2024/06/02(日)「正義の行方」ほか(5月第5週のレビュー)

 8月公開予定の「ラストマイル」(塚原あゆ子監督)の前に同じ世界線にあるドラマ「アンナチュラル」(2018年)と「MIU404」(2020年)を見ておこうと思い、まず「MIU404」(全11話)をU-NEXTで見ました。野木亜紀子脚本で感心したのは第4話「ミリオンダラー・ガール」。ヤクザが資金洗浄していた1億円を横領して逃げた元ホステス(美村里江)を描き、その真意が明らかになるラストまで見応えのある話でした。この話の仕掛け自体は過去の映像作品にもあるものですが、アレンジが見事です。他の話もレベルの高い仕上がりで評価の高さを納得しました。

 空港に向かうバスの中で死ぬ元ホステスの姿は「真夜中のカーボーイ」(1969年、ジョン・シュレシンジャー監督)のダスティン・ホフマンを想起させ、最終11話で犯人の乗る屋形船を追って走る綾野剛の姿は「フレンチ・コネクション2」(1975年、ジョン・フランケンハイマー監督)のジーン・ハックマンを思わせました。

「正義の行方」

 福岡県飯塚市の女児2人が殺害された事件(飯塚事件)を検証したドキュメンタリー。事件から30年後の2022年にNHKが放送した3部構成のBS1スペシャル「正義の行方 飯塚事件30年後の迷宮」を再構成した映画化で、極めて緊密な作りの傑作になっています。

 飯塚事件についてはジャーナリストの清水潔が「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」(2013年)の中で冤罪の疑いがある死刑執行事例として書いています。事件から2年7カ月後に久間三千年容疑者が逮捕され、死刑判決が確定してわずか2年後の2008年に刑が執行されました。久間元死刑囚は犯行を否認し続けていましたが、DNA型の鑑定結果など4つの証拠が逮捕の決め手となり、裁判所もそれを支持しました。

 問題は当時のDNA型の鑑定方法(MCT118鑑定)が今となっては信頼性が乏しいとして否定されていること。逮捕当時、これが一番の有罪の決め手だったにもかかわらず、その後の再審請求では目撃証言など他の3つの証拠で犯行が高度に立証されているとされ、請求は棄却されました。

 映画は前半を事件の経過と警察の捜査、それをつぶさに取材した地元紙西日本新聞の報道を描き、後半は同紙が2018年から連載した「検証飯塚事件」を基にした検証結果を描いています。

 ドキュメンタリー映画の中には特定の人物の発言を垂れ流すだけの作品があってうんざりするんですが、この映画は1つの事象に対して複数の関係者の発言を必ず用意していて、この姿勢は細部まで徹底しています。これが作品の信頼性につながっています。

 西日本新聞が死刑執行から10年後に検証連載を始めたのは事件当時、取材班のキャップだった記者が編集局長になったのがきっかけ。調査報道の得意な記者2人にゼロから取材させ、問題点を炙り出していきます。このパートが滅法面白いです。事件当時は警察に夜回りをかけて特ダネ合戦のトップを走った(つまり警察のお先棒を担いだ)新聞がそれを反省検証するのは報道機関として真摯な姿勢と褒められるべきで、この映画は同紙の評価を高めることにも繋がっていくでしょう。

 パンフレットに「オールドメディアの存在意義をかけて」の文言があるのが唯一気になったことで、オールドだろうがニューだろうが、この姿勢は報道に不可欠のものだと思います。

 監督の木寺一孝は元NHKディレクターで2023年にNHKを退職。監督作品には「“樹木希林”を生きる」(2019年)があります。
▼観客10人(公開2日目の午後)2時間38分。

「マッドマックス フュリオサ」

 1979年に始まった「マッドマックス」シリーズの第5作。というか、前作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)でシャーリーズ・セロンが演じた女戦士フュリオサの前日譚で、タイトルも「FURIOSA: A MAD MAX SAGA」なのでシリーズとしては番外編と言うべきでしょう。ただし、僕は5本の中ではこれが最も面白かったです。

 セロンに代わってフュリオサを演じるのはチェスの天才少女を描いたドラマ「クイーンズ・ギャンビット」(2020年、Netflix、全7話)でブレイクし、「ラストナイト・イン・ソーホー」(2021年)「ノースマン 導かれし復讐者」(2022年)「ザ・メニュー」(2022年)と出演作が続いているアニャ・テイラー=ジョイ。

 核戦争で世界が荒廃して45年後。豊かな緑の地に住んでいた10歳のフュリオサ(アリーラ・ブラウン)はバイカー軍団に連れ去られ、追ってきた母親(チャーリー・フレイザー)を惨殺される。バイカー軍団を率いるのはディメンタス(クリス・ヘムズワース)。ディメンタスは何でも揃う砦(シタデル)を乗っ取ろうと目論むが、シタデルを統治するイモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)の軍団には歯が立たない。フュリオサはシタデルに残ることになる。数年後、男装したフュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ)はディメンタスへの復讐の機会をうかがっていた。

