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2002年03月05日の記事

2002/03/05(火)「ロード・オブ・ザ・リング」

 2時間58分の長編だが、その長さが必要なぐらいの分量が詰まっている。いや、長い原作からすると、これでも駆け足なのだが、脚本は要所を押さえている。中盤からは見せ場の連続で、怒濤のアクションが最後まで持続する。同時に主人公フロド(イライジャ・ウッド)と旅の仲間たちの友情と団結が描かれ、見事なくらいに正攻法の映画である。

 SFオンラインの映画評によると、ジョン・ブアマン「エクスカリバー」とロン・ハワード「ウィロー」はともに「指輪物語」の映画化を目指して果たせず、その代わりに撮った映画なのだという。「ウィロー」の主人公が「指輪物語」のホビットのように小さな種族であったのはそういう事情があったわけだ。「エクスカリバー」の剣と魔法の物語もまた、「ロード・オブ・ザ・リング」の雰囲気とよく似ている。

 冒頭、暗くくすんだ映像で3000年前の人間と暗黒の怪物軍団との戦いが描かれる。暗黒の国モルドールの冥王サウロンは世界を支配するため強力な力を持つ指輪を作る。しかし、戦闘中に指を切り落とされて敗れ、指輪も持ち主を転々とする。という発端は「ハムナプトラ2 黄金のピラミッド」のアビヌス軍団と人間の戦いのようにスケールの大きなSFXである。指輪は人間より小さな種族ホビットのビルボ・バギンズ(イアン・ホルム)の手によって、中つ国のホビット庄(シャイア)に持ち帰られる。バギンズは111歳の誕生日に再び旅に出ることを決意。魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)に命じられ、指輪を養子のフロドに託す。ガンダルフはサウロンが再び勢力を盛り返し、指輪を手に入れようと画策していることを知る。指輪がサウロンの手に渡ったら、世界は暗黒。フロドは指輪を破壊するため、モルドールの火の山まで行くことになる。

 原作は「旅の仲間」(文庫で4巻)「二つの塔」(3巻)「王の帰還」(2巻)の3部作。美しく色彩鮮やかなタッチで綴られるホビット庄の描写は原作のゆったりとしたペースを踏襲しているが(それでもかなり端折ってある)、その後はハイテンポでフロドらホビット族とエルフ族、ドワーフ族、人間の9人の旅の仲間の行程が描かれていく。ビジュアルな描写は申し分なく、「スリーピー・ホロウ」の首なし騎士を思わせる黒の乗手(ブラック・ライダー)の姿は原作を超えるイメージ。「ハリー・ポッターと賢者の石」にも登場した北欧の怪物トロルが出てくるが、ずっと凶暴である。これが象徴するように「ハリー・ポッター」が子ども向けのファンタジーであるなら、こちらは大人向け、男性向けの力強い話なのである。

 特にブラック・ライダーとの戦い→エルフの王女アルウェンの疾走→無数のオーク(ゴブリン)が攻めてくる洞窟→終盤の戦いへと至る描写はどれも完成度が高い。普通の映画のクライマックスが何個も入っている感じ。トロルのほかに大きな触手を持つ怪物や火の鞭を操るバルログなども登場するが、SFXだけが全面で出るのではなく、物語の補強としての使い方に好感を持つ。撮影の舞台となったニュージーランドの風景も魅力的である。

 スプラッターに笑いを散りばめた「ブレインデッド」のタッチを僕は嫌いではないが、あの映画の監督ピーター・ジャクソンがこういう立派な映画を撮るとは思わなかった。1961年生まれのジャクソンは「指輪物語」の熱烈なファンという。原作を知り尽くしたファンでなければ作れない映画なのだなと思う。

 フロドとサム(ショーン・アスティン)がモルドールにたどり着くところで終わるラストを見て、一刻も早く続きを見たい気持ちになった。