2003/10/23(木)「トーク・トゥ・ハー」

 スペインのペドロ・アルモドバル監督作で、アカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞した。事故で昏睡状態に陥ったバレリーナを一途に愛する看護士を巡るストーリー。ラストが奇跡的な幸福感に包まれるので、つい感動してしまうが、ちょっと変な映画である。この変さ加減は中盤にあるサイレント映画の「縮みゆく恋人」の部分から始まっている。物語の展開が独自のものなので、脚本賞取ってもおかしくはないが、普通に愛の感動作とか言われると違うような気がする。

 「縮みゆく恋人」はもちろんアルモドバルの創作で、一般的には「縮みゆく人間」あたりを参照したと思えるのだが、マッドサイエンティストが登場することや、性的なモチーフが中心だったり(これは映画のその後の展開に深く関わる)、ある種のいかがわしさがあるあたり、僕が最初に連想したのは「フランケンシュタインの花嫁」だった。ついでに言うと、ヒロインに起きる奇跡は「祭りの準備」じゃないか、と思った。アルモドバルは見ていないだろうけれど。

 ベニグノ(ハビエル・カマラ)は病気の母親を15年間看病した過去を持つ。アパートの向かいにあるバレエ教室を見ているうちにバレリーナのアリシア(レオノール・ワトリング)を好きになってしまう。アリシアが落とした財布を拾って届け、ちょっと話をするが、アリシアは間もなく交通事故に遭い、昏睡状態となる。ベニグノは看護士となって、献身的にアリシアを看病する。そして自分の見た舞台や映画のストーリーを一方的に語って聞かせるのである(これがタイトルの由来)。物語の主人公はベニグノではなく、記者のマルコ(ダリオ・グランディネッティ)。マルコは恋人である女闘牛士のリディア(ロサリオ・フローレス)が競技中の事故で昏睡状態となり、アリシアと同じ病院に入院したことから、ベニグノと知り合う。そして、「(アリシアを看病している)この4年間が最も幸せな時」と語るベニグノとの間に友情が芽生える。

 特異なシチュエーション、変な題材を寄せ集めながら、それを愛の感動作に仕立てるアルモドバルの手法は面白い。この題材だと、普通はストーカーものになったり、ホラーになったりしてもおかしくないのである。それなのにどこか文学的な香りまでにじんでくるのは、アルモドバルの演出の手腕だけでなく、本質的にこの物語が愛の真実を描いているからなのだろう。一見、変化球かと思わせながら、実は直球ど真ん中、でもやっぱり投げ方は変、という感じの映画である。