2025/05/04(日)「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」ほか(5月第1週のレビュー)
「天久鷹央の推理カルテ」と言えば、第2話が「『トリック』に似てる?」という記事がYahoo!ニュースにありました。水神様のたたりをめぐる話で監督が同じ木村ひさしだったことからそういう声があったのだそうです。実は「トリック」の大ファンでして、ドラマは第3シリーズまでスペシャルも含めて全話、劇場版も4作“まるっと”見ています。貧乏をひた隠しにする仲間由紀恵とすぐに気絶する阿部寛のコンビはおかしくて最高でした。もう難しいでしょうけど、復活してくれないかなあ。
「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」

関西大学2年の小西(萩原利久)は冴えない毎日を送っていた。唯一の友人・山根(黒崎煌代)や銭湯のバイト仲間で同志社大2年のさっちゃん(伊東蒼)と他愛もないことでふざけあっている。ある日の授業終わり、お団子頭の桜田(河合優実)の姿に目を奪われる。思い切って声をかけると、偶然が重なり急速に意気投合。会話がはずむ中、毎日楽しいと思いたい、今日の空が一番好きと思いたい、と桜田が何気なく口にした言葉が胸に刺さる。それは半年前に亡くなった小西の祖母の言葉と同じだった。
さっちゃんは密かに小西に思いを寄せていましたが、小西に最近好きな人ができたことを知ってショックを受けます。さっちゃんはバイトの帰り、小西に思いの丈を打ち明けます。そのごく一部が以下。
「1週間前に言えば良かったわ。その人と仲良くなる前に。今更突然やめてーって思ってるやんな? ごめんな。小西君、隠しすぎも良くないで。私みたいになんで。あと、仲良くなりすぎも良くないかも。もし私たちの会話がもう少しぎこちなかったら違たかも。もし。
もし、ありえへんけど今急に、小西君が付き合うって言ってくれたとしても断る! だって私が一方的にアレなだけで、小西君は私のこと1ミリもアレじゃないもん」

終盤には疑問があるものの、伊東蒼の演技には一見の価値が大いにある、というのが結論です。終盤にこの長いセリフを受けるような形で河合優実と萩原利久の長いセリフがあるんですが、激しく胸を打つ内容も含めて伊東蒼のシーンが圧倒してました。伊東蒼は今年の助演女優賞候補の筆頭として憶えておきます。
▼観客10人ぐらい(公開6日目の午前)2時間7分。
「シンシン SING SING」

無実の罪で収監されたディヴァイン・G(コールマン・ドミンゴ)は刑務所内更生プログラムの舞台演劇グループに所属し、収監者仲間たちと取り組んでいた。ある日、刑務所いちの悪人として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称ディヴァイン・アイ(本人)が演劇グループに参加することになる。そして新たな演目に向けての準備が始まるが…。
アメリカで刑務所に入った人が再び刑務所に入る割合は約60%。RTAプログラムを行った場合、これが3%まで改善されるそうです。僕はドラマにピンとこなかったのでそうしたRTAの効果も含めてドキュメンタリーにした方が良かったんじゃないかと思いました。
パンフレットによると、主要なシーンは主演のドミンゴのスケジュールの都合もあって18日間で撮影されたそうです。ギャラは主演のドミンゴからスタッフまで一律だったとのこと。
「私は主演俳優、プロデューサーという肩書きを持っていますが、ほかの人と違う扱いを受けたいとは思いませんでした。プロデューサーのモニク・ウォルトンだって、箒で掃除したり、ゴミ出しをしたりしていましたよ。何かを動かさなければいけない時は、誰であっても率先して力を貸していました」。ドミンゴは「ラスティ・ワシントンの『あの日』を作った男」(2023年、ジョージ・C・ウルフ監督、Netflix)やリメイク版の「カラーパープル」(2023年、ブリッツ・バザウーレ監督)などで評価されているベテラン俳優ですが、こうした謙虚な姿勢には頭が下がります。
アカデミー賞では主演男優賞、脚色賞、歌曲賞にノミネートされましたが、受賞はなりませんでした。
IMDb7.7、メタスコア83点、ロッテントマト97%。
▼観客12人(公開7日目の午後)1時間47分。
「サンダーボルツ*」

