2023/12/10(日)「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」ほか(12月第2週のレビュー)

 「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」はロアルド・ダール原作「チャーリーとチョコレート工場」(2005年、ティム・バートン監督)の工場主ウィリー・ウォンカの若き日を描く前日談。ミュージカルタッチのファミリー映画として、「パディントン」シリーズのポール・キング監督は手堅くまとめています。

 発明の天才でチョコレート職人のウィリー・ウォンカ(ティモシー・シャラメ。)は亡き母(サリー・ホーキンス)との約束を果たすため、一流のチョコレート職人が集まる町にやってくる。ところが、その町はチョコレート店の新規開店ができず、夢見ることも禁じられていた。しかも、ウォンカが泊まった宿はあくどい商売をしていて、文字を読めないウォンカは多額の借金を背負い、無理矢理働かされる羽目に。宿の地下には少女ヌードル(ケイラ・レーン)をはじめ同じ目に遭った人たちがいた。ある夜、ウォンカはチョコレートを盗む小さな紳士ウンパルンパ(ヒュー・グラント)と出会い、仲間たちとともにチョコレートの製造にとりかかる。

 ヒュー・グラントはウンパルンパをユーモラスに演じていて子供たちの人気を集めそうです。ダール作品に特徴的なダークさは宿の意地悪な女主人(オリヴィア・コールマン)やウォンカを迫害するチョコレート組合のメンバーたちに残っていますが、総じて控えめ。大人もそこそこ楽しめる仕上がりにはなっていて、年末年始のファミリームービーには最適でしょう。
 IMDb7.5、メタスコア68点、ロッテントマト83%。
▼観客9人(公開2日目の午前)1時間56分。

「ヨーロッパ新世紀」

 タイトルから近未来の話かと想像してましたが、現在の話でした。トランシルバニア地方の小さな村での外国人労働者排斥を描くルーマニア映画。村のパン工場がスリランカからの労働者を受け入れる。よそ者を異端視した村人たちとの間に不穏な空気が流れ出す。それが村全体を揺るがす激しい対立へと発展していくというストーリー。

 パンフレットのクリスティアン・ムンジウ監督の解説によると、トランシルバニア地方にはルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ人とロマ(ジプシー)が住んでいて、それぞれの言葉を話すほか、共用語として英語が使われ、映画の中にはフランス語を話す人も出てきます。観客がすべての言語に詳しいわけではありませんから、字幕は白、ピンク、黄色などで区別されています。

 さまざまな言葉と文化が混在しているにもかかわらず、村人の多くはアジア人に対して差別意識を隠しません。「パン工場でスリランカ人がこねたパンは食べたくない」「どんな病気を持っているか分からない」といった理由からですが、要するに理解が及ばない対象に対して人は恐怖心もあって差別・迫害してしまうのでしょう。

 映画は出稼ぎ先のドイツで暴力事件を起こして帰国したマティアス(マリン・グリゴーレ)とパン工場の責任者で元恋人のシーラ(ユディット・スターテ)を中心に描いています。ルーマニアはEU加盟国の中でブルガリアに次いで貧しい国で、海外への出稼ぎが多いそうです。国内の賃金は安く人手が集まらず、映画でスリランカから労働者を招くのもそれを反映しています。原題“R.M.N.”はMRI(核磁気共鳴画像療法)のこと。
IMDb7.2、メタスコア81点、ロッテントマト96%。
▼観客5人(公開初日の午前)2時間7分。

「まなみ100%」

 高校の体操部で一緒だったまなみちゃん(中村守里)を10年間思い続けたボク(青木柚)を描いた青春映画。10年間思い続けるといっても、ボクはかなりいい加減な男で、たくさんの女の子と付き合うし、その女の子たちに対してひどいこともします。要するにクズキャラに近いんですが、憎めないヤツです。映画は憎めないどころか、好感度たっぷりでおかしくてちょっと切ない作品に仕上がってます。

 川北ゆめき監督の自伝的な話をいまおかしんじが脚本化。ボクはまなみちゃんに何度か求婚しますが、まるで相手にされません。まなみちゃんはボクの言葉を本気と受け取っていないからで、そこをなんとかうまく伝えられれば、恋が成就することもあったんじゃないかなと思えます。

