2025/12/21(日)「シャドウズ・エッジ」ほか(12月第3週のレビュー)

 スティーブン・スピルバーグ監督の次作「ディスクロージャー・デイ」の予告編が公開されています。内容は異星人絡みのSFということ以外まだよく分かりませんが、めちゃくちゃ面白そうです。スピルバーグのSF作品は2018年の「レディ・プレイヤー1」以来とのこと。来年夏公開予定です。

 劇場限定で公開されているのが「アベンジャーズ ドゥームズデイ」のティーザー映像。内容はスティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカが帰ってくるというもの。「アベンジャーズ エンドゲーム」(2019年)で高齢の老人になったのに、どうやって帰って来るのでしょう? まあ、「アベンジャーズ」シリーズはタイムトラベルもマルチバースもありですから、どうやってでも帰ってこられるんですけどね。こちらは来年12月公開予定です。

「シャドウズ・エッジ」

「シャドウズ・エッジ」パンフレット
「シャドウズ・エッジ」パンフレット
 2007年の香港映画「天使の眼、野獣の街」(ヤウ・ナイホイ監督)のリメイク。主演のジャッキー・チェンはもちろん、女優も含めて出演者が全員、ハードな格闘アクションができるのが強みで、これにサイバー犯罪を絡めた物語の面白さが加わって、最近のアクション映画の中では出色の出来だと思いました。1月に公開された「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」(ソイ・チェン監督)よりこちらを強く推します。

 マカオが舞台。華やかな街の裏側で正体不明のサイバー犯罪集団が暗躍していた。警察はなす術もなく、追跡のエキスパートであるホワン・ダージョン(ジャッキー・チェン)を呼び戻す。ホワンは現役を退いていたが、若き精鋭たちとチームを組み、最新テクノロジーと旧式の捜査術を駆使して、影(シャドウ)と呼ばれる犯罪集団のボスで指名手配犯の元暗殺者フー・ロンション(レオン・カーフェイ)を追う。

 冒頭の犯人グループと警察との死闘から見せ場は十分。犯人たちは格闘でも警察以上の力を持っていて、逃走途中で変装し、戦い、タワーからパラシュートで逃げていきます。格闘とアクロバティックなアクションを盛り込んだスピーディーな組み立てが見事でした。

 犯人たちに完敗した警察は追跡班を組織するために、既に退職しているホワンを呼ぶというのがスムーズな展開になっています。ホワンと組むのはかつての相棒の娘ホー・チウグオ(チャン・ツイフォン)。チウグオは父親が死んだのはホワンのせいだと思っていて、最初は反発しますが、次第に理解を深めていきます。アクションもできるチャン・ツイフォンは「少年の君」(2019年、デレク・ツァン監督)のチョウ・ドンユイに似ていて、中国ではこういうルックスに人気あるのでしょうね。

 ジャッキー・チェンは格闘とアクロバティックなアクションのどちらもできる人でしたが、さすがに71歳ともなると、「プロジェクトA」(1983年、監督もジャッキー・チェン)で見せた高所から落ちるようなアクロバット系のアクションは無理。しかし、70代でこの格闘アクションができる俳優はほとんどいないでしょう。敵役のレオン・カーフェイは67歳。アクション俳優ではありませんが、ナイフを使った凄みのある格闘でジャッキーと対等に渡り合っています。

 脚本・監督は「ライド・オン」(2023年)のラリー・ヤン。構成を練り、テンポを変え、2時間17分の上映時間を飽きさせません。含みを持たせたラストだったので続編も作る予定なのでしょう。楽しみに待ちたいです。
IMDb7.2、ロッテントマト80%。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午後)2時間21分。

「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」

「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」パンフレット
パンフレットの表紙
 イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフの汚職捜査を描き、本国では上映禁止となったドキュメンタリー。警察での尋問映像が流出したというのが凄いですが、警察内部にも反ネタニヤフの人たちがいるということなのでしょう。ネタニヤフとその妻、息子の3人の尋問の様子を見ると、汚職うんぬんの前に唾棄すべき傲慢な人間たちであることが一目瞭然。この家族3人が政権に関わっていることがイスラエル全体のイメージを落とし、ユダヤ人のイメージ低下にもつながっているのは間違いありません。

 汚職捜査が進む段階で、2023年10月、ハマスによるイスラエル攻撃がありました。ネタニヤフは反撃のためガザを徹底的に破壊しますが、戦争状態に入ったことで汚職捜査は中断しました。悪運が強い男であり、戦争を終わらせれば捜査が再開されるので、戦争を長引かせたという指摘もあります。今は一時的に攻撃をやめていますが、これで本当に平和が訪れるかどうかは分かりません。ガザ以外の他国への攻撃を始める可能性もあるでしょう。

 ネタニヤフは恩赦の申請を計画しているようです。まだ有罪判決が出たわけではないので恩赦なんてできるはずがありません。捜査の行方を見守る必要があります。監督はアレクシス・ブルーム。
IMDb7.6、メタスコア73点、ロッテントマト95%。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間55分。

