキングが12個見られるサイトですが、解説が欲しいところです。

 入場者プレゼントには映画に関連するショートストーリー「空白」が掲載されてました。僕のは「空白その③」でした。いくつまであるんでしょう?
▼観客2人(公開初日の午前)1時間30分。

「ひゃくえむ。」

「ひゃくえむ。」パンフレット
「ひゃくえむ。」パンフレット
 「音楽」(2019年)の岩井澤健治監督が「チ。 地球の運動について」の魚豊(うおと)のデビュー作をアニメ化。「たいていのことは100メートルを誰よりも速く走れば全部解決する」と言うトガシ(声:松坂桃李)を中心に100メートル走に懸ける選手たちを熱く描いています。主人公のトガシの小学時代から高校時代まではとても面白く見たんですが、社会人になってからの終盤はやや失速していると思えました。これはトガシの記録が上がらなくなる高校時代と同じような展開になることも影響しているでしょう。またか、と思ってしまうわけです。

 映画を見た後に原作を読みました。原作の方が明確に面白いです。アニメ化にあたって、全5巻40話の原作のエピソードを省略したり、改変したりの脚色が行われていますが、その過程でこぼれ落ちたものの中に重要なものが含まれていて、それが原作の沸騰する熱量をやや下げることにつながったようです。

 「音楽」と同じようにロトスコープを使ったアニメの技術は水準を軽く超えていると思います(岩井澤監督は今のところ、ロトスコープを使わずにアニメを作るつもりはないそうです)。脚色だけの問題なんですが、主に上映時間の短さが要因なので前後編に分けるか、テレビアニメ化の方が向いていたのでしょう。
入場者プレゼントのシール
入場者プレゼントのシール
 僕はあいまいなまま終わる物語があまり好きではありません。この映画のラストもそうなっています。これは原作も同じ。この点について魚豊(このペンネームは鱧が好きだからとのこと)は原作新装版下巻のインタビューでこう語っています。
「ラストはトガシと小宮のどっちが勝ったのか分からない描写になっていますが、そこに到達するための作品でもあります。勝ち負けにこだわった2人が勝ち負けを忘れ、走るのが好きだという感情に到達する。100mという勝負の世界から解放されるというクライマックスを書きたかったんです」

 ちなみにこのインタビューには魚豊自身の漫画家になるまでの苦闘が語られていて、まるで「ひゃくえむ。」の登場人物たちのようだと思えました。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間46分。

「ブラックドッグ」

「ブラックドッグ」パンフレット
「ブラックドッグ」パンフレット
 ゴビ砂漠の端にある寂れた街を舞台にした物語。舞台設定は抜群に良く、ほとんどしゃべらない主人公も痩せた黒い犬も雰囲気があります。これで「マッドマックス」のようなアクションを志向してくれれば、言うことはなかったんですが、そういう面は控えめでした。惜しい。

 2008年の北京オリンピック間近の中国。人を殺めて服役した青年ラン(エディ・ポン)は刑期を終え、寂れた故郷に帰ってくる。人口流出が続き、廃墟が目立つ街には捨てられた犬たちが野犬化し、群れとなっていた。ランを気に掛ける警官から誘われ、地元のパトロール隊で働き始めたランは一匹で行動する黒い犬と出合う。頭が良く、決して人に捕まらないその犬とランの間にいつしか奇妙な絆が育まれてゆく。

 監督のグァン・フーは若い頃、ピンク・フロイドが好きだったそうで、エンディングに流れるのもピンク・フロイドの「ヘイ・ユー」。舞台はそのまま西部劇に使えそうですし、中国映画に収まらない普遍的なものを備えています。世界で活躍できる監督じゃないかと思いました。

 雑技団のダンサーを演じるトン・リーヤーは雰囲気のある良い女優ですね。新疆ウイグル自治区出身で少数民族シベ族だそうです。Wikipediaによると、夫は中国共産党の幹部とのこと。なるほど。「長江哀歌」(2006年)などの監督ジャ・ジャンクーが野犬捕獲グループのボス役で出ています。
IMDb7.2、メタスコア78点、ロッテントマト98%。カンヌ映画祭ある視点部門グランプリ&パルムドッグ賞審査員特別賞受賞。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午後)1時間50分。

「レッド・ツェッペリン:ビカミング」

入場者プレゼントのうちわ
入場者プレゼントのうちわ
 イギリスのロックバンド、レッド・ツェッペリンが2枚目のアルバムを出すまでを描いた音楽ドキュメンタリー。終わった後、拍手している人がいました(“レッドゼップ”のファンなのでしょう)。僕はファンでも何でもなく、興味も関心もないので見終わってふーんと思っただけでした。馬の耳に念仏状態。それでも特別入場料2300円。
IMDb7.5、メタスコア64点、ロッテントマト85%。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午前)2時間2分。

「秒速5センチメートル」

 新海誠監督の同名アニメ(2007年)の実写リメイク。オリジナル部分が多い現代パートを除けば、大筋、同じ話ですが、語り方の構成は異なります。残念ながら、アマチュア監督かと思えるほど間延びした拙い演出のオンパレードで、感傷過多の描写と今どき珍しくアホらしいピアノポロロンの音(それも呆れるぐらい何度も)が加わって、個人的には見続けるのが苦痛でした。

 奥山由之監督の前作「アット・ザ・ベンチ」(2024年)は悪くありませんでしたが、あれは短編集だったからボロが出なかったのだろうと、意地悪な見方をしたくなります。監督自身が感傷に溺れるような演出は好ましくありません。

 新海誠のアニメ版の第2話までを僕はその年のベストと思い、「One more time, One more chance」のMVみたいな作りで終わった第3話を見てワーストだと思い直しました。実写版はその第3話をどう描くかに興味があったんですが、あーあ。すれ違いのドラマに終始していて、こんなことなら実写化なんてやらない方が良かったです。

 子役2人(上田悠人、白山乃愛)と主人公(松村北斗)の現在の恋人役を演じる木竜麻生は良かったです。ヒロインを演じる高畑充希はキャスティングを聞いた時にアニメ版のイメージと違うと思いました。本編でも演技のし甲斐のない役柄でした。

 ここまで書いたところで、アニメ版がWOWOWオンデマンドのランキングに入っていたので、久しぶりに見しました。結果、小中学生時代を描く第1話「桜花抄」に尽きる作品だなと思いました。種子島を舞台にした第2話「コスモナウト」はこれには及ばず、第3話「秒速5センチメートル」は記憶よりもMV部分が短かったですが、この終わり方ではダメだと改めて思いました。
▼観客多数(公開初日の午後)2時間1分。

「ブラックバッグ」

「ブラックバッグ」パンフレット
「ブラックバッグ」パンフレット
 スティーブン・ソダーバーグ監督によるサスペンス。英国の諜報員が組織にいる裏切り者を見つける任務を受け、自分の妻を含む5人を調べるという展開で、タイトルは“極秘任務”の意味です。

 プロの高評価に対して一般の評価が高くないのは演出にメリハリが欠ける部分があるからでしょう。ストーリーがのみ込みにくい結果になっています。主演はマイケル・ファスビンダー、その妻にケイト・ブランシェット。脚本は前作「プレゼンス 存在」(2024年)に続いてソダーバーグと3度目のタッグとなるデヴィッド・コープ。
IMDb6.7、メタスコア85点、ロッテントマト96%。
▼観客2人(公開12日目の午後)1時間34分。