 メル・ギブソンを一躍スターダムに押し上げたシリーズ第1作は公道でのカーチェイスの前例のないスピード感と迫力で当時の観客を熱狂させました。妻子を殺された警官の復讐というシンプルな筋立ても僕の好みでした。ただ、シリーズの評価が高まったのは漫画「北斗の拳」に大きな影響を与えたシリーズ第2作。今回は第1作を彷彿させる復讐譚になっていて、アクションの迫力は期待を上回る出来でした。

 アニャ=テイラー・ジョイはセロンに比べると小柄ですが、復讐心を秘めた寡黙なフュリオサを見事に演じきっています。
IMDb7.9、メタスコア79点、ロッテントマト90%。
観客多数(公開初日の午前)2時間28分。

「帰ってきた あぶない刑事」

 地上波テレビに刑事アクションがなくなって久しいから、こういうアクションの勘所の分かってない話になるんだろうなと、ほとんど先入観で思ったんですが、脚本の大川俊道と岡芳郎はいずれも1986年のドラマ「あぶない刑事」でも脚本を書いた人たちでした。ちなみに、このドラマの第1話は脚本・丸山昇一、監督・長谷部安春という強力布陣です。「大都会」(1976年)シリーズに始まる日テレの刑事アクションは主に日活アクション映画の監督と脚本家たちが支えていました。

 今回の原廣利監督は1987年生まれなので、テレビドラマには当然かかわっていませんが、父親の原隆仁監督はドラマの第1期から脚本・監督として参加した人(親子関係で言うと、港警察署の警官・山路瞳を演じる長谷部香苗は長谷部安春監督の娘です)。

 平日の劇場には年輩客が多かったです。僕は「大都会PART II」(1977年)のようなハードなアクションが好きだったので、ユーモアを絡めた「あぶない刑事」には何の思い入れもありませんでした。当時を懐かしむ観客を意識した作りを否定するわけではありませんし、若者にもある程度支持を集めているようですが、刑事アクションの王道を行くような作品も見てみたい気持ちになります。
▼観客20人ぐらい(公開6日目の午後)2時間。

「エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命」

 イタリアで1858年に起きたカトリック教会による少年誘拐事件を描くマルコ・ベロッキオ監督作品。エドガルドが住んでいたのはボローニャ地方で、ユダヤ教の家でしたが、使用人のカトリックの女性がエドガルドのためを思って洗礼したことにより、異端審問官がエドガルドをカトリック教徒として育てる必要があるとして教皇警察に連れてくることを命じました。

 エドガルドはカトリックの教えのまま成長。結果として家族から拒否される悲劇に見舞われることになります。無宗教の多い日本人からすると、ほとんど洗脳教育としか思えない事態。宗教が権力を握ると、ろくなことにはならないという思いを強くしました。政教分離は不可欠なわけです。
IMDb7.0、メタスコア73点、ロッテントマト85%。
▼観客11人(公開7日目の午後)2時間14分。

2024/03/11(月)第96回アカデミー賞受賞結果

 第96回アカデミー賞の授賞式が11日あり、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」が作品・監督など7部門を受賞しました。結果は次の通りです(★が受賞作)。
【作品賞】
★「オッペンハイマー」
「アメリカン・フィクション」
「落下の解剖学」
「バービー」
「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
「マエストロ その音楽と愛と」
「パスト ライブス 再会」
「哀れなるものたち」
「関心領域」

【監督賞】
★クリストファー・ノーラン「オッペンハイマー」
ジュスティーヌ・トリエ「落下の解剖学」
マーティン・スコセッシ「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
ヨルゴス・ランティモス「哀れなるものたち」
ジョナサン・グレイザー「関心領域」

【主演男優賞】
★キリアン・マーフィー「オッペンハイマー」
ブラッドリークーパー「マエストロ その音楽と愛と」
コールドマン・ドミンゴ「ラスティン ワシントンの『あの日』を作った男」
ポール・ジアマッティ「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
ジェフリー・ライト「アメリカン・フィクション」

【主演女優賞】
★エマ・ストーン「哀れなるものたち」
アネット・ベニング「ナイアド その決意は海を越える」
リリー・グラッドストーン「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
ザンドラ・ヒュラー「落下の解剖学」
キャリー・マリガン「マエストロ その音楽と愛と」

【助演男優賞】
★ロバート・ダウニー・ジュニア「オッペンハイマー」
スターリング・K・ブラウン「アメリカン・フィクション」
ライアン・ゴズリング「バービー」
ロバート・デ・ニーロ「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
マーク・ラファロ「哀れなるものたち」

