2011/04/26(火)「しあわせの隠れ場所」

 「あれは何かを心に決めた時の顔だ」。寒空に半袖のポロシャツで歩いている黒人の大柄な高校生ビッグ・マイクに駆け寄ったリー・アン・チューイは夫の乗る車の方を振り返る。その時に夫のショーンが息子のSJに言うセリフ。そして夫妻はビッグ・マイクを連れ帰り、家に住まわせることになる。ファーストフードのチェーン店を経営する夫妻の住む家は豪邸だ。やがてビッグ・マイクことマイケル・オアーは高校でフットボールに頭角を現すようになる。

 貧しい黒人を一人だけ助けることが何になるのか、なんて思いが一瞬、頭をかすめるのだが、映画はサンドラ・ブロックの奇跡的な好演によって説得力を持っている。強い意志を持ち、人が良くて優しい母親であり、女性としての魅力にもあふれるリー・アンをブロックはデビュー以来最高の演技で演じきっている。アカデミー主演女優賞にも納得だ。これはアメリカが理想とする女性像だろう。ブロックはつまらない上に、もはやふさわしくもないラブコメに出るよりもこういう役柄の方がピッタリくる。

 何よりもこれが実話であることに驚く。アイケル・オアーはミシシッピー大からNFLのボルチモア・レイブンズに1位指名され、活躍中の選手だという。原題のThe Blind Sideは「右利きのクォーターバックにとってパスを投げる際に死角となる左側のサイドのこと」。もちろん、これはマイケル・オアーの見えない部分をも意味するダブルミーニングだろう。それを「隠れ場所」と訳すのは少し苦しい。何かうまい邦題をつけたかったところだ。アメリカの明るい側面を描いたハッピーな傑作と思う。監督はジョン・リー・ハンコック。