「ブルーボーイ事件」

「ブルーボーイ事件」パンフレット
「ブルーボーイ事件」パンフレット
 日活の懐かしいKマークのタイトルが出るのは舞台となる1965年の時代を反映しているのでしょう。ファッションや風俗も時代色を出していますが、裁判所のセットがなんとなく裁判所風という作りで低予算なのはありあり。しかし、やや寂しさも感じる画面とは裏腹にトランスジェンダーをテーマにした内容はとても充実していると思いました。特にクライマックス、主人公のサチ(中川未悠)が性別適合手術(当時は性転換手術)を受けた後悔も含めてトランスジェンダーへの偏見・差別の現状を裁判で証言する場面は感動的。60年前の実際の裁判を基にしているそうですが、トランスジェンダーを取り巻く状況は今もそんなに変わっていないのではないかと思えます。

 手術によって身体の特徴を女性的に変えたブルーボーイと呼ばれるセックスワーカーの取り締まりに警察は頭を悩ませていた。現行の売春防止法では摘発対象にはならないからだ。そのため警察は生殖を不能にする手術が「優生保護法」に違反するとして、手術を行った医師の赤城(山中崇)を逮捕する。喫茶店でウェイトレスとして働くサチ(中川未悠)も赤城医師から性別適合手術を受けていた。サチは恋人の若村(前原滉)からプロポーズを受けたところだったが、弁護士の狩野(錦戸亮)が訪れ、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する。

 飯塚花笑監督をはじめトランスジェンダーを演じる俳優は実際のトランスジェンダーの人たちだそうです。
▼観客5人(公開5日目の午後)1時間46分。

「アバター ファイヤー・アンド・アッシュ」

「アバター ファイヤー・アンド・アッシュ」パンフレット
パンフレットの表紙
 前作「アバター ウェイ・オブ・ウォーター 」から3年ぶりの第3作。このシリーズ、1作目(2009年)が2時間42分、前作が3時間12分、今回が3時間17分とだんだん長くなっています。観客フレンドリーな上映時間とは言えず、ぼくが見た時は途中で5、6人が(トイレのため?)自主休憩してました。この長さがどうしても必要かというと、物語としては2時間半もあれば、描けそうな内容でした。VFXのレベルは高く、退屈せずに見ましたが、上映時間には一考の余地がありそうです。

 惑星パンドラで人類に立ち向かったジェイク・サリー(サム・ワーシントン)はナヴィ族の妻ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と息子のロアク(ブリテン・ダルトン)、娘のトゥクティレイ(トリニティ・ジョリー・ブリス)、養女キリ(シガニー・ウィーバー)、クオリッチ大佐(スティーブン・ラング)の息子スパイダー(ジャック・チャンピオン)と暮らしていた。ジェイクはスパイダーの安全を考え、科学者たちの元へ送り届けようとする。旅の途中、一家はヴァラン(ウーナ・チャップリン)率いるマンクワン(別名アッシュ)族の攻撃を受け、旅は中断。人間とナヴィのハイブリッドであるクオリッチ大佐はヴァランと手を結び、ジェイクたちを襲ってくる。

 クライマックスは人間とマンクワンの連合対ジェイクとナヴィ族連合との戦いが空と海で繰り広げられます。ここは見応えはあるんですが、これまでの2作で見たのと同じような場面と感じられてしまいます。物語はこれで終わっても何ら問題はなさそうですが、ジェームズ・キャメロン監督は全5部作の構想を発表しており、次作は2009年公開予定になってます。前作と今作の違いは大きくはなく、新機軸を打ち出せないなら作る必要はないんじゃないでしょうかね。
IMDb7.6、メタスコア62点、ロッテントマト69%。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)3時間17分。

「ひとつの机、ふたつの制服」

「ひとつの机、ふたつの制服」パンフレット
パンフレットの表紙
 原題は「夜校女生」。名門高校の夜間部に通う女子生徒を主人公にした台湾映画で、邦題は1つの机を全日制と夜間部で共用していることを表しています。制服も学籍番号の刺繍の色が異なる(全日制は黄色、夜間部は白)のでふたつの制服というわけです。夜間部の生徒に対する偏見や見下した扱いがあるという設定にはやや古さも感じますが、舞台は1997年から99年までで現代の話ではありません。

 主人公のシャオアイ(チェン・イェンフェイ)は父親を事故で亡くし、母と妹の三人暮らし。受験に失敗しますが、母親の勧めで同じ高校の夜間部に入学します。シングルマザーの家庭で裕福ではないことも母親が夜間部進学を勧めた理由でした。捨ててあった家具を拾ってきたりして節約に努める母親をシャオアイは理解できず、「なぜそんなに節約ばかりするの」と聞きます。母親は 「節約であなたたちの未来が見える」と答えます。

 大学進学など今後の娘2人の学費と自分の老後のために節約するという母親の考えは真っ当で揺るぎがありません。映画は同じ机を共有する全日制のミンミン(シャン・ジエルー)と仲良くなったシャオアイが差別に遭ったり、引け目を感じたりしながらも、それを克服する様子を描いています。それができたのはこの母親の存在が大きいでしょう。

 映画で描かれる夜間部は日本の定時制とは少し異なるように思えますが、それはこの時代、シャオアイのように全日制に落ちた生徒が入学するケースが多かった(他校に行くより名門の夜間部を選択するケースが多かった)ためとのこと。今は昼間働いて夜学ぶ日本の定時制と同じような形になってきたそうです。
▼観客5人(公開7日目の午後)1時間49分。