2006/01/04(水)「北の零年」

 「北の零年」チラシ酷評が多かったが、テレビで見ると長すぎる(2時間48分)のを除けば普通の作品に見える。ただ、誰もが言うように吉永小百合がこの役をやるのは年齢的に無理。どう見積もっても20年前までしか成立しない配役で映画を作ろうとした企画自体に失敗の一因があったと思う。しかし、それ以上に感じたのは脚本・演出における描写の弱さだ。北の大地で苦闘する人々の描写にリアリティが不足しており、これが致命傷になった感がある。それこそテレビドラマ並みの描写しかないのである。

 明治4年、徳島の淡路島の藩が明治維新の混乱で北海道に移住を命じられる。第一陣の546人は新しい国づくりを目標に懸命に開拓に励むが、廃藩置県によって、藩はなくなり、彼らは藩からも国からも見捨てられる。木を伐採し、荒れ地を開墾していく武士とその家族の様子が前半ではメインになる。ストーリーは悪くないのに響いてこないのは北海道の寒さが通り一遍にしか描かれない上に、稲が育ちにくい地での農業の在り方もそこから生じる貧しさの描写もありきたりであるためだ。農業の苦闘を描くのならば、「愛と宿命の泉」(1986年)ぐらいの描写が欲しいところ。それができなかったのは脚本の那須真知子も監督の行定勲も農業の実際を知らないからだろう。だいたい開拓の話を那須真知子に書かせる方が間違っている。

 行定勲の狙いは武士が開拓をするというミスマッチを描くことにあったのかもしれない。薬売りの香川照之がのし上がり、武士たちを苦しめる描写などは面白いし、いやらしさにリアリティを持たせた香川照之の演技のうまさはこの映画の数少ない見どころとなっている。ただ、これもよくある悪徳商人対武士の図式にすぎない。

 妻(石田ゆり子)を香川照之に取られて落ちぶれる柳葉敏郎や、やはり香川照之の下で働かざるを得なかった石橋蓮司の苦渋、何よりも妻子を見捨てた渡辺謙の心変わりを詳細に描けば、何とかなったのかもしれない。那須真知子としては後半、吉永小百合が馬を育てて成功するあたりをメインにしたかったのだろうが、これも詳細な描写がないので説得力を欠いている。吉永小百合の娘役で「SAYURI」の大後寿々花が出ていることは記憶に値するか。

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