2024/05/05(日)「青春18×2 君へと続く道」ほか(5月第1週のレビュー)

 録画したテレビ番組や映画を入れているネットワークHDD(NAS)の内蔵ディスクが寿命に近づいているようで、買い換えるかダビングするよう警告が出るようになりました。稼働時間を見たら2万1613時間。つまり900日ぐらい連続稼働させていることになります。不具合が出てもおかしくないと納得しました(ただ、ディスクチェックの結果は正常。近く故障の可能性があるということですかね)。たまには電源切った方が良いのでしょう。内蔵ディスクは換装しようと思ってます。

「青春18×2 君へと続く道」

 藤井道人監督が台湾の紀行エッセイ「青春18×2 日本慢車流浪記」(ジミー・ライ著)を基にして作った日本・台湾合作映画。

 台湾の高校生ジミー(シュー・グァンハン)はバイト先のカラオケ店で日本から来たバックパッカー、アミ(清原果耶)と出会い、カラオケ店で一緒に働くうちに恋に落ちる。しかし、アミはある事情で日本に帰ることになる。お互いに自分の夢を実現したら会おうという約束を交わして2人は別れを告げた。18年後、ジミーはゲーム会社を友人と起業し、成功を収めていたが、自分勝手な営方針がたたって会社を追い出される。傷心のジミーはアミの故郷を訪ねるため、日本を訪れる。

 18年前の描写は見ていてどうにも気恥ずかしい感じがつきまといます。よくあるというか、手垢のついた恋の始まりの描写やバイト先の人たちの良い人っぷり、コメディーのセンスなどに新しさがなく、既存の材料で組み立てたような作り。

 ジミーが日本に来てからの描写は良い場面が多いものの、展開はオリジナリティーに欠けています。語り方に工夫があるので、持ちこたえていますが、結局、そういう話なのかと思えてくるのが残念。終盤、アミの視点で18年前を振り返る場面は叙情性にあふれていて、藤井道人監督は本来、こういう描写が好きなのでしょう。前半にこうした叙情性が少ないのは合作映画に起因する難しさもあるのではないかと思います。

 18年前の場面でジミーはアミを岩井俊二監督の映画「LOVE LETTER」(1995年)に誘います(中国でも台湾でも人気でした)。その上映劇場にはルイ・グンメイ主演の台湾映画「藍色夏恋」(2002年、イー・ツーイェン監督)のポスターが貼ってありました。それぞれ日本と台湾の青春恋愛映画を代表するような作品で、この映画は特に「LOVE LETTER」の影響が大きいですが、そのレベルには届いていませんでした。藤井監督は祖父が台湾出身だそうです。
IMDb7.0(アメリカでは未公開)
▼観客25人ぐらい(公開2日目の午前)2時間3分。

「悪は存在しない」

 豊かな自然に恵まれた田舎町の環境を巡って進出予定の企業とそれに反対する住民たちをシンプルに描いた作品、と思っていたら、ラストでどう解釈すれば良いのか悩む場面が出てきます。平凡に終わるのを避けるためにこういうラストにしたのかと思いますが、確かに終わらせ方の難しい内容ではあって、このラストをどう評価するかで映画全体の評価も変わってくるでしょう。こういう終わり方もありだ、と僕は思いますが、意味が分からないと怒る人がいるかもしれません。

 水がきれいな長野県水挽町で暮らす巧(大美賀均)と娘の花(西川玲)は自然のサイクルに合わせた生活を送っていたが、家の近くでグランピング場を作る計画が持ち上がる。計画主体は東京の芸能事務所。説明会で浄化槽の設置場所が貴重な水源を汚染する可能性があることが分かる。住民たちは説明会で強く反対を表明する。

 長い説明会の場面が映画の白眉で、ここは撮影前の本読みに時間をかける濱口竜介監督の手腕が発揮された場面と言えるでしょう。説明会で住民と対立する企業側の高橋(小坂竜士)と黛(渋谷采郁)は実は悪い人間ではないことが分かってきます。高橋は巧の薪割りを手伝ったり、田舎の生活に触れることで、この町に魅せられてきて、会社を辞めることを考える始末。だからこういうタイトルなのかと思えます。

 主演の大美賀均はこれまで助監督や制作部の仕事をしてきた人で演技は初めて。小坂竜士も俳優から車両部に移っていたそうで、そうした有名ではない出演者ばかりであることが映画にリアルさを与えています。
IMDb7.1、メタスコア82点、ロッテントマト92%。2023年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午前)1時間46分。

「美と殺戮のすべて」

 2022年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したドキュメンタリー。全米で50万人以上が死亡したオピオイド系鎮痛剤オキシコンチンの製薬会社パーデュー・ファーマを営む富豪一族を追及する写真家ナン・ゴールディンの姿を描いています。