“姉”を亡くして以来、気分が落ち込んでいるエレーナは元CIA長官のヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)から連絡を受け、ある施設に侵入する。そこにはUSエージェントのジョン・F・ウォーカー(ワイアット・ラッセル)、タスクマスター(オルガ・キュリレンコ)、ゴーストことエイヴァ・スター(ハナ・ジョン=カーメン)と謎の青年ボブ(ルイス・プルマン)がいた。過去の経緯からヴァレンティーナは彼らを抹殺しようとしたらしい。なんとか脱出した4人にエレーナの“父”レッドガーディアン(デヴィッド・ハーバー)、ウィンターソルジャーことバッキー・バーンズ(セバスチャン・スタン)も合流するが、ボブは超能力が発現し、悪のヒーロー、セントリーとしてニューヨークを襲う。エレーナたちは協力してセントリーに対抗する。
セントリーはスーパーマン並みに強いので、普通の人間もいるこのメンバーではまるで歯が立ちません。クライマックスがセントリーのインナースペースでの戦いになるのはそれしか勝つ術がないからで、スケールが小さくなったのは否めません。
「ブラックウィドウ」(2021年、ケイト・ショートランド監督)で敵だったタスクマスターは早々に退場。キュリレンコなのにもったいない使い方ですね。顔が似てるなと思ったら、ルイス・プルマンの父親はビル・プルマンだそうです。
タイトルのアスタリスク(*)は「サンダーボルツ」が仮題のつもりだったので監督のジェイク・シュライアーが付けていたのをそのまま使ったそうですが、映画の中でもニューアベンジャーズまでのチームの仮タイトルということになってます。まあ、アベンジャーズを名乗るには力不足なので、サンダーボルツのままの方が良いでしょう。
IMDb7.7、メタスコア68点、ロッテントマト88%。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間6分。
「JOIKA 美と狂気のバレリーナ」

15歳で単身、ロシアへ渡ったアメリカ人のバレリーナ、ジョイ(タリア・ライダー)は希望を胸に抱いてアカデミーに入学するが、伝説的教師ヴォルコワ(ダイアン・クルーガー)は常人には理解できない完璧さを求め、厳しいレッスンを行う。過激な減量やトレーニング、日々浴びせられる罵詈雑言、ライバル同士の蹴落とし合いに、ジョイの精神は徐々に追い詰められていく。
ジョイは優秀なダンサーですが、国籍の壁があり、ボリショイバレエに入れません。このためジョイは同じアカデミーのニコライ(オレグ・イヴェンコ)と結婚、ロシア国籍を取得します。タイトルのJOIKAはジョイのロシア語名。ボリショイバレエ団に入ってもジョイカはステージの端の役しか与えられず、プリマになるためにはオリガルヒの援助を受ける必要がありました。対面したオリガルヒは当然のようにジョイカに性的な要求をしてきます。果たしてジョイカは…。
賄賂がはびこるロシアなら、ボリショイといえどもありそうな話と思えます。主演のタリア・ライダーは「17歳の瞳に映る世界」(2020年、エリザ・ヒットマン監督)で主人公の親友役を演じていました。小さい頃、バレエは経験していたそうですが、この映画のために1年間特訓したそうです。
IMDb7.1、ロッテントマト94%(観客スコア)アメリカでは映画祭で公開後、配信。
▼観客6人(公開2日目の午後)1時間51分。
2025/04/27(日)「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」ほか(4月第4週のレビュー)
新幹線が高速でぎりぎりすれ違うシーンや爆発シーンのVFXは格段にリアルです。ただし、犯行理由が弱く、犯人側のエモーションでは前作に及ばないのが残念な点。時代設定も前作から50年ではなく、20年ぐらいの方が(犯人側の設定としては)良かったでしょう。
それでもリメイクならぬリブート作品としては悪くない出来だと思いましたが、海外での評価はIMDb6.3、メタスコア62点、ロッテントマト75%と芳しくありません。VFXよりむしろ犯人側に説得力を持たせるような理由付けが海外でも通用させるためには必要だったのだと思います。キャストの中では森達也監督が重要な役を演じていて「おっ」と思いました。前作もNetflixなどで配信しています。
キネマ旬報5月号はこの映画の特集を組んでいます。樋口真嗣監督のインタビューで驚いたのは1975年版から引用されている丹波哲郎の登場シーンについて「実はあれ、丹波さんではありません」と発言していること。「丹波さんの息子の丹波義隆さんに演じていただき、新撮した映像なんです。だから、あのカットは原作映画にはないんです」。えええええーっ、親子にしてもあまりにそっくりすぎます。CG加工もしてるんじゃないですかねえ。
