2014/09/07(日)「ぼくたちの家族」

 「キョウコさん、今日は一晩中付き合ってほしいんですけど」

 「あたし、童貞君はNGだから」

 という池松壮亮と市川実日子のやり取りでクスッと笑い、その後のラッキーカラーとラッキーナンバーのエピソードで石井裕也監督、うまいなあと思った。ラッキーカラーのだめ押しで黄色いタクシーが出てきたところで場内は爆笑である。物事がそんなにうまくいくはずはないし、そんなに偶然が続くわけでもないが、「こうしたことあるある」「こんなことがあってもいいよね」と思わせるのだ。

 母親(原田美枝子)が脳腫瘍で余命1週間と宣告されるのが発端となるような映画で誰が笑いを予想するだろう。脳腫瘍のほかに両親の多額の借金も出てくるし、無粋な監督が撮ったら、陰々滅々の映画になっていてもおかしくなかった題材なのだ。突然、関係ないことを口走る原田美枝子の絶妙の演技で幕を開けた映画は家族(父親と息子2人)の苦悩を描きながら、ユーモアを挟むことでキャラクターに血肉を通わせる。これが映画に膨らみを持たせることにもつながっている。実際、どんなに深刻なシチュエーションであっても人間、1人でなければ、家族や仲間がいれば、ずーっと苦虫を噛み潰したような顔をしているわけではないだろう。映画が終わっても、家族が抱えた問題は何一つ解決しないが、それでも気分はとても晴れやかになる。

 石井裕也監督の手つきは日本映画がかつて得意だった笑いとペーソスではなく、かつての良質なハリウッド映画の洗練を感じさせる。小品だが、秀逸な家族映画だ。

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