【助演女優賞】
★デヴァイン・ジョイ・ランドルフ「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
アメリカ・フェレーラ「バービー」
ダニエル・ブルックス「カラーパープル」
ジョディ・フォスター「ナイアド その決意は海を越える」
エミリー・ブラント「オッペンハイマー」

【国際長編映画賞】
★「関心領域」(イギリス)
「Io Capitano(原題)」(イタリア)
「PERFECT DAYS」(日本)
「雪山の絆」(スペイン)
「ありふれた教室」(ドイツ)

【脚本賞】
★ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ「落下の解剖学」
デビッド・ヘミングソン「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
ブラッドリー・クーパー「マエストロ その音楽と愛と」
サミー・バーチ、アレックス・メヒャニク「May December(原題)」
セリーヌ・ソン「パストライブス 再会」

【脚色賞】
★コード・ジェファーソン「アメリカン・フィクション」
グレタ・ガーウィグ、ノア・バームバック「バービー」
クリストファー・ノーラン「オッペンハイマー」
トニー・マクナマラ「哀れなるものたち」
ジョナサン・グレイザー「関心領域」

【撮影賞】
★ホテ・ヴァン・ホイテマ「オッペンハイマー」
エドワード・ラックマン「伯爵」
ロドリゴ・プリエト「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
マシュー・リバティーク「マエストロ その音楽と愛と」
ロビー・ライアン「哀れなるものたち」

【編集賞】
★「オッペンハイマー」
「落下の解剖学」
「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
「哀れなるものたち」

【美術賞】
★「哀れなるものたち」
「バービー」
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
「ナポレオン」
「オッペンハイマー」

【衣装デザイン賞】
★「哀れなるものたち」
「バービー」
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
「ナポレオン」
「オッペンハイマー」

【メイクアップ・ヘアスタイリング賞】
★「哀れなるものたち」
「Golda(原題)」
「マエストロ その音楽と愛と」
「オッペンハイマー」
「雪山の絆」

【作曲賞】
★ルドウィグ・ゴランソン「オッペンハイマー」
ローラ・カープマン「アメリカン・フィクション」
ジョン・ウィリアムズ「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」
ロビー・ロバートソン「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
イェルスキン・フェンドリックス「哀れなるものたち」

【歌曲賞(主題歌賞)】
★ビリー・アイリッシュ フィニアス・オコネル“What Was I Made for?”「バービー」
“The Fire Inside”「フレーミングホット!チートス物語」
“I’m Just Ken”「バービー」
“It Never Went Away”「ジョン・バティステ アメリカン・シンフォニー」
“Wahzhazhe (A Song For My People)”「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」

【音響賞】
★「関心領域」
「ザ・クリエイター 創造者」
「マエストロ その音楽と愛と」
「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」
「オッペンハイマー」

【視覚効果賞】
★「ゴジラ-1.0」
「ザ・クリエイター 創造者」
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3」
「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」
「ナポレオン」

【長編アニメ映画賞】
★「君たちはどう生きるか」
「マイ・エレメント」
「ニモーナ」
「ロボット・ドリームズ」
「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」

【長編ドキュメンタリー賞】
★「実録 マリウポリの20日間」
「ボビ・ワイン:ゲットー・プレジデント」
「The Eternal Memory(原題)」
「Four Daughters(原題)」
「To Kill a Tiger(原題)」

【短編ドキュメンタリー賞】
★「ラスト・リペア・ショップ」
「禁書のイロハ」
「The Barber of Little Rock(原題)」
「Island in Between(原題)」
「世界の人々:ふたりのおばあちゃん」

【短編アニメ映画賞】
★「War Is Over! Inspired by the Music of John & Yoko(原題)」
「Letter to a Pig(原題)」
「Ninety-Five Senses(原題)」
「Our Uniform(原題)」
「Pachyderme(原題)」

【短編実写映画賞】
★「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」
「彼方に」
「Invincible(原題)」
「Knight of Fortune(原題)」
「Red, White and Blue(原題)」

2024/02/25(日)「コヴェナント 約束の救出」ほか(2月第4週のレビュー)

 中国映画「少年の君」(2019年)のデレク・ツァン監督のデビュー作「ソウルメイト 七月と安生」(2016年)が韓国映画「ソウルメイト」(ミン・ヨングン監督)としてリメイクされ、全国的に公開が始まってます。オリジナルの方を見ていなかったのでU-NEXTで見ました。

 七月(チーユエ)と安生(アンシェン)の女性二人の友情物語。裕福な優等生である七月(マー・スーチュン)と貧しい家の安生(「少年の君」のチョウ・ドンユイ)は13歳の時に知り合い、友情を深めますが、七月と相思相愛だった家明=ジアミン=(トビー・リー)を巡って三角関係のような様相を呈し、時に憎しみ合うことになります。