「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」

パレスチナ問題は複雑ですが、イデオロギーや主義主張にとらわれず、人道主義的観点から受け止めるのが良いと思います。その意味で言えば、重機で住宅や小学校を破壊したり、水道管を切断したり、住民に銃を向け、脅迫し、撃つことは許されません。どんな事情があろうとも、イスラエルの一方的な迫害に正当性はありません。見ていて怒りが沸々とわいてきます。
パレスチナ自治区を占領支配するイスラエルの構図はかつての南アフリカなどと重なります。パレスチナ人への迫害はアパルトヘイトそのもので、しかも解決策がまったく見えず、絶望感しかありません。記録が2023年10月で終わらざるを得なかったのはガザへの武力攻撃に連動してユダヤ人入植者たちが武器を持って、パレスチナ人を追い立てたためです。
ベルリン映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞しましたが、授賞式に出席したベルリン市長は「我々ベルリン市は、完全にイスラエル側に立っている」とし、ドイツ政府高官も「ハマスによるユダヤ人テロに言及しなかったことは受け入れがたい」と映画を批判したそうです。ドイツがイスラエル側に立つのはナチスによるユダヤ人虐殺の反省があるからだそうですが、もっと現実を見た方が良いと思います。
映画はアカデミー長編ドキュメンタリー賞も受賞しました。ユダヤ人が牛耳るハリウッドでイスラエル批判の映画が賞を得たのはアカデミー会員をかつての3000人から海外まで含めて1万人以上に増やしたためもあるでしょう。しかし、受賞後、監督の一人であるパレスチナ人のハムダーン・バラールはイスラエル軍から暴行を受け、一時拘束されました。映画の賞を取ったことぐらいで現実は何も変わりませんが、パレスチナ問題の現状を知らしめることはできるでしょう。今後も記録と発信を続けて欲しいと思います。
IMDb8.3、メタスコア93点、ロッテントマト100%。
▼観客多数(公開初日の午後)1時間35分。
「Playground 校庭」

「サウルの息子」の舞台となったアウシュヴィッツ強制収容所は死が間近にある厳しい環境でしたが、ノラにとっての小学校も厳しい場所に違いありません。入学したばかりのノラは3歳年上の兄アベル(ガンター・デュレ)が同級生にいじめられているのを目撃します。アベルは父親には言うなと口止めします。父親が介入すれば、いじめがひどくなるから。しかし、アベルが便器に顔を突っ込まれているのを見て、ノラは我慢できず、父親に報告。父親が学校に抗議したため、予想通り、アベルはひどい状態に置かれてしまいます。父親が無職なのがいじめに影響しているのか? やがてノラもいじめの標的になってしまいます。
ローラ・ワンデル監督はこれが第一作。撮影手法が抜群の効果を上げた傑作だと思います。
IMDb7.3、メタスコア86点、ロッテントマト100%。
▼観客8人(公開2日目の午後)1時間12分。
「花まんま」

フミ子には幼い頃から別の人格、繁田喜代美としての記憶があります。これが彦根の繁田家まで行った理由。バスガイドをしていた喜代美は乗客から刺されて亡くなっており、ちょうどその頃フミ子が生まれました。喜代美の父親(酒向芳)は喜代美が死んだ時、のんきに昼食を取っていた自分を許せず、それ以来、物を食べなくなり、ガリガリに痩せ細っていました。フミ子が彦根に連れていくよう頼んだのは喜代美の父親を助ける目的があったようです。
映画はこれに結婚が決まった時から喜代美の記憶がフミ子からだんだん消えていっているという設定を加え、ラストの感動的な場面につなげています。
「兄貴は、ほんま損な役回りやでえ」が口癖の兄を演じる鈴木亮平と妹の有村架純が兄妹の雰囲気に合っていて良いですし、フミ子の結婚相手の鈴鹿央士やお好み焼き屋のファーストサマーウイカら周囲のキャラクターがいずれも好演してファンタジーの佳作に仕上がっています。
タイトルの「花まんま」はパンフレットの表紙のように白いツツジでご飯、赤いツツジで梅干しなど花で食べ物を表現した弁当のこと。脚本の北敬太はこれ以外に作品が見当たりません。パンフレットでも触れられていませんが、前田哲監督のペンネームなんですかね?(註:須藤泰司プロデューサーのペンネームだそうです)。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午前)1時間58分。