 パンフレットによると、オキシコンチンはケシから抽出した成分やその化合物から生成した医療用鎮痛剤(医療用麻薬)。常習性が低く、安全ということで1996年ごろから処方販売されましたが、2000年ごろから依存症や急性中毒で死亡する人が急増したそうです。50万人以上死亡というのが驚きで、なぜそんなものを政府が放置していたのか疑問に思います。ナン・ゴールディンも2014年以降、依存症となったことで、完治後に反対運動を始めたそうです。

 映画はゴールディンの生い立ちと業績を絡めて、反対運動を描いています。普通の社会派映画になっていないので、薬害批判への鋭さが個人的には少し物足りなかったのですが、LGBTQを早くから写真の題材に取り上げ、自身も自由奔放な生活を送ったゴールディンの半生には興味深いものがありました。監督は「シチズンフォー スノーデンの暴露」(2016年)のローラ・ポイトラス。
IMDb7.5、メタスコア91点、ロッテントマト95%。
▼観客1人(公開5日目の午後)2時間1分。

「ゴジラ×コング 新たなる帝国」

 ゴジラを走らせるな。これに尽きます。日本のゴジラが走ったことは多分ないはずです。これは最新2作を除いて着ぐるみ撮影だったので物理的に無理だったからです。走らない、じゃなくて走れない(せいぜい、「シェーッ!」をするぐらい)。ただ、走れない(素早く動けない)ことで、重量感を出すことに成功していて(実際、着ぐるみは重かったのでしょう)、ゴジラの巨大さを表現する効果がありました。

 キングコングのスーツはまあ、人間と変わらない形状ですし、そんなに重くもないでしょうから過去の映画でも走ることは可能だったでしょう(ジョン・ギラーミン版でも走ってました)。でも、やっぱり素早い動きというのは、ゾウなど実際の巨体の動物を見ても無理なのが分かります。だからキングコングも走らないことが望ましいです。

 アダム・ウィンガード監督には怪獣映画のそういうお約束が分かっていないのでしょう。CGチームに丸投げした感がありありです。コングと同類の巨大猿がたくさんいるシーンは大きさの比較になるものが周囲にないので、普通の猿がたくさんいる光景にしか見えませんでした。怪獣映画ではないと思えば、それなりに面白いシーンではありました。

 だいたい、このモンスター・ヴァースシリーズでコングとゴジラはガメラと同じように地球生態系の守護神の役割だったはず。今回の敵は単なるコングの同類で、サル山のボス争いにしか見えません。

 次の作品では怪獣映画を本当に好きな監督に代わってもらった方が良いと思います。
IMDb6.5、メタスコア47点、ロッテントマト54%。
▼観客14人(公開7日目の午後)1時間57分。

「水深ゼロメートルから」

 2019年の四国地区高校演劇研究大会で最優秀賞を受賞した徳島市立高の舞台を山下敦弘監督が映画化。水を抜き、砂が積もったプールで女子高生4人の悩みが交錯する作品です。元の演劇の脚本を書いた中田夢花が映画用に脚本を書いていますが、ほとんどプール内に終始して、いかにも元が演劇の内容となっています。

 夏休みを迎えた高校2年生のココロ(濱尾咲綺)とミク(仲吉玲亜)は体育教師の山本(さとうほなみ)から特別補習としてプール掃除を指示される。水が抜かれたプールには隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっていた。砂を掃き始めると、同級生で水泳部のチヅル(清田みくり)、水泳部を引退した3年生のユイ(花岡すみれ)がやってくる。学校生活や恋愛、メイクなどを話すうちに彼女たちの悩みがあふれていく。

 高校演劇舞台化プロジェクト第一弾の「アルプススタンドのはしの方」(2020年、城定秀夫監督)に続く映画化。「アルプススタンド…」は男女問わず響く内容でしたが、この作品は男には実感しにくい部分がありますね。
 オンライン試写で見ました。1時間27分。

2024/04/28(日)「パスト ライブス 再会」ほか(4月第4週のレビュー)

 前シリーズは見ていなかったんですが、ドラマ「おいハンサム!!2」(東海テレビ)がおかしくて毎回楽しく見ています。伊藤理佐のコミック「おいピータン!!」を中核原作として脚本化したそうですが、この脚色(山口雅俊)が良い出来。原作にはまったく設定がない夫婦(吉田鋼太郎、MEGUMI)と三姉妹(木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈)の騒動を描いたコメディにうまくまとめ上げ、コント集のような形で家族のドラマがゆるく展開していきます。同じく木南晴夏が三姉妹の長女を演じるドラマ「9ボーダー」(TBS)より面白いですね。前シリーズはNetflixやU-NEXTなどで配信中。6月には劇場版が公開予定です。

「パスト ライブス 再会」

 前半、24年前のソウルと12年前のパソコン画面での会話のシーンはフツーの出来。というよりほとんど退屈で、どこが良いのかまるで分かりませんでしたが、後半が見違えるほど素晴らしいです。3人の男女の微妙な心の内を繊細に詳細に豊穣に描き出して感心しまくりました。アカデミー脚本賞は「落下の解剖学」じゃなくて、この映画の方が良かったと思います。