 と書くと、容易に予想できそうな内容かと思いますが、物語は観客の予想をことごとく外してきます。これはこういうことだなと思える描写が決してそうはならず、まったく反対の意味だったりします。デビュー作だけに脚本に力を入れたのでしょう。感心しました。

 描写にリリシズムやロマンティシズムがあるのも美点で、岩井俊二の映画のようだと思ったら、エンドクレジットに岩井俊二への謝辞がありました。「花とアリス」(2004年)などに影響を受けているようです。しかし、脚本の凝りようは岩井俊二以上ですね。

 評価はオリジナルがIMDb7.3、ロッテントマト100%。リメイクはIMDb7.4、ロッテントマト95%(観客のスコア)。
 「ソウルメイト 七月と安生」はamazonプライムビデオとHuluでも配信されています。

「コヴェナント 約束の救出」

 アフガニスタンに従軍した米軍の曹長と、その危機を救った現地人通訳をめぐるガイ・リッチー監督作品。演出も演技も申し分なく、これが実話でなかったら、褒めるところですが、その気になれないのは主人公がよく知る通訳だけを助けることに複雑な思いが残るからです。

 2018年、アフガニスタンでタリバンの兵器工場を捜索する部隊を率いる米軍のジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)は通訳としてアーメッド(ダール・サリム)を雇う。通訳にはアメリカへの移住ビザが約束されていた。部隊は爆発物製造工場を突き止めるが、タリバンの攻撃を受けて壊滅。生き延びたキンリーとアーメッドは100キロ離れた米軍基地を目指すが、途中でキンリーが銃撃を受けて重傷を負う。アーメッドはキンリーを手押し車に乗せ、タリバンの追撃をかわしながら、険しい山道を踏破する。回復したキンリーはアメリカへ帰るが、アーメッドと家族の渡米は叶わず、行方不明となった。キンリーはアーメッドとの約束を果たすため、アフガニスタンへ向かう。

 映画のラストに、アフガニスタンから米軍が撤退してタリバンが政権を取った後、米軍に協力した300人以上の通訳とその家族が殺され、数千人が身を隠している、という字幕が出ます。なぜ米軍はそういう人たちを見捨てて撤退したのか、助けるべきではなかったのかとの思いを強くします。一人の通訳とその家族を助けたところで、他を見捨てた免罪符にはならないでしょう。

 クライマックス、主人公たちが危機一髪のところに米軍の飛行機とヘリが来て、タリバン兵たちをバタバタ撃ち殺す場面も気分がよくはありません。ベトナム戦争関連映画でもベトナム兵はこういう風に、非人間的な描き方をされていました。

 アメリカ人と現地人通訳を描いた作品としてはカンボジアを舞台にした「キリング・フィールド」(1985年、ローランド・ジョフィ監督)がありますが、現地の人の扱いに関してアメリカ映画はあの頃からほとんど変わっていないようです。
IMDb7.5、メタスコア63点、ロッテントマト83%。
▼観客14人(公開初日の午前)2時間3分。

「スイッチ 人生最高の贈り物」

 韓国のトップスターが売れない役者兼マネージャーと立場が入れ替わってしまうファンタジー。

 富と名声を手にしているパク・ガン(クォン・サンウ)は数年前に恋人スヒョン(イ・ミンジョン)と別れ、高級マンションに一人暮らし。クリスマスイブの夜、不思議なタクシーに乗ったガンは翌朝目覚めると、スヒョンが隣に寝ていて、2人の子供もいた。しかも自分は小劇場の売れない役者で、マネージャーのチョ・ユン(オ・ジョンセ)が大スターになっていた。

 よくあるクリスマス・ストーリーと同様のプロットで、「素晴らしき哉、人生!」(1946年、フランク・キャプラ監督)や「大逆転」 (1983年、ジョン・ランディス監督)を思わせます。主人公が家庭の温かさを知って、普通の平凡な生活を大事にしたいと思うようになるという展開は予想がつきます。ただ、そうした当たり前のことを改めて考えさせるのはクリスマス・ストーリーとしての役目を十分に果たしているということでもあるでしょう。監督はマ・デユン。監督作が日本で公開されるのは初めてのようです。

 IMDbによると、この映画、「天使のくれた時間」(2000年、ブレット・ラトナー監督)のリメイクとのこと。見ていなかったのでU-NEXTで見ました。ニコラス・ケイジとティア・レオーニ主演。IMDb6.8、メタスコア42点、ロッテントマト53%と評価は振るわず、そのためもあってこれまで見ていなかったんですが、いやあ、これも悪くないと思いました。ティア・レオーニがとても美しくて優しくて、主人公がレオーニとともに生きる人生を選ぶことに納得できました。
「スイッチ 人生最高の贈り物」の評価はIMDb6.8(アメリカでは未公開)。
▼観客2人(公開19日目の午後)1時間52分。