「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」
実在の兄弟デュオ、ドニー&ジョー・エマーソンの実話を描いたドラマ。しみじみと良い映画だと思いましたが、本国アメリカでの評価は高くなくて残念です。1979年、ワシントン州の田舎町。10代だったドニーは兄のジョーとデュオを結成し、アルバム「Dreamin’Wild」を作るが、世間からは見向きもされなかった。30年後、そのアルバムがコレクターにより発見され、埋もれた傑作として人気を博していることを知る。別々の道を歩んでいた兄弟は再びデュオを組むが、ドニーはドラムを担当する兄の技術に不満を持つ。
歌手活動を続けるドニー(ケイシー・アフレック)のために父親(ボー・ブリッジス)は借金を重ね、1700エーカーあった農場は65エーカーになっていました。「それを後悔したことはない。全部手放したってかまわなかった」と話す父親が泣かせます。
ドニーの妻に「(500)日のサマー」(2009年、マーク・ウェブ監督)のズーイー・デシャネル。監督・脚本はビル・ポーラッド。
IMDb6.4、メタスコア64点、ロッテントマト90%。
▼観客3人(公開6日目の午前)1時間51分。
「プロフェッショナル」

1970年代の北アイルランドが舞台。主人公のフィンバー・マーフィー(ニーソン)は表向き本を売って生計を立てているが、裏で暗殺の仕事を請け負っている。引退を決意した矢先、爆破事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派が町に逃げ込んでくる。さらに、ある出来事がフィンバーの怒りに火をつけ、テロリストとの殺るか殺られるかの壮絶な戦いが幕を開ける。
IRAが単なるテロリストとして描かれるのが冒険小説ファンとしては少し不満ではありますが、キャラクターの描写は丁寧で、IRAの女リーダー、デラン(ケリー・コンドン)の最後など描写の仕方に工夫があります。ニーソンと実生活でも長年の友人という警官役のキアラン・ハインズが良いです。監督は「マークスマン」(2021年)のロバート・ロレンツ。
IMDb6.4、メタスコア60点、ロッテントマト83%。
▼観客15人ぐらい(公開12日目の午後)1時間46分。
2025/01/26(日)「機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning」ほか(1月第4週のレビュー)
「機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning」
まったく内容を知らずに見たので、序盤の展開には懐かしさと驚きと戸惑いを覚えました。ファーストガンダムとは別のパラレルワールドにある物語。それ以降の本筋は話が途中で終わることもあって、評価のしようがありません。日テレ系で始まるテレビシリーズの序盤を再編集した作品だそうです。脚本は庵野秀明と榎戸洋司、監督は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2020年)などの鶴巻和哉。制作はサンライズとスタジオカラーで、序盤はサンライズ色、それ以降はスタジオカラー色が強くなっています。絵のタッチから違うので、別々に作ったんじゃないでしょうか。予告編には序盤の絵がまったく出てきませんから、ここが最大の売りであることは確かでしょう。
本筋はスペース・コロニーのサイド6で暮らす女子高生アマテ・ユズリハが主人公。一年戦争がジオン公国の勝利(!)で終わって5年後、アマテは戦争難民の少女ニャアンと出会う。運び屋のニャアンが運んでいたのはモビルスーツの戦闘を可能にするデバイスだった。2人がジャンク屋に行くと、そこにはジオンのモビルスーツ、ザクがおり、さらに赤いガンダムとジオンの新しいモビルスーツGQuuuuuuX(ジークアクス)がいた。素人ながら、ジークアクスに乗り込んだアマテは軍警ザクと交戦する。
アマテがその後、モビルスーツの決闘競技クランバトルに参加していくのは同じく女性を主人公にした「機動戦士ガンダム 水星の魔女」(2022年)を思わせました。
シャアとキシリアとマ・クベが登場し、画面には出てきませんが、アルテイシアの名前が出てくるなど序盤はファーストガンダム世代にはたまらない展開。本筋はテレビシリーズの全貌が分からないと評価できませんが、パラレルワールドを物語にどう生かしていくのか楽しみです。
