2005/05/11(水)「阿修羅城の瞳」

 「阿修羅城の瞳」パンフレット市川染五郎と宮沢りえのセリフ回しが心地よい。2人とも江戸っ子なので、べらんめえ調の軽いセリフがよく似合う。染五郎のセリフの決め方などはさすがだと思うし、今や勉強熱心なことにかけては定評がある宮沢りえのさわやかなお色気もいい。こういう軽い感じで全体を映画化してくれれば良かったのにと思う。阿修羅王の復活を図る樋口可南子や鬼御門(おにみかど)の渡部篤郎らの演技が重く暗く、もっと面白くなりそうなのに何だか陰々滅々とした感じに終わっているのである。映画全体としてはスケールが足りないのが致命的だと思う。同じようなセットで話が進行し、広がりが感じられない。突き抜けたものがない。息苦しい。深作欣二「魔界転生」の昔からセットで繰り広げられる魔界を描いた邦画は陰々滅々になる傾向があるようだ。

 「陰陽師」の滝田洋二郎監督による舞台劇の映画化。物語も鬼が出てくるところなど「陰陽師2」に似ているので、ピッタリの人選と思うが(鬼御門の頭領は舞台では十三代目安倍晴明なのだそうだ)、スケール感では「陰陽師」の方にやや分がある。

 文化文政時代の江戸。人々の中に秘かに人を食らう鬼が紛れ込んでいた。幕府は鬼殺しのために鬼御門という組織を結成。その頭領である国成延行(内藤剛志)と腹心の安部邪空(渡部篤郎)はある夜、尼僧姿の鬼女・美惨(びざん=樋口可南子)と出会う。美惨は鬼の王である阿修羅が間もなく復活すると告げる。5年前まで鬼御門に属していた病葉出門(わくらば・いずも=市川染五郎)は、鬼と思われる少女を斬ったことで鬼御門を辞め、歌舞伎役者として気ままに暮らしている。出門はつばきと名乗る女(宮沢りえ)と出会い、たちまち恋に落ちる。つばきは5年以上前の記憶をなくしていた。出門に惹かれたつばきは右肩に紅の花のような痣ができたのを見つける。出門に惹かれるたびにその痣は大きくなっていった。やがて美惨が求める阿修羅の復活につばきが必要と分かってくる。

 滝田洋二郎は3時間の舞台を出門とつばきのラブストーリーに集約しようとしたのだという。確かに2人のラブシーン(つばきが出門の傷を舐めるシーン)などは官能的なのだが、ラブストーリーとして優れているかというと、そういうわけでもない。恋をすることで鬼に変わる女の悲劇性も出す必要があっただろう。物語の先が読めて、あまり深みを感じない描写に終わっている。VFXは阿修羅城の出現や燃え上がる江戸の町の描写など、もっとスケール大きく見せて欲しかったところ。なんとなく中途半端に終始し、驚くようなショットもなく、物語のポイントとなる描写もなかった。

 主演の2人は決して悪くないのだから、やはり演出の仕方に難があったのだろう。滝田洋二郎監督には、次はまったく違う素材で映画を撮ってほしいと思う。こういう魔界物はあまり得意とは思えないし、もういいのではないか。