「梟 フクロウ」

 朝鮮王朝時代に実際にあった怪死事件を基にしたサスペンス。盲目の天才鍼医ギョンス(リュ・ジュンヨル)はその腕を買われ宮廷で働くことになる。ある夜、ギョンスは世子(せいし=王の子)が王医の治療の末に死ぬのを目撃する。死因は感染症とされたが、ギョンスは王医が毒殺したのでは、との疑いを持つ。証拠を探したギョンスは逃げる途中を王医に目撃される。ギョンスは保身と世子の死の真相を暴くために奔走することになる。

 予告編ではミステリーなのかなと思ってましたが、実行犯は分かっており、王宮の陰謀を巡るサスペンスになってました。前半にギョンスと世子が心を通わせる場面を描いているのがうまく、後半の展開に効果を上げています。タイトルの「フクロウ」の意味は世子との関係の中で明らかになります。監督はアン・テジン。これが初監督作品だそうですが、上々の出来だと思います。
IMDb6.7、ロッテントマト80%(観客スコア)アメリカでは未公開。
▼観客多数(公開11日目の午前)1時間58分。

「ネクスト・ゴール・ウィンズ」

 サッカーの2002ワールドカップ・オセアニア予選でオーストラリアに史上最悪0-31で惨敗したアメリカ領サモアがオランダ人の新監督を迎えて奇跡的な1勝を果たすまでを描いた実話ベースの作品。チームを導いたトーマス・ロンゲン監督を演じるのはマイケル・ファスビンダー。

 ポンコツチームの勝利を描いた作品は「がんばれ!ベアーズ」(1976年、マイケル・リッチー監督)など多数あり、どれも同じようなパターンとなっています。この作品もそのパターンに沿っただけの平凡な出来。出演もしているタイカ・ワイティティ監督(「ジョジョ・ラビット」)はサッカーに詳しくないか(興味がないか)、手を抜いたとしか思えません。

 映画の基になったドキュメンタリー「ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦」(2014年、マイク・ブレット、スティーブ・ジェイミソン監督)はU-NEXT(見放題)やamazonプライムビデオ(100円)で配信されています。

 劇映画版がIMDb6.5、メタスコア44点、ロッテントマト45%と低評価なのに対して、ドキュメンタリーの評価は高く、IMDb7.8、メタスコア71点、ロッテントマト100%となっています。

 で、見ました。傑作です。しっかりスポーツ・ドキュメンタリーです。驚いたのはワールドカップ予選で勝ったトンガ戦の試合展開が劇映画とは異なること。劇映画では1-1の後、決勝点を奪って勝ちますが、実際には2点を先制した後、1点差に迫られ、なんとか逃げ切って勝つ展開でした。いくら劇映画であろうと、試合展開に嘘を入れるのはどうかと思います。何やってんだ、ワイティティ。
▼観客8人(公開初日の午前)1時間44分。

2024/02/04(日)「罪と悪」ほか(2月第1週のレビュー)

「罪と悪」

 小さな町を舞台に、20年前の事件と現在の事件が絡み合うサスペンス。発想の基にはクリント・イーストウッド監督「ミスティック・リバー」(2003年、原作はデニス・ルヘイン)があったのだろうと思います。主人公が中学生時代のある事件を描いた序盤で「似ている」と感じ、終わりまで見て「かなり似ている」と思いました。

 仲の良かった4人の中学生の一人、正樹が殺された。晃、春、朔の3人は犯人と思えた男に詰め寄ってもみ合いになり、春が男を殺し、男の家に放火する。20年後、刑事となった晃(大東駿介)は異動で町に帰ってくる。春(高良健吾)は少年院に入った後、今は地元の建設会社を経営する傍ら、汚い仕事も請け負う半グレのような集団を率いていた。朔は父親と農業をしている。そして20年前、正樹の死体が見つかった川の中でまた一人の少年の死体が見つかった。

 「ミスティック・リバー」に似ているのは20年前、少年が性被害に遭うこと、成長した男たちの1人が刑事になり、1人が悪のグループを率いていることなどです。脚本も書いた齋藤勇起監督(1983年生まれ)は「遠い記憶の中でずっと引っかかっていた出来事から着想したオリジナルストーリーです」としていますが、これをオリジナルストーリーと言うにはプロットとキャラクターの設定が似すぎています。大東駿介を刑事役にしたのは「ミスティック・リバー」の刑事ケヴィン・ベーコンに顔の輪郭が似ているためじゃないかと思えてきます。

 それ以上に残念なのは脚本の語り方も演出もうまくないこと。殺人事件の被害者が持っていた財布の写真を見ただけで20年前の事件と結びつけ、上司もそれで分かってしまうなんて現実にはあり得ないでしょう。犯人の殺人の動機にも説得力がありません。ミステリー慣れしていない人の脚本と思えました。プロの脚本家に協力してもらった方が良かったと思います。

