2024/02/04(日)「罪と悪」ほか(2月第1週のレビュー)

「罪と悪」

 小さな町を舞台に、20年前の事件と現在の事件が絡み合うサスペンス。発想の基にはクリント・イーストウッド監督「ミスティック・リバー」(2003年、原作はデニス・ルヘイン)があったのだろうと思います。主人公が中学生時代のある事件を描いた序盤で「似ている」と感じ、終わりまで見て「かなり似ている」と思いました。

 仲の良かった4人の中学生の一人、正樹が殺された。晃、春、朔の3人は犯人と思えた男に詰め寄ってもみ合いになり、春が男を殺し、男の家に放火する。20年後、刑事となった晃(大東駿介)は異動で町に帰ってくる。春(高良健吾)は少年院に入った後、今は地元の建設会社を経営する傍ら、汚い仕事も請け負う半グレのような集団を率いていた。朔は父親と農業をしている。そして20年前、正樹の死体が見つかった川の中でまた一人の少年の死体が見つかった。

 「ミスティック・リバー」に似ているのは20年前、少年が性被害に遭うこと、成長した男たちの1人が刑事になり、1人が悪のグループを率いていることなどです。脚本も書いた齋藤勇起監督(1983年生まれ)は「遠い記憶の中でずっと引っかかっていた出来事から着想したオリジナルストーリーです」としていますが、これをオリジナルストーリーと言うにはプロットとキャラクターの設定が似すぎています。大東駿介を刑事役にしたのは「ミスティック・リバー」の刑事ケヴィン・ベーコンに顔の輪郭が似ているためじゃないかと思えてきます。

 それ以上に残念なのは脚本の語り方も演出もうまくないこと。殺人事件の被害者が持っていた財布の写真を見ただけで20年前の事件と結びつけ、上司もそれで分かってしまうなんて現実にはあり得ないでしょう。犯人の殺人の動機にも説得力がありません。ミステリー慣れしていない人の脚本と思えました。プロの脚本家に協力してもらった方が良かったと思います。

 齋藤監督は井筒和幸、岩井俊二、武正晴、廣木隆一監督などの作品で助監督を務め、最近では「笑いのカイブツ」の助監督をしています。これが監督第1作。
▼観客8人(公開初日の午前)1時間55分。

「ファースト・カウ」

 西部開拓時代のオレゴン州を舞台にしたケリー・ライカート監督作品。ライカートはこれまでに9本の長編映画を撮って高い評価を受けていますが、日本で劇場公開されるのはこれが初めてです。

 料理人クッキー(ジョン・マガロ)はビーバーの毛皮漁師のグループに入っていたが、仲間にはバカにされていた。そんな時、中国人移民のキング・ルー(オリオン・リー)と出会って意気投合する。2人は裕福な地主がこの地に初めて連れてきた雌牛からミルクを盗み、ドーナツ作って販売。ドーナツはおいしいと評判を呼び、買いたい人たちが毎日列を作るようになるが…。

 映画は現代のオレゴンの森の中で2体の白骨死体が発見される場面を冒頭に描いているので2人の運命は想像つくんですが、観客としては2人の成功を祈りたい気持ちになります。ライカートは不遇な2人が友情を育んで一攫千金を夢みる姿を、寄り添うようにじっくりと描いています。情感溢れるタッチが良いです。

 パンフレットでは参照したい関連作品として「真夜中のカーボーイ」(1969年、ジョン・シュレシンジャー監督)などを指摘していますが、僕は「さすらいのカウボーイ」(1971年、ピーター・フォンダ監督)など一連のアメリカン・ニューシネマを連想しました。

 ケイリー・ライカートの作品はU-NEXTが「米インディー映画界の星」として以前から特集しており、最新作の「ショーイング・アップ」(2023年)など6本を配信しています。
IMDb7.1、メタスコア90点、ロッテントマト96%。
▼観客7人(公開4日目の午後)2時間2分。

「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」

 感染するとゾンビのような化け物になるゴーレムウィルスが広がる世界でのサバイバルを描くテレビドラマの劇場版。日テレでシーズン1を放送した後、Huluでシーズン2~4を配信していますが、評価は高くなく、そんなに視聴者が多かったとも思えません。それなのに劇場版を作るとは、どんな勝算があったのか疑問です。その危惧通り、興行的には爆死状態だそうです。

 だいたい、「FINAL」と銘打ってるのにHuluでシーズン5を作る予定なのはいったいどうなってるんだか(まあ、FINALの理由はあるにはあるんですけどね)。

 などと思いながら見始めて序盤はまずまずじゃないかと思いましたが、中盤以降のドラマがありきたりすぎてオリジナリティーなさすぎて話になりません。ゾンビ映画のパターンはやり尽くされているので新機軸がかなり難しくなっているんです。ラストは悪くないと思いましたが、やっぱり過去に見たことのある設定でした。竹内涼真主演、ほかに高橋文哉、堀田真由、須賀健太、吉田鋼太郎など。監督は菅原伸太郎、脚本は丑尾健太郎。
▼観客4人(公開7日目の午後)1時間55分。

「ナイアド その決意は海を越える」

 キューバとフロリダ間のフロリダ海峡を泳いだマラソンスイマー、ダイアナ・ナイアドを描くNetflixオリジナル作品。ナイアドは2013年、64歳の時に5度目の挑戦で約177キロを泳ぎ切りました。サメ避けのケージは使わず、クラゲ避けのスーツとマスクを着けての達成。

 映画の中では40人の船の乗組員が立会人となって記録を達成したとされていますが、残念ながら英語版Wikipediaによると、「不完全な文書、矛盾する乗組員報告書、および水泳当時存在しなかった組織の規定により批准を拒否された。ギネス世界記録はナイアドの功績を取り消した」とあります。

 そうしたこととは別に決してあきらめないナイアドの頑張りに敬意を表したくなる内容になっています。ナイアドをアネット・ベニング、補佐する親友ボニーをジョディ・フォスターが演じ、アカデミー主演女優賞と助演女優賞にノミネートされました。2人ともすっぴんで演技していて、実年齢そのままの姿を見せています(ベニングは1958年、フォスターは1962年生まれ。老けメイクもやってるかもしれません)。女優根性というか、凄みを感じさせる演技でした。監督はアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した「フリーソロ」(2019年)のエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン。
IMDb7.1、メタスコア64点、ロッテントマト86%。2時間1分。

「伯爵」

 アカデミー撮影賞ノミネートのNetflixオリジナル作品。フランス革命でマリー・アントワネットの処刑を目撃した吸血鬼ビノシュが海外に逃れ、チリにたどり着く。アウグスト・ピノチェトの名前で軍に入隊し、将軍に上り詰めた後、1973年にアジェンデ政権を倒し、独裁者となる。引退後、人里離れた農場に家族とともに住み、隠遁生活を送る。250年も生きてきたピノチェトは生きる意欲を失っていたが…。

 モノクロの緩いコメディー。監督は「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」(2016年)、「スペンサー ダイアナの決意」(2021年)のパブロ・ラライン。撮影賞ノミネートには納得しました。
IMDb6.4、メタスコア72点、ロッテントマト82%。