 ソウルで暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンはお互いに恋心を抱いていたが、ノラは家族とともにカナダに移住することになる。12年後、2人はオンラインで再会を果たすが、お互いを思いながらもすれ違う。さらに12年後、36歳のノラ(グレタ・リー)は作家のアーサー(ジョン・マガロ)と結婚して7年たち、ニューヨークに住んでいた。ヘソン(ユ・テオ)はそれを知りながら、ノラに会うためニューヨークにやって来る。

 ノラはいつも寝言を韓国語で言う、とアーサーが打ち明けます。だから自分も韓国語を勉強して少し話せるようになったわけですが、それでも国籍・民族の違いは夫婦間に厳としてあるのでしょう。そういう感じを持っているのに、ノラの初恋の人である韓国男性が訪ねてくるわけですから、「そのまま連れ去ってしまうのではないか」と心穏やかではいられなくなります。だからといって声を荒げるわけでもないアーサーはホントに良い男。その理性と自制はノラとヘソンにも備わっていて、だからこんなに見事な大人の物語になったのでしょう。

 帰国するためウーバーの配車を待つヘソンとノラのシーンからラストまでの描写が秀逸です。黙って見つめ合う2人の感情の高まりを感じさせるサスペンス。あと1、2秒、ウーバーの到着が遅れていたら、2人はキスしていたかもしれません。それは別れのキスではなく、始まりのキスになっていたはず。続く場面で、アパートの外の階段に座ってノラを待つアーサーを映し、駆け寄ってアーサーの腕の中で泣きじゃくるノラの場面まで文句のつけようのない描写。もう完璧というほかない作りでした。

 最後の場面をデイヴィッド・リーン監督の名作「逢びき」(1945年)と比較するレビューがあってなるほどと思いました。冒頭と終盤が呼応する構成も「逢びき」に似ていますから、セリーヌ・ソン監督は意識したのかもしれません。ただし、「逢びき」の夫は妻の行動を何も知らなかった設定でしたが、この映画では妻をよく知った上での描写になっているのが大きな違いです。グレタ・リーの飾らないファッションと自然な佇まいも含めて、脚本と演出と演技が奇跡的な効果を上げた傑作だと思います。
IMDb7.9、メタスコア94点、ロッテントマト95%。
▼観客多数(公開2日目の午後)1時間46分。

「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」

 1969年の若松プロを描いた「止められるか、俺たちを」(2018年、白石和彌監督)の続編。前作では脚本を担当した井上淳一監督によると、今回のタイトルは「映画に人生をジャックされた人たちの青春群像劇」を意味するそうです。

 1980年代、若松孝二が名古屋にオープンさせた映画館シネマスコーレと、そこで若松孝二に弟子入りする青年(井上監督)らの不器用な青春を描いています。80年代に流行した映画のタイトルや監督の実名、映画に関するエピソードがポンポン出てきて、そこでもう懐かしさ全開になるわけですが、ストーリーも若松プロの群像にかつての青春映画の味わいをまぶした展開が個人的にはツボりました。

 若松孝二を演じるのは前作と同じ井浦新ですが、今回の方がしゃべり方を似せてきた印象。シネマスコーレの支配人・木全役に東出昌大、若松監督に弟子入りする井上淳一役に杉田雷麟(らいる)。スコーレでアルバイトする金本法子(芋生悠)は実際にはオープンして10年ほどたってから関わってきたそうです。

 劇中で引用されている新藤兼人監督の言葉「人は誰でも一生に一度だけ傑作を書くことができる。それは自分自身を描くことだ」の通り、井上監督は自分自身のことも描いて傑作をものにしたと言えるでしょう。パンフレットとして販売されている公式ブックはA4判で100ページ以上あり、シナリオ決定稿も収録された読み応えのある内容となっています。
▼観客2人(公開初日の午後)1時間59分。

「戦雲 いくさふむ」

 軍事基地化が進む南西諸島の現状を描いたドキュメンタリー。監督は「沖縄スパイ戦史」(2018年、キネ旬文化映画ベストテン1位)などの三上智恵で、8年かけて取材したそうです。

 描かれるのは台湾有事に備えて与那国、宮古、石垣島と沖縄本島で急速に進む軍事要塞化です。有事の際に南西諸島の人たちは全島避難が想定され、避難先は九州各県とされています。だから他人事ではなく、興味深い内容ではあるんですが、少し長すぎると感じました。現状と住民の反対運動だけでなく、島の生活を描くことも狙いだったのは分かるんですが、結果的に鋭さを失った印象になっています。30分ほど短くしても良かったのではないでしょうか。

 映画に出てくる石垣島には15年ほど前に家族旅行で行きました。車で40分ぐらいで島の周囲をドライブできるほどの意外に小さな島です。そこに軍事基地ができたわけで、観光地としてはデメリットもあるんじゃないかと心配になります。
▼観客13人(公開6日目の午後)2時間12分。

