2002/06/08(土)「KT」

 金大中拉致事件を描くポリティカル・サスペンス。日韓の工作員が暗躍する、こういう闇の部分を描く映画が成立すること自体、日本映画では珍しい。未だに真相が分からない金大中事件は貴重な題材なのだ。

 で、十分面白いかというと、面白いことは面白いがメリハリを欠いたな、というのが率直な感想。韓国大使館の一等書記官でKCIAの命令に従って拉致を決行する金車雲(キム・ガプス)が一直線なキャラクターであるのに対して、日本側のキャラクターはどこかねじれており、拉致に協力する自衛隊員・富田満州男(佐藤浩市)には分からない部分が残る。三島由紀夫に共感し、反共意識を持つ人間というキャラは分かるのだが、それが拉致に協力していく考え方の変化が十分には描かれていない。佐藤浩市の演技そのものは良いのだが、主役がこういうあいまいな状態では困る(荒井晴彦の脚本ではこれが書き込まれていたようだ)。

 富田と恋に落ちる韓国人女性・李政美(ヤン・ウニョン)との関係も、ラストへの重要なエピソードになるわけだからもっと描きこむべきだったように思う。大衆紙の記者・原田芳雄は特攻隊と共産主義のどちらにも愛想を尽かし、右でも左でもない人物だが、やはり事件の中核には関わりようがない。韓国語を話せない在日韓国人・筒井道隆の役柄は最後に泣いて終わるだけではもったいない気がする。

 キム・ガプスの強面の演技と悲劇的なキャラクターは強い印象を残す。興行上の問題は別にして、最初の意図通り、こちらを主演に据えた方が映画としてはまとめやすくなったのではないか。