2023/11/05(日)「ゴジラ-1.0」ほか(11月第1週のレビュー)

 「ゴジラ-1.0」はゴジラ70周年記念作品にして東宝実写版30作目のゴジラ映画。山崎貴監督は「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007年)の冒頭にゴジラを登場させたほどなので、念願のゴジラ映画登板なのでしょう。革新的傑作だった「シン・ゴジラ」(2016年、庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)の後では相当に分が悪いのですが、方向性を逆にしてシリーズ1作目のフォーマットに戻った作品に仕上げています。

 特徴的なのはゴジラ映画史上最もエモーショナルな部分を持ち合わせていること。特攻隊で死ななかった主人公を絡めた「生きろ」という主題の物語は過去のさまざまな映画・ドラマを想起させ、オリジナルな要素ではないのですが、泣かせる演出がツボを外していないためラストで涙する女性客もいます。

 映画は太平洋戦争中の1945年、大戸島で始まります(この島は第1作にも出てきました)。旧日本軍の守備隊基地があり、意に沿わない特攻出撃を命じられた敷島浩一少尉(神木隆之介)は飛行機に不具合があったとして島に不時着しましたが、「どこにも故障は見つからなかった」と整備兵の橘宗作(青木崇高)に皮肉られます。その夜、恐竜のような体高15メートルの生物・呉爾羅(ゴジラ)が島を襲撃。敷島は恐怖のためゼロ戦の20ミリ砲を撃てず、日本兵のほとんどは死亡します。生き残った敷島は大空襲で焼け野原となった東京に戻り、赤ん坊を連れた大石典子(浜辺美波)と出会って共同生活することに。そして1947年、ビキニ環礁の核実験の影響で体高50メートルに巨大化したゴジラが東京を襲ってきます。

 大戸島の呉爾羅の動きは「ジュラシック・パーク」のティラノサウルスを思わせ、兵士の上半身を咥えて放り投げたりします。15メートルの大きさは人間を襲うのにちょうどよく、咥えたのなら上を向いてのみ込んでほしいところですが、描写が生々しくなってNGなのでしょう。ゴジラの前身と旧日本兵が遭遇するエピソードは大森一樹監督の「ゴジラVSキングギドラ」(1991年)にもあり、ラゴス島でゴジラザウルスが米軍を撃退しました。東京を襲撃したゴジラが電車を咥える場面と、ゴジラを実況するアナウンサーがいるのは1作目と同じです。というか、現代のVFXでの作り直しです。

 ここでゴジラが吐く熱線の迫力は「シン・ゴジラ」で東京の3区を一瞬にして消滅させたシーンに匹敵します。あちらは夜だったのに対して、今回は昼間の大破壊であり、大音響を含めて相当に見応えがあります。ゴジラに関するVFXのシーンはアメリカ映画に負けないレベルで、12月1日から公開される海外でも十分通用するでしょう。不安材料は戦後日本のドラマが分かりにくいのではないかということ。ここを楽しめないと、ゴジラ登場シーンが少ないという不満が出てくるかもしれません。再編集して海外版を作るのものもありかな、と思います。

 国内では大ヒットスタートを切ったようです。神木隆之介と浜辺美波の「らんまん」コンビが出ていることも一助になっているのかもしれません。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間5分。

「愛にイナズマ」

 前半と後半にはっきり分かれる構成。前半は1500万円の予算で自分の家族をモデルにした映画「消えた女」を作ろうとしている若手女性監督・折村花子(松岡茉優)の苦闘。後半は花子と父(佐藤浩市)と兄2人(池松壮亮、若葉竜也)の家族が10年ぶりに一堂に会する話になっています。

 前半をもう少し短くして後半に重点を置いた方が良かったのではないかと思いますが、石井裕也監督としては前半も描きたかったのでしょう。ここで助監督を演じる三浦貴大は前例と普通の描き方をはみ出すことをよしとせず、ことあるごとに花子に難癖を付けます。「月」で年上のオダギリジョーにタメ口を吐く年下の先輩と同じようなしょうがない男。組織や集団には時々、こういう輩がいて、石井監督自身も苦しめられた経験があるのかもしれません。

 コメディに分類すると、軽くなりすぎるような気がしますが、笑える場面は多いです。「勝手にふるえてろ」(2017年、大九明子監督)以来の単独主演となる松岡茉優が振り切った演技を見せて痛快です。
▼観客4人(公開初日の午前)2時間20分。

「北極百貨店のコンシェルジュさん」

 西村ツチカの同名コミックをアニメ化。客は全て動物という不思議な北極百貨店を舞台に主人公の新人コンシェルジュ・秋乃が客からの難題を解決するために奔走するファンタジーです。評判良いのですが、上映時間が短いためもあって僕には食い足りなかったです。板津匡覧監督。
▼観客6人(公開7日目の午後)1時間10分。

「春画先生」

 塩田明彦監督作品で春画の研究者・芳賀一郎(内野聖陽)と春画に魅せられた春野弓子(北香那)を巡るコメディ。塩田監督がロマンポルノ・リブートの1本として撮った「風に濡れた女」(2016年)が好評だったことから、「もう1本やりましょう」とプロデューサーに言われたのが出発点とのこと。ロマンポルノではないので濡れ場は少ないですが、芳賀には倒錯的なところがあって、ロマンポルノにありそうな設定ではあります。

 芳賀の妻の墓に向かって嫉妬の言葉を投げる場面のおかしさなど北香那に関しては100%満足できる仕上がりで、北香那のファンは絶対見るべし。北香那は山崎紘菜に似ている新人女優と思ってましたが、子役時代からのキャリアは長いです。最近は「鎌倉殿の13人」「どうする家康」「おとなりに銀河」(以上NHK)「ガンニバル」(ディズニープラス)などドラマ・映画の出演が続いており、売れっ子になった感があります。
▼観客2人(公開12日目の午後)1時間56分。

「ウルフウォーカー」

 一昨年1月に公開された時に見逃して、配信かDVDで追いかけようと思っていたんですが、DVD化されず、配信もない(と思っていた)ので、宮崎キネマ館での再公開は良かったです。ただ、始まりのタイトルを見ていたら製作にアップルが入っていました。これはもしかしてと、帰ってApple TV+を検索したらありました(Apple TV+の開始前にアップルが購入したとのこと)。Apple TV+には「モナーク レガシー・オブ・モンスターズ」を目当てに今月から加入する予定だったのでムムムという感じ。まあ、面白かったのでいいんですが。

 中世アイルランドの伝説を題材に「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」(2014年)「ブレッドウィナー(生きのびるために)」(2017年)などの秀作アニメを送り出しているカートゥーン・サルーンが製作。

 主人公の少女ロビンは森で、人間とオオカミがひとつの体に共存するウルフウォーカーのメーヴと友だちになる。メーヴと母親は魔法の力で傷を癒すことができた。ロビンはメーヴとある約束を交わすが、それはロビンの父を窮地に陥れるものだった。

 森を焼き払い、オオカミを殺そうとする村の人間たちの行為は容易に異民族や移民、難民への差別・排斥行為を想起させます。現代に通じる視点と問題を描いているのが良いです。トム・ムーア、ロス・スチュアート監督。
IMDb8.0、メタスコア87点、ロッテントマト99%。
▼観客3人(公開6日目の午後)1時間43分。