「陰陽師0」

 平安時代の呪術師・安倍晴明(山崎賢人)が陰陽師になる前の事件を描く佐藤嗣麻子監督作品。陰陽師シリーズは夢枕獏が原作ですが、この物語は佐藤監督のオリジナルです。

 新味もひねりもないストーリーが致命的にダメで、奈緒と染谷将太の絡みのシーンなどはまるでお話にならないレベル。2人とも演技はうまいのに、このストーリーでは見せ場がなかったのでしょう。奈緒はこうしたお姫様役はあまり似合わないと思えました。VFXはまずまずでした。
▼観客30人ぐらい(公開7日目の午後)1時間53分。

「12日の殺人」

 「悪なき殺人」(2019年)のドミニク・モル監督作品で、実際に起きた女子大生焼殺事件を基にしたサスペンス。

 フランスの殺人事件の2割は未解決と冒頭の字幕に出ます。日本の場合、殺人事件の検挙率は90%以上らしいので、フランスは少し検挙率が低すぎます。映画で描かれる事件も未解決ですが、警察の捜査の仕方に問題があるとしか思えません。

 映画の出来自体はまずまずなんですが、未解決事件を描いた作品にはポン・ジュノ「殺人の追憶」(2004年)という偉大な作品がありますから、比較すると、分が悪くなりますね。
IMDb7.0、メタスコア81点、ロッテントマト94%。
▼観客8人(公開11日目の午後)1時間54分。

「シティーハンター」

 北条司の人気コミックのNetflixオリジナル映画化。予告編公開時にキャラの再現性が高いと言われていた通り、鈴木亮平の冴羽燎も森田望智の槇村香も木村文乃の野上冴子もイメージ通りで文句なしです。アクションも悪くありませんが、残念ながら話がイマイチ面白みに欠けます。

 映画にするより1時間のドラマシリーズにした方が良いのかもしれません。ちゃんと巨大ハンマーと、もっこりを出してくるのに感心。監督は佐藤祐市、脚本は三嶋龍朗(脚本協力に「夜を走る」の佐向大の名前がありました)。
IMDb6.5、ロッテントマト63%(観客スコアは89%)。

2024/04/21(日)「異人たち」ほか(4月第3週のレビュー)

 Filmarksの地上波ドラマの評価を見ると、4月スタートの作品では「アンメット ある脳外科医の日記」(カンテレ)とNHK朝ドラ「虎に翼」が4.2で現時点での最高点となっています。

 「アンメット」は原作コミック(子鹿ゆずる・作、大槻閑人・画)とは主人公を変えて、記憶が1日しか持たない脳外科医ミヤビ(杉咲花)を描いています。原作の主人公はアメリカ帰りの超一流の脳外科医・三瓶(若葉竜也)ですが、ミヤビは原作の主要キャラですし、三瓶との関係も物語の核になっていくようです。何よりミヤビのキャラはドラマティックかつ同情・共感を得やすいので、この脚色が成功の一因と思えました。

 記憶が1日しか持たないという設定は「50回目のファースト・キス」(2004年、ピーター・シーガル監督)とそのリメイク(2018年、福田雄一監督)や「今夜、世界からこの恋が消えても」(2022年、三木孝浩監督)などの先行作品がありますが、医療ドラマとの組み合わせはオリジナルなものですね。

「異人たち」

 山田太一の小説「異人たちとの夏」を「さざなみ」(2015年)のアンドリュー・ヘイ監督が映画化。同じ原作を最初に映画化した「異人たちとの夏」(1988年、大林宣彦監督)はキネ旬ベストテン3位で、主人公の両親を演じた片岡鶴太郎と秋吉久美子がともに助演賞を受賞しました。

 大林版はこの2人がとても良かったんですが、主人公(風間杜夫)と同じマンションに住み、愛し合うようになる名取裕子の描き方がいかにもホラーじみていて、マイナスの印象でした(名取裕子自身が悪かったわけではありません)。

 アンドリュー・ヘイはこの名取裕子の役を男に代えています。主人公アダム(アンドリュー・スコット)はロンドンのマンションに住む脚本家。このマンション、アダムともう一人しか住んでいないらしく、夜になると、ひっそりしています。ある夜、同じマンションの住人ハリー(ポール・メスカル)が酒を持って訪ねてきます。アダムは警戒して追い返したものの、お互いにゲイ(クィア)であることを察知し、次第に仲を深めていきます。同じ頃、アダムは死んだはずの両親と再会し、戸惑いながらも両親の温かさを忘れられず、何度も家に通うようになります。

 両親を演じるのはジェイミー・ベルとクレア・フォイ。大林版では両親の場面は明るい色調、名取裕子の場面は暗い色調で描いていましたが、アンドリュー・ヘイはそうした分かりやすい区別はしていません。両親の場面は大林版の方が優れていますが、マンション内の場面はこの映画の方が良いです。

 アダムとハリーはどちらも深い孤独にあり、それがゲイの範囲を超えて、観客の胸に届く要因になっています。ハリーの設定は原作とは異なるものに脚色したんじゃないかと途中まで思ってました。
IMDb7.7、メタスコア90点、ロッテントマト96%。
▼観客6人(公開初日の午前)1時間45分。