▼観客8人(公開7日目の午後)1時間21分。
「型破りな教室」
アメリカ国境近くの治安の悪い地区マタモロスにある小学校を全国トップレベルに押し上げた教師の実話を基にしたメキシコ映画。赴任してきた教師フアレス(エウヘニオ・デルベス)の授業はユニークで、詰め込み式ではなく、考え方を教えていくものです。その意味で型破り(原題Radical)なわけですが、その効果で子供たちは探求する喜びを知り、成績も上がっていくという物語。
生徒の中には数学の天才少女パロマ(ジェニファー・トレホ)がいます。不遇な環境にいる天才を見つけて教師が指導する話は「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」(1997年、ガス・ヴァン・サント監督)をはじめたくさんありますが、パロマが暮らすのはゴミ捨て場のそばという過酷な環境。父親はゴミの中から金属を探して売って生計を立てています。その父親が買い取り屋に代金をごまかされそうになったところをパロマが助ける場面があります。教育と知識を深めることはひどい環境を脱出するのに確実に役立つことを示すシーンであり、現状脱出の希望を持たせることがフアレス先生の授業の最も大きな効果だったのではないかと思います。
原作は雑誌「WIRED」に掲載された記事「天才の世代を解き放つラディカルな方法」。監督・脚本のクリストファー・ザラはケニア生まれで現在はグアテマラ在住だそうです。
IMDb7.8、メタスコア70点、ロッテントマト96%。
▼観客16人(公開初日の午後)2時間5分
「サンセット・サンライズ」

東京の大企業に勤める釣り好きの西尾晋作(菅田将暉)はリモートワークを機に移住を決意。南三陸の4LDK・家具家電完備で家賃6万円の“神物件”の家を契約し、お試し移住をスタートさせる。移住先の大家・関野百香(井上真央)は町役場に勤め、空き家対策の仕事をしていた。百香は町のマドンナ的存在でもあり、周囲の男たちは東京から来たよそ者の晋作と百香の関係に気が気ではない。百香の父で漁師の関野章男(中村雅俊)ら、距離感ゼロの住民たちとの交流に戸惑いながら、晋作はポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく。
百香は大震災による津波で悲しい別れを経験し、9年たってもまだ傷は癒えていないでしょうが、それを表に出してはいません。そんな百香を真っすぐに演じる井上真央が良いです。終盤、晋作からある話を聞きながら、アジのなめろうを作るシーンの手際の良さに感心しました。「芸能界で一番なめろう作りが早い」と言われたそうです。菅田将暉も魚のさばき方をしっかり練習して臨んだとのこと。
コロナ禍の密を避ける描写は今見ると、大袈裟なことやってるなと思いますが、当時は確かにこんな感じでしたね。
▼観客6人(公開6日目の午後)2時間19分。
「雪の花 ともに在りて」
江戸末期に疱瘡(天然痘)の治療に尽くした福井藩の町医者・笠原良策を描く小泉堯史監督作品。原作は吉村昭の小説「雪の花」。前半の演出にメリハリがないのがつらいところですが、終盤のまとめ方は悪くありません。当時、疱瘡は死の病で、隔離して感染拡大を防ぐしかありませんでした。笠原良策はオランダの医療を学んで種痘(予防接種)の普及に努めますが、無知蒙昧な反ワクチン勢力はこの時代にもいて、妨害されます。このあたり、現代に通じる話になっています。主演は松坂桃李。その妻役に芳根京子。それぞれに立ち回りの見せ場があるのが静かな展開の中でのアクセントになっていました。
小泉監督は80歳。監督デビューの「雨あがる」(2000年)の頃ならともかく、今でも黒澤明の弟子うんぬんで語られるのは作風も違いますし、迷惑じゃないでしょうかね。前作「峠 最後のサムライ」(2020年)はその年のワーストに選びたくなるような出来でした。それに比べれば、随分良いです。これまでの8本の監督作の中では現代劇の「博士の愛した数式」(2005年)が最も充実していたと思います。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)1時間57分。
「勇敢な市民」

原作はWebトゥーン(漫画)だそうですが、猫の仮面は明らかにキャットウーマンを意識したのでしょう。ソ・シミンは韓国語で小市民の意味。タイトルは「勇敢なシミン」も意味していることになります。相手の生徒があまり強そうに見えないのが難ですが、まずまず楽しめる内容でした。
