2011/07/07(木)「奇跡」

 九州新幹線開業に合わせたお仕着せ企画をここまでの映画にするのは立派。あと30分ほど短かったら、文句なしの傑作になっていたのではあるまいか。九州新幹線の一番列車がすれ違う時に願いを言うと奇跡が起きる。それを信じた鹿児島と福岡に離れて暮らす小学生の兄弟を巡る話。

 奇跡を縦糸とするなら横糸は自分が住む地域への愛着だ。桜島の降灰に「意味分からん」とうんざりしていた兄の航一(前田航基)は桜島が大爆発して住めなくなり、また家族4人で暮らせたらと思っているが、ラストでは風向きを見て、「今日は灰は降らへんな」と考えを変える。是枝裕和は安易な奇跡を描くことよりも子供たちの成長にスポットを当てている。まいるのは描写の隅々がいちいちうまいこと。凝ったストーリーでなくても、生き生きとした細部の描写で映画はここまで素敵になれるのだ。