2000/11/22(水)「グリーン・デスティニー」

 小野不由美の「十二国記」シリーズはチャン・ツィイーが演じるべきだ、とこの映画を見て思った。最初に登場した時はちょっとかわいいだけじゃないかと思ったが、アクションが凄い(一部吹き替えはある)。勝ち気で強く、慣習にとらわれない現代的な女性を魅力的に演じている。大注目の女優でしょう。

 映画は19世紀初頭の中国が舞台。伝説の名剣グリーン・デスティニー(碧名剣)を操る剣士リー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)と彼を慕うシューリン(ミシェル・ヨー)を中心にした話と思われる展開で幕を開け、中盤からガラリと様相を変える。結婚を控える長官の娘イェン(チャン・ツィイー)の長い回想で、ツィイーと盗賊ロー(チャン・チェン)の愛が描かれるのだ。この回想、長すぎて全体のバランスを崩すなと思ったら、原作(「臥虎藏龍」Crouching Tiger, Hidden Dragon)の本筋はこちららしい。

 この原作は全5部作の第4部に当たる。監督のアン・リーはこの原作に第2部(ムーバイが主人公となる話)を加えて映画を構成しているのだった。キネマ旬報でアン・リーは「私自身、年齢的にも生き方の面でもリーやシューリンに近い」と語っているが、これは一種の保険みたいなものだろう。映画は中国、アメリカ合作で製作費1500万ドル。新人のツィイーにすべてを委ねるのには不安もあったのではないか。

 2組の愛が描かれるためでもないのだが、原作を再構成した分、映画の焦点はぼけてしまった。やはりツィイーを中心にした話として描くべきだったように思う。ユンファとヨーの演技は素晴らしすぎて余計とも言えないのだけれど、ストーリーを明確にするのなら、あくまでツィイーの視点で映画化した方が良かったように思う。

 アクションを指導したのは今や“「マトリックス」の”という形容詞がふさわしいユエン・ウーピン。空中アクションは「チャイニーズ・ゴーストストーリー」を彷彿させる出来だ。ヨーのアクションが凄いのは言うまでもないけれど、ユンファの風格あるアクションに感心した。僕はユンファって雰囲気だけの人と思っていました。

2000/11/15(水)「漂流街」

 馳星周の原作を絶好調の三池崇史が監督した。実は三池作品を見るのは初めて。破天荒と言われる作風の評判は聞いていたから、冒頭のどう見てもアメリカの風景にしか見えない場所に“埼玉県”と字幕が出ても驚かない。

 新宿を舞台にチャイニーズ・マフィアとヤクザと日系ブラジル人が入り乱れる多国籍アクションで、原作は読んでいないが、雰囲気はちょっと違うように思える。原作通りに映画化することなど三池監督は考えていないだろうから、それは別に構わない。主役のTEAH(テア)、ヒロインのミシェル・リーをはじめ吉川晃司、及川光博などいい面構えの役者がそろっている。ハードさとハチャメチャさが入り交じり、それなりのエネルギーは感じる。しかし、僕にはピンとこなかった。

 スカウトされて映画デビューのTEAHはクライマックス、殴り込みをかける前の興奮と怒りを発散させる場面など実にいいのだけれど、ストーリーが、どうも普通のヤクザ映画と変わり映えがしないのである。馳星周の作品は暗い情念が魅力なのだが、それがないとなると、ちょっと苦しい。ビジュアルな面でも特筆すべき部分はあまりない。僕はなんとなく北野武の映画を思い出した。

 CGを使った闘鶏の場面で原作者と映画評論家の塩田時敏が出ているのには笑った。塩田時敏、なかなか好演している。

2000/11/15(水)「チャーリーズ・エンジェル」

 劇中、登場人物の一人が飛行機の中で上映される映画「アダム30 THE MOVIE」(もちろん架空)を観て、「またテレビ番組の映画化か」と言う場面からクスクスである。この映画、半分冗談のような作りでユーモアとお色気、アクションが満載されている。24年前のテレビシリーズをリアルタイムで観ている者としてはあのメロディが流れるだけで懐かしくなってしまうが、テレビシリーズよりもずっと面白いことは保証しておく。