IMDb6.5(アメリカでは未公開)
▼観客6人(公開5日目の午後)1時間52分。
「マイ・オールド・アス 2人のワタシ」
TBSラジオ「アトロク2」の放課後ポッドキャストで紹介していたので、amazonプライムビデオで見ました。レズビアンのエリオット(メイジー・ステラ)が18歳の誕生日に幻覚キノコでトリップし、39歳の自分(オーブリー・プラザ)と出会う。彼女はエリオットに「チャドに近づかないで」と忠告する。ある日、湖で泳いでいたエリオットはチャドと名乗る男に遭遇。エリオットは忠告に従ってチャドを避けていたが、次第に愛するようになってしまう。チャドにどういう秘密があるのかがすべてですが、クライマックスで分かるその真相がなかなかよく出来ていると思いました。青春映画の佳作ですね。
監督・脚本のミーガーン・パークはカナダの女優兼歌手の38歳で長編映画の監督は2作目。この映画はナショナル・ボード・オブ・レビューが昨年のトップ10インディペンデント・フィルムに選んだほか、多数の賞の候補に挙がってます。
IMDb7.0、メタスコア74点、ロッテントマト90%。
2024/10/31(木)ソニーのサポート
ところが、購入から2日たってもキーが送られてきません。前回はその日のうちに届いたのに。これは担当者が見落としたんだろうと思って、サポートにメールしました。夕方、サポートから電話があり、「以前も購入されてますが?」「はい、パソコンが代わったもので」「それなら、以前のキーで使えますよ」とのこと。なーんだ。
それは一瞬考えたんですよね、購入してしまった後で。以前のライセンスキーが書かれたメールが残っていたので、それを登録してめでたく正式版になりました。それにしても、ソニー、対応がフェアだと思う一方で、こちらから問い合わせしなかったら、いったいどうなっていたんだろうと思ってしまいます。代金は既にカード会社に引き落とされてましたから。
2024/08/04(日)「インサイド・ヘッド2」ほか(8月第1週のレビュー)
「インサイド・ヘッド2」
前作(2015年、ピート・ドクター監督)は劇場で見逃し、amazonプライムビデオで見て、世評ほど良い出来とは思えませんでした。本作を見る前にディズニープラスで見直しましたが、評価はほぼ変わらず。9年後の本作は前作より明確に良い仕上がりだと思います。高校入学前の思春期を迎えた少女ライリーの頭の中には新たにシンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィの4つのキャラが現れ、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカたちは戸惑います。ヨロコビとカナシミが過って司令部を離れてしまったことから、ライリーには友情を失ってしまう危機が。ヨロコビとカナシミは司令部に帰ろうと奔走します。
思春期になって頭の中の司令部の改造が突然始まるのが、なるほどと思える展開。前作では不要と思えるネガティブなカナシミの必要性が描かれましたが、今回はさまざまな感情の必要性が描かれ、そうしたあらゆる要素がライリーを形成していくのを素直に描いています。ピクサーはストーリーをチームで検討しているそうで、だから説得力のある物語になるのでしょう。
日本語吹替版でヨロコビの声は前作では竹内結子でした。それを引き継いだ今回の小清水亜美も自然に演じています。カナシミの大竹しのぶがうまいのは当然ですが、シンパイの多部未華子も良いです。ライリー役は16歳の横溝菜帆。
監督のケルシー・マンは「モンスターズ・ユニバーシティ」(2013年)や「2分の1の魔法」(2020年)などの脚本チームのリーダー(ストーリー・スーパーバイザー)を務め、本作が初監督。
IMDb7.8、メタスコア73点、ロッテントマト91%。
▼観客多数(公開2日目の午後)1時間36分。
「ツイスターズ」
「ツイスター」(1996年、ヤン・デ・ボン監督)と登場人物は重複していず、続編とは言えませんし、リメイクでもありません。竜巻を題材にした同じような展開の映画というだけ。唯一重複しているのは“ドロシー”ですが、旧作が観測装置の名前だったのに対して、本作では竜巻を沈静化する装置の名前になっています(もちろん、「オズの魔法使」の主人公の名前から取ったものです)。一般的に本作の方が評判は良いようですが、僕は似たり寄ったりの出来と思いました。28年前の作品に比べてVFXに大きな差があるかと言えば、竜巻の大きさや迫力はむしろ旧作の方が勝っている感じです。旧作の登場人物たちは竜巻の観測チームで、自分たちで危機に飛び込んでいくので共感を持ちにくかったんですが、今回は竜巻の被害を抑えようとする主人公たちを描いています。主人公ケイトを演じるのは「ザリガニの鳴くところ」(2022年、オリヴィア・ニューマン監督)のデイジー・エドガー=ジョーンズ。