「貴公子」

 途中までどういう話かまるで分からないにもかかわらず、とても面白いという作品がミステリーにはいくつかあって、僕はアリステア・マクリーン「恐怖の関門」を真っ先に思い浮かべます(冒険小説ですけど)。この映画もそういう先行作品を参考に物語を組み立てたのでしょう。

 冒頭は凄腕の男があっという間に暴漢数人を殺してしまう場面。善悪も男の正体もまるで分かりません。続いて、フィリピンの若いボクサーが出てきます。韓国人の父親とフィリピン人の母親の間に生まれ、父親は韓国に帰ったという設定。こういうハーフをコピノといい、Wikpediaによると、2014年現在で3万人いるそうです(ちなみに日本人男性とフィリピン女性とのハーフはジャピーノと言い、2010年現在で10万人です)。

 そのボクサー、マルコ(カン・テジュ)は病気の母親を抱え、貧しい生活を送っています。そんなマルコのもとに「韓国にいる父親の使い」と称する男たちが現れ、マルコを韓国に連れて行き、父親に会わせようとします。それを妨害するのが冒頭に出てきた凄腕の男(キム・ソンホ)。男は執拗にマルコたちを追跡し、壮絶な攻防戦が展開されることになります。

 アクションが残虐すぎるのが好みではありませんが、語り口の工夫は良いと思いました。脚本・監督は「THE WITCH 魔女」シリーズのパク・フンジョン。シリーズ化できそうな話ですね。
IMDb6.9、ロッテントマト94%(アメリカでは限定公開)。
▼観客6人(公開7日目の午後)1時間58分。

「ゴースト・トロピック」

 ベルギーのバス・ドゥヴォス監督が「Here」(2023年)の前、2019年に撮った長編第3作。

 一日の仕事を終えた掃除婦のハディージャ(サーディア・ベンタイブ)は地下鉄の最終電車で眠りに落ちてしまう。終点で目覚めた彼女は家へ帰る方法を探すが、金がなく、タクシーには乗れず、歩いて帰るしかない。寒風吹きすさぶ真夜中のブリュッセルを彷徨い始めた彼女は、さまざまな人たちと出会う。

 「Here」の主人公と同様にハディージャも移民です。頭をヒジャブで覆っているのでイスラム教徒でしょう。情感豊かな描き方で、個人的には「Here」より面白く見ました。
IMDb6.4、メタスコア91点、ロッテントマト100%。
▼観客7人(公開5日目の午後)1時間24分。

「蛇の道」(1998年)

 6月公開の黒沢清監督「蛇の道」は1998年の同名作品の監督自身によるリメイク。旧作は元々オリジナルビデオとして企画されたようですが、劇場公開されていてキネ旬ベストテンでは47位でした。

 U-NEXTはさすがというべきか、旧作を配信開始しました。で、見ました。幼い娘を殺された宮下(香川照之)と、彼に手を貸す新島(哀川翔)の復讐を描いたバイオレンス・ドラマ。2人は事件に関係しているらしいある組織の幹部を拉致監禁し、拷問にも似たやり方で犯人の名前を吐かせようとします。まあ普通のドラマだなと思いながら見ていると、終盤で意外な真相が明らかになります。この真相がすべてで、いかにも高橋洋脚本らしく、黒沢清らしいものになっていました。

 これには同じ主人公の“オフビートドラマ”「蜘蛛の瞳」(1998年)があって、同じくU-NEXTが配信しています。キネ旬ベストテンではこちらの方が順位が上で33位でした。

 評価は「蛇の道」がKinenote72.2、映画.com2.6、Filmarks4.0。「蜘蛛の瞳」は67.6、3.4、4.0。

 新作の「蛇の道」はフランスが舞台で、予告編を見ると、柴咲コウがフランス語をしゃべって、不自然さがないのに驚きます。撮影前に特訓したんだとか。柴咲コウの役は旧作の哀川翔の役に当たるようです。

2024/04/14(日)「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」ほか(4月第2週のレビュー)

 今田美桜主演のドラマ「花咲舞が黙ってない」(日テレ)は主人公が支店統括部臨店班に異動するところから始まり、キャストも一新されているので、杏が主演した同名作品(2014、2015年)に続くものではなく、リメイクあるいは仕切り直しです。

 新旧の第1話を見比べてみたら、旧作は15分長い拡大版なんですが、明らかに旧作の方が良い出来でした。これは今田美桜より杏の方が良いという理由ではなく、端的に脚本・演出の違いによるものです。予算的にも旧作の方がかかっていそうな感じ。2話以降に期待します。

 それにしても、池井戸潤原作のドラマを見ると、「銀行って、悪い奴だらけだな」と思ってしまいますね。

「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」

 シリーズ第27作。コナンシリーズは多彩なキャラのそれぞれにファンがいて、劇場版では毎回違ったキャラをフィーチャーしていますが、今回は怪盗キッドと服部平次が中心になってます。

