2013/07/04(木)「ノンフィクションW 映画で国境を越える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」

 「いろんな国の映画祭でインタビューを受けるたびに、すごく疲れ果てるんです。私は率直に言いたいことを言うけど、でも兄家族や母のことが心配で…」

 気丈で饒舌なイメージがあるヤン・ヨンヒ監督が思わず涙を流す。もう一人の母親とも言うべきニューヨークの母校ニュースクール大学の恩師に、他の人には言えない思いを打ち明ける。北朝鮮に関する映画を撮れば、北朝鮮に住む兄たちや大阪の母に迷惑がかかるのではないか。そんな思いを抱えて、ヤン・ヨンヒは映画を撮っているのだ。

 WOWOWメンバーズオンデマンドで配信中のノンフィクションW「映画で国境を越える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」は映画「かぞくのくに」同様に胸を揺さぶられる。キネマ旬報ベストテン1位をはじめ内外の映画賞・映画祭で高く評価された「かぞくのくに」がわずか2週間で撮られたというのは驚きだが、このドキュメンタリーは映画の撮影風景や映画祭での反響などを紹介し、ヤン・ヨンヒの人柄と考え方を余すところなく伝えている。

 映画のクライマックス、北朝鮮に帰ることになった兄との別れの場面で、当初、現実と同じように撮っていたヤン・ヨンヒに「現実にはできなかったことを描けばいい」とアドバイスしたのは見張り役を演じた俳優で監督でもあるヤン・イクチュン(「息もできない」)だったそうだ。

 そのイクチュンは釜山での上映の舞台挨拶で感極まる。「日本で試写した時は感じなかったんですが、釜山で見ると、あまりにも悲しいですね」。分断された韓国で映画が一層リアルに迫るのは当然なのだろうが、韓国だけでなく映画は他の国でも同じような境遇にいる人たちに共感と感動を与えている。ヤン・ヨンヒが描く温かくて厳しい家族の姿には普遍性があるのだ。そして映画は国境を越えるけれども、分断された家族は容易に国境を越えられない。その現実が胸に迫るのだ。

 ヤン・ヨンヒ、次はどんな映画を撮るのだろう。

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