ジョーンズは悪くないんですが、あんな簡単な仕組みと小さな装置で竜巻を抑えられれば、とっくにやってるでしょうね。気象現象はスケールが大きく、影響の及ぶ範囲も大きいですから個人の資金で制御できるものとは思えません。そのあたりのリアリティーのなさが惜しいです。監督は「ミナリ」(2020年)のリー・アイザック・チョン。
IMDb7.1、メタスコア65点、ロッテントマト76%。
旧作はIMDb6.5、メタスコア68点、ロッテントマト66%。
▼観客8人(公開2日目の午後)2時間2分。
「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」
予告編を見てデヴィッド・リンチ監督「ストレイト・ストーリー」(1999年)のような話かと思いましたが、これは実話ベースではなく、レイチェル・ジョイスの原作「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」(映画と同タイトルに改題して講談社文庫に入ってます)の映画化。主人公の動機が明らかになる場面のドラマティックさはフィクションのゆえなのでしょう。「ストレイト・ストーリー」は73歳の主人公が病に倒れた兄に会うために350マイル(約563キロ)を小型トラクターで旅する話でした。「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」はかつての同僚女性クイーニーがホスピスに入ったのを知った主人公ハロルド(ジム・ブロードベント)が元気づけるために約800キロを歩いて行く話。800キロも歩くというのは普通の人なら考えないでしょう。第一、ホスピスに入ったのなら、早く行かないと、間に合わない恐れがあります。
ハロルドはクイーニーの手紙の返事を出すために立ち寄った店の女の子との会話で歩いて行くことを思いつき、何も準備せず携帯電話も持たずに出発します。取るものも取りあえず急いで行く、のではなく、ゆっくり行くわけです。クイーニーのいるホスピスには「歩いて会いに行くから」と伝え、自分が歩き続ける限り、クイーニーは死なないと信じることでハロルドは歩き続けます。途中で知り合った男がマスコミ関係者だったことから、ハロルドは新聞で紹介され、同行する人たちが増えていきます。このあたり、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年、ロバート・ゼメキス監督)を思わせる展開。
ハロルドと妻モーリーン(ペネロープ・ウィルトン)の関係は息子の死をきっかけにうまくいかなくなっていますが、別の女性に会いに行くことを知ったモーリーンは心穏やかではありません。ハロルドとクイーニーの関係がこの作品のポイントで、個人的には作りすぎの感じが拭えませんでした。
IMDb6.8、ロッテントマト77%。
▼観客11人(公開18日目の午後)1時間48分。
「スリープ」
出産を控えたスジン(チョン・ユミ)の夫ヒョンス(イ・ソンギュン)が就寝中に夢遊病患者のように歩き回ったり、顔をかきむしったり、冷蔵庫の生肉を食べたりの奇行を繰り返すようになる。次第にエスカレートする夫の奇行に恐怖を感じたスジンは夫婦で睡眠クリニックを受診する。ヒョンスの奇行が単なる病気なのか、超常現象の影響なのか明確にしないのが好みではありません。映画は終盤、超常現象で説明するんですが、視覚的に描いていないのでどっちとも取れる地味な展開になっています。VFXを使ってドッカンドッカンの展開をつい期待してしまい、物足りなさを感じました。
イ・ソンギュンは「パラサイト 半地下の家族」(2019年、ポン・ジュノ監督)など多数の映画・ドラマに出演してきましたが、麻薬不法投薬の疑いで警察の捜査を受け、昨年12月、車の中で死んでいるのが見つかりました。
監督のユ・ジェソンはポン・ジュノの助監督を務めていた人で、これが初監督作。
IMDb6.5、メタスコア78点、ロッテントマト94%。
▼観客9人(公開6日目の午後)1時間34分。