2006/06/11(日)「間宮兄弟」

 兄弟の小さな失恋を除けば、事件らしい事件も起きない映画だが、微妙なおかしさがいい。過去の森田芳光映画の中では「の・ようなもの」に一番近い。沢尻エリカと北川景子の姉妹をとてもキュートに撮っているのはさすが森田監督。特に北川景子は、美穂純に似た感じがとてもよろしい(美穂純はああ見えて、とても読書家なところに僕は好感を持っている)。

 戸田菜穂と常盤貴子も良く、女優に関しては文句がない。出来としては「の・ようなもの」の方が上と感じるのは間宮兄弟の描写にやや人工的な部分があるからか。「の・ようなもの」は主演の伊藤克信の素のおかしさが映画にマッチしていたが、この映画の場合、佐々木蔵之介と塚地武雅はやや作った部分が見受けられるのだ。でも、僕は好感を持った。

2006/06/08(木)「情愛」

 R18指定の韓国映画。確かにベッドシーンはそれなりだが、R18じゃなくてもいいような気がする。この映画、何がいいといってオム・ジョンファが良すぎる。“韓国のマドンナ”としてかなり有名らしいが、韓流にはうといので知らなかった。

 オム・ジョンファは歌手で女優。今年35歳。「情愛」は2002年の映画だから30歳か31歳のころだろう。この映画、公式ファンサイトによると、原題は「結婚は、狂気の沙汰」というらしい。プレイボーイの男(カム・ウソン)がブラインドデートで美人の女(オム・ジョンファ)と出会う。2人は意気投合するが、男は結婚は考えていない。医師と結婚した女はそれでも男の元へ週末通ってくるようになる。

 映画としてはまずまずの出来。カム・ウソンがプレイボーイに見えないところが誤算で、ここはもっとカッコイイ男優じゃないと説得力を欠く。しかし、オム・ジョンファに関して言えば、その魅力を堪能できる。清楚でセクシーというのがいいですね。

2006/06/06(火)「あおげば尊し」

 「あおげば尊し」チラシ重松清の原作を市川準監督が映画化。末期ガンの父親を看取る家族と、死体に興味を持つ少年の姿を描く。主人公は小学校の教師。死につつある父親も教師だった。死体に、というよりは死に興味を持つ少年に対して、主人公は死の床にある自分の父親の姿を見せる。父親もそれを受け入れ、少年に対して最後の授業をすることになる。

 市川準の他の作品と同じように淡々としたタッチの映画。家庭内で展開される物語なので、見ていて僕はマイク・リーの映画を思い出した。マイク・リーが素人の役者を使うことが多いように、この映画も演技的には未知数のテリー伊藤が初めての主役を務めている。テリー伊藤、静かな演技が意外にうまい。マイク・リーの映画は終盤に劇的で激しい場面を用意することが多いが、この映画はラスト近くまで淡々と進む。もちろん、淡々とした中にキャラクターの造型はしっかり描き込まれていて、だから、ラスト、父親の葬儀の場面で教え子たちが歌う「仰げば尊し」の場面が効果的になる。抑え込まれていた感情が一気に爆発するような効果がここにはある。ドキュメンタリーのような描き方をしていた映画がここだけはっきりとフィクションになり、観客の感情を解放する役割を果たしているのである。それまでのタッチとは著しく異なるので、賛否あるだろうが、ここで泣いたという人も多く、とりあえず大衆性は得ているようだ。テリー伊藤も薬師丸ひろ子も加藤武、麻生美代子もリアルに徹し、ドラマ性を廃した好演をしている。

 主人公・光一(テリー伊藤)の父親(加藤武)は末期ガンで余命3カ月と宣告される。「いい思い出を作ってあげてください」との医師の言葉で家族は父親を自宅に連れて帰り、在宅で死を迎えさせようとする。それと同時に描かれるのが光一のクラスの田上康弘(伊藤大翔=名前はひろと、と読む)。康弘はパソコンの授業中に死体のサイトを見ていた。そのこともあって光一はクラスの生徒に父親の姿を見せるが、興味を示したのは康弘だけだった。康宏は死んだ父親の葬儀を覚えていず、そのために死に興味を引き立てられているようだった。

 在宅での死を描いているので「病院で死ぬということ」の対になる作品かと思うが、基本的には教師の父親と息子を描いた作品。いや、あるべき教師の姿を描いた作品と言うべきか。在宅での死の詳細は意外に描かれていない。それがテーマならば、もっと描写を多くしていたはずだ。「あおげば尊し」というタイトルからして、これが教師の映画であることは明白だろう。悪くない映画と思ったけれど、葬儀の場面をもっと効果的にする演出はあっただろうという思いもある。父親と教え子たちの間に何らかの伏線があっても良かったと思うのだ。唐突に始まる「仰げば尊し」の歌だけで父親の教師としての在り方を象徴するのには少し無理があるのではないか。在宅での死か教師の在り方か、どちらかにもっと焦点を絞った方が良かったのではないかと思う。マイク・リーの錐でもみ込むような強さがこの映画には欠けている。

2006/06/02(金)「いちご白書」

 別に傑作ではないのだが、60年代の学生運動の雰囲気は伝わってくる(映画の公開は1970年)。ノンポリのボート部の学生サイモン(ブルース・デイヴィソン)が何となく学生運動にかかわる。きれいな女子学生リンダ(キム・ダービー)に惹かれたせいもあるが、そのうちに大学の姿勢に怒りを感じて、本気でかかわるようになる。クライマックス、大学を占拠した学生たちを州兵が催涙ガスをまきながら強制排除するシーンは有名。

 監督のスチュアート・ハグマンは「スパイ大作戦」などテレビの作品が多い。ジョニ・ミッチェルが歌う主題歌「サークル・ゲーム」はラジオでよく流れていたので懐かしかった。。

2006/06/01(木)「ナイロビの蜂」

 レイチェル・ワイズとレイフ・ファインズがしみじみと良い。ファインズがイギリスに帰り、妻のいない寒々とした自宅で泣き崩れるシーンなどは胸が詰まる。最愛の者を亡くした男の喪失感がよく出ていた。

 だが、あのとんでもない傑作「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス監督作品としては物足りない。「シティ・オブ・ゴッド」は編集とカット割りに驚嘆させられたが、今回は技術的におっと思わせるシーンはなかった。オーソドックスな演出なのである。好みから言えば、主人公には復讐の鬼と化して欲しかったところ。それがそうならないのはジョン・ル・カレ原作だからだろう。