 体操の先生役でYouTubeの「エガちゃんねる」ではお馴染み、佐賀県人会NO.3のオラキオ。いつも体操服着てる芸人さんですが、ホントに体操できるんだと感心しました。このほか、ボクの憧れの先輩役に伊藤万理華、ボクをめぐる女の子たちに新谷姫加、宮崎優、菊池姫奈ら。
▼観客3人(公開7日目の午後)1時間40分。

「理想郷」

 スペインで実際にあった事件を元にしたロドリゴ・ソロゴイェン監督作品。「ヨーロッパ新世紀」同様に異邦人への差別意識に加えて隣人戦争の様相も強く、緊迫した内容になっています。

 フランス人夫婦のアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とオルガ(マリナ・フォイス)はスペイン・ガリシア地方の小さな村に移住した。村は貧しく、隣人のシャン(ルイス・サエラ)とロレンソ(ディアゴ・アニード)兄弟は夫婦に嫌がらせをするようになる。そんな中、村に風力発電の計画がもたらされ、誘致に積極的な村人と反対する夫婦が対立、亀裂は大きくなっていく。

 対立がエスカレートしてある事件が起きるんですが、その後の終盤が長いです。いくらなんでも長すぎるのではないか、もっと簡潔に結論を描いた方が良いのではないかと思ってパンフレットを読んだら、二部構成と書いてありました。いや、これは二部構成じゃないでしょ。そうする必要もないと思います。実際の事件は2010年に発覚し、裁判が終わったのは2018年だったそうで、その時間の長さを意識したのかもしれません。

 こうした事件は日本でもどこでも起こりそうで、田舎を勝手に理想郷なんて思わない方が良いです。原題“As bestas”は「野獣」の意味。
 IMDb7.5、メタスコア85点、ロッテントマト98%。昨年の東京国際映画祭グランプリ。
▼観客10人(公開6日目の午後)2時間18分。

「怪物の木こり」

 倉井眉介の原作を三池崇史監督が映画化。評判良くないですが、僕はそんなに悪くないと思いました。怪物とはサイコパスのことで、それを狩る覆面の連続殺人鬼(=木こり)とサイコパスな弁護士(亀梨和也)を巡る話。以前、「アップグレード」(2019年、リー・ワネル監督)を見た時に「頭にチップを入れたぐらいで超人的な能力を得られる訳がない」と思いましたが、この映画もそんな設定。超人ではなく、サイコパスを作るわけです(いや、無理だから)。それを受け入れられれば、まずまず楽しめるんじゃないでしょうか。

 三池崇史監督にしては過激な描写がないのがやや物足りないところではあります。刑事役に菜々緒、弁護士の恋人役に吉岡里帆。脚本はエグゼクティブプロデューサーを兼ねた小岩井宏悦。
▼観客9人(公開5日目の午後)1時間58分。

「ロスト・フライト」

 雷の直撃で故障した飛行機がフィリピンの孤島に不時着。そこは反政府勢力が支配する無法地帯だった。機長ブロディー・トランス(ジェラルド・バトラー)を含む乗客17名はどうサバイバルするのか、というアクション。1980年代にチャック・ノリスが主演した「地獄のヒーロー」(1984年、ジョセフ・ジトー監督)のような映画を思い出す内容でした。つまり、よその国に行って悪人をバタバタ殺しまくる映画です。このためフィリピンでは公開を自主規制しているとのこと。こういうことがあるから、架空の国の島にしておいた方が無難なんです。

 乗客の中には殺人を犯してフランスの傭兵部隊に逃れ、逮捕・移送中のガスパール(マイク・コルター)がいて、トランスとともに助けを呼ぶため飛行機を離れますが、その間に乗客たちは反政府勢力に捕まります。トランスとガスパールは協力して乗客たちを救助しようとする、という展開。飛行機が不時着するまでの序盤がモタモタしているためか、反政府勢力との戦いに割とあっさり片が付く印象を受けました。

 原題は“Plane”とシンプル。ガスパールをフィーチャーしたスピンオフ“Ship”の企画があるそうです。ジャン・フランソワ・リシェ監督。
IMDb6.5、メタスコア62点、ロッテントマト78%。
▼観客12人(公開12日目の午後)1時間47分。