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2023年09月03日の記事

2023/09/03(日)「Gメン」ほか(9月第1週のレビュー)

 「Gメン」は小沢としおのコミックを瑠東東一郎監督が映画化。瑠東監督作品としては昨年の橋本環奈主演「バイオレンスアクション」よりずっと良い出来で、これまでの監督作の中でもベストの仕上がりだと思います。

 私立武華男子高校に転校してきた1年生の門松勝太(岸優太)は問題児ばかりの1年G組に入れられる。G組は他の校舎から離れ、荒れ果てた場所。勝太は彼女が欲しい一心で、G組をひとつにまとめ上げようとする。女子生徒からモテモテのイケメン・瀬名拓美(竜星涼)と出会い、勝太を目の敵にするレディース集団ブラックエンジェルの上城レイナ(恒松祐里)とのロマンスも生まれるが、壊滅したはずの凶悪組織・天王会の魔の手が忍び寄っていた。

 「ビー・バップ・ハイスクール」(1985年、那須博之監督)シリーズなどに連なる高校生のアクションコメディーです。3年生役の田中圭や高良健吾、G組のEXITりんたろー。など出演者たちが全員、高校生には見えないのはともかく、格闘アクションがどれも良いです。元King & Princeの岸優太は体のキレが良く、アクションに向いてます。レディースのリーダーながら純情なレイナを演じる恒松祐里と、生徒が言うことを聞かずにキレる先生役・吉岡里帆もおかしくて魅力的。楽しくまとまってますし、ヒットもしているようなのでシリーズ化もありかなと思います。

 ドラマ「ナンバMG5」の間宮祥太朗が難波剛役で、あの特攻服姿でカメオ出演してました。同じ小沢としお原作だからですかね。EXITの兼近大樹もゲスト出演してます。2時間。
▼観客30人ぐらい(公開6日目の午後)

「断捨離パラダイス」

 福岡を舞台にゴミ屋敷をめぐる6つのエピソードで構成したユーモラスなドラマ。白高律稀(篠田諒)は手の震えでピアニストの道を断たれ、ゴミ屋敷専門の清掃会社「断捨離パラダイス」に入社する。学校の教師やシングルマザー、出稼ぎのフィリピン人など家にゴミをため込む人たちはさまざまだった。

 沖田×華(おきた・ばっか)のコミック「不浄を拭う人」を時々読んでるので、ゴミ屋敷がどんな状態かは多少知っていて、映画の最初に出てくる家にゴキブリがざわざわいたり、ペットボトルに尿が入っていたりするのはおなじみの光景ではあります。清楚できれいな教師(武藤十夢)のアパートがゴミだらけというのは幻滅ですが、YouTubeの「エガちゃんねる」では「美人声優の家がゴミ屋敷だったから、江頭が大掃除しに行った結果…」というエピソードもありましたから、人は見かけに絶対によらないわけです。



 武藤十夢とシングルマザー役の中村祐美子に意外性があって良く、泉谷しげる演じる老人はゴミ屋敷の主としては常識的かなと思いました。いずれのエピソードでもゴミをため込む理由に踏み込んでいないのが映画としては少し弱いところ。萱野孝之監督は大分出身で福岡在住の32歳。既に4作目なのは、演出力が一定の評価を受けているからなのでしょう。1時間41分。
▼観客12人(公開5日目の午後)

「こんにちは、母さん」

 92歳の山田洋次監督90本目の作品、かつ78歳の吉永小百合123本目の出演作品。原作は永井愛の同名舞台劇で、山田監督と「釣りバカ日誌」シリーズなどの朝原雄三監督が脚色しています。

 大企業の人事部長を務める神崎昭夫(大泉洋)は大学時代からの親友で同期入社の木部富幸(宮藤官九郎)から相談を受ける。隅田川近辺の地元で、屋形船を借りて同窓会をしようというのだ。その木部は会社のリストラ候補に挙がっていた。昭夫は妻と別居し、大学生の娘・舞(永野芽衣)との不和にも頭を悩ませている。下町で足袋屋を営む母・福江(吉永小百合)の家を訪れると、母親はホームレス支援のボランティアを通じて知り合った教会の牧師(寺尾聰)に恋心を抱いていた。

 基本は山田監督得意の下町を舞台にした人情コメディーなんですが、リストラやホームレスなど現代的なテーマを絡めていますし、描写の仕方もやはりうまいです。ここ数年の山田監督作品では一番良い出来だと思います。できれば、大泉洋主演で何本か撮ってほしいところです。ヘソ出しルックの永野芽郁の細さとスタイルの良さにはびっくり。1時間50分。
▼観客多数(公開初日の午前)

「アステロイド・シティ」

 1950年代の砂漠の町アステロイド・シティを舞台にしたウェス・アンダーソン監督作品。映画の構成は前作「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」(2021年)に似ていますが、出来は及びませんでした。

 アステロイド・シティで繰り広げられる物語は舞台劇であり、それを演じる俳優たちの姿があり、さらに舞台劇のメイキングのテレビ番組の中の出来事である、という入れ子構造は面白いですし、オフビートで微妙な笑いも嫌いではないんですが、ドラマの盛り上がりには欠け、平板な印象になっています。

 極彩色の町が舞台という共通点から比較すると、グレタ・ガーウィグ監督「バービー」の方がテーマの明快さと直感的なユーモアの点で数段上回っていると思いました。1時間44分。
IMDb6.7、メタスコア74点、ロッテントマト75%。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午後)