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2003年02月06日の記事

2003/02/06(木)「ボーン・アイデンティティー」

 ロバート・ラドラム「暗殺者」の映画化。記憶をなくした主人公ジェイソン・ボーン(マット・デイモン)がCIAから命を狙われながら、自分のアイデンティティーを探し求める。何が起こっているのか、なぜ狙われるのかが分からない前半の展開は快調で、デイモンもアクションシーンを難なくこなし、凄腕の男役がピッタリな感じ。ボーンの逃走を助け、事件に巻き込まれるマリー役フランカ・ポテンテも少し疲れた感じがいい。ただ、謎の設定がちょっと浅い。頭を打ったわけでもないのに主人公が記憶をなくすというのも都合がよすぎるのではないか。原作は未読だが、映画化に際してかなり単純化してあるようだ。あと2つぐらいヒネリを加えると良かったと思う。

 地中海で重傷を負って浮かんでいた男が漁船に救出される。男は背中を撃たれており、体内にはチューリヒの銀行の口座番号が埋め込まれていた。しかも記憶がなくなっている。傷をいやした男が銀行に行くと、金庫には大金とジェイソン・ボーンなどと名乗った6枚のパスポート、拳銃があった。銀行を出たところで、ボーンは警官から追われ、アメリカの領事館に逃げ込む。しかし、そこでも警官たちがボーンを狙ってくる。ボーンは金に困っていた女マリー(フランカ・ポテンテ)に謝礼2万ドルの約束で、手がかりを捜すため車で一緒にパリに行く。

 と、ストーリーを書けるのはここまで。ダグ・リーマン監督の演出はスピーディーで次々にアクション場面とサスペンス場面をつないでいく。記憶はなくしていても格闘技の腕は体が覚えており、公園で詰問を受けた主人公が一瞬にして2人の警官を倒す場面など鮮やか。デイモンは映画に備えて体作りをしたようだ。アクションが格闘中心なのもいい。

 やや単調になる中盤で、ボーンとマリーのロマンスを取り入れているのは効果的で、マリーはボーンの要請で容姿を変え、徐々にスパイ映画の女優らしくなってくる。この2人の関係をもっと描いても良かったと思う。

 問題は事件の真相がやや魅力を欠くこと。CIAが主人公を狙うことにどうも切実な理由が見当たらない。ゲームみたいな話なのである。主演の2人の魅力で救われてはいるけれど、もう少し時代に即した脚本にしたいところだった。とはいっても、冷戦時代とは違い、スパイ映画は成立にしくい時代なのだろう。