2011/05/05(木)「愛する人」

 原題はMother & Child。女性監督の作品かと思ったら、脚本・監督はロドリゴ・ガルシア。よくこういう女性映画のような作品を撮れるものだと思う。14歳で出産した子供をすぐに養子に出し、37年間会っていない母親カレン(アネット・ベニング)とその子供であるエリザベス(ナオミ・ワッツ)を軸にした複数の母と子の物語。かつてあった日本映画の母ものなら、最後は親子の涙、涙の再会で終わるだろうが、そこをひとひねりしているのがうまい。ガルシア監督は登場人物の心情を丹念に描き、情感豊かで充実した作品に仕上げている。

 老いた母親と2人暮らしのカレンは気むずかしく、家政婦が勝手に子供を連れてくることにもいい顔をしない。エリザベスは弁護士になっており、自立したクールな生き方をしている。その2人が徐々に変わっていく。娘のことを思わない日はなかったというカレンは「後悔は心を蝕む」と新しい夫に諭され、養子あっせん所のシスターに手紙を託す。エリザベスも自分がするはずのなかった妊娠をしたことで母親に会いたいと思うようになる。この2人を交互に描きながら、ガルシア監督はもう一つ、子供ができずに養子を取ろうとしているルーシー(ケリー・ワシントン)のエピソードを描き、それがラストに向かって絡み合っていく。

 ナオミ・ワッツは実際に妊娠している時に大きなおなかを撮影している。こういう、はかなげな役をやらせると、とても似合う。ちょっと老けたアネット・ベニングも好演している。

2011/05/05(木)「マイレージ、マイライフ」

 ジェイソン・ライトマンは父親のアイバン・ライトマンより才能あるなと思う。冒頭、短いショットを重ねて出張の準備をする場面で乗せられてしまう。後は一気呵成の展開。主人公のライアン(ジョージ・クルーニー)は家庭を持たず、出張で全国を飛び回る解雇請負人。会社に代わって、不要な社員に解雇を通告するのが仕事だ。同じような生き方をしているアレックス(ヴェラ・ファーミガ)との出会い、教育を担当させられた新入社員ナタリー(アナ・ケンドリック)との交流を通じてライアンは自分の生き方を見つめ直す。大人の女性を演じるファーミガがいい。

 知り合いがFacebookでこの映画のラストについて議論になっていると書いていた。果たして主人公は出張を続けるのか、辞めるのか。キャリーバッグの取っ手から手を離す場面があるからだ。主人公がどうするかは最後のナレーションから明らかではないかと思う。

 「今夜、人々は家族の待つ家に帰り、1日の話をして眠りにつく。昼間隠れていた星が輝く中、ひときわ輝く光がある。僕を乗せた翼だ」。

2011/05/05(木)「地獄門」

 これもBSプレミアムで放送。デジタル・リマスター版。菊池寛の原作「袈裟と盛遠」を衣笠貞之助監督で映画化。長谷川一夫が人妻(京マチ子)に横恋慕する迷惑な男を演じる。カンヌ映画祭グランプリとアカデミー衣装デザイン賞、名誉賞(今の外国語映画賞)を受賞したのは有名。主にカラーの美しさの評価なのだろう。昭和28年当時は驚異的な技術であっても、今見ると、なんてことはない。というより、カラーが人工的に感じる。今の映画のナチュラルさに比べて、作った色合いに見えるのだ。

 映像の技術よりも物語とそれを語る技術の方が普遍的なのではないかと思う。今のCG多用映画も50年後には陳腐なものになっているかもしれない。いや、今でも陳腐な映画は多いんですけどね。BSプレミアムではデジタル・リマスターの放送が相次いでいる。映画がきれいになることは歓迎すべきことではある。

2011/05/03(火)「若者たち」

 BSプレミアム「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本 家族編」の枠で放映された。歌は有名でも映画を見るのは初めて。甘い内容を想像していたら、全く違い、時代に深くかかわったさまざまな問題を提起していて、胸を揺さぶられるような作品だった。

 親を亡くした5人きょうだい(田中邦衛、橋本功、佐藤オリエ、山本圭、松山省二)が時に激しく対立しながらも、助け合って生きていく姿を描く。1967年の作品。昭和40年代といっても、まだ貧しいのが普通の時代だったのだなと思う。ご飯を一生懸命食べる姿はそのまま一生懸命な生き方を表している。登場人物たちのまっすぐな姿勢がとても気持ちよい。

 長男の田中邦衛は中学2年までしか学校に行かず、工事現場で働いて弟妹たちを食わせてきた。好きになった女(小川眞由美)から学歴がないことを理由に「(出世に)10年、15年回り道をすることになる」と交際を断られる。その晩、大学受験に失敗した末弟に「何年かかっても大学に行け、ボン」と声を荒げる姿に胸を打たれる。これ、田中邦衛の代表作ではないかと思ったら、毎日映画コンクールの男優主演賞を受賞したのだそうだ。

 元はフジテレビのドラマだが、宮崎はまだ民放1局の頃なので、当然のことながら僕は見ていない。映画について日本映画作品全集には「広範な若者たちの深い共感を得た。学歴による差別、被爆者の苦悩、出稼ぎ農家の苦しみ、働きつつ学ぶものの厳しさ、学園紛争の中で揺れ動く若者の心、現代における生きがいなど、多くの切実な問題が組み込まれ、見る者を考えさせる」とある。キネ旬ベストテン15位。3部作になっており、第2作「若者は行く 続若者たち」(1969年)は12位、第3作「若者の旗」(1970年)は25位にランクされている。山内久脚本、森川時久監督。

2011/05/02(月)「コララインとボタンの魔女」

 3DCGかと思ったら、人形を使ったストップモーション・アニメーションだった。ニール・ゲイマンの児童文学を「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」のヘンリー・セリックが映画化したダークなファンタジー。

 コララインは引っ越してきた山間の家、ピンク・パレスで小さなドアを見つける。入っていくと、そこには現実世界より優しいママとパパがいた。ただ、ママとパパの目はボタンだった。何度もこの世界に入っていくうちにボタンのママはずっとここにいるようにコララインを誘う。それには簡単な処置が必要だった。コララインの目をボタンにすることだ。実はボタンのママは邪悪なボタンの魔女で、現実世界のママとパパも魔女に消されてしまう。コララインはママとパパ、そして魔女に封じ込められた子供たちを助けるため、魔女と対決する。

 小さな子供には怖い場面もあるだろうが、それだけに少しだけ不満がある現実世界の素晴らしさを強く再認識することになるだろう。こういう映画を見て育った子供は幸せだと思う。大人が見ても面白い作品。僕は「ナイトメア…」よりこちらの方が好きだ。