 函館市にある斧江財閥に、怪盗キッド(山口勝平)から犯行予告が届く。キッドは幕末の新選組副長・土方歳三にまつわる日本刀を狙っていた。西の高校生探偵・服部平次(堀川りょう)とコナン(高山みなみ)たちは剣道大会のため函館に来ていた。変装を見破った平次はキッドを追い詰めるが、逃げられる。その頃、倉庫街で胸に十文字の切り傷がつけられた遺体が見つかり、日系アメリカ人の武器商人の男が捜査線上に浮かぶ。男は戦時中軍需産業に深く関わっていた斧江家初代当主が函館のどこかに隠したとされる宝を探していた。宝は日本の敗色濃厚だった戦況を一変させるほどの強力な兵器といわれ、キッドが狙った刀には宝の場所を示す手がかりがあるようだった。

 脚本は「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」(2022年)に続いてシリーズ4作目の担当となるミステリー作家の大倉崇裕。宝のありかを探すミステリー的展開の後にクライマックスの大がかりなアクションを見せる構成はこれまでの劇場版と同様です。序盤は悪くないんですが、宝探しの部分が長すぎる気がしました。クライマックスの飛行機上のアクションはまあ、現実にはありえないんですけど、アニメだから良いでしょう。

 個人的には灰原哀の出番が少なくて残念(前作「黒鉄の魚影」で十分見せてもらいましたが)。コナンシリーズのファンでなければ、特に劇場で見る必要はないと思えました。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)1時間51分。

「Here」

 ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門で最優秀作品賞と国際批評家連盟賞を受賞した作品。ベルギーのバス・ドゥヴォス監督の長編4作目で、ブリュッセルを舞台にルーマニアの移民労働者ステファン(シュテファン・ゴタ)と植物学者の女性シュシュ(リヨ・ゴン)の日常の断片をつづったドラマです。

 建設労働者のシュテファンはルーマニアに帰ろうとしていて、冷蔵庫の残り物の食品を使ってスープを作り、それを世話になった人たちに配っています。森を散歩している途中、以前レストランで会ったシュシュと再会し、彼女がコケ類の研究者である事を知ります。

 上映時間も短く、なんてことはないストーリー。評価の高さはその映像にあるようですが、僕は基本的に一にも二にも三にもスジ重視なので、ほぼ何の感慨もなく、評価のしようがありません。とりあえずドゥヴォス監督の前作「ゴースト・トロピック」(2019年)も見てみようと思います。
IMDb6.8、メタスコア96点、ロッテントマト96%。
▼観客5人(公開7日目の午後)1時間23分。

「PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」

 全国高校eスポーツ大会に参加した徳島の高専生3人を描く青春映画。ゲームにもeスポーツにもあまり興味はないので、古厩智之監督作品でなければ、スルーするところでした。古厩監督は「ロボコン」(2003年)や「のぼる小寺さん」(2020年)など高校の部活を題材にした作品を撮っていますが、この作品も基本的に同じ手法で、きっちり水準作に仕上げています。

 徳島の阿南高専で実際にあった話を基にした物語(脚本は朝ドラ「ブギウギ」で足立紳とともに脚本を担当した櫻井剛)。高専3年生の田中達郎(鈴鹿央士)は手首にけがをしてバスケットボールを断念。今はオンラインゲームに没頭している。全国高校eスポーツ大会があることを知った達郎はチラシを作り、参加者を募集。郡司翔太(奥平大兼)が応募し、残る一人は同じクラスの小西亘(小倉史也)に頼み込む。3人は徳島予選をなんとか勝ち進み、東京の本戦に出場を果たす。

 大会でプレーするのはロケットリーグというゲーム。Wikipediaによると、「ジャンプやロケット飛行ができる特殊な車を操作してサッカーを行う架空のスポーツを題材としたコンピュータゲーム」です。

 達郎と翔太の家庭はそれぞれに問題を抱えていますが、それと本筋とがあまり絡んできません。これは作劇上の弱さにつながっていて、もちろん簡単に解決できる問題ではないんですが、仲間を作り、目標に突き進んだ体験を経たことで、問題解決の何らかの道筋や意識の変化を示しても良かったのではないかと思いました。

 サブタイトルは全国大会のキャッチコピー。同時に、勝ち負けにこだわる翔太の父親へのアンチテーゼにもなっています。
▼観客2人(公開6日目の午後)2時間2分。

「その鼓動に耳をあてよ」

 東海テレビの劇場版ドキュメンタリー第15弾。令和4年度の文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門で優秀賞を受賞した「はだかのER 救命救急の砦 2021-22」を映画化したものだそうです。

 名古屋港から北へ3キロのところにある名古屋掖済会病院の救命救急センターを定点観測した作品。同病院は「救急患者を断らない方針」で年間1万台もの救急車を受け入れています。映画はそこで働く医師や看護師の姿と発言に焦点を当て、救急医療の現場の過酷さと問題点を浮き彫りにしていきます。

 鼻に入れたどんぐりが取れなくなったり、結婚指輪が指から抜けなくなったり、釘が刺さったり、飛び降り自殺未遂で大けがを負ったりなどさまざまな患者が運ばれてくるほか、経済的に困窮した患者など社会的な問題も描かれており、対応する医師たちの姿勢に時に胸が熱くなります。

 救急医を志した理由について医師の1人は「医療ドラマ、『コード・ブルー』などを見てかっこいいと思ったから」と答えます。医療ドラマに限らず、お仕事ドラマ、お仕事映画はその職業に進む人の背中を押す効果があるんだなと思います。この映画を見て救急医を志す人もきっといるでしょう。

 監督はこれが初監督となる足立拓郎。エンドクレジットに研修医の名前が100人以上(200人以上?)五十音順に出てきますが、映画の中心になるわけでもないので「研修医の皆さん」で良いんじゃないでしょうかね。なぜこれを長々と見せるのか疑問でした。
▼観客6人(公開5日目の午後)1時間35分。

「寄生獣 ザ・グレイ」

 岩明均原作コミックを、韓国を舞台に映像化したNetflixオリジナルドラマ(全6話)。主人公が女性に変わっているほか、原作をかなりアレンジしています。というか、原作と同じ時間軸に韓国では寄生生物による別の物語があった、という解釈で良いと思います。最終6話の驚きのラストでそれが明確になります。このラスト、ネットニュースでは盛大にネタバレしてますね。と思ったら、Wikipediaにも記述がありました。うーん、困ったもんだ。

 「グレイ」は寄生生物対策チームの名称。原作の寄生生物は主人公の右手に寄生したのでミギーと名づけられ、主人公とのバディ感がありましたが、韓国版は劇中で言及される「ジキル博士とハイド氏」や多重人格者のように一方が起きている間、他方は寝ているという関係になります(ミギーが長時間寝ているのは原作の後半にもありました)。VFXはそれなりによく出来ていますが、寄生生物がどれも同じような形態なのは残念。もう少しバリエーションを持たせでも良かったのでは。

 主演はチョン・ソニ。笑顔をほとんど見せないので、見終わってプロフィル見るまで韓国版「ソウルメイト」のハウン役の女優とは気づきませんでした。主人公を助ける刑事役で「小説家の映画」(2022年)や「逃げた女」(2020年)などホン・サンス監督の映画ではおなじみのクォン・ヘヒョ。監督は「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016年)、Netflixのドラマ「地獄が呼んでいる」(2021年)などのヨン・サンホ。
IMDb7.3、ロッテントマト100%。

 「寄生獣」や「ウルトラマン」第1話、映画「ヒドゥン」(1988年、ジャック・ショルダー監督)など多くの作品の基になり、影響を与えた古典SF「20億の針」(1950年、ハル・クレメント)は2016年に新訳で復刊されたんですが、また手に入りにくくなってます。こういう名作は電子書籍化してほしいものです。ちなみにこの小説、僕は小学生の時、「宇宙人デカ」のタイトルの子供向けリライト版を読みました。調べたら、表紙と挿絵は横尾忠則でした。

2024/04/07(日)「アイアンクロー」ほか(4月第1週のレビュー)

 2021年に放送され、評判となったテレビアニメ「オッドタクシー」と同じ物語世界のドラマ「RoOT」(テレ東系)が始まりました。脚本の此元和津也が原作を書いたコミック「RoOT / ルート オブ オッドタクシー」を基にしたドラマで、「不適切にもほどがある!」でブレイクした河合優実主演。1回目を見たら、さっそく女子高生の失踪と彼女を乗せたタクシーの運転手・小戸川(「オッドタクシー」の主役)が登場しました。河合優実は探偵役で新人探偵の坂東龍汰とともに失踪事件を調べていく展開。「オッドタクシー」を別視点で描いていくようです。小戸川を演じるのは映画「恋人たち」(2015年、橋口亮輔監督)などの篠原篤。Netflixの独占見放題で、TVerでは配信していません。

 ドラマでもう1本、話題なのが今泉力哉監督の「からかい上手の高木さん」(TBS系)。アニメも人気を呼んだ山本崇一朗原作コミックのドラマ化。中学生の西片(黒川想矢)が同じクラスで隣の席の高木さん(月島琉衣)にからかわれる日々を微笑ましく描いています。これはTVerで配信していますが、Netflixが先行していて既に3話まで進んでます。来月末に公開予定の劇場版はこの10年後を描き、西片を高橋文哉、高木さんを永野芽郁が演じます。

「アイアンクロー」

 そんなに熱心にプロレスを見ていたわけではありませんが、鉄の爪フリッツ・フォン・エリックはよく知っています。頭をつかむアイアンクローだけでなく、腹部をつかむストマッククローも有名で、当時の小中学生はよく真似していました。その後、プロレスを見ることは少なくなったため、フォン・エリックの一家がこんな悲劇に見舞われていたことは知りませんでした。

 悪役レスラーとして名を馳せた父フリッツには6人の息子がいました。映画は幼い頃に事故死した長男のジュニア以下、ケビン、デビッド、ケリー、マイクの5人を描いています。末弟のクリスは登場しませんが、ケビンとデビッド以外のクリスを含む3人はいずれも自殺しています。それはなぜか、を映画は描いていきます。

 映画を見ると、端的に両親に原因があることが分かります。引退後もプロモーターとしてプロレスで生計を立てていたフリッツは息子たちにNWA世界チャンピオンになることを求めます。兄弟たちは尊敬する父親の期待に応えようとして無理をしていました。音楽や陸上競技の道をあきらめ、レスラーになった兄弟もいますし、来日中にホテルで急死した三男デビッドも無理がたたったためでしょう。

 痛ましいのは四男ケリー。期待に応えてNWAの王者となりますが、バイク事故で右足を切断。激痛に耐えて復帰したものの、ドラッグに溺れた末、自殺してしまいます。

 プロレスファンだったというショーン・ダーキン監督は唯一生き残ったケビンに取材し、脚本をケビン中心に組み立てています。ケビンを演じるのは筋肉の塊に体を仕上げたザック・エフロン。ケビンが「呪われた一家」の難を逃れたのは結婚して妻(リリー・ジェームズ)と子供たちとの幸福な家庭を持てたことが大きかったと思います。

 対父親との関係では苦しいことが多かった兄弟たちですが、兄弟同士は仲が良かったようです。亡くなった4人が天国で顔を合わせる場面の幸福感が救いになっています。ダーキン監督の演出は真正面から題材に取り組む姿勢に好感が持てました。プロレスファンだけでなく、子供に干渉しすぎる親(当人に自覚はないでしょうが)も必見です。
IMDb7.7、メタスコア73点、ロッテントマト89%。
▼観客8人(公開初日の午前)2時間10分。

「ソウルメイト」

 女性2人の友情を描いた中国映画「ソウルメイト 七月と安生」(2016年、デレク・ツァン監督)の韓国版リメイク。七月(マー・スーチュン)がハウン(チョン・ソニ)、安生(チョウ・ドンユイ)がミソ(キム・ダミ)となっています。リメイクとしては主演2人の好演のおかげで悪い出来ではありませんが、デレク・ツァンの演出の緊密さには及びませんでした。

 オリジナルは1時間50分でリメイクより14分短いですが、序盤のミソの貧しさはオリジナルの方が詳しく描いていました。そこだけでなく、全般的に描写の簡潔さ・鋭さ・鮮烈さではオリジナルの方が上ですね。監督はミン・ヨングン。
IMDb7.4、ロッテントマト95%(観客スコア)。アメリカでは限定公開。
▼観客8人(公開6日目の午後)2時間4分。

「ゴーストバスターズ フローズン・サマー」

 「ゴーストバスターズ アフターライフ」(2020年、ジェイソン・ライトマン監督)に続くシリーズ5作目。といっても3作目の女性版「ゴーストバスターズ」(2016年、ポール・フェイグ監督)はオリジナルキャストが別の役名でカメオ出演したリブート作品だったので、シリーズとして話がつながっているのは4作目となります。

 封印されていた史上最強のゴースト“ガラッカ”が解き放たれてしまい、真夏のニューヨークが氷の世界に一変する。前作でゴーストバスターズを引き継いだスペングラー一家がそれに対抗する、というストーリー。

 スペングラー家の祖父イゴン・スペングラーは第1作の脚本も書いた故ハロルド・ライミス(2014年死去)が演じていました。その孫を前作から演じているのが傑作「gifted ギフテッド」(2017年、マーク・ウェッブ監督)で天才少女を演じたマッケナ・グレイス。ストーリー上は正統な続編と言えるんですが、残念ながらキャラクターがビル・マーレー、ダン・エイクロイドら旧シリーズの面々のおかしさ、ユニークさに負けています。ビル・マーレーが出てくると、途端に映画が面白くなる、あるいは面白くなりそうな期待を持たせるんです。

 監督は前作で脚本を担当したギル・キーナン。演出の緩さが致命的で、VFXも普通の出来なのがつらいところです。
IMDb6.2、メタスコア46点、ロッテントマト44%。
▼観客3人(公開4日目の午後)1時間55分。

「十角館の殺人」

 1987年に出版された綾辻行人のデビュー作で新本格ブームを巻き起こした名作をHuluがドラマ化(全5話)。「あの1行の衝撃、まさかの実写化」というコピーで、その1行をどう映像化しているか興味があったので見ました(原作読んでます)。「あの1行」とは孤島の連続殺人犯が明らかになる場面のこと。

 講談社のサイトからあらすじを引用すると、「十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!」という物語です。

 叙述トリックなので映像化は難しいんですが、まあまあ頑張ってました。ただ、犯人の隠し方が視覚的に鬱陶しいですし、殺されていく大学生たちの演技がイマイチうまくないので、一気見するほど面白くはありません。

 我慢して見ていくと、原作未読の人は第4話のラストで驚くかもしれません。出演は奥智哉、青木崇高、角田晃広、仲村トオル、長濱ねるなど。監督は「相棒」シリーズなどミステリ系のドラマを多く演出している内片輝。