 齋藤監督は井筒和幸、岩井俊二、武正晴、廣木隆一監督などの作品で助監督を務め、最近では「笑いのカイブツ」の助監督をしています。これが監督第1作。
▼観客8人(公開初日の午前)1時間55分。

「ファースト・カウ」

 西部開拓時代のオレゴン州を舞台にしたケリー・ライカート監督作品。ライカートはこれまでに9本の長編映画を撮って高い評価を受けていますが、日本で劇場公開されるのはこれが初めてです。

 料理人クッキー(ジョン・マガロ)はビーバーの毛皮漁師のグループに入っていたが、仲間にはバカにされていた。そんな時、中国人移民のキング・ルー(オリオン・リー)と出会って意気投合する。2人は裕福な地主がこの地に初めて連れてきた雌牛からミルクを盗み、ドーナツ作って販売。ドーナツはおいしいと評判を呼び、買いたい人たちが毎日列を作るようになるが…。

 映画は現代のオレゴンの森の中で2体の白骨死体が発見される場面を冒頭に描いているので2人の運命は想像つくんですが、観客としては2人の成功を祈りたい気持ちになります。ライカートは不遇な2人が友情を育んで一攫千金を夢みる姿を、寄り添うようにじっくりと描いています。情感溢れるタッチが良いです。

 パンフレットでは参照したい関連作品として「真夜中のカーボーイ」(1969年、ジョン・シュレシンジャー監督)などを指摘していますが、僕は「さすらいのカウボーイ」(1971年、ピーター・フォンダ監督)など一連のアメリカン・ニューシネマを連想しました。

 ケイリー・ライカートの作品はU-NEXTが「米インディー映画界の星」として以前から特集しており、最新作の「ショーイング・アップ」(2023年)など6本を配信しています。
IMDb7.1、メタスコア90点、ロッテントマト96%。
▼観客7人(公開4日目の午後)2時間2分。

「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」

 感染するとゾンビのような化け物になるゴーレムウィルスが広がる世界でのサバイバルを描くテレビドラマの劇場版。日テレでシーズン1を放送した後、Huluでシーズン2~4を配信していますが、評価は高くなく、そんなに視聴者が多かったとも思えません。それなのに劇場版を作るとは、どんな勝算があったのか疑問です。その危惧通り、興行的には爆死状態だそうです。

 だいたい、「FINAL」と銘打ってるのにHuluでシーズン5を作る予定なのはいったいどうなってるんだか(まあ、FINALの理由はあるにはあるんですけどね)。

 などと思いながら見始めて序盤はまずまずじゃないかと思いましたが、中盤以降のドラマがありきたりすぎてオリジナリティーなさすぎて話になりません。ゾンビ映画のパターンはやり尽くされているので新機軸がかなり難しくなっているんです。ラストは悪くないと思いましたが、やっぱり過去に見たことのある設定でした。竹内涼真主演、ほかに高橋文哉、堀田真由、須賀健太、吉田鋼太郎など。監督は菅原伸太郎、脚本は丑尾健太郎。
▼観客4人(公開7日目の午後)1時間55分。

「ナイアド その決意は海を越える」

 キューバとフロリダ間のフロリダ海峡を泳いだマラソンスイマー、ダイアナ・ナイアドを描くNetflixオリジナル作品。ナイアドは2013年、64歳の時に5度目の挑戦で約177キロを泳ぎ切りました。サメ避けのケージは使わず、クラゲ避けのスーツとマスクを着けての達成。

 映画の中では40人の船の乗組員が立会人となって記録を達成したとされていますが、残念ながら英語版Wikipediaによると、「不完全な文書、矛盾する乗組員報告書、および水泳当時存在しなかった組織の規定により批准を拒否された。ギネス世界記録はナイアドの功績を取り消した」とあります。

 そうしたこととは別に決してあきらめないナイアドの頑張りに敬意を表したくなる内容になっています。ナイアドをアネット・ベニング、補佐する親友ボニーをジョディ・フォスターが演じ、アカデミー主演女優賞と助演女優賞にノミネートされました。2人ともすっぴんで演技していて、実年齢そのままの姿を見せています(ベニングは1958年、フォスターは1962年生まれ。老けメイクもやってるかもしれません)。女優根性というか、凄みを感じさせる演技でした。監督はアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した「フリーソロ」(2019年)のエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チン。
IMDb7.1、メタスコア64点、ロッテントマト86%。2時間1分。

「伯爵」

 アカデミー撮影賞ノミネートのNetflixオリジナル作品。フランス革命でマリー・アントワネットの処刑を目撃した吸血鬼ビノシュが海外に逃れ、チリにたどり着く。アウグスト・ピノチェトの名前で軍に入隊し、将軍に上り詰めた後、1973年にアジェンデ政権を倒し、独裁者となる。引退後、人里離れた農場に家族とともに住み、隠遁生活を送る。250年も生きてきたピノチェトは生きる意欲を失っていたが…。

 モノクロの緩いコメディー。監督は「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」(2016年)、「スペンサー ダイアナの決意」(2021年)のパブロ・ラライン。撮影賞ノミネートには納得しました。
IMDb6.4、メタスコア72点、ロッテントマト82%。

2024/01/14(日)「枯れ葉」ほか(1月第2週のレビュー)

 荒井晴彦監督の「花腐し」の終盤に「Wの悲劇」(1984年、澤井信一郎監督、荒井晴彦脚本)の薬師丸ひろ子のセリフが出てきます。「顔、ぶたないで。私、女優なんだから」というセリフ。昨年秋発行の季刊「映画芸術」485号によると、このセリフは中野太の脚本にはなく、荒井監督が付け加えたそうです。なぜ付け加えたのかの説明はありませんが、ヒロインがどちらも売れない女優の設定なので、連想したのでしょうかね。

 「映画芸術」はほとんど買ったことがなかったんですが、キネマ旬報が月2回発行から月1回に減って物足りなくなったので「映画芸術」も定期購読することにしました。といっても、年間4冊ですが。

「枯れ葉」

 フィンランドのアキ・カウリスマキ監督6年ぶりの作品。首都ヘルシンキのスーパーで働くアンサ(アルマ・ポウスティ)と工事現場で働き、アル中気味のホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)がカラオケバーで出会い、お互いの名前も知らないまま惹かれ合う、というラブストーリー。

 カウリスマキの作品はじわっとしたユーモアやとぼけた味わいが特徴的でしたが、この作品はそうした笑いの部分を少し抑えた印象。代わりにアンサの部屋のラジオからはロシアのウクライナへの攻撃のニュースが何度も流れます。フィンランドはロシアと国境を接していますから、この戦争は他人事ではないはず。前作「希望のかなた」(2017年)の後に引退宣言をしたにもかかわらず、カウリスマキが映画を作ったのはそういう思いがあったからと思います。パンフレットの最初のページにあるカウリスマキの言葉を引用しておきます。
 無意味でバカげた犯罪である戦争に嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。それこそが語るに足るものだという前提で。
 そうした主張を過不足なく盛り込んだコンパクトな作品になっています。パンフレットを読んで思い出しましたが、カウリスマキは「マッチ工場の少女」(1990年)でも天安門事件のニュースを流していたのでした。「映画ではニュースが永遠のものとして記録される」からなのだそうです。

 序盤、疲れた表情だったアルマ・ポウスティはだんだんきれいに見えてきます。アンサとホラッパが映画館で見るゾンビ映画はジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」(2019年)でした。
IMDb7.6、メタスコア86点、ロッテントマト99%(ただし、観客スコアは53%)。カンヌ国際映画祭審査員賞。
▼観客多数(公開2日目の午後)1時間21分。

「市子」

 プロポーズの翌日に失踪した女性・市子(杉咲花)を巡るドラマで、劇団チーズtheaterの舞台「川辺市子のために」を同劇団の戸田彬弘監督自身で映画化。失踪した市子を婚約者(若葉竜也)が関係者を訪ね歩いて探すという構成で、関係者の話を聞くにつれて断片が積み重なり、市子の人物像が明らかになっていきます。

 この構成、僕は宮部みゆき「火車」を思い出しましたが、そのほかにも同じ構成のミステリーはいろいろとあるでしょう。それならミステリーそのものかというと、そういうわけでもありません。市子の身の上が国内に1万人いると言われる不運な境遇であり、明らかに不当と思える社会的なテーマをはらんでいるからです。戸田監督はパンフレットのインタビューでこう語っています。
 社会的なメッセージを出したかったわけではないんです。ひとりの厳しい環境下に置かれた女性の人生をとにかく描きたかったという思いで作ったので……。ただ、自分の作品を作るときには社会的な問題を背景にすることが多くて、社会の中で生き辛さを抱える人の正義みたいなことを描きたい、『現代社会を生きている人間としてその人をどう捉えるんですか?』と自問もふくめて投げかけることは、いつも大事にしています。
 戸田監督は映画化するために舞台の脚本から24稿を重ねたそうです。映画の作りは緊密ですし、杉咲花は力演していて、ラスト近くの幸福な市子の姿を描いたシーンには涙する人もいるでしょう。ただ、この主人公を全面的には支持できない気分が残ります。監督の言う「厳しい環境」に置かれているとはいえ、市子は正当化できない行為をしてしまっているからです。

 そこを映画化に当たって、なんとか変えられなかったのかという思いがあります。市子の行動の根本原因である、改革でき得る問題を強く訴えるにはそうしたことを考えても良かったのではないかと思います。
▼観客16人(公開初日の午後)2時間6分。

「ティル」

 1955年8月、人種差別の激しいミシシッピー州マネーで起きたエメット・ティル殺害事件を描いた作品。

 シカゴに住む14歳の少年エメット(ジェイリン・ホール)はミシシッピー州の親戚宅に滞在中、食料品店の白人女性キャロリン(ヘイリー・ベネット)に向けて口笛を吹いたことから、白人の男たちの怒りを買い、壮絶なリンチの末に殺され、川に流される。エメットの母メイミー(ダニエル・デッドワイラー)は変わり果てた息子の遺体をマスコミと葬儀に参列した人たちに公開し、強く抗議していく。

 タイトルの「ティル」はエメットとメイミーの両方を指しています。映画は事件の経過とメイミーの行動はよく分かりますし、真正直に作られた重要な作品ではありますが、事実を知らしめる以上の作品にはなっていないと思いました。

 シノニエ・チュクウ監督はナイジェリア出身の38歳。プロデューサーを兼ねたウーピー・ゴールドバーグはエメットの祖母役で出演していますが、僕は気づきませんでした。
IMDb7.2、メタスコア78点、ロッテントマト96%。
▼観客7人(公開6日目の午後)

「ある閉ざされた雪の山荘で」

 東野圭吾の原作を飯塚健監督が映画化。新作舞台の主演を決める合宿形式の最終選考に集まった7人の役者たちが“大雪で閉ざされた山荘で起きる連続殺人事件”を演じることになる。山荘に例えた別荘にはアガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」の文庫本が人数分置いてあった。その夜から7人は1人1人消えていく。

 7人を演じるのは重岡大毅、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、間宮祥太朗。これに事件の要因に関係していると見られる役で森川葵。若手俳優8人だけのキャスティングはうまく行っていて好感を持ちました。出演者をまったく知らずに見たので、贔屓の堀田真由と西野七瀬がいるのが嬉しかったですが、この2人、最初の方で……。

 原作通りなのかどうか知りませんが、前半の面白さに対して後半は腰砕けになった感があります。殺人の動機も弱く、事件の真相にも物足りなさが残りました。

 原作は1992年に発行され、推理作家協会賞の候補になったそうですが、「このミステリーがすごい!」のベストテンには入っていません。東野圭吾が「このミス」の常連になったのは1997年の「名探偵の掟」以降で、キャリアの助走に位置する作品のようです。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)1時間49分。

「私がやりました」

 1930年代のパリを舞台にしたフランソワ・オゾン監督のコメディー。

 映画プロデューサーの男が自宅で殺害され、新人女優マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)に殺人の容疑がかけられた。親友で駆け出しの弁護士ポーリーヌ(レベッカ・マルデール)はマドレーヌに台本を用意し、正当防衛を主張するよう指示する。ポーリーヌは台本通りの陳述で裁判官や大衆の心をつかみ、無罪を勝ち取る。マドレーヌは一躍時の人となってスターへの階段を駆け上がっていくが、往年の大女優オデット(イザベル・ユペール)が2人の前に現れ、プロデューサー殺しの犯人は自分であり、マドレーヌたちが手に入れた富も名声も自分のものだと主張する。

 オゾンは女優を撮るのがうまく、今回も主演の2人が魅力的ですが、笑いの方は大したことありません。ユペールが出てくる後半が面白かったです。
IMDb6.5、メタスコア72点、ロッテントマト97%。
▼観客8人(公開19日目の午前)1時間43分。

「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」

 母親を亡くした高校生ミア(ソフィー・ワイルド)はSNSで話題の「憑依チャレンジ」に参加する。呪物の手を握り、「トーク・トゥ・ミー、レット・ミー・イン」と唱えると、霊が憑依する。制限時間は90秒。それを超えると、大変なことが起きるとされる。ミアたちは憑依チャレンジを繰り返していくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依する。

 若者たちの死に絡む無謀な行為は「フラットライナーズ」(1990年、ジョエル・シュマッカー監督)を思わせました。オチは短編小説によくあるパターン。長編向きには少し考えたかったところです。監督は双子のダニー&マイケルのフィリッポウ兄弟。
IMDb7.1、メタスコア76点、ロッテントマト94%。
▼観客8人(公開6日目の午後)1時間35分。

「劇場版SPY×FAMILY CODE:White」

 人気コミック・テレビアニメの劇場版。諜報員ロイド、超能力を持つ娘アーニャ、殺し屋ヨル、未来予知犬ボンドから成るフォージャー家は全員で家族旅行へ出発するが、世界平和を揺るがす事態に巻き込まれてしまう。

 家族で「おでけけ(お出かけ)」するエピソードはテレビアニメにもあり、そちらの方が良い出来でした。下ネタ(ウンコネタ)は子供向けを意識したのでしょうねえ。片桐崇監督。
▼観客20人ぐらい(公開5日目の午後)1時間50分。