 驚嘆すべきはアクションでキャメロン・ディアスもドリュー・バリモアもルーシー・リュウも凄い凄い。ディアスのすらりとした足が繰り出すキックの破壊力と動きの鋭さはもう本当のアクション女優さながら。ディアスの本質はコメディよりもアクションにあるのではないかと思わせるぐらいなのである。「マトリックス」を彷彿させるアクションを指導したのはユエン・チョンヤン。「マトリックス」のアクションを監修したユエン・ウーピンの弟だそうだ。

 このアクションに加えてセクシーな場面もうれしい。相変わらず美しいバリモア(プロデューサーも兼ねている)とディアスのサービスには圧倒される。上は狙わないけれど、1時間40分たっぷり楽しませてあげますよ、という製作側の考え方がはっきり分かる出来である。

 惜しいのはストーリーテリングがややぎこちないこと。CM監督でこれが映画デビューのMcG(マックジー)はビジュアルな面では申し分ないにしても、話の進め方にやや難があった。しかし気分良く見られる軽いエンタテインメントであることは間違いなく、僕は十分楽しんだ。続編を期待したい。

2000/11/08(水)「スペース カウボーイ」

 40年前、宇宙飛行士への夢を断たれた4人の男たちが、ロシアの通信衛星落下をくい止めるため、再び宇宙を目指す。前半はNASAから依頼を受けたクリント・イーストウッドがかつての仲間ダイダロスの3人を一人一人訪ねる。「七人の侍」風の描写で、ここから訓練を受けるまでがちょっと単調。しかし、宇宙に行ってからの描写はSFファンなら堪能するだろう。

 NASAはとにかく宇宙空間の資料は大量に持っているわけで、ここをクライマックスの舞台にしたのが成功の理由。スペースシャトルや衛星、無重力の描写など非常にリアルだ。衛星とシャトルが衝突する場面の質感も素晴らしい。火星に降りてから腰砕けになった「ミッション・トゥ・マーズ」も宇宙空間の描写は際だっていたのだから、NASAの力はやはり大したものだと思う。

 宇宙空間を舞台にしていてもこれはSFではなく現実のすぐ隣にある話。後半に用意される通信衛星の秘密(これが明らかになる場面は迫力がある)はスパイアクション風である。設定にはちょっと無理があるけれど、イーストウッドの映画だから別に気にしない。極大から極小へとアクロバティックなカメラワークが披露されるラストと、そこにかぶさる「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の使い方は微笑ましい。

2000/11/01(水)「ナッティ・プロフェッサー2 クランプ家の面々」

 前作は見ていない。エディ・マーフィーが何役も演じることで話題になった映画だが、今回も1人9役。そんな必要がありますか。頬がひきつるような下品さにも閉口。笑いを取る場面がほとんど下ネタという酷さである。こういうので笑える感性にはついていけない。

 前作は痩せ薬だったが、今回は若返りの薬をクランプ教授が発明する。これと並行してクランプ教授の悪い遺伝子を分離したことによる騒動がスラップスティックで描かれる。悪い遺伝子は犬の毛と組合わさってもう一人のクランプ、バディ・ラブが出現してしまうのだ。分離したことによる悪影響もあり、クランプの知能は徐々に低下していく。ここで自分の知能を確かめるためにネズミと迷路の競争をするというのは「アルジャーノンに花束を」からの引用だ。

 SF的設定を生かし切れていない脚本にも問題はあるものの、まあ、ピーター・シーガルの演出の未熟さによるものだろう。描写のまずさが目立ち、エディ・マーフィーの演技も僕には濃すぎるように感じた。

 良かったのはジャネット・ジャクソンが歌う「ダズント・リアリー・マター」。この映画の主題歌だったんですね。