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2002年03月26日の記事

2002/03/26(火)「ミスター・ルーキー」

 「フィールド・オブ・ドリームス」の主人公は妻子がいるにもかかわらず、自分の夢のためにトウモトコシ畑をつぶしてしまったが、この映画の主人公は妻子のために会社を辞められず、覆面をして阪神タイガースのストッパーになる。夢を実現したいなら、妻子がどうこう言うなよと言いたいところだが、両者が夢に向かっていく男の話であることは共通しており、どうせキワモノだろうと、高をくくって見に行ったら、意外に良い出来なので驚かされた。キネ旬4月上旬号の「REVIEW 2002」では星3つを付けて誉めているのは西脇英夫のみ。あのと3人は2つ以下。いろいろと傷があるのは承知しているけれど、志を買って僕も★★★である。

 「あたしは歌手になるのが夢だった。でも今はカラオケで歌って、うまいねって、いわれるのがオチ。あなたは自分の夢を実現したのに、なぜそれをあきらめるのよ!」。中盤、妻の鶴田真由が阪神の一軍登録を抹消された夫にまくしたてる場面がいい。主人公の長嶋一茂は高校時代、夏の甲子園予選の決勝で肩を傷めたままマウンドに上がり、そこで力尽きた。野球選手になる夢をあきらめ、ビール会社に就職して十数年。草野球のマウンドに立っていた時にトレーナーの男(國村隼)に出会い、治療を受け、トレーニングを重ねて3カ月で肩を治す。かつての豪速球を取り戻した主人公は阪神の監督の目にかなって、会社員の傍ら覆面ピッチャーとして活躍するのである。もちろん会社にも妻子にも内緒で。

 監督の井坂聡は東大時代、野球部に所属していたそうだ。あの「Focus」撮影後にこの脚本を書き、5年後に映画化にこぎつけた。「フィールド・オブ・ドリームス」はもちろん意識しただろうが、それ以上にバリー・レビンソン「ナチュラル」の影響もあるように思える。若い時、ふとした事故で野球人生を棒に振った男が30代になって「奇跡のルーキー」として甦るという話は、この映画のストーリーと似ている。「ナチュラル」が不思議な雰囲気に彩られていたように、主人公の肩を治すトレーナーにもう少し神秘的な雰囲気があれば言うことはなかった。

 ところどころにテレビドラマ的描写はあるし、主人公の会社の上司・竹中直人のいつものアクの強い演技や監督を演じる橋爪功のセクハラまがいの描写は余計。テレビ局のリポーターさとう珠緒の役があまり生かされないとか、会社内部の描写がややおざなりなどの多くの細かい傷はあるにせよ、中盤以降の展開には深く共感できる。優勝をかけた試合で最後の打者となるのが高校時代からの因縁の選手(駒田徳広うまい)で、それを打ち取るのが主人公の超人的な力ではない点もいい。こういう処理を見ると、野球経験のある人が書いた脚本だなと思わせる。

 長嶋一茂はこれまた意外にも好演。映画では久しぶりの鶴田真由(「梟の城」に出てたけど)も良い。クライマックス、ピンチヒッターにあの選手が出てくるのも阪神ファンなら、うれしくなるだろう。