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2024年03月10日の記事

2024/03/10(日)「ゴールド・ボーイ」ほか(3月第2週のレビュー)

「ゴールド・ボーイ」

 中国の東野圭吾といわれる紫金陳(ズー・ジンチェン)の小説「悪童たち」を金子修介監督が映画化。これは事前情報をまったく入れずに見た方が良いミステリー&サスペンスです。沖縄を舞台にした翻案と脚色(港岳彦)がとてもうまく行っていて、少年少女を演じる3人も良く、特に羽村仁成と星乃あんなの幼いロマンス描写が映画に魅力を加えています。最近の日本のミステリー映画では出色の出来で、金子監督としても会心の作品なんじゃないでしょうか。

 沖縄の事業家の婿養子、東昇(岡田将生)は富と地位を手に入れるため、写真撮影中に義父母を崖から突き落とす。事故に見せかけた完全犯罪のはずだったが、その決定的な場面を13歳の少年、安室朝陽(羽村仁成)たちのカメラが動画で捉えていた。貧困や家族の問題を抱えた朝陽や浩(前出燿志)と夏月(星乃あんな)の兄妹は東を脅迫して6000万円を手に入れようとする。

 成績優秀な朝陽は両親が離婚して、母親(黒木華)と二人暮らし。父親(北村一輝)は別の女と再婚し、その娘は朝陽と同じクラスでしたが、最近自殺し、その母親は朝陽が殺したと思い込んでいます。昇は妻(松井玲奈)と離婚寸前で、そうなったら遺産は手に入らなくなる立場にあります。映画はそうした背景を描きながら、血みどろの殺人が連続し、意外な展開(容赦ないです)が続きます。岡田将生はサイコ味のある役柄にぴったり。刑事役の江口洋介も良いです。

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 なぜ同じ話で12話もかかるのかと思いながら第1話を見ました。義父母を崖から突き落とす冒頭は映画と同じ。偶然それを動画撮影していた3人の境遇を描きながら、その場面が映っていることに気づくまでを第1話の76分かけて描いています。金子修介監督によると、ドラマ版は「殆ど参考にしなかった」そうです。「途中から原作を外れて納得出来ない展開になって長いので、脚本の港氏にも見てもらっていない」。そういうわけなので無理に見る必要はないのでしょう。原作は読みたいと思いました(ポチりました)。

 映画は続編の構想もあるようですが、どうやって続けるんでしょう、これ。
▼観客11人(公開初日の午前)2時間9分。

「52ヘルツのクジラたち」

 本屋大賞を受賞した町田そのこの原作を成島出監督が映画化。東京から海辺の街の一軒家に移り住んできた貴瑚(杉咲花)は母親から虐待を受ける少年(桑名桃李)と出会う。自分も実の母親から虐待を受けて育った貴瑚は過去を振り返り、悲惨な境遇から救ってくれた親友美晴(小野花梨)と安吾(志尊淳)との交流、結婚を約束した新名(宮沢氷魚)との日々を回想する。

 短いページ数の中にさまざまな不幸と不運を盛り込みすぎとの批判は原作にもあるようですが、映画にも同じことが言えます。それが描写不足、説得力不足につながっていて、特に志尊淳の選択には違和感を覚えました。少年のひどい母親を演じる西野七瀬がリアルにうまいです。
▼観客13人(公開4日目の午後)2時間16分。

「瞳をとじて」

 83歳のビクトル・エリセ監督が「エル・スール」(1983年、キネ旬ベストテン14位)以来40年ぶりに撮った長編劇映画。と聞くと、なぜそんなに長期間撮れなかったんだと思いますが、オムニバスの短編は「ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区」(2012年)、「10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス」(2002年)など5本撮っていますし、「マルメロの陽光」(1992年、キネ旬ベストテン5位)などのドキュメンタリーもあります。長編劇映画がなかっただけです。

 映画「別れのまなざし」の撮影中、主演俳優のフリオ・アレナス(ホセ・コロナド)が失踪した。警察は海沿いの崖にフリオの靴があったことから自殺と判断するが、死体は見つからなかった。22年後、テレビが失踪事件を取り上げ、元映画監督でフリオの親友だった作家のミゲル(マノロ・ソロ)が出演依頼を受ける。ミゲルはフリオと過ごした青春時代や自らの半生を回想。番組終了後、フリオによく似た男が海辺の高齢者施設にいるという情報が寄せられる。

 前半は面白みに欠けるんですが、フリオが見つかってから大きく盛り返した印象。「映画1本で奇跡を起こせると思うのか?」というセリフが終盤にあり、映画に関する映画でもあります。また、「ミツバチのささやき」のアナ・トレントが50年ぶりに同じ役名のアナを演じていることもあって、時の流れを強く感じさせる映画にもなってます。
IMDb7.3、メタスコア86点、ロッテントマト94%。
▼観客14人(公開2日目の午後)2時間49分。

「ミツバチのささやき」

 というわけで、1973年のビクトル・エリセ監督作品(日本公開は「エル・スール」と同じ1985年)を事前に見ておきました。昨年の「午前十時の映画祭13」のラインナップに入っていましたし、ソフト化もされていますが、劇場で見たのはたぶん37年ぶり。

 1940年、内戦終結直後のスペインが舞台。小さな村にやってきた映画の巡回上映で、6才の少女アナ(アナ・トレント)は「フランケンシュタイン」(1931年、ジェームズ・ホエール監督)を見て心奪われる。アナは姉のイサベルからフランケンシュタインは怪物ではなく精霊で、村はずれの一軒家に隠れていると聞かされる。ある夜、脱走兵らしい男が列車から飛び降り、荒野の中の小屋に逃げ込んだ。翌日、小屋にやってきたアナはその男と出会う。

 脱走兵とアナの出会いはフランケンシュタインの怪物と盲目の少女の出会いに重ねられていて、怪物が村人から殺されたように脱走兵もそうなります。当時のスペインの国情を知らないと、理解しにくい面がありますが、アナ・トレントの可憐さとフランケンシュタインの怪物は心に残りますね。
IMDb7.8、メタスコア87点、ロッテントマト96%。キネ旬ベストテン4位。
▼観客5人(公開5日目の午後)1時間39分。

「ARGYLLE アーガイル」

 冒頭のデュア・リパ、ヘンリー・カヴィル、ジョン・シナによるダンスシーン、アクションシーン、チェイスシーンはスピード感たっぷりで見応えがあり、期待が高まりましたが、その後は残念な出来に終わっています。この理由は主に主演のブライス・ダラス・ハワードがまったくアクションに向いていない体型だからです。

 いや、太ったアクション俳優もいますけど、ハワードは元がスリムなだけに現状の体型には悲しさしかありませんし、アクションにリアリティがありません。オバさん化(43歳)が進行しているのかと思ったら、元々、太りやすい体質なんだそうで、過去にも「激太り」を批判されてますね。

 スパイアクション小説シリーズ「アーガイル」の作者エリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)はある日、謎の男たちに命を狙われ、エイダン(サム・ロックウェル)と名乗るスパイに助けられる。エリーが狙われたのは「アーガイル」シリーズが現実のスパイ組織の行動と偶然に一致していたためだった。エリーはエイダンとともに世界を駆け巡ることになる。

 作家が書いたことが偶然すべて本当のことだったというシチュエーションの映画や小説は過去にもあったと思いますが、具体的なタイトルが思い出せません。そんなにオリジナリティーのある設定でないことは確かです。

 監督は「キングスマン」シリーズのマシュー・ヴォーン。毎回、アクションがスローモーション演出なので鼻についてきた面はあるものの、アクション自体は悪くありません。ラストを見ると、「キングスマン」同様にシリーズ化の意向があるのかもしれませんね。

 映画初出演のデュア・リパは今年のグラミー賞オープニングのセクシーなパフォーマンスが素晴らしかったです。ビジュアル的には満点なので、もっと映画に出てほしいところです。この映画も冒頭のまま、デュア・リパ主演だったら、不満はなかったんですが、演技力は未知数なので無理だったんでしょうね。
IMDb6.0、メタスコア35点、ロッテントマト33%。
▼観客11人(公開7日目の午前)2時間19分。

「パレード」

 藤井道人脚本・監督のNetflixオリジナル作品。この世に思いを残した死者たちを描くファンタジーです。海辺で目を覚ました美奈子(長澤まさみ)は離ればなれになった息子・良を捜すうち、自分が津波に流されて死んだことを知る。美奈子は同じような境遇の仲間と出会い、共同生活を送ることになる。死者たちにはそれぞれに諦めきれないことを抱えていた。

 藤井監督の資質はこういう心優しい作品にあると思える佳作。主演の長澤まさみをはじめ坂口健太郎、横浜流星、森七菜、黒島結菜、中島歩、深川麻衣、リリー・フランキー、寺島しのぶ、舘ひろしといったキャスティングの豪華さとエキストラの多さを見ると、その辺の日本の劇場用映画より予算は潤沢だなと感じました。
映画.com3.3、Filmarks3.7、IMDb6.7。