2008/08/16(土)「アフタースクール」

 ミステリで言うところの叙述トリックの映画。それまで見ていた話が突然、別の話になっていくのが快感で、アクロバティックな脚本に感心する。簡単にストーリーを書こうとすると、嘘が含まれてしまう。映画のパンフレットにあるストーリー紹介にも嘘がある。これはどうしようもないのだろう。つまり観客の思い込みで成り立ったストーリーだからだ。

 かつて作家の都筑道夫はキネ旬の連載でビリー・ワイルダー「悲愁」のストーリーを紹介した際にわざとミスディレクション的な書き方をした。その方が観客の楽しみを奪わないからで、小林信彦はそれを評価していた。ミステリに精通した人じゃないとこういう書き方はできない。

 映画にはもちろん、嘘はない。ある男が失踪して、それを男の会社と親友が探し始める。という発端はハードボイルド・ミステリによくある設定。だから探偵が出てくるのにもうなずける。失踪にはなにやら女とヤクザの影がちらついている。親友役の大泉洋のキャラクターがおかしいので、まあ退屈せずに見られるが、前半は取り立てて良くできているわけではない。終盤の大技がピタリと決まった後、映画はキャラの性格をそれまでとはがらりと変更し、ちょっぴりホロリとさせ、心温まるハッピーな結末を迎えることになる。

 この部分があるから映画は好評なのだろう。ここがなければ、単なるパズル的な映画で終わっていた。個人的には大技に比べて、終盤の展開はややドラマ的に弱く、少しバランスが取れていない感じを受けた。ドラマ的な弱さは構成と関係してくるので難しいのだが、ここをもっと強化すれば、映画は完璧になっただろう。ただし、内田けんじ監督の良さはこういう軽いほのぼの感にあるのだと思う。

 こうした凝った脚本は海外にもあまりない。そこは大いに評価すべきところだ。はったりだけの監督に成り下がったM・ナイト・シャマランにはこの映画を見て顔を洗って出直してきてほしい。

 出演者の中ではナイーブさとほのぼのさを体現した堺雅人が良かった。今年、ブレイクというにふさわしい活躍だと思う。助演男優賞の筆頭